4.ひとりぼっち
前回のあらすじ
ちょっと怒られました。
(無理無理無理…リーナさん聞き込み行っちゃっし、ユリもいないし、わたしだけでどうしたらいいの…)
セレナは一人でビクビクしながら森を突き進む。
リーナから貰ったベネチアンマスクは、手に持ったままだ。つける気はサラサラない様子だ。
(ひっ…なんだ、風か…)
風によって揺れるものですら今のセレナにとっては恐怖の対象となる。
(えっと、こういう時何すればいいの…)
この時点で既に夕暮れ。街は勿論森も暗くなってきた。暗い森は更に恐ろしさを増す。幽霊やドラキュラ、吸血鬼を信じている訳では無いセレナ。
しかし、一人で歩くには暗く、恐ろしい森だ。
(あ、明かり…。火、付けられそうなの…。最悪枝でもいいや)
一歩一歩の足取りが重くなっている。すくすく伸びている草木をローファーで踏みしめている。サク、サクという音が森じゅうに響き渡る。
しばらくした後、セレナは森の奥深くまで来てしまった。月光は届かない。
仕方なく、セレナは地面から枝を拾う。
(枝…折るのは良くないよね…。大人しく魔術で灯すのか)
セレナは諦め炎を灯す。
(…なにかおかしい)
周囲を見渡す。何もいない。誰もいない。
それが、おかしいのだ。
(そもそもリーナさんがわたしに森の探索を命じたのはここに魔物が出たからだよね。でも、ここ歩いてしばらく経つけど何もいない)
そんな時ガサガサと、音がした。何かを這いつくばっているような音だ。
「ま、魔物…」
シュバッとセレナの目の前に現れたのは身体の原型がなってない魔物だった。ドロドロに溶けている。複数の魔物を細切れにし適当に縫い合わせたみたいだ。
見ているだけでも眩暈がしてきそうだ。
「嫌だ…展開、氷山」
セレナは、無意識に術式陣を展開させ、魔物の周りに氷の山を作り上げ閉じ込めた。ふー、とセレナは一息つく。
(…?なんだろ、これ)
氷の山に閉じ込めた魔物のすぐ側に灰のような物が落ちている。指に乗せるとふわりと消えた。視線を自身が作り上げた氷の山を見る。魔物のすぐ近くに何か人工的な物が凍っている。
「操りの宝石…」
氷でおおよその機能は壊れたのだろう。ボロボロの状態で凍っている。バリンと氷を割り、炎で溶かす。空間術の追跡魔術が使われていたのだろう。後ろを見る。
【デュース・リンドン】
(見た事ある筆跡)
セレナは過去に読んだ本、宝石や魔術関連の書籍を思い返す。
(宝石と魔術の組み合わせの書籍……空間術…『空間魔術を閉じ込める』だ)
三年ほど前に読んだ書籍だ。字の癖が強かったので覚えている。
(空間術だけど精神感応術も絡んでいた。じゃあこれは、支配と操りのものだ)
手元の操りの宝石の破片をハンカチで包む。ふと、セレナは手を止めた。
「これ、変だよね…」
何のために手間暇をかけたのか。簡単な品物ではないのは確かだ。それに時間をかける意義。
(あの人のプロフィール欄には何が書いてあったけ)
デュース・リンドン
エンロール街の宝石博物館が好きです。館長になりたいと思っています。
出身もエンロール街です。宝石学者ですが、魔術も扱えます。
セレナの中では少なくともこれは書いていたと認識している。
癖に感情が滲み出ていたのだ。書籍を書いている文字とはまた違う感情が。
(博物館の館長は自身の息子に博物館の全権限を継がせようとしてる。書籍の発売日は三年前。館長の宣言は四年前…これおかしくない?)
時間軸がズレている。宣言後に館長になりたいと言うのはかなり凄いことだ。なかなかやろうと思って出来ることでは無い。
(…多分、この街の魔物の件はこの人が主犯。でも、魔物を発生させて天八座に依頼が来るようにしたのはなんで。)
魔物が発生しただけだったら下級魔術師か騎士団を呼ぶだけ。
しかし、今回は天八座に仕事が回ってきた。それだけ凶暴で街に危害を与える可能性があるからだ。
(反射的に凍らせたけど、あの魔物何の魔術使えたんだろう)
魔物や使い魔には一種類の魔術が使える。使えないものもいるが、九割以上使える。
(うぅ、見たくないけど魔物見る…?)
セレナは少しの間、己と格闘をし視線を少しだけ魔物に寄せる。
(グチャグチャ…多分、炎と風系…相性良いやつだ。本当に魔術使える人が手を加えたんだろうな…)
視線を逸らし、指を顎に当てる。ゆっくりとパズルを組み合わせていく。暗い中、セレナの灯す炎が目立つ。
「──目的は街…?」
エンロール街は交易の街。閉鎖的な王国の中で交易は重要な情報源であり支援源でもある。
エンロール街の中心には博物館もある。重要な書類も保管されている。そして、少し古い木造建物もある。何より、宝石の博物館もある。
成りたくても成れない。それならば…。
『主!この学園壊そうぜ!』
いつかのユリの言葉を思い出した。あの時のユリは目的があってきたのにそれが出来なさそうだった。だから、それを成す為に壊そうと考えた。
ユリがやりたい事の為に全てを壊す。反対にやりたい事が出来ないなら全てを壊そうとする人間もいる。人間はどちらにも転がれるものだ。
仮にだが、リンドンと言う人間がユリとよく似た思考を持っていたとしよう。
そうすればその人は博物館を壊そうとするだろう。その為に何を使う。
答えはひとつ。
『火炎』
それに気づいたセレナは立ち上がる。
「戻らないと」
振り向くが道がない。元々整備されてはいないがセレナが歩いた跡くらいはあるはずだ。
しかし、無いのだ。
(幻創術にかかった)
事実を覆すことは出来ない。それは世界の理。しかし、それを騙すことは出来る。
それが幻創術だ。
「展開」
気づいたセレナは早かった。
「春一番」
セレナを台風の目として強風が森に起こる。制服のスカートが、パタパタと揺れ、森の木々もガサガサと揺れている。幻創術は風に弱い。
しばらくし、セレナが魔術を止めると幻創術はさっぱり無くなっていた。
「行かないと」
セレナは自分の歩んできた道を戻った。




