034●海戦と肉弾戦
首領は止めたが、もう、これ以上、エンジェラムの顔色を伺うのはごめんだ!
旗を見ただけで、獲物を前に逃げ出すなんて、ざまあないや!
あいつらが、そんなに怖いのか?
コテンパンにやられたって?俺は見てないぞ!
大げさに言って、自分たちの不甲斐なさの言い逃れにしてるんだ。きっとそうだ!
俺たち、年寄連中より元気で気迫があるぞ!
いこうぜ、俺は、海賊王になるんだ!
エンジェラムの哨戒艇なんて、本気でやりゃあ、どうってことないぜ!
見えたぞ!奴らだ!海賊旗をあげろ!近づくぞ!
そろそろ、弓矢の準備だ。
おっ、やつら、もう放つのか?
まだ、射程距離じゃないぞ?!
あたるもんか!・・・えっ?あたるのか?火矢か!
帆にあたったぞ!水をかけろ!じゃんじゃん、かけろ!
消えない?!なんでだ?うわあ、火矢の雨だあ!!
くそっ!船は炎上、海に飛び込むしかなかった。
全員無事だが、引き上げられて、捕まった。
後ろ手に縛られちまった。
ここは、俺が何とかしなくっちゃ。
「おい、卑怯だぞ!」俺は大声で言った。
「おい、卑怯だぞ!あんな遠くから、火矢を射るなんて!正々堂々、勝負できないのか!」
だいじょうぶか、そんなに挑発して?
いや、ブラッド、あんたのせいだとは、思ってないって。
オレもエンジェラムなんて、たいしたことないって、爺さんたちの前で、啖呵切ったもんな。
首領もベテランも首を振ってたけど、ホント、まずかったよな。
「卑怯か。武装も十分ではない民間船を襲っておいて、偉そうだな。」
「強いもんが弱い連中から巻き上げて、何が悪い!弱肉強食ってやつだ!」
「それでは、我々より弱いお前達は、どうなるんだ?」
「くっ、だから肉弾戦なら、負けないって言ってるんだ。俺と一対一で勝負する勇気はないんだろうが!」
「はっはあ!あおるのか。面白い。受けて立ってやろう!」
ブラッドの縄が解かれる。
一列に座らされたオレたちの前に、船員が同じように座り込む。
その列と列の間に、ブラッドと先程の水兵が向き合った。
「俺はブラッド!おめえは?」
「王虎。では、お前が勝ったら、全員を自由にしよう。この船もくれてやる。だが、もし、わたしが勝ったら、何でもいうことを聞いてもらおうか。」
信じられないぐらい、いい条件じゃないか。
ブラッド、日頃の腕っぷし、見せてやれ!っていうか、見せてくれ!頼んだぞぉ!
戦いが始まった。王虎というやつ、体がデカい!
だが、素早さは、きっとブラッドが上だ。
力自慢っていうのは、たいていノロマだからな。
ブラッドが体を沈める。
そのまま跳び上がる!相手の肩に手をおいて、一回転したぞ!
うまい!背後に回り込んだ!そこからパンチ!
えっ、なんでブラッドが吹っ飛ぶんだ?
王虎はまだ動いてないぞ?!
「いい攻撃だな。我々は、’後ろからスコップを持って、ぶったたく’のも、正々堂々だと思っている。さあ、どうした?わたしは、このまま背を向けてやる。自慢のパンチ、もっと出してみるんだな。」
背を向けたまま?ブラッドが飛び起きる。
王虎の後頭部に向けて、連続パンチ!
しかし、パンチは王虎に届かない。
それどころか、ブラッドの目の前の空中から、拳が飛び出して、ブラッドの顔面を殴りつけた?!
あれは?あの入れ墨は、まさしくブラッド自身のもんじゃねえか!
どうなってるんだ?!
ブラッドが何発もの、不思議なパンチを喰らう。
これは自分のパンチじゃないか?これが魔法ってやつか?
「こらあ!こっちを向けっていうんだ!背中ばっかりじゃあ、調子狂うぜ!ちゃんと相手しな!」
ブラッドの言葉に、相手が向き直る。正面を向いた!
「これでいいのか?」
「上等だ!」
ブラッドのジャブとフック、さらにキックだ!
どれかは当たれ!・・・全部躱されるのかあ?
「それでは、あたらんな。お手本を見せよう!」
王虎は、そう言うやいなや、左のパンチを放つ!
うわっ!すげえ!ホントにお手本のような、きれいなパンチ!
重くて速い!
うわっ、ブラッドぉ!!!
ーどうだ、王虎、久々のヒューマノイド形態は?
ーこれはこれで、面白いものですね。味覚があるっていうのも、楽しんでいます。
ー気に入ったようだね。しばらく、そのままでいいよ。ブラッドとその仲間たち、鍛えてやってくれ。
ーありがとうございます、マイロード!それでは、この世界線で、しばらく過ごさせていただきます。




