2.難儀な問題。仕事は増える。
前回のあらすじ
場が冷えました。
あの後、少しだけ気まずい空気の中リーナは仕事へ戻った。ちょっとだけ遊び呆けていた分が今、回ってきているらしい。自業自得、と思ったセレナは悪くないハズだ。
そんなセレナも今は書類を抱えている。一週間経ち、やっと色々な書類がセレナ及び、天八座の元に降りてきたのだ。
「…現場の状態の様子の地図に、記録メモ…これは、お夕飯のメモ…?」
どう考えても事件には関係の無い物も混ざっているがセレナは知らないフリをして、資料室で書類を目に通す。セレナのオアシスだ。基本的に仕事以外に立ち入る人はいない。
「現場は、夜逃げのようだった…荷物を詰められ…この辺はいいかな…。あ、この人眠かったのかな…字が崩れてる…」
書類の報告よりもセレナは文字の崩れが気になって仕方が無いようだ。綺麗な文字が…と少し目を潤ませ悲しんでいる。そんなセレナの様子をユリは気にも止めず窓の冊子に止まりボーッと窓の外を見てる。
そんな変わった雰囲気の中、唐突に資料室の扉が開かれた。ビクッとし、セレナは振り返る。そこには白衣を着た如何にも研究者です、という人がいた。
「やぁやぁ、セレナ君。君。ここにいたんだね」
「ぺ、ぺぺ、ペルットさん……」
オアシスに侵入されたからなのか、ただ驚いただけなのか、またもやセレナは名前を噛みまくる。
白衣を身にまとい、空色の髪を一本に纏めている男。この男こそ、天八座の結界術筆頭ペルット・ディフィチーレだ。
「ほらほら、君の研究…ごほん、君の担当の資料持ってきたぞ」
ペルットは平然と資料室に入り、セレナに書類を渡す。ガクガクした動きで書類を受け取ったセレナとは大違いだ。
「あ、ありがとう、ございます…」
「うむ」
ただの研究者に見えるペルット。しかし、現実は全く違う。毎日のように研究室に籠り、恐ろしい笑い声を響かせている。天八座には何故か別名がつけられることが多いが、ペルットも例外では無い。ペルットはマッドサイエンティスト、と呼ばれている。
余談だが、ペルットは非常に頑固で根に持ちやすい人である。
「……これ、ペルットさんの、字では無いですよね…?」
セレナはつい先程ペルットから貰った書類を見る。現場の報告書、と言うよりも捕まえた三人の証言の様にも取れる内容だ。
「そうだ。ワタシはそんな面倒な文字を書いたりしない。それに、こんな面倒な尋問するくらいなら全て魔術で吐かせればいい」
「……じゃあ、これ、誰が書いたんですか…?」
ペルットの恐ろしい発言は聞かなかった事にしてセレナは書類の文字の相手を聞く。目星は着いているのだが万が一、違う可能性を信じて。
「マリノ君だよ」
「やっぱり…」
尋問、と言えばもっぱら騎士団か精神感応術を使える人。今回の事件は、国が公にしていないのでほぼ消去法でマリノになる訳だ。
「いやー、ワタシが納得させたんだがな?最後はすっごい嫌な顔してたなー。ハッハッハ」
「……そうなんですね…」
セレナはもう何も言わない事にした。今度、書類多く渡してもらおうと心に決意し、やっと真面目に書類に目を通す。
「…一貫して同じ態度。違うの繰り返し。深く聞けば魔術の発作を起こし失神……」
内容はやはり過激だ。尋問の報告書は大体過激なのだが今回は思っていた以上だ。これを書いている人がいつも穏やかそうにしてる人という事もあり、セレナは少し冷や汗をかく。
「…ペルットさん、その、この、失神…てやつは、魔術…ですか?」
「そうだな。ワタシも見たが魔術だな。リーナ君に調べて貰ったが残滓も残ってない。是非相手を捕まえてワタシの研究に取り入れたいものだ…」
「難儀ですね…」
セレナはムムムと顎に手を当て考える。多分、あの三人は使い物にならないだろう。どう考えても誰かに操られている。リーナに残滓を感じさせず、さらにマリノの目の前で精神を操っているのだ。簡単に捕まえられる相手では無いだろう。
もっと言えばペルットの結界すら超えているのだ。
結界術は必ず外部からの魔術反応が起これば結界を張った魔術師に情報が行く。脳裏にバチンと衝撃が走るのだ。しかし、魔術介入があるにも関わらずペルットはそれに気づかなかった。
(…それに)
セレナの初めの見立て、デュース・リンドンの行方が分からなくなった。
一応セレナはリーナに予想を伝えていたのだ。リーナはリンドンを探す為権力を存分に使い住所を特定し家に訪問したらしい。
しかし、留守。
リーナは使い魔のチーロと共に一晩待ったが帰宅しなかった。途中で何度もリーナは、「『帰りたい』『お酒飲みたい』と愚痴を零していたらしい。これは、ユリがチーロから聞いてきた事だ。
痺れを切らしたリーナは魔術で家の扉を開けたが、夜逃げのように家の中は空っぽだった、らしい。
「…実践してみるしか、無いのかな?」
セレナは更に悩む。ここまで複雑な事件を扱った事は無いのだ。そもそも、何時もは書類を書いているだけ。突然事件の調査と言われても困るのも無理は無い。
「主。甘い匂い」
ユリはいつの間にかセレナの肩に止まってた。蝶特有の本能と言うものだろうか。甘い匂い、とまだ言っている。
セレナはポケットからメッセージカードを取り出す。炙った事で人間のセレナにも分かるくらい微かな甘い匂いがする。
「む、おぉ、それは」
まさか、メッセージカードに食いつくとは思っていなかったセレナはぴゃっと跳ね上がる。
「こ、これですか。その、炙り出しの、メッセージカード…です」
「炙り出し…ちょっとよく見せてくれ」
返事をする前にペルットはセレナからメッセージカードを取り上げられる。ユリが、ユリの!と叫んでいる。決してユリのものでは無い。
「撥水性だな。この辺だと門付近の街に売っていたはずだ……む」
ペルットが少し止まった事にセレナとユリは共に首を傾げる。すると、ペルットは突如高笑いを始めた。
その声にセレナはビクッとし部屋の隅に逃げる。ユリは、全く動かずにペルットを観察している。
笑い終えたペルットは、悪い顔とも良い笑顔とも取れるなんとも言えない表情をしてゆっくりとセレナの方へ振り向く。
恐怖しかセレナは感じなかった。
「ふっふ…ふ、これは面白いぞ……」
どうやらペルットの研究魂に火がついたようだった。




