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015●英雄の剣

ほぉー。これがエンジェラム王国の船か。

穀物を運んでくるだけあって、大きいものだ。

何十隻も係留されている。

我が国のものより、船足も速そうだ。どれ、商人と話してみるか。


我が国は瀬戸際にいる。

間もなく戦端が開かれるはず。

陛下は随分、心を砕かれているが、残念なことに軍閥貴族に危機感が無い。

今のうちに兵站、民の食糧確保の算段をしなければ。

この島で文官として自分にできることを、まず行おう。


驚いた。商人でなく、貴族が直接売買の交渉に来ている。

わたしも文官貴族として来ているのだから、同じだが。

しかし、何か意図があるのか?

エンジェラムも開戦が近いと踏んで、高値で売却を企んでいるのか?

交渉相手は伯爵だと?


意外だ。価格は相応。いや、むしろ割安と言える。

これなら、大量の食糧を確保できる。

戦時でも、民を飢えさせないで済む。

有り難い。しかも、話し合う中で、相手が清廉な人物だと良くわかる。

このような御仁が、我が国にいれば、さぞ陛下の支えとなるだろうに。

なんだろう、不思議だ。友人といるような気分になる。

僅かな間の付き合いでも、気の合う人物と一緒なのは楽しい。

例えそれが、戦いの準備だとしても。


「アンダーソン子爵、それではこの条件で。」

「はい。・・・どうか、ローレンスとお呼びください。」

わたしの言葉に、彼は静かに微笑む。


「戦争にならなければ、よいのですが。文官である、あなたも参戦されることになるのですか?」

「おそらく。考えたくはないのですが、ラベリアは周辺の部族国家を従え、その総戦力は我が国の10倍以上にもなります。兵力差を少しでも補わねばなりません。このような事態なのに、肝心の貴族連合の士気が今ひとつ。しかし、我が陛下が連日、近衛隊長と策を練っておりますので、大丈夫だと思います。」


いや、大丈夫だとは全く思っていない。

この状態で開戦となった場合に、如何に民を避難させるかの相談に他ならない。

最悪の場合、陛下には落ち延びていただきたい。

だが、わたしに何ができる?!

武官としての経験はない。

領地で兵を募ってはいるが、経験のない者たちを前線に立たせて、何とする!

現状で我が家門が動員でき、戦力として動かせるのは、百にも満たない。

しかも、率いるのは文官の父とわたしなのだから。


「ローレンス殿、剣を一振りお持ちいただけないか?」

「ラベンダー伯爵、それは?」

「わたしもロイ、で結構です。エンジェラム国内の刀鍛冶が鍛えたものです。ご覧ください。」


手渡された剣を見る。

「失礼。」

一言かけて、鞘を放つ。

おお!これは見事だ。

一見すると飾り気のない素朴な剣だが、抜刀すると凄さがわかる。

まるで魂が入っているかのような、見事な出来栄えだ。

武に素人のわたしでも、わかる!


「お心遣い、感謝します。しかし、これほどの業物、購入する予算がありません。」

伯爵は、真剣な眼差しで、しかし、穏やかな口調で語る。

「これは、知り合えたあなたに差し上げるものです。対価は必要ありません。御身を守るため、民を守るため、国を守るために是非、お持ちください。」

なぜ、そこまで・・・。

「決戦は避けられないかもしれません。わたしは、あなたのご無事な未来を見たいのです。誠に勝手ながら、友となった気でいるのですよ。」

友と・・・友と呼んでくれるのか。この数日で。

熱いものが胸の奥底から溢れてくる。

我が国内に、わたしの安否をこれほど気にかけてくれる’友’はいるだろうか。

倹約を奨励するわたしを、悪く言うものはあれど、親しくしてくれる者は無いに等しい。


「ありがたく、頂戴します。あなたを友と呼べることを、光栄に思います。」


ーマイロード、あの剣を譲ってよろしかったのですか?

ーあなたは反対なのでしょうね、ソレイユ。

ーいえ、お決めになったことに異議を唱えることなど、僭越です。ただ、持つ者の精神状態に反応する ’あの剣’ は、状況によっては爆発的な力を発揮します。十分お分かりのことでしょうが。

ー世界線を旅していると、時にあのような人に出会います。自分のことより、みんなのことを大切にしたい、そのためにも戦いを避けたい、と考える人。あの剣が命を奪うのは避けたいのですが、あのような人には生き延びてもらいたいのです。我ながら、矛盾していますよね。


深くため息をつかれる。そうだ、矛盾している。

’賢者の剣・英雄’。

マイロードがお渡しになった剣の二つ名。

見事に持ち主を守りきればよいのだが。

だが、その威力が発揮されることがなければ、もっと良いのだが。


ーこの世界線に留まられるのですか。

ーいえ。確かに彼のことは気になるのですが、より大きな危機が迫っている世界線があります。こんな時、もう一人、自分がいればよいのでしょうね。

ーでは、今回のご来訪はなかった、ということでよろしいのですね。

ーええ。数日間でしたが、意味のある滞在でした。今度来る時は、長期間になるかもしれませんね。あなたも複数の世界線の観察、大変ですがよろしくお願いします。

ー承知しました。


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