060●家宝も 思い出の品も 何もかも
「ラベンダー伯のお言葉どおりだ。」
「ラベリア軍が来るんだな。」
「避難しよう。大雨の時と同じだ。いや、多数の馬車が村境まで来ている。ぬかるみもない。ずっと速く移動できる。」
「だけど・・・。」
「本当にやるのか・・・。」
「俺は・・・気が進まん。聖なる場所もあるんだぞ。」
「・・・だが、残しておけば、ヤツラの寝床になるだけだ。」
「せっかく収穫したばかりの穀物もか?!」
「わかっているはずだぞ。何度も何度も、話し合ってきた。」
「ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!」
男は、悔しさに顔を歪ませ、地面に拳を叩きつけた。
「おじいさんが作った木像もだ!遺品だぞ。我が家の家宝だぞ!」
「この子が小さいときに描いてくれた、等身大のわたしの絵もだめなの?」
「かあちゃん、俺が一緒にいるよ。俺の描いた絵なんて、もっていかないでいいんだ。思い出と共に命をなくすんじゃなくて、一緒に生き延びて、明日を楽しく暮らすんだ。また、絵は描くよ。子どもの俺じゃないけど。」
「できるだけ、何も持たないで行こう。少しでも荷が軽いほうがいい。それに未練が残るだけだ・・・。」
「陛下を信じよう。国を信じよう。ウィルフレッド子爵が国政に携わってから、変わったぞ。我らが見放されたことがあったか?!」
村人たちは泣いていた。
泣きながら自らの手で・・・故郷に火を放った。
家々も、思い出も何もかも。全てが炎に包まれた。
燃え盛る炎は、まるで彼ら彼女らの溢れる悲しみに呼応するかのように、
空高く燃え上がった。
それでも、残ったものがあった。
村人たちの自由な意思と決意である。




