054●できなくても、民は滅びない しかし・・・
王都から「魔法使い」と名高いラベンダー伯爵が単騎でやって来た。
村々を廻っているのだな。
陛下が話された、’その時’が来るのか。
伯から、従前に承ったことの確認がある。
そのうえで、詳しく具体的なルートや支援物資について、丁寧な説明を受けた。
あの時の陛下のお言葉どおり、できるだけのことをしてくださるのだな。
しかし・・・
我が故郷、長年親しんできたこの村、先祖から受け継いできたこの土地に、わたしが、‘それ’をすることができるのか?
「大変、申し訳ありません。皆さまには、とても辛い思いをしていただかなければなりません。ラべリアとの決着がつけば、でき得る限り早く、元に戻すよう、全力を尽くします。」
「わかっております。陛下直々に、ここにお越しくださり、自らのお言葉でお話しくださった。ラべリアの侵攻を受ければ、わたしたちがどうなるか、理解しております。しかし・・・いざとなった時に、わたしに‘それ’ができるかどうか・・・。」
「あなた方が、この戦いの’鍵’を握っておられるのです。ですが・・・もし、計画どおりにできない、ということになっても、陛下はきっと、それでよい、とおっしゃいます。秋まで、まだ、時間があります。村の方々とも、話し合って結論を出していただければ、結構です。」
「もしも・・・わたしたちに、‘それ’ができなければ、どうなるのですか?」
「・・・今度こそ、国は滅びます。王も、貴族も・・・。しかし、あなたたち民の皆さんが滅ぶわけではありません。ラべリアの民として、日々の暮らしを送り、子や孫を育てていくことができるでしょう。」
そうなのか。だが、あのラべリアの圧政の下で生きていくのか。
部族国家は信仰も言葉も、衣装も歌も伝承も、営々と受け継いできたあらゆる伝統を奪われている。
誇りを捨て、先祖から託された思いを捨て、帝王の、帝国の顔色を窺い、毎日、毎日、ずっと、道具のようにこき使われて人生を終えるのか。
帝室は莫大な富を蓄積している。
しかし、それが庶民に使われることはない。
水害の時に、ラべリアの民は自国を頼らず、我が国に逃げて来たではないか。
「わかりました。皆と相談します。頂いた計画案のご支援を、受け取ることができると信じます。」
伯はわが手をとり、じっと見つめられる。
瞳が揺れている。
涙を浮かべておられるのか?




