表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
写ガール 〜神谷結衣の純愛恋写  作者: 瀬賀 王詞
PR
22/32

第4章 2 昇平を追って

 ひこうき雲が二筋、淡い青空に浮かんでいる。

 結衣の父親は、空港のロビーから飛び立っていく飛行機を見る度にためいきをついた。

「そんな顔をしないで、父さん……」

 母親は、荷物をカウンターに預けている結衣を見ながら言った。

「三ヶ月なんてあっという間よ……」

「あっ……」父親は言った。

 母親は首を傾げる。

「母さんの嘘つき……。あっという間じゃ、ないじゃない」

 母親は笑って椅子に腰掛けた。

「それにだよ」父親は母親の横に座る。「わたしの意見もさ、聞いてほしかったね。勝手なことをしてくれちゃってさ……」

「父さん、反対するでしょう? 結衣がアメリカに行くの……」

「もちのろんですよ」

「だからですよ。結衣だって、父さんが反対すれば、決心が揺らぐわ」

「だからって、コネなんかつかうのは、どうかと思いますけどね……」

「コネっていうほどじゃあ……。理事長の奥様と懇意だった、それだけのことじゃないですか」

「母さんらしくない……」

「あの子のためですよ」

 結衣が荷物を預け終え、両親を振り返って笑った。

「それに、父さんとまた新婚気分を味わえるから……」

「母さん……」

 父親は母親に抱きつこうとしたが、母親は立ち上がって結衣を迎えた。

「荷物、預けてきた……」

「大体の物は、後から送るから……」

 母親は結衣を抱きしめた。母子を見て、父親はまた涙ぐむ。

「結衣!」

 振り返ると佐和子と栞が駆け寄ってきた。と、同時に、水橋怜奈の姿。

「びっくりしたよう、もう……」佐和子が言った。

「なんで、こんな急な展開なわけ?」栞は不満げに言った。

 水橋とは一瞥を投げ合った。水橋はカウンターに向かう。

「ごめんね……」結衣は両手を合わせた。

「女子会でさあ、盛大に送別会したのにい……」

「また、夏休みには帰るしさ。ちょっと長めの旅行に行くだけだから」

「急いで行くことないじゃない」

「もう、そんなに早く内村に会いたいわけ?」

「うん……」

「うんって、恥じらいってものがないのかねえ、近頃の女子は……」

「二人とも、見送りに来てくれたの? ありがとう……」

 父親と母親は礼を述べた。

 メンフィス空港行きの搭乗を促すアナウンスが流れた。

「じゃ、行くね……」結衣は小さく手を振った。

「結衣……」

 佐和子と栞は急に泣き出した。行きかけた結衣だったが、二人に駆け寄ると、三人で抱き合って泣いた。父親は、三人を遠くから見ている水橋の姿に気づいた。

「さあ、結衣。もう行きなさい」父親は結衣に言った。「新しい友達が、向こうで待ってる……」

「お父さん……」

「わかってる。でも、向こうでは、助け合っていかないと、いけないんじゃないか?」

 結衣は、水橋を見た。両親と話をしている。理事長と校長が現れ、結衣にも声をかけた。「神谷さん、よろしく頼むよ……」理事長はまた大きな手で握手をした。

「みなさん、行ってきます」結衣は大きな声で言った。水橋は小さな声で。

 結衣と水橋は、荷物検査のゲートをくぐった。搭乗口に向かう前にもう一回振り返った。父親が大きな声で結衣の名前を呼んだ。結衣はあいさつ代わりにカメラのシャッターを押して、みんなの顔をカメラに収めた。そして手を振った。

「ねえ、神谷さん、座席、何番?」水橋が訊いた。

 結衣はチケットを見た。

「十六のA」

「なんだ……わたし、通路側か……」

(ん?)と結衣は思った。(もしかして、隣?)

 『旅は道連れ世は情け』とはよくいったもので、外国人が多い中で、同年代の同姓が隣にいるのはやはり安心できる。たとえそれが恋敵であろうとも。

 水橋は意外にもフレンドリーで、よく結衣に話しかけた。結衣にぶたれたことなど記憶にないくらいに。結衣は、多少気抜けすると同時にホッとした。父親の言うとおり、仲良くしたほうがいい。昇平のことを抜きにすれば……。

 結衣は、寝入った水橋の横顔を見ながら考えた。

 恋敵とは、同じ人を好きだという点においては、同じ価値観を持っているわけで、いわば仲間だ。ただ占有権の問題が出てくると、敵対せざるを得なくなる。昇平を独占しようという気持ちは、どうしても消し去ることができない。これが、恋とか、愛というものだと、結衣は漠然と解釈し、理由付けにした。

(あーあ。今度はアメリカで恋のバトルか……)

 結衣は、すやすやと眠る水橋の寝顔を見て、ため息をついた。少しずれ落ちた毛布をかけ直してあげると、結衣も目を閉じた。

 飛行機は静かなジェット音を響かせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ