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星撃ちの魔術師  作者: 星宮 しずく
おまけ
25/56

2.ある日の休日

 明るい光が地面を白く照らしている。窓の外では風が緩く流れ、人々がそれぞれの世界を生きている。

 街は今日も平穏を彩っていた。

 セレナの家の窓は開け放たれている。そのせいで部屋の中は少しだけ混乱している。机の上に積まれていた書類が、風に煽られてふわりと舞い上がり、天井近くまでふらふらと漂っていく。

 それを横目に、セレナはまったく動じていなかった。

 椅子に深く腰掛け、膝の上の本に視線を落としたまま、指先だけでページを押さえている。本の世界に深く入り込んでいるようだ。

 その静けさを破るように、窓枠から青い蝶がすごい勢いで入り込んできた。

「主ー! 外行こうぜ!! ほら、太陽がユリ達を呼んでいる!」

 セレナはようやく顔を上げた。

 飛び込んできたのはユリだった。妙に人間くさいテンションと、やたらと健康的な思考回路を持っている。セレナよりも人間をしているのかもしれない。

「呼んでないし、詩的な表現過ぎてなんかやだ」

 セレナの回答はいやだ、というもの。即答だった。ユリはまったく気にしない。

「『してき』かは分からないが、この間、人間が言ってたぞ!」

「変なこと覚えないでよ……」

 セレナはため息をつきながら、飛んでいった書類の一枚を指でつまんだ。

 だがそれを戻す気力はないらしい。ただ視線だけが追っている。ユリはそんなことお構いなしに、部屋の中央で堂々と胸を張る。

「主、外」

「いやだ、行きたくない」

 セレナの絶対的意思を覆すのは難しいとユリは理解していた。

「ちぇっ」

 ユリは、窓辺に行き花の近くに止まる。街を眺めているようだ。セレナも本の世界にもう一度入り込んだ。

 しばらくした後、ユリはセレナの前に飛んできた。

「主!今からいい事教えるぞ!」

「…いい事?」

 セレナは少し興味を示したようだ。ただ期待はしていない。ユリは溜めたあと、ドヤッと言う効果音が似合うような声色で告げた。

「主はイカレポンチなんだな!」

「……!なに、突然……イカレポンチって……」

 ユリは得意げに続ける。

「すごいだろ!外の人間のちっせぇ奴が言ってたんだ! あいつイカレポンチだから誘わない! てな!」

「……イカレポンチの意味知ってる?」

「すごいやつだろ!!」

 間違いなく違う。だがユリの中では揺るぎない定義として成立しているらしい。セレナはしばらく黙った。

 処理に時間がかかっているようだ。

「……ユリ、それ、あの、あんまり良くない…」

「?」

「だから、その、良くないんだって」

 ユリは首をかしげるだけで、まるで理解していない。そしてさらに畳みかけるように言う。

「だから、キラキラとか壁とかもイカレポンチ達だろ」

 その言葉で、セレナの手が止まった。

「……【空間術筆頭】さんと【強化術筆頭】さん………」

 ぽつりと名前が出る。

 セレナには、あの二人の顔が思い浮かんだ。

 そして、【空間術筆頭】に責め立てられる所まで思い浮かべてしまった。

 お陰で顔は真っ青だ。

(ユリの言葉…どうしよう…どうやればいいの…)

 セレナの考えはお構い無しにユリは部屋中を飛び回る。

「外、楽しいぞー。たぶん」

 セレナは本を閉じた。そして、ゆっくりと立ち上がる。

「……たぶん、って何」

「たぶんはたぶんだ!」

「説明になってない」

 そう言いながらも、セレナは窓の方へ視線を向けた。外の光は相変わらず明るい。どこか遠くで、街が普通に生きている気配がする。

 ため息をひとつ。

「……ほんとに少しだけだからね」

 ユリの耳がぴくりと動いた。

「行くのか!!」

「少しだけって言った」

「行くんだな!!」

「話聞いて」

 書類の一枚が、最後にふわりと宙を舞ったまま落ちていく。セレナは、扉を開け、外に出た。

(うぅ、眩しい…)

 セレナに外の世界はまだ早かったようだ。

(でも…)

 ユリが先に外に出ていた。ふわりふわりと右往左往に飛び回る。

「主!最近すごいの見たんだ!行こうぜ!」

「…うん、そうだね」

 テンションの高いユリに案内されながら、セレナは歩みを進めた。


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