Episode 8: トレーニング、そして好青年の苦悩
登場人物
カヨ/健一の妻、管理の達人
トシキ/カヨの息子、マザコン、元スイミング選手
シンディ・ゴールドバーグ/トシキの彼女、カヨの弟子
ブレイディ・ヴァーデン/役者志望、エイミーの兄、ジャンクフード、レッドブル大好き
エイミー・ヴァーデン/シンディの友達、ブレイディの妹、ストイック
翌日から、トシキのトレーニングが始まった。
朝5時。
アラームが鳴った。
トシキは、ベッドから起きた。
「…眠い」
でも、約束した。
エイミーに勝つ。
そのために、準備する。
隣の部屋から、カヨの声。
「トシキ、起きた?」
「起きました」
「じゃあ、10分後にロビーね」
「はい」
トシキは、ランニングウェアに着替えた。
ホテルのロビー。
カヨが待っていた。
「おはよう」
「おはよう、母さん」
二人は、ホテルを出た。
サンタモニカビーチ。
シンディが、自転車の横に立って待っていた。
「Good morning!(おはよう!)」
「Good morning, Cindy.(おはよう、シンディ)」
「Ready? 10K today.(準備できた? 今日は10km)」
「Yes.(ああ)」
カヨが横から。
「ペースは、1キロ5分。ゆっくりでいい」
トシキ「Got it.(分かりました)」
「それと、これ」
カヨは、水筒を渡した。
「スポーツドリンク。電解質入り」
「ありがとう」
シンディも、言った。
「After the run, we’ll have breakfast at a café nearby. Protein-rich.(走った後、近くのカフェで朝食。タンパク質豊富なやつ)」
「Sounds good.(いいですね)」
「Let’s go!(行きましょう!)」
カヨとシンディは自転車、トシキは走り始めた。
ビーチ沿いのランニングコース。
朝の空気が、心地いい。
自転車をこぎながら、シンディは声をかけた。
「Toshiki, your form is good.(トシキ、フォームいいわ)」
「Thank you.(ありがとう)」
「But keep your shoulders relaxed.(でも肩の力を抜いて)」
「Okay.(分かった)」
カヨも、横から言った。
「呼吸、もっと深く」
「はい、母さん」
トシキは、指示に従った。
(母さんとシンディの管理…厳しいな。だけど、効果はある)
10km走り終えた後。
ビーチ近くのカフェ。
朝食。
カヨが、注文していた。
オートミール。
蒸し野菜。
グリルチキン。
プロテインシェイク。
「…また、これか」
トシキは、少し溜息をついた。
「文句言わない。これが一番効率的」
「はい…」
トシキは、黙々と食べた。
シンディが、横で言った。
「Toshiki, you’re doing great.(トシキ、よくやってるわ)」
「Thanks.(ありがとう)」
「Two weeks. We can do this.(2週間。できるわ)」
「…Yeah.(ああ)」
トシキは、頷いた。
午後。
カルバーシティの24 Hour Fitness。
地元のジム。
広い。
設備も充実している。
トシキは、筋トレをしていた。
スクワット。
ランジ。
プランク。
カヨとシンディが、見守っている。
「Toshiki, deeper squat.(トシキ、もっと深くスクワット)」
「Okay…(はい…)」
「Keep your core tight.(体幹を締めて)」
「Yes…(はい…)」
トシキは、汗をかきながら続けた。
(結構きつい…)
その時、ジムの入口から声が聞こえた。
「Yo, Toshiki!(よお、トシキ!)」
振り返ると、ブレイディが入ってきた。
手に、ポテトチップス、ポケットにはレッドブル。
「Oh, hi Brady.(あ、ブレイディ)」
「Hard training, huh?(ハードなトレーニングだな?)」
「Yeah, kind of…(ええ、まあ…)」
ブレイディは、ポテチを食べながら近づいてきた。
そして、トシキを見て、笑った。
「Man, you’re like a circus animal! They say do this, you do it. They say do that, you do it. Doesn’t that get tiring? Loosen up, dude! Have some fun!(おい、サーカスの動物みたいだな! あれやれって言われたら、やる。これやれって言われたら、やる。そんなんじゃしんどいだろ? リラックスしろよ! 楽しもうぜ!)」
トシキは、少しムッとした。
「Don’t say it like that! Besides, I’m getting in better shape. Why don’t you join us, Brady?(そんな言い方しないでよ! それに調子も上がってきてるんだ。なんならブレイディもどう?)」
「Me? Nah, man. I got my own style!(俺? いや、俺は俺のスタイルがあるから!)」
ブレイディは、ポテチを差し出した。
「Want some? It’s good!(食うか? 美味いぞ!)」
トシキは、少し誘惑された。
(ポテチ…久しぶりに食べたいな…)
でも、シンディが横から言った。
「Brady! He doesn’t need junk food!(ブレイディ! 彼にジャンクフードは必要ないわ!)」
「Oh, come on, Cindy! A little won’t hurt!(おいおい、シンディ! ちょっとくらい平気だろ!)」
「Yes, it will!(ダメよ!)」
シンディは、ポテチを取り上げた。
ブレイディは、レッドブルを握って後退る。
「At least let me have my Red Bull!(せめてレッドブルは飲ませてくれ!)」
「No!(ダメ!)」
カヨも、横から言った。
「Brady, you should stop drinking that.(ブレイディ、それ飲むのやめた方がいいわよ)」
「But it gives me energy!(でもエネルギーくれるんだ!)」
「It gives you caffeine and sugar. Not real energy.(くれるのはカフェインと糖分。本物のエネルギーじゃないわ)」
「…」
ブレイディは、少し黙った。
でも、すぐに笑った。
「Well, it works for me!(まあ、俺には効くから!)」
そして、レッドブルを一気飲みした。
「Ahh! Now I’m ready!(ああ! これで準備万端!)」
ブレイディは、トレッドミルに乗った。
そして、走り始めた。
速い。
でも、フォームがめちゃくちゃ。
「Brady! Your form!(ブレイディ! フォーム!)」
シンディが、叫んだ。
「I’m fine!(平気だって!)」
ブレイディは、そのまま走り続けた。
5分後。
ブレイディは、息を切らして止まった。
「…Okay. Maybe…I need…a break…(分かった。多分…休憩…必要だ…)」
トシキとシンディは、笑っていた。
カヨは、呆れた顔をしていた。
夜。
同じジムのラウンジエリア。
ソファと小さなテーブルがある。
トシキは、一人で座って、天井を見上げた。
(今日も、母さんとシンディの言う通りにやれたな…)
(この調子ならいけるか?)
その時、エイミーが声をかけてきた。
「Toshiki, can I talk to you?(トシキ、話せる?)」
「Oh, sure.(ああ、どうぞ)」
エイミーは、隣のソファに座った。
「I watched your training today.(今日のトレーニング、見てたわ)」
「Oh…(ああ…)」
「You’re doing well. But…(よくやってる。でも…)」
「But?(でも?)」
エイミーは、真剣な顔で言った。
「You’re too obedient.(従順すぎるわ)」
「…Obedient?(従順?)」
「Yes. Kayo and Cindy tell you what to do, and you just…do it.(そう。カヨとシンディがあなたに何をするか言って、あなたはただ…やるだけ)」
「Well…their advice is effective, so…(それは…彼女たちのアドバイスが効果あるから…)」
「Or because you can’t think for yourself?(それとも、自分で考えられないから?)」
「…」
(またこういう話か…)
「That’s a bit harsh, don’t you think?(それ、ちょっとひどくないですか?)」
「Is it? You’re their puppet, Toshiki.(そう? あなた、彼女たちの操り人形よ、トシキ)」
「…Puppet?(操り人形?)」
「Yes. They pull the strings, you move.(そう。彼女たちが糸を引いて、あなたが動く)」
トシキは、言葉に詰まった。
「I…I decide to follow their plan…(俺は…彼女たちのプランに従うことを決めてる…)」
「Really? What did YOU decide today? Anything?(本当? 今日、あなたが決めたことは? 何か?)」
「…」
トシキは、何も言えなかった。
エイミーは、続けた。
「Real athletes trust their own instincts. They make their own decisions. They don’t just follow orders.(本物のアスリートは自分の直感を信じる。自分で決断する。ただ命令に従うだけじゃない)」
「I do trust them. They know what’s best for my goal…(俺は信じてるよ。彼女たちは俺の目標のために何が最適か分かってる…)」
「But where’s YOUR will in all this?(でも、この中にあなたの意志はどこにあるの?)」
「…」
エイミーは、立ち上がった。
「Think about it, Toshiki. Who are you running for? Them? Or yourself?(考えて、トシキ。誰のために走ってるの? 彼女たちのため? それとも自分のため?)」
そして、ジムを出て行った。
トシキは、一人、ソファに座っていた。
(操り人形…?)
(そんなことはない)
(母さんとシンディは、目標のための最適なトレーニングをよく分かってる)
(トレーナーのプランに従うのは当然だ)
(それは、俺が自分で決めてることだ)
(…そうだ。俺が決めてる)
でも、心のどこかで、エイミーの言葉が引っかかっていた。
翌日。
朝5時。
アラームが鳴った。
トシキは、少し迷った。
(起きるべきか…?)
(それとも、自分で決めて、もう少し寝るか…?)
でも、結局、起きた。
(やっぱり、約束したし…)
スマホに、シンディからメッセージ。
『Outside!(外で!)』
「…Yeah, coming.(ああ、今行く)」
トシキは、ランニングウェアに着替えた。
でも、心の中では、まだモヤモヤしていた。
ビーチ。
走りながら、カヨが言った。
「トシキ、今日は調子いいわね」
「…Thanks.(ありがとう)」
「でも、少し考え事してる?」
「…Huh?(え?)」
「顔に出てるわよ」
カヨは、いつも通り、鋭かった。
「…Nothing.(何でもないです)」
「そう。でも、無理しないでね」
「I won’t.(はい)」
トシキは、走り続けた。
でも、エイミーの言葉が、頭から離れなかった。
午後。
ジムで、トシキは一人でトレーニングしていた。
カヨとシンディは、買い物に行っていた。
トシキは、ベンチプレスをしていた。
その時、ブレイディが来た。
「Yo, Toshiki! Alone today?(よお、トシキ! 今日は一人か?)」
「Yeah, Kayo and Cindy went shopping.(ああ、母さんとシンディは買い物)」
「Nice! Freedom!(いいね! 自由だ!)」
ブレイディは、ニヤニヤしていた。
「Want some pizza? I know a great place nearby.(ピザ食わない? 近くにいい店知ってるんだ)」
「…Pizza?(ピザ?)」
「Yeah! Come on! You deserve a break!(ああ! ほら! 休憩する権利あるだろ!)」
トシキは、少し迷った。
(ピザ…久しぶりに食べたいな…)
(でも、母さんとシンディのプランでは…)
(いや、待て)
(エイミーが言ってた)
(自分で決めろって)
(そうだ。自分で決めるのも大切なことだ)
(俺は、自分の意志で…)
(これを選ぶ)
トシキは、言った。
「…Okay. Let’s go.(行く)」
「Really!?(マジで!?)」
「Yeah. Just for a bit.(ああ。ちょっとだけ)」
「Awesome! Let’s go!(最高! 行こうぜ!)」
二人は、ジムを出た。




