4.お鍋鑑賞会。
前回のあらすじ
セレナ、鍋の中身に敗北!?
セレナは自分の魔術にとても自信がある訳では無い。しかし、鍋に入っている液体くらいなら蒸発させられるだろうと思っていた。
「……ど、どうして?なんか、匂うし…」
「やはり予想は正しかった‼」
疑問符が沢山着いているセレナと嬉しいのか分からないが、さらに羽根ペンを滑らせていくペルット。
「主。甘い匂い」
「それもう聞いたよ…」
匂いの事しか言わないユリ。異色の三コンボが揃った。
「さて、ユリシス蝶君。君はこれを見てどう思う?」
「どーゆーことだ⁉」
「そのままの意味だ!」
「分からないが、あれと似てる匂いがするぞ」
セレナを置いてけぼりにしペルットとユリは会話をしている。セレナはポツンと鍋を見ていた。試しに触ってみたが普通に熱かった。
「そうだろう⁉」
「そうだ!」
中身の無い会話を続ける二名。セレナは、氷を作り出し鍋に当てている。ジュワッと一瞬で氷は溶けた。
「さて!セレナ君!」
「は、はい…」
突如呼ばれた事に動揺しセレナの声は少し裏返った。その事に羞恥しているセレナと、そんな事どうでも良さそうにしているペルット。
「先程からユリシス蝶君は甘い匂いと言っていたな」
「えっと…そ、そうですね」
「それはなぜだと思う」
「へ?」
突然、自身の使い魔について問われたセレナ。セレナ自身ユリのことは余り深く理解していないので難問だ。
今までの行動を思い出して答えようとする。
(…甘いか、えっとお花屋で言ってた。蜂蜜見ても言ってた。お菓子屋でも言ってたな…。参考にならない…)
ユリの行動はセレナにとっては摩訶不思議だった。その為、全く参考にならない。
「えっと…なんでしょうね…」
しっかりと考えたがセレナには全く見当がつかなかった。正直に話せばペルットは大層機嫌が良さそうに話し始める。
「まず、我々人間とユリシス蝶君は全く違う構造をしている。使い魔だから、と言うよりも人間と蝶だからだ」
「…はぁ」
「蝶は食事となる花の匂いを嗅ぎ分けるな。だから、人間よりずっと甘い匂いの判別に特化しているんだ」
「な、なるほど?」
セレナはユリの方を見る。鍋の謎の液体に興味を持っているようだ。甘い匂いがするからだろうか。
「えっと、じゃあ、お鍋の液体は花の蜜…ですか?」
「違うな。だが、間違ってもいない。セレナ君の方が炙り出しは詳しいだろう?」
「…そ、そうかもしれないです…」
炙り出しに使われるインクは主に果実の汁や糖分の含んだ液体だ。確かにユリが甘い匂い、とずっと言っているのも頷ける。
「そ、その…違うって何がですか」
「塗料の前に君に魔術を使わせた理由を教えよう!」
仮にペルットが教師だったら今頃黒板を叩いているだろう。そのくらい熱が入っていた。セレナは少し後ずさる。熱の入りすぎた研究気質な人ほど面倒な人はいないのだ。
「このメッセージカードはリーナ君が始め魔術で燃やしたのだろう?」
「は、はい…そうです」
メッセージカードを見つけた時、炙り出しの可能性を思った二人は確かに燃やしたのだ。しかし、魔術では燃えなかった。蝋燭では燃えたと言われながらリーナが渡してきた物だった。
「始めはリーナ君の攻撃術が弱いからだと思っていたがさっきのである程度確信を持った。これは魔術には反応しないんだ」
「……そうですね」
正直セレナは何を言っているのだろうと思った。魔術で燃えずに蝋燭で燃えた。この結果だけ見ればその答えに行き着くことは簡単だ。
しかし、ペルットは堂々と話を続ける。
「だがな、魔術のみを弾くのは結界術が関わるな」
「は、はい」
「だが‼これは魔術を無効している。この国では絶対にありえないことだ」
アステリア王国は魔術大国。基本的になんでも魔術が使える前提で品物を作る王国でもある。そんな国が魔術が使えない物を売るはずが無い。
「…つまり、これは隣国から持ち込まれたんですか?」
「いや、違う。ワタシはさっき君にこれと同じか、似た塗料を燃やさせた」
「え?」
「あの液体は王国で売っていたんだ。それも、特別な会場でな」
「とくべつ…」
セレナは興味深そうにしていたが、数秒後元に戻る。
「…ペルットさん。その、闇オークションは良くないと思います…」
「闇オークションでは無い‼正式な場所で入手したぞ‼」
「それって何処ですか…場所によってはちょっと…騎士団に…」
「王国の研究展示会だ。そこに出し物として売っていた」
「…良かった…」
セレナはほっと息を吐き出す。危なく自分が同僚を騎士団に突き出す羽目になるところだった。ペルットが不機嫌そうな顔をしているがセレナは気づかない。
「まあいい。進めるぞ」
コクンとセレナが頷くとペルットは腕を腕の前で組み始めた。
「あの液体は正式なルートで入手した。魔術か魔力を通さない塗料としてな。下手したら通さないよりも拒絶の方が正しいかもしれぬ」
「拒絶…」
セレナは自身の手のひらを見つめた。魔術か魔力が今まで拒絶された事は無かった。結界に跳ね返ることはあるがその時は感覚で分かる。
しかし、先程は確かに燃やしているという手応えがあったのだ。
「仮に拒絶とするのなら、今までのは全て納得できる」
「……?」
ペルットの今までがよく分かっていないセレナ。助けを求めユリを見るもユリはまだ鍋を見ている。食い意地張ってるな、と人知れずセレナは思った。
「リーナ君でも残存が確認出来ず、マリノ君の前で精神干渉が起き、ワタシの結界が反応しなかった。全てに説明が着く」
「…で、でも。別に塗料が関係している訳では無いですよね?」
「塗料では無い。塗料の性質…成分を魔術にしているのだ」
「えっと、魔術を通さない成分…ですか」
「そうだ。仮にそれが可能だったらどうなる」
ペルットの真剣そのものの質問にセレナは小首を傾げる。えっと、と小さく独り言を言いながら自分の中で整理しているようだ。
数分後、結果が出たのか、セレナはゆっくり顔をあげる。
「…魔術の残滓が現れないので使い手が分かりません」
「そうだな」
「精神干渉をしても追えませんし結界術……もしかしたら魂術すら無いものに出来ます」
ペルットはうんうんと満足そうにそうに頷いている。
「セレナ君の言う通りだ。誰にも干渉されない、最悪で最高の魔術師がここに、このアステリアにいる事になる」




