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15/22

Episode 15:観察者とケーススタディたち

登場人物


 レイチェル・ジマーマン/弁護士、お人好し、幸薄

 ハリー・ウォロフ/カヨのアパートの大家さん

 ゲイリー・ギブス/カヨのアパートの隣の住人


 ルイーズ・ゴールドバーグ/シンディの母、UCLA心理学教授

数日後。

レイチェルのオフィス。

電話が鳴った。

リリリリ…

レイチェルは、電話を取った。

「Hello, Zimmerman Law Office…(もしもし、ジマーマン法律事務所です…)」

『Hi! I need a lawyer! A Bigfoot destroyed my fence!(やあ!弁護士が必要なんだ!ビッグフットが俺のフェンスを壊したんだ!)』

「…」

レイチェルは、深呼吸した。

「I’m sorry, but I can’t take this case. Goodbye(申し訳ございませんが、この案件はお受けできません。失礼します)」

ガチャ。

電話を切った。

レイチェルは、頭を抱えた。

「…また…」

カヨに教わった。

断ること。

でも、断っても断っても、また来る。

変なクライアント。

「…もう、限界…」

その時、スマホが鳴った。

エマからだ。

「Rachel! How are you?(レイチェル!元気?)」

「…Not really(あんまり)

「Still struggling?(まだ苦しんでる?)」

「…Yeah(ええ)

「I have an idea. There’s a support group. Run by a psychologist. It might help(アイデアがあるの。サポートグループがあるのよ。心理学者が運営してる。役立つかも)」

「Support group?(サポートグループ?)」

「Yes. For people dealing with stress, difficult clients, that kind of thing. Cindy’s mom runs it(ええ。ストレスや難しいクライアントに対処してる人向け。シンディのお母さんが運営してるの)」

「Cindy’s mom?(シンディのお母さん?)」

「Yes. Louise Goldberg. She’s a psychology professor(ええ。ルイーズ・ゴールドバーグ。心理学教授よ)」

「…」

レイチェルは、少し考えた。

「I don’t know…(どうかな…)」

「Just try it once. What do you have to lose?(一回だけ試してみて。失うものはないでしょ?)」

「…Okay. I’ll try(分かった。試してみる)」

「Great! I’ll send you the details(いいわ!詳細送るわね)」


数日後。

金曜日の夜。

コミュニティセンター。

小さな会議室。

椅子が円形に並んでいる。

レイチェルは、ドアの前で少し躊躇していた。

(本当に、入っていいのかな…)

でも、意を決して、ドアを開けた。

中には、すでに数人が座っていた。

そして、一人の女性が立っていた。

50代。

スーツ姿。

メガネ。

知的な雰囲気。

「Ah, you must be Rachel. Emma told me about you. I’m Louise Goldberg(ああ、あなたがレイチェルね。エマから聞いてるわ。ルイーズ・ゴールドバーグよ)」

「Nice to meet you(はじめまして)

二人は、握手した。

ルイーズの握手は、冷たい気がした。

でも、しっかりしていた。

「Sit anywhere. We’re about to start(どこでも座って。そろそろ始めるわ)」

レイチェルは、空いている椅子に座った。

周りを見回す。

見覚えのある顔が。

「…Gary?(ゲイリー?)」

ゲイリーだった。

野球帽。

サングラス。

「Oh! Rachel!(ああ!レイチェル!)」

「What are you doing here?(何してるの?)」

「Same as you, I guess. Support(君と同じだよ。サポート)」

「…」

レイチェルは、少し不安になった。

(ゲイリーもいるの…)

その時、別の男性が入ってきた。

50代。

メガネ。

「Sorry I’m late!(遅れてすみません!)」

ハウィーだった。

「Howie?(ハウィー?)」

「Rachel! You’re here too!(レイチェル!君もいるのか!)」

「…Yeah(ええ)

ハウィーも、座った。

レイチェルは、完全に困惑していた。

(私のクライアントたちが…)

ルイーズが、立ち上がった。

「Alright, everyone. Let’s begin. Welcome to the Support Group for Individuals Dealing with Unusual Stressors(さあ、みんな。始めましょう。『異常なストレスに対処する人々のためのサポートグループ』へようこそ)」

「…」


レイチェルは、黙って聞いていた。

ルイーズは、続けた。

「This is a safe space. You can share your struggles without judgment. I’m here to facilitate(ここは安全な場所。批判されることなく、苦しみを共有できるわ。私はファシリテーターよ)」

そして、メモ帳を取り出した。

「Let’s start. Who wants to share first?(始めましょう。最初に共有したい人は?)」

ゲイリーが、手を挙げた。

「I’ll go(俺が行く)」

「Go ahead, Gary(どうぞ、ゲイリー)」

ゲイリーは、立ち上がった。

「Hi, I’m Gary. And I…I see things(やあ、ゲイリーだ。俺は…俺は見るんだ)」

「See things?(見る?)」

「Yes. Shadows. UFOs. Government agents following me(ああ。影。UFO。政府のエージェントが俺を追ってる)」

「…」

ルイーズは、メモを取っていた。

「How often?(どれくらいの頻度?)」

「Every day. Sometimes multiple times(毎日。時々、何度も)」

「And how does this affect your life?(それがあなたの生活にどう影響してる?)」

「I can’t sleep. I can’t trust anyone. I installed 12 locks on my door(眠れない。誰も信用できない。ドアに12個の鍵をつけた)」

「I see(なるほど)

ルイーズは、淡々とメモを取っている。

ゲイリーは、続けた。

「But I know I’m not crazy. The truth is out there(でも俺は狂ってない。真実はそこにある)」

「Of course(もちろん)

ルイーズは、あっさりと答えた。

そして、次の人に目を向けた。

「Next?(次は?)」

ハウィーが、手を挙げた。

「I’ll share(話すよ)」

「Go ahead, Howie(どうぞ、ハウィー)」

ハウィーは、立ち上がった。

「Hi, I’m Howie. And I…I communicate with beings from other worlds(やあ、ハウィーだ。俺は…俺は他の世界の存在と交信してる)」

「UFOs?(UFO?)」

「Yes. I do observations every week. And I feel their presence(ああ。毎週観測してる。そして彼らの存在を感じるんだ)」

「How do you feel their presence?(どうやって存在を感じるの?)」

「Vibrations. In the air. In my body. They’re trying to tell me something(振動。空気の中。体の中。彼らが何か伝えようとしてる)」

「Interesting(興味深いわね)」

ルイーズは、メモを取っている。

レイチェルは、その光景を見て、少し引いていた。

(この人…本当にサポートする気あるの…?)


その時、ルイーズがレイチェルを見た。

「Rachel, would you like to share?(レイチェル、あなたも話す?)」

「…Me?(私?)」

「Yes. This is your first time, right?(ええ。初めてでしょ?)」

「…Yes(ええ)

レイチェルは、立ち上がった。

少し緊張している。

「Hi, I’m Rachel. I’m a lawyer. And I…I attract weird clients(こんにちは、レイチェルです。弁護士です。私は…変なクライアントを引き寄せるんです)」

「Weird how?(どう変?)」

「They claim…impossible things. Ghosts. Bigfoot. Government conspiracies. And I can’t say no(彼らは…ありえないことを主張するんです。幽霊。ビッグフット。政府の陰謀。そして私は断れない)」

「Why can’t you say no?(なぜ断れないの?)」

「Because…they’re desperate. They need help. And I feel bad(だって…彼ら、必死なんです。助けが必要。そして私は可哀想に思ってしまう)」

「I see(なるほど)

ルイーズは、メモを取った。

「So you have a savior complex(つまり、あなたは救世主コンプレックスね)」

「…What?(え?)」

「You believe you need to save everyone. Even when it’s irrational. That’s a psychological pattern(みんなを救わないといけないと信じてる。不合理でも。それは心理的パターンよ)」

「…」

レイチェルは、少しショックを受けた。

ルイーズは、続けた。

「You need to establish boundaries. Emotional boundaries. Professional boundaries(境界を設定する必要があるわ。感情的境界。職業的境界)」

「But…(でも…)」

「No buts. You’re not responsible for their delusions. You’re a lawyer, not a therapist(でもじゃない。あなたは彼らの妄想に責任を負ってない。あなたは弁護士、セラピストじゃないわ)」

「…」

レイチェルは、黙った。

でも、少し納得もしていた。


セッションが終わった後。

ルイーズが、レイチェルに話しかけた。

「How do you feel?(どう感じた?)」

「…Honestly? I’m not sure if you’re helping or just…observing(正直?あなたが助けてるのか、ただ…観察してるのか分からない)」

ルイーズは、少し笑った。

「Perceptive. I am observing. But that doesn’t mean I’m not helping(鋭いわね。観察してるわ。でもそれは助けてないわけじゃない)」

「What do you mean?(どういうこと?)」

「I’m a psychologist. I study patterns. People. Their behaviors. And in doing so, I can provide insight(私は心理学者。パターンを研究するの。人々。彼らの行動。そしてそうすることで、洞察を提供できる)」

「So…you’re using us for research?(つまり…私たちを研究に使ってる?)」

「Yes. But you’re also benefiting from my analysis(ええ。でもあなたも私の分析から恩恵を受けてるわ)」

「…」

レイチェルは、何も言えなかった。

ルイーズは、続けた。

「You’re an interesting case, Rachel. Savior complex. Inability to set boundaries. Low self-worth disguised as altruism(あなたは興味深いケースよ、レイチェル。救世主コンプレックス。境界設定の不能。利他主義に偽装された低い自己評価)」

「…Wow. That’s harsh(すごい。厳しいわね)」

「But accurate?(でも正確でしょ?)」

「…Yeah(ええ)

レイチェルは、小さく笑った。

ルイーズも、微笑んだ。

「Come back next week. I’ll observe you more(来週また来て。もっと観察するわ)」

「…Okay. I will(分かった。来るわ)」


翌日。

レイチェルは、エマに電話した。

「Emma, thank you for recommending the group(エマ、グループを勧めてくれてありがとう)」

「Did it help?(役立った?)」

「…In a weird way, yes. Louise is…intense. But insightful(変な意味で、うん。ルイーズは…強烈。でも洞察力がある)」

「I know. She’s very…analytical(分かるわ。彼女、とても…分析的よね)」

「But I think I’ll keep going(でも続けると思う)」

「Really?(本当?)」

「Yeah. It’s…different. But helpful(ええ。変な感じだけど。でも役に立ちそう)」

「I’m glad(良かったわ)」

エマは、嬉しそうだった。


その夜。

ルイーズは、自宅のオフィスでメモを見返していた。


Observation Log - Support Group Session #47

(観察記録 - サポートグループ第47回セッション)

∙Gary Gibbs: Paranoid ideation. Possible schizotypal personality disorder.

(ゲイリー・ギブス:妄想的観念。統合失調型パーソナリティ障害の可能性)

∙Howie Woloff: Delusional disorder, grandiose type. UFO fixation.

(ハウィー・ウォロフ:妄想性障害、誇大型。UFO固執)

∙Rachel Zimmerman: Savior complex. Codependency traits. High empathy, low boundaries.

(レイチェル・ジマーマン:救世主コンプレックス。共依存的特性。高い共感性、低い境界設定能力)

ルイーズは、満足そうに頷いた。

「Interesting subjects(興味深い被験者たちね)」

そして、次のページに書いた。

Rachel Zimmerman - Potential long-term case study.

(レイチェル・ジマーマン - 長期ケーススタディの可能性)

Follow-up: Weekly sessions. Monitor boundary development.

(追跡調査:週次セッション。境界設定能力の発達をモニタリング)

ルイーズは、ノートパソコンを閉じた。

そして、小さく笑った。

「This will make an excellent paper(これは素晴らしい論文になるわ)」

月木曜日8時更新

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