1.騎士団通報案件
前回のあらすじ
研究の実験台になってました。
夕暮れ。街の人が帰宅し、愛する人や大事な人と出会う時。
セレナは一人でとぼとぼと自宅に帰っていた。その隣をユリはハラリハラリと飛んでいる。セレナは見えない重りを抱えているかのようだ。
「…主。さっきからなんでズーンってしてるんだ」
「な、なんでもない…」
「昼からだろ?」
「…なんでもない」
最近、ユリはここぞとばかりにセレナの学園について行っている。ただ、この間の様に学園を自由に周り過ぎて迷子になられるのも、倉庫爆発の原因になるのもセレナは嫌なので、ユリには髪飾りとしていてもらってる。
貴族の学園。制服は自由に着崩せるのだ。それに、貴族の子女達は制服の着崩しに熱心だ。多少髪飾りが増えたところで誰も気にしない。
(……勉強しなかったけど、ここまでって聞いてないよ)
セレナが抱えている肩掛けカバンの中には一週間ほど前に行われた考査の結果だった。
魔術と貴族を重んじている学園。座学も魔術も芸術も全て高得点を取らなければならないのだ。
セレナが飛び抜けて高得点だったのは語学。文字を愛する影響だろう。
数学も魔術も別にそこまで悪いという訳ではなかった。魔術師の最高地位にいるセレナにはなんて事ない。
しかし、セレナが一番酷かったのは芸術と嗜みだ。
美術、音楽、芸能、工芸……の芸術は勿論全くわからなかった。頑張って理解したのは文学くらいだ。
貴族の嗜みはもっと酷い。乗馬、社交界ダンス、テーブルマナー、姿勢……全てが最低評価の六を取った。
落ちこぼれの三組とは言われているが、セレナ以外は嗜みは最高評価一を全員貰っていた。きっとどこを探してもセレナのみが最低評価を取ったのだろう。
(ほほ、補習…や、やだ…ダンスとか無理…想像だけで気持ち悪くなりそう)
大変大きなため息を着きながらセレナは帰宅していた。ユリもノンノンと羽を動かし帰宅している。
そんなセレナの前に小さな女の子が飛び出してきた。裏路地からだろうか。
「ひぇ……」
年下の女の子にセレナは腰を抜かす。あ、あ…と言葉に出来ない事をセレナは言っている。女の子はキョロキョロとし、セレナを見つけたようだ。
少しの期待を込めているような瞳をセレナに向けた。
「お、おとーさん!どこかしりませんか!」
「お、お父さん…?」
「おとーさん!大っきくて。かっこよくて!つよいの!」
「そそそ、そんなに力説されても…」
「知らないの…?」
「えっと…は、はい…知りません…」
セレナが素直に知らないと言うと女の子は貯めていた涙が溢れたのか泣き出した。街の人はその泣き声に反応し女の子の方を見る。
そうすると必然的に、セレナが泣かせたように見える。
「あ、ま、待って、な、泣かないで」
セレナは慌てて鞄から何かを探す。丁度キャラメルが入っていたのでそれを女の子に渡す。
「ほ、ほら、キャラメル…上げるから泣き止んで…」
誘拐の常套句なのだがそんな事に気がつく余裕は一切無い。セレナはそのくらい焦っていたのだ。
「…キャラメル?たべる!」
女の子は大喜びでセレナからキャラメルを受け取る。そしてモグモグと食べている。その間にセレナはどうするか考えていた。
(えっと騎士団…転移すればすぐだけど…わたしの魔術じゃ負担が掛かりそう…王宮役所…遠い。ミラ街の相談屋…ここだ)
セレナはしゃがみこみ女の子と視線を合わせる。
「えっとね。その、今から相談屋に行きませんか…?お父さん、見つけられるかもよ…」
「…そーだんやってなぁに?」
「え……あ、えっと…」
「こわいひと、いる?」
「え?えっと…どうだろう」
「いるならヤダ!」
「え!?」
突如嫌だ!と言い出す女の子。セレナはオロオロし始まる。ユリは黙ったままだ。以前から人前、特に天八座の人以外にの前では話すなと口酸っぱくセレナが言っていたからた。流石に言われすぎたのかユリは言いつけを守っている。
「で、でも…お家の人待ってるかもよ…」
「じゃあおねーちゃんのおうちでいい」
「え⁉」
突拍子のない発言にセレナは動揺する。
顔面蒼白、とまではいかないが動揺しているのが丸わかりだ。ここに同僚がいれば絶対に突っ込まれた。
「そ、その…それは…」
「だめ?」
「うぅ…」
流石子供と言うべきか。なんと言えば年上が折れるのかよく熟知している。無論、セレナもそれに心を動かされている。
「…えっと、その…す、少しだけなら…」
「ほんと⁉おねーちゃんありがとう!」
わーいわーいと女の子がやってる横でセレナはユリを見る。助けて、どうしよう。そんな視線をユリに送ったがユリは、自業自得だろ。とでも言ってそうな雰囲気だ。
ただし、ユリは自業自得なんて難しい言葉は知らないので多分言ってないだろう。
「その…お名前聞いても、いいかな」
女の子はキョロキョロしていた視線をセレナに向ける。お下げにしている髪の毛が揺れた。
「ユキナだよ!」
「ユキナ、さん…」
「うん!おねーちゃんは?」
「え…えっと…せ、セレナ」
「セセレナ?変なの」
「セレナです…」
「セレナおねーちゃん!」
子供特有の素直さに一瞬心が壊された気がするがセレナは知らないフリをし自宅に案内する。
案内している途中でセレナは気づいた。
(…これ、誘拐じゃない…?)
時すでに遅し、だ。




