052●来るべき時が
「それは本当か?」
重臣たちの声が、さざ波のように広がり悲鳴に変わっていく。
「間違いありません。明らかにラベリアは、我が国との戦争準備に入っております。」
外交大臣が、重い口を開く。
その顔には、長年の努力が水泡に帰した、深い苦渋の色が浮かんでいた。
これまでの平和は、束の間の夢だったのか・・・。
「我が国を攻撃すれば、食糧や技術革新の恩恵が、ラベリアにとっては途絶えることになるぞ。そのようなことは、行わないのではないか?」
「いえ、侯爵。ラベリアは、それらを直接手に入れるため、行動を始めているのです。」
謁見の間が静まりかえる。
「今現在で、どのぐらいの兵力差があるのだ?」
「ラベリア本国だけで我が国の2倍、周辺部族国家から動員される兵力を加えると、まず、10倍は下りますまい。」
軍務大臣が、冷静を装いながら応える。額には脂汗が浮かんでいる。
「いつぞやの壊滅戦と同じか!」「勝ち目はないぞ!」絶望的な声が上がる。
「だが、何もせず蹂躙されるに任せれば、民も略奪されるぞ!命も危ない!」
「戦って死ぬなら、本望だ!」
「何を言う、最小限の犠牲で済まさねばならん!」
「戦わず、向こうが欲しいものを差し出せがよいのではないか?」
「それは全面降伏ということだ!呑めん!」
「やれるだけやって、講和という常套手段はどうだ?」
「ラベリアは本気だぞ!そんな小細工はもう、通用せん!」
「陛下の御身を守り奉るのが、臣下の務めではないか!」
「静まれ!諸侯の言、よくわかった!」
騒然とする家臣たちに、陛下のお声。皆が我にかえる。
「ウィル、策はあるな。」
「はい、陛下。誠に・・・誠に為すには、あまりにも犠牲が大きすぎますが・・・。」
「ラベンダー伯から、詳しく聞いておるな。」
「如何にも。他言はしておりません。」
陛下が一瞬、眼を閉じられた。
その短い沈黙の間に、計り知れない覚悟が見える。
眼を見開き、すぐさま、次の言葉を発せられた。
「戦うぞ!だが、通常の戦い方ではない!ウィルフレッド子爵に従え!ラベンダー伯を呼べ!これから戦略会議を行う!皆の、いや国中の覚悟が必要だ!よいか、恐れるな!希望はある!我らが、民が、ひとつとなって為すのだ!覚悟せよ!」
皆が陛下を見つめる。
そうだ、戦おう。陛下がおっしゃるのだ。
英雄ローレンスの妹、いや、弟のウィルがいる。
ラベンダー伯もいる。
我らこそがやらねば、誰がやるというのだ。
来るべき時が来たのだ!
この国が、一丸になることができるのか、それが試される、まさにその時が。




