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令嬢辞めたら王子に親友認定  作者: たぬきち25番
第2章 主人公不在でゲームの舞台へ

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4 悪役令嬢のお仕事

 





 引き継ぎが始まり、お腹が空いたと思って顔を動かさずに周りを見たら時計を見つけた。

 すでにお昼を過ぎていた。すでに説明開始から一時間以上経っているがまだ実務的な説明は始まらない。


 ここまでいかに彼女たちが大変で、努力してきたのか、自分たちは『王妃の資質がある』ということを語っていただけの時間だった。


(結局、生徒会ってどんな仕事があるのかさっぱりわからない……)

 

 私は令嬢の皆様に気付かれないように時計を再び見る。

 今日は入学式だけなので、お昼を一緒に食べようと兄と約束していたことを思い出す。


(……お兄様、待ってるかな……待ってるだろうな……これ、まだ続くのかな……)


 きっと兄はお昼を食べずに待っていてくれるだろう。

 私と約束をしていて先に食べるということはあり得ない。

 時計を見て視線を戻すと、ふとアルフレッド殿下と目が合った。アルフレッド殿下は目で私に『終わる』と言った気がした。そしてすぐにアルフレッド殿下はみんなを見渡しながら言った。


「ご説明ありがとうございます。今日はここまでにしよう」


(ありがとう、アルフレッド殿下!!)


 私は心から感謝していると、令嬢たちが「お昼を用意していますので一緒にいかがですか?」と声をかけたが、アルフレッド殿下がにっこりと笑って断った。


「大変申し訳ありませんが、他に予定が入ってますので失礼いたします」


 本当に頼りになる!!

 アルフレッド殿下さすがだ!!

 私はアルフレッド殿下を心の中で絶賛しながら席を立った。そして三人で生徒会室を出るとすぐに、ランベール殿下が声をかけてくれた。


「ジェイド。お腹空いたのだろう?」


「わかりましたか?」


 私が笑いながら言うと、ランベール殿下が楽しそうに笑いながら言った。


「ああ、そんな顔をしていた」


 ランベール殿下と笑い合っていると、アルフレッド殿下が大きく溜息をついた。


「全く内容がわからなかったな……去年の資料を探すしかなさそうだな。兄上に聞いてもいいだろうが……」


 確かに彼女たちから仕事内容は一切聞けなかったし、アルフレッド殿下やランベール殿下の質問にも的外れな答えをしていた。


(もしかして、他の人が実務的なことをしていたのかな?)


 去年まで二人の兄のルーク王太子殿下がこの学園に入学していたが、ルーク王太子殿下は公務で忙しく生徒会は2年しか務めていない。キーゾク学園は3年間だが最後の1年は自由登校になるので生徒会を辞退しても問題ないのだ。だが大抵の場合、自分よりも身分の高い人が入らない限り辞退はしない。ルーク王太子殿下だからこそ辞退できたのだ。きっと悪役令嬢の3人が入学して生徒会に入ってきたので逃げた可能性が高い。


「ルーク兄さんは忙しそうだからな……できれば手を煩わせたくはない」


 ランベール殿下も眉を寄せた。

 無言で歩いていると、アルフレッド殿下が私を見ながら言った。


「ジェイド、家まで送るか?」


 私は急いで首を振った。


「いえ、すでにお迎えは頼んでありますので」


 アルフレッド殿下だけではなく、ランベール殿下もどこか淋しそうな顔をして罪悪感を感じた。するとアルフレッド殿下が声を上げた。


「そうか……連絡もなく遅くなって悪かったな。明日からは送るから迎えの馬車は断るように伯爵に伝えてくれ」


 学園が終わった後に送ってくれる??

 有難いが、そんなに甘えていいのでろうか?


 返事に戸惑っていると、ランベール殿下が目を細めて言った。


「どうせ通り道だ。ついでだから気にするな」


 私は素直に頭を下げた。


「それじゃあ、明日からはお願いします」


「ああ」


 馬車乗り場には、王家の馬車とリンハール家の馬車だけが停まっていた。

 今日は入学式だけなので在校生は休みだ。

 それに新入生だって、入学式が終わって一時間以上経っているのだからみんなすでに家路についたのだろう。

 今、この学園に残っているのは、私たちとあの三人の令嬢くらいだが……


(あれ? 他の令嬢の馬車はないのかな? あ、彼女たちは殿下と食事をする予定だったから迎えがいないのか……)


 私はすぐに彼女たちの馬車の迎えがない理由に気付いて、アルフレッド殿下とランベール殿下に手を振った。


「それではお気をつけて」


 アルフレッド殿下とランベール殿下が馬車に乗り込みながら手を振ってくれた。


「ああ、またな!!」


「気を付けてな」


 二人を見送ってリンハール家の馬車まで歩いて扉を開けようとすると中から扉が開いた。


「おかえり、ジェイド!!」


「え? お兄様!?」


 まさか兄が乗っているとは思わずに驚いていると兄に手を取られた。


「ほら、早く乗って。待ちくたびれたよ……」


 私は兄に引き上げられながら、「ありがとうございます」と言って馬車に乗り込んだ。

 そして馬車が動き出すと、すぐに頭を下げた。


「お兄様、随分とお待たせしてしまってすみません」


 兄はいつもの優し気な様子で言った。


「いや、待ちくたびれたというのは冗談だよ。去年まで通っていた学園だからね、良くして下さった先生もいたから生徒会が終わるまで話をしていた。そこでジェイドのことを聞いたんだよ。やっぱり、ジェイドは生徒会に選ばれちゃったんだね……」


「はい……ですが、お兄様……知っていたのですね」


 なぜ兄が知っているのか少し疑問に思いながら尋ねと、兄が困ったように言った。


「知っていたというよりも予測だね。アルフレッド殿下が入学されるのなら生徒会長になるのは殿下だ。それなら、ジェイドは役員に選ばれるだろうと思っていた……」


 兄には私が生徒会に入ることはお見通しだったようだ。


「可愛い妹に忠告だよ。あまり彼女たちには深入りしないように気をつけるんだよ? ジェイドが本当は令嬢だとも知られない方がいいと思う」


 兄の顔は真剣だった。

 それに兄の言葉は、先ほど令嬢たちの話を聞いて感じたことと同じだったので『やっぱりか』と思った。


「はい……」


 私は真剣な顔で頷いたのだった。










 そして学園に入学して二週間が過ぎた。

 学園生活は特に問題もなく順調に過ぎていっている。


 生徒会室に残っていた書類のおかげで、生徒会の仕事内容は把握できたし、わからないことはアルフレッド殿下経由でルーク王太子殿下に質問もできるので今のところ混乱はない。


 そう、全然混乱はないのだが……


「アルフレッド殿下、お茶をお入れしました。ランベール殿下もどうぞ」

「アルフレッド殿下、お菓子がありますの、休憩にいたしませんか? ランベール殿下もぜひ」

「アルフレッド殿下ぁ~~こちらのお席にお座り下さいませ。ランベール殿下はこちらへ」


 悪役令嬢の皆様は、アルフレッド殿下に夢中。

 そして保険でランベール殿下とも仲を深めておこうというついで感が見え見え。

 そして私は……


「ああ、ジェイド様。この書類お願いしますわ」

「ジェイド様。こちらもお願いしますわ」

「ジェイド様。ついでに前回提出した書類も受け取って下さい」


 悪役令嬢の皆さんは、アルフレッド殿下とランベール殿下とはお茶を楽しみ、私に仕事を押し付ける傾向がある。

 ちなみに彼女たちが私に届けろという書類は全てアルフレッド殿下とランベール殿下と私が作った書類だ。

 自分たちが作った書類ではない。


 別にここに居ても居心地がすこぶる悪いので、書類を届けるのは全く問題ないのだが……


(リアルシンデレラ感が半端ない!!)


 仕事は私たちに押し付けて、令嬢はアルフレッド殿下とランベール殿下に夢中。

 むしろ二人に関係ないことを話しかけて、中断させているので仕事の邪魔である。

 アルフレッド殿下も、ランベール殿下も彼女たちが身分の高い家の令嬢なのであまり強くは言えないのだ。


「いってきます」


 私が執務机から立ち上がり書類を手にして扉に向かうとランベール殿下が急いで立ち上がった。


「ジェイド!! 俺も手伝う。一人じゃ大変だろう?」


(ランベール殿下……いい加減無理だって気づいて……)


 案の定ランベール殿下の動きは、悪役令嬢の一人に止められた。


「あら、ジェイド様は優秀な方ですもの。お一人でも問題ありませんわよね?」


 目を細めた令嬢が怖すぎて思わず大きな声を上げた。


「はい!! 問題ありません。失礼します!」


 そして私は競歩レベルの速さで生徒会室を出た。


 こんな感じで……


 現在生徒会の仕事は、私とアルフレッド殿下とランベール殿下が中心になって行い……

 悪役令嬢の皆様はアルフレッド殿下とランベール殿下との仲を深めることを仕事にしていた。


 確か、乙女ゲームでブランカが生徒会に入ったのは、2ヵ月が過ぎた頃で、生徒会に入った時、あの悪役令嬢の3人はいなかった。


(ん~~どういうことかな?)


 もしかしたら、乙女ゲームでアルフレッド殿下のhappyエンドを見ていれば何かわかったのかもしれないが、生憎と私はBADエンドしか見ていないので、アルフレッド殿下ルートの真相はわからない。



「今はとにかく仕事だよね!!」


 私はとにかく仕事をすることにしたのだった。



 

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