030●アシュラ型’18’番要塞
「’無事、帰還することを祈っている’・・・。アシュラ型13番要塞のレイディ・アリスより、入電です。ご返信はどうなさいますか?」
わたしの問いに、レイディ・アマンダは、微苦笑しながらお答えになる。
「不要だ。向こうも返信を期待していない。あいつは、いつも心配しているからな。世界線は違うが、宇宙空間にいるのは同じこと。気をつけろ、ということだろう。ありがたくメッセージとして受け取ればいい。・・・出撃する。全艦、発進!すぐにワープに入るぞ!」
「全艦、発進しました。エネルギーレベル、異常なし。各艦、ワープ・ドライブのセット完了。ワープ・インへカウントダウン開始。」
それは要塞内体感時間で72時間前のことだった。
800万隻の僚艦とともに、我がアシュラ型18番要塞に、出撃命令が下された。
「何が、次元断層を囲んでいるというの?」呟くわたしに、直ぐ隣のコンソールのサクラが応える。
「それが、分かんないから、行くんじゃないの。万全の態勢でね。」
はい、はい、そのとおりですよね。
「あなたは、ホントに配属された時のままよね。集中しなきゃ。」
ゴメンって!あなたも、配属時のままよね。じゃあ、行くぞぉ!
ワープ・アウトした。18番要塞、僚艦とも異常なし。コユキが探査を開始する。
「サクラ、みて!この状況!小惑星規模の物体、多数あり、よぉ!」
「レイディ・アマンダ、に報告!多数、というより無数だよね!」
コユキ、こういう初動時の活動、はやくて、うまいなあ。同じエンジェル・ナイトだけど、個性が違う。子どもっぽいけど、いざという時、いつも頼りになるんだよね。
レイディ・アマンダが指示を出す。
「戦闘用ボールを僚艦より放出。次元断層と周囲の物体群を近接より調査せよ。」
「了解!」
ふたりのいきはピッタリ!
「ワタル、聞いた通りよ。発艦準備にかかって!」
「もう発艦させてるよ!他の連中と操作中だ。すぐにデータを送る、待ってな!俺だってナイトなんだから、いいとこ見せなきゃな!」
体感時間3時間が経過した。
ワタルから詳細なデータが来た。サクラと分析する。
「小惑星よね、やっぱり。人工物じゃないね。」とわたし。
「周りの宙域から、吸い寄せられたって、感じ。洗面台の穴に水がゆっくり流れて行くみたいよね。でも、何に?次元断層に?」
サクラの感性、いつも具体的よね。彼女は続ける。
「ブラックホールのような、質量はないよ。何か、へんだよね。」
「あれっ?サクラ、このデータだと、小惑星群体、砕けていってるよ!砕けてから断層に入って行ってんじゃない?」
「コユキ、よく見つけた!やっぱり、膨大な質量、実はもってるんだよ、断層って!」
「いやいや、物理学的にありえん・・・。レイディ・アマンダのご意見を伺おう。」
「これは、いわばカサブタだな。」レイディ・アマンダが腕を組みながら言う。
「どういうことですか?」サクラがおデコにシワを作りながら尋ねる。
「ココア・インパクトのデータの中に、質量もないのに、物体が引き寄せられているようだった、という一文がある。この観測の後、しばらくして、ココアは断層の修復に成功したが、異世界線へ飛ばされた。最後に彼女が飲み込まれたんだろうな。」
「カサブタっていうことは、断層が自己修復の手段として、いろいろなものを吸収してるってことなんですか?」今度は、わたしが尋ねる。
「その可能性がある。まあ、次元断層や世界線には未知な部分が多すぎるからな。あくまで、わたしの勝手な推論だが。」
と、いうことは、今の状況をサポートすれば、次元断層は消えるってことなのかな?
「やってみよう。次元断層のお手伝いだ。主砲を発射する。全ての小惑星群体を粉々にする。うまく取り込ませてやろう。」
主砲。それは巨大球体である要塞の、最大直径からの半球を砲として使用するものだ。
表面の装甲板からエネルギーを直接照射する。
これを受けて無事なものは、まず、いない。恒星だって、吹っ飛ぶ。
「各員に伝達、主砲、撃ちます!要塞内の総員、対ショック・対閃光防御!」
「連続して照射します!僚艦はシールド出力を最大にして、要塞の後方に移動してください!」
「周囲の安全を確認。エネルギー充填、始め!」
「出力上昇中。80・・100・・120パーセントに到達!発射準備完了!」
「発射のカウントダウンに入ります。よろしいか?」
「結構だ。承認する。」レイディ・アマンダの落ち着いた声が響く。
「了解!10から行きます。10,9,8,7・・・。」
小惑星体群は、跡形もなく破壊された。
「念の為、各艦からのグラビティ・キャノンの発砲を許可する。残った岩石群があれば、直ちに粉砕せよ。」レイディ・アマンダ、指示がいつもすばやい!
「銀河連邦機動艦隊のグレッグ大佐より入電です。今の爆発は何か、とのことです。何と返事しておきましょう?」
「エンジェラム星間連合所属艦隊の’訓練’だ、と応えておけ。」
「信じるでしょうか?訓練にしては、爆発規模が大きすぎると思われませんか?」
「きっと、マイロードに報告・相談するだろうから、うまく言ってもらえるように伝えておく。問題ない。帰還するぞ。」
いえ、グレッグ大佐、結構本気で興奮していて、’今の爆発、なんやねん!’って言ってるんですけど。信じるかなあ?
ーアマンダ、お帰りなさい。お疲れ様!うまくいったわね。
ーいやあ、新しい発見だったね。次元断層が、自己修復するなんて。いつも必ず、というわけではないだろうけど。
ーそれで、あなた、また要塞の主砲を撃っちゃたのね。好きだよねえ。
ー好きというか、必要だったのよ。確かに、爽快感もあるけど。
ー主砲発射は、もうあなたの代名詞よ。言わばオハコ、十八番ね。
ーあの世界線の、あの地域の、あの時間軸の、古い慣用句だなあ・・・。




