081●マニュアルを読んでからやろう
ロータス・エスプレッソ、先進技術が搭載されていないから、溝にはまることもあるよな。
俺のモニターには、車体の傾斜角が表示されている。
数値は赤。つまり、自力脱出は不可能ってことだ。
NATTO2000。その奥深い力を見せてやろう。
ヒト型ロボットに変形するのかって?
ふっ、ふっ、ふっ。そんな面倒なことをするまでもない。
ロータスの車体に傷をつけたくないしな。
我が愛車には充実した牽引機能がある!
ロータスに狙いを定めてっと。
発射あ!おお、鏡獅子のように、放射状に糸が出る!
この糸は微生物由来の高分子ポリマーでできていて、驚異的な粘着力と伸縮性を持つ。
自然由来ながら、JASO・日本自動車支援機構のロードサービス規格の強度を誇るという、
ちょっとした技術の結晶だ。
牽引開始!
NATTO2000の駆動音が低く響き、糸がゆっくりと張っていく。
溝の中から、ロータスが引き上げられていく。
タイヤが地面を離れ、車体が水平に戻る。
あれっ?ロータス、エンジンがかからないのか?
うーん、この手のクラシック・カーは整備が難しいんだよな。
えっ?そんな遠くまで行かないとダメなのか?
しょうがいないなあ。
整備工場までの道のりも、糸は一度も緩まず、振動にも耐え、完璧な牽引を続けた。
俺は、ちょっと誇らしい気持ちになる。
やっぱり、最新式はいいよな。
工場についたぞ。整備にロータスを引き渡そう。
「・・・あれ? 糸が外れませんよ?」整備士が困った顔で言う。
俺も外そうとしたが、ぴったりと張り付き、まるで一体化してしまったようだった。
デジタルマニュアルを開こう。
ええっと。あれっ?
俺、災害時緊急モードで、牽引の糸を撃っちゃったのか?
これだと、そう簡単に牽引解除ができないのか?
やっちまったあ!
今度から、マニュアルを読んでからやろう、俺・・・。




