4.お菓子にご注意
プラターヌ家本邸。
少しの初夏を感じられる庭でルナは一人お茶会を開いていた。
隣ではライカが紅茶を入れてくれている。ルナの好みに合わせた甘い紅茶だ。
「やっぱり東洋のお菓子美味しいー。よーかん、だっけ?これ美味しい」
「お気に召したのなら旦那様に取寄せ願いを出しますよ」
「あ、ほんと!お願い!」
「承知しました」
プラターヌ家は商家。
数少ない貿易相手国からの輸入品が沢山取り寄せられるのだ。
羊羹もそのうちの一つだ。
「お嬢様、こちらのお菓子は紅茶よりも抹茶、というものが合うようですよ」
ライカは説明書きに書かれてある言葉をルナに伝える。
最近のルナはライカ相手にも大分敬語が外れつつある。それがとても嬉しいようだ。
「まっちゃ?なにそれ」
「どうやら東洋の伝統的な飲み物らしいです」
「美味しいのかな…」
「少しの苦味が癖になる…らしいです」
「苦いのか…」
ルナは少し渋い顔をする。苦い物は苦手なのだ。
ライカは、周りの様子を見ながらルナのお茶会を見ている。
(うーん。遊びに行きたいな…。でも、お父様怒るし…。この間刺されかけたし)
ルナは先日の社交界で刺されかけた。ライカの護衛のお陰で刺されはしなかったが腰を抜かして命の危機を感じたのだ。
暫くは学園以外の外出は控えるように父親に命じられ、母親にせがまれ、ライカにお願いされた。
(貴族ってヤダな…直ぐに暗殺しようとしてくる)
金も権力もある貴族は自らの手は汚さずにプロを雇う。その辺が本当に面倒臭いのだ。
ルナは大きなため息を着きながら羊羹を一切れ頬張る。
家の中ではバリンと派手な音が響く。それが外にまで聞こえてきた。
「ライカ。行かなくていいの」
「大丈夫です。メイド長が向かっているはずですから」
「ふーん」
ルナは、周りを見てみる。
視界には直ぐにライカが入る。一番近くで守ってくれる、一番信頼できる人。少し後ろを見れば執事がいる。本当は父親の専属だが、今は追い出されたのだろう。先程庭に出る前に愛人がいるのを見たのだ。
庭の端には騎士がいる。こちらも本来は父親の専属護衛騎士。今は、ルナのお茶会の様子を、見ながら不届き者がいないか警備しているようだ。
(……自由が欲しい)
今は執事も騎士も離れているからライカに普段の口調で話せている。
しかし、父親や母親、メイドに執事がいる前では『ご令嬢』として振るわなければならない。それが、ルナがここに居る意味なのだ。
完璧な令嬢として数年後は何処かに嫁がせる気なのだろう。
「……やだな」
「お嬢様…」
主語を言わずともライカは察したようだ。
ルナは屋敷に視線を向ける。男爵家にしては広い屋敷に住んでいると言う自覚はある。だが、広すぎてたまに寂しくなるのだ。
「…お継母様、今日も不機嫌か」
「そのようです」
「……花瓶は割らないで欲しい」
「お嬢様のお気に入りですからね」
「……お父様は愛人?」
「大凡そうでしょう」
「…お父様の部屋の前は通らない…覚える」
プラターヌ家は、表面上はかなり良い家庭だ。
中身はドロドロとしている。
地位や金に固執している父親。そんな父親には、複数の愛人がいる。毎日、誰かしらとは会っているだろう。
今のプラターヌ家があるのは父親のお陰であり父親のせいでもある。
「ライカ…よーかん」
「はい」
ルナはライカに羊羹を要求する。すると即座に羊羹二切れがルナの目の前に差し出された。
ルナは受け取り頬張る。
(甘いものないとやってられない)
母親はヒステリックだ。愛していない父親の元に嫁ぎ、ルナの祖父母にいびられていたらしい。母親は正妻だが、未だに子はなせていない。しかし、二人の愛人が子を成した事に相当なストレスが掛かったのだろう。
兄が産まれてからは更にヒステリックになったと聞いている。
「…お兄ちゃん帰ってこないかなぁ」
「…難しいかと」
「愚痴りたい…」
「…本部に手紙を出しますか?」
「…最終手段に取っとく。近いうちに愚痴りたい」
「若様に伝えておきます」
五つ歳の離れた半分血が繋がっている兄は天八座。何故あの地位になったのかはルナには分からないが、一つの理由にこの家を出たかったからではと思っている。
現在、兄は別邸にて暮らしている。
「はぁ、平日来ないかな」
「明日ですね」
「セレナに会いたい…」
「セレナ様ですか」
「そう、会って安心したい」
ルナにとって初めて出来た心置き無くなんでも話せる友人。
まだ友達になって日は浅いが、それなりの関係は築けていると思っている。
(…まだまだ隠し事はされてそうだけど)
セレナの立場上仕方ないと割り切っているが、いつか、いつの日か全部話して欲しいと思っている。
(私も、いつか、全部話すね)
ルナは、最後の羊羹を一つ頬張った。




