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星撃ちの魔術師  作者: 星宮 しずく
2章 風薫る街
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3.少女、早口になる

前回のあらすじ

少し、危機にさらされました。

 セレナは出かけた事が少ない。

 基本的には外に出ないインドア人間だからだ。その為、誰かと外食にすら来たことは無い。セレナにとって外食とは未知なるものだった。

「セレナ何食べる?」

 目の前に座っているルナはメニュー表を眺めている。

「えっと、ルナは何食べるの」

 自分もそれに似た物にしようと思ったのだ。ルナは顎に指を当てていた。

「そーだな…食べ物は決めてないけど、キャラメルラテに生クリームとアーモンド、シナモンパウダーでも付けて注文しようかな。あ、豆乳も追加しようかな」

 セレナは何を言われたのかよく分からなかった。理解出来なかった。

(なにそれ…魔術の呪文?長いし、よく分からないよ)

 セレナはメニューに視線を落としていく。一ページ目を巡った手は止まった。

「セレナ?何にするの?」

「…タイムズ・ニュー・ローマン」

「…えっと、なんて?」

 ルナはよく分かりませんと言うようなポカンとした表情をしている。セレナはそれに気づかず話し出す。目は心做しか輝いている。

「タイムズ・ニュー・ローマンだよ!ここの王国ではないのだけど、海を超えた国で生まれた活字の種類なの!論文に書籍に使われていて、この世界で最も使われている定番書体と言われているの!新聞向けに作られたから文字幅が小さいからこういう沢山の品物をだすお店にも使われていてね──」

「ストップ!ちょっと待ってよ」

 はて、と言う顔をしているセレナにルナはため息をつきたくなった。

「えっとね。その、タイムス?、なんちゃらってさ」

「タイムズ・ニュー・ローマン」

「…タイムズ・ニュー・ローマンってこのお店にあるっけ。私の記憶違いで無ければ確か無いはずなんだけど…」

 セレナはメニューをルナに見せ指をさした。指したのは飲み物の名前。その後、指はゆっくり右へ進み下へ向かう。

「これは全部、タイムズ・ニュー・ローマンって言う活字」

 そこでルナはやっと分かった。活字の話をされていたんだな、と。ルナはメニューから顔を上げてセレナを見る。文字を追うセレナは完全に恋する乙女だ。

「…せ、セレナ。何頼むか決めた?」

 その言葉に我に返ったのか元に戻った。セレナはメニューを少し見たあと、困った様に眉を下げている。

「えっと、わたし、こういう所初めてで、何頼めばいいか分からない…です」

「あ、そっかぁ」

 その言葉に、ほぼ反射的にセレナはビクッとしてしまった。そして顔を下げた。自分の足元しか見えない。スカートにシワが出来てしまう。それくらい無意識に握ってしまっていた。

 以前同じ言葉を言われた事があるのだ。

『 セレナさん?貴方、あたしの事バカにしてるでしょ』

『 黙ってないでよ!なんで分からないの!』

『……あぁ、そっかぁ、セレナさんは──』

 全て同じ相手に言われたのか、違う相手に言われたのかすら覚えていない。そんな曖昧な記憶だ。

(…相手を見ろ、表情を見ないと分からない。前、昔、どんな顔して言われたか思い出せ。その顔さえされていなければどうにも出来る)

 そう思うのに顔が上がらない。いつの間にか、例の出来事はセレナのトラウマになってしまっていたらしい。

「はい、これが……セレナ?どうしたの、具合悪い?」

 ルナが声を掛けるもセレナは聞こえていない。

「セレナ?病院行こうか?」

 むしろ追い詰められている。

(八方塞がりってやつ?いや、自分から身を投じたの?分からない)

 思考の海に潜っている冷たい何かをおデコに感じた。反応してしまい、顔をあげる。

「あー、熱は無い…かな?」

 片手でセレナのおデコをもう片方でルナの方を触っていた。

(何、しているの)

 驚きすぎて声が出ない。

「うーん、具合悪いなら言ってね。この辺なら大っきい病院行けるし」

「…え、あ、うん」

 ルナに念を押され、頷いた後メニュー表が目の前に差し出された。

「はい、これがオススメだよ。でもな、具合悪いならもっと暖かい飲み物の方がいいかな…食べ物だとこっちがオススメなの。私のイチオシ!」

 そう言って指されたのは、オレンジが乗っている飲み物と見るからに甘そうな食べ物。

 どちらもセレナは食べた事ない。

 暖かい飲み物だとこの辺だよ、とルナは教えてくれるが、別にセレナは具合悪い訳ではない。

「えっと、ルナのおすすめ、気になるな」

 戸惑いつつも答えると、ルナはキラキラした表情になった。

「ほんと!凄く美味しいよ!」

 セレナに言ったあと直ぐに、店員を呼んだルナ。メニュー表を指しながら注文している様だ。

 その間に、改めて店内を見てみる。

 観葉植物が、店内のあちらこちらにある。窓も大きい為明るい印象だ。壁や床は木製なのか、温かみがある。いわゆるナチュラルカフェと言う場所だろうか。セレナにとっては明るすぎる。

「注文したよ。カフェの中見てたの?どうかな」

「え、えっと…」

 セレナは目線を泳がせ手を弄っている。

「その…あ、明る過ぎる、場所だと」

「明るすぎる?」

 そうかな、と考えているルナ。初めての場所で誰かと過ごす事はこんな感じだっけ。

 そう考えるセレナなのであった。



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