031●言ったことの責任
絶望が、深い洞窟の奥底に澱のように溜まっていた。
外からは、地響きのような砲声と、耳をつんざく爆音が絶え間なく響いている。
この小さな島の住民たちは、大国の軍勢に追い詰められ、もはや逃げ場を失っていた。
彼らが信じていた支配者からは、
「捕らえられるよりは、名誉ある死を選べ」と教え込まれてきたのだ。
洞窟の中では、すすり泣く声と、覚悟を決めた者たちのうめきが混じり合っていた。
幼い子どもを抱きしめ、今まさに自ら命を絶とうとする母親の姿に、誰もが心を痛めた。
その時、一人の老人が、震える声で皆に呼びかけた。
「待て。軍から教えられたことは、本当にすべて真実なのか?試してみよう。わしが本当になぶり殺しになるのを、見てからでも遅くない。」
老人の言葉に、一瞬の静寂が訪れた。
皆の視線が彼に集まる。
彼はゆっくりと立ち上がり、白くぼろぼろになった布切れを杖の先に結びつけた。
外では、大国の軍勢が洞窟の入り口を包囲していた。
隊長は、厳戒態勢を敷きながら、部下たちに指示を出していた。
これまでに、何度か民間人に紛れ込んだ兵士から攻撃を受けた経験が、彼を用心深くさせていた。
老人を見た隊長は、叫んだ。
「白旗をあげてひとりで来るとは、怪しい!爆弾を抱えたカミカゼアタックかもしれん。油断するな!」
隊長の声は、警戒と不信に満ちていた。
兵士たちは銃を構え、老人の動きに集中する。
老人の、村人たちの命は風前の灯だった。
老人は、一歩また一歩と、ゆっくりと兵士に向かって進んだ。
外のまぶしい光に目を眩ませながらも、彼は前を見据える。
銃口を向け、兵士たちが彼を取り囲んでいる。
隊長は言う。
「レディ・トゥ・ファイアー!」
兵士たちが、狙いを定める。
「ファイアー!」と、振り上げた手が下ろされようとした、まさにその時、
老人は、かすれた声ながらも、はっきりと発した。
「Hello!」
その瞬間、時が止まったかのようだった。
隊長の手は空中で固まり、兵士たちの銃口もわずかに下がった。
老人は、構わず次の言葉を続けた。
「I am a Christian.」
老人の声に、兵士たちは顔を見合わせる。
そして、老人は、知っていた、異国の最後の言葉を彼らに投げかけた。
「You are gentlemen.」
その言葉は、奇妙なほどに澄んで、隊長と兵士たちの心に響いた。
隊長の厳しい表情が、ゆっくりと和らいでいく。
そして、彼は静かに銃を下ろすよう合図を送った。
老人は、なぶり殺しにされるどころか、丁重に扱われた。
その姿を洞窟の奥から見ていた村人たちは、信じられない思いだった。
彼らは、長らく信じてきた「敵」の姿が、自分たちの想像とは全く異なるものであることを悟った。
希望の光が、洞窟の奥深くまで差し込んだ。
そして、住民たちは、一人、また一人と、おそるおそる外へと歩み出し始めた。
老人の勇気と、たった三つの表現が、多くの命を救ったのだ。
長い戦争が終わると、老人は教会で洗礼を受けた。
幼い頃、イースターの卵を目当てに行って以来だったが、そこで出会った異国の聖職者から、彼は3つの表現を学んだのだった。
彼は言った。
「嘘をついたままでは、いけないからね。言ったことには責任を持たないと。」
以上をデータベースに保管し、共有することにする。
文責:ロイ・ジン・ロード・エンジェラム




