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第8話 リヴァイアサンの大祝勝会と、「冗談じゃねぇ、誰が税金と家賃のある地球に帰るか!」

のちに王国の歴史書に『四百枚のピッツァ・ア・ポルタフォリオの奇跡』と記されることになるその戦いのあと、王都ソラリアは三日三晩にわたる大祝勝会に沸き返っていた。


一人の戦死者も出さずに一万体の魔物を殲滅しただけでなく、討伐された全長百二十メートルの『大地の装甲リヴァイアサン』の死骸が、何百台もの荷車で俺のピッツェリアの『無限業務用冷蔵庫』へと運び込まれたのだ。

俺はその極上の肉と骨と皮を使って、王都の市民や兵士たちに何千皿ものパッパルデッレとマルゲリータとモンタナリーナを振る舞い、街中がトマトとチーズとニンニクの香りに包まれた。


そして三日目の夜。

営業を終え、『落ちゆく窯』の余熱で明日のパーネ・カフォーネを焼きながら、俺がホールの中央テーブルでレオ、ゴラン、エレナ、ヴィクトルの四人と一緒に、自分用の『ニンニクとオレガノたっぷりのマリナーラ』をつついていた時だった。


店のガラス扉が静かに開き、すっかり若返って血色の良くなったアルデバラン国王陛下が、侍従長を伴って店内へと入ってきた。

侍従長が恭しく捧げ持つ赤いビロードのクッションの上には、白金と次元結晶で装飾された『神代の古文書(スクロール)』が乗せられていた。


レオ、ゴラン、エレナ、ヴィクトルの四人が居住まいを正して立ち上がり、大魔導士ヴィクトルが新しい眼鏡の奥の目を潤ませながら、厳粛な声で口を開いた。


「アンジェロ師匠。……あなたは奈落の底で我々四人の命を救い、捨てられていた魔物の部位に宿る真の力を解き明かし、陛下の呪いを癒やし、そして砦の戦いで四百人の兵士とこの国そのものを救ってくださいました」


アルデバラン国王が一歩前に進み出て、クッションの上の古文書を示した。


「アンジェロ殿、貴殿が座標のエラーによって故郷の世界からこの世界へ無理やり引き剥がされてしまったことは聞いておる。ゆえに余は、王家の財宝の半分を投じ、ヴィクトルと王立魔導院の全魔導士を動員して、ついにこの神代の遺物『異界帰還のスクロール』の解読を完了させた!」


聖女エレナがハンカチで目元の涙を拭いながら微笑んだ。

「これを使えば、今すぐ安定してあなたの故郷――『地球』への扉を開くことができます! 寂しくなりますが、この国を救ってくださったあなたへの最高の恩返しとして、どうか愛する故郷の世界へお帰りください!」


店内に、感動的な沈黙が落ちた。

俺は手に持っていたマリナーラの最後の一切れをゆっくりと皿に置いた。

キラキラと輝く帰還のスクロールを見る。国王を見る。そして涙ぐむヴィクトル、エレナ、レオ、ゴランの顔を見た。


俺は立ち上がり、両手を腰に当てると、頭のおかしい連中を見るような目で全員を睨みつけて怒鳴った。


「――おい、お前ら冗談はよせ!! 一体全体、俺がお前らにどんな酷いことをしたって言うんだ!? なんで俺をこの店から追い出そうとするんだよ!?」


ヴィクトルが目を白黒させて固まった。「お、追い出す!? いえ師匠、これは罰ではなく、あなたの愛する地球へ帰して差し上げるための最高の報酬で――」


「最高の報酬なわけがあるか、この石頭教授がァッ!!」


俺はナポリ人らしく両手を大きく振り回して吠えた。「いいか、お前らは『地球』で料理人が自分の店を持つのがどれだけ地獄かこれっぽっちも分かってねぇ! 向こうの世界じゃな、俺は毎日十四時間も他人の厨房に閉じ込められて怒鳴り声を聞きながら働いて、同僚どもがまだ使える食材をゴミ箱に捨てるのを歯を食いしばって見てたんだ! なんで俺が地球で自分のピッツェリアを持てなかったか教えてやろうか!?」


俺は指を一本ずつ折りながら、国王の目の前でまくし立てた。


「地球で小さな店を一つ開こうと思ったらな、まず強欲な大家に毎月何十万もの『家賃』を払わなきゃならねぇ! 業務用冷蔵庫とミキサーを回すだけで毎月目が飛び出るような『電気代とガス代』が請求され、卸業者は毎週のように小麦粉とチーズとオイルの値段を釣り上げ、保健所や役所の面倒な書類に追われ、挙げ句の果てにはマルゲリータを一枚売る前から稼ぎの半分以上を『税金』として国にむしり取られるんだぞ!!」


俺は両手を広げ、カラーラ産の大理石カウンター、スパイラルミキサー、無限業務用冷蔵庫、そして485℃でパチパチと幸せそうに燃える銅張りの薪窯を指差した。


「それに比べてここはどうだ!? やっと手に入れた俺だけの夢の城だ! 家賃はゼロ、ローンもゼロ、電気代も水道代もゼロ、壁は魔物が体当たりしても傷つかない絶対無敵で、冷蔵庫には毎日タダで世界最高のサン・マルツァーノと24ヶ月熟成パルミジャーノと水牛モッツァレラが無限に湧いて出る! しかも国王陛下が『税金は永久に免除する』って約束してくれたばっかりじゃねぇか! それなのに、お礼と称して俺をまた消費税と家賃のある地球へ送り返すだと!? ふざけるな!!」


俺は木べら(パーラ)を引っ掴み、薪窯の鉄扉をガッと開けると、侍従長が持っている『異界帰還のスクロール』を指差して言い放った。


「今すぐその高そうな紙切れを俺の薪窯に放り込んで、モンタナリーナを揚げるための火種にしちまえ! これ以上俺に『帰れ』なんて言ってみろ、全員明日から乾パンと水だけのダイエットメニューにしてやるぞ! 俺は大砲で撃たれようが、このピッツェリアから一歩も動く気はねぇからな!!」


三秒間、アルデバラン国王も、侍従長も、そして王国最強の四人の英雄たちも、口をあんぐりと開けたまま固まっていた。

そして次の瞬間――エレナ、レオ、ゴラン、さらには大魔導士ヴィクトルの顔に、太陽が弾けたような満面の笑顔が広がった。


「き、聞きましたか陛下!! アンジェロ師匠は、永遠に俺たちのそばにいてくださるそうです!!」


巨漢のゴランが歓喜のあまりレオを軽々と抱き上げて振り回し、大魔導士ヴィクトルは本当にクッションの上から国宝級の『異界帰還のスクロール』をひったくると、迷いなくビリビリに破り捨てて叫んだ。


「家賃、光熱費、税金、食材原価率……完璧にして反論の余地なき経済学的結論です、アンジェロ師匠! この世界からナポリ風ラグーとピッツァを失わずに済みましたぞ!」


アルデバラン国王は腹を抱えて豪快に笑い飛ばすと、王のマントを脱いで侍従長に渡し、レオたちの隣の席にドカッと腰を下ろした。


「気に入ったぞ、アンジェロ殿! よし、今夜はどこへも旅立たない祝いだ! まずはあの豚皮(コティカ)とスペアリブのラグーのパッパルデッレを二鍋と、マルゲリータを四枚、それに落花生油で揚げたモンタナリーナを山盛りで頼む!」


「あいよ、毎度あり!」


俺は白い大理石のカウンターへと向き直り、熟成庫から出した最高の生地玉を手に取って、485℃の薪窯の炎に向かってニヤリと笑った。


ガラス扉の向こう側には、今夜も王都中の冒険者や市民、貴族たちが長い行列を作って順番を待っている。

彼らが守らなければならないルールは、この世界でもたった二つだけだ。


――この厨房では食材を1グラムたりとも無駄にしないこと。そして、ピッツァの縁(コルニチョーネ)を皿に残した奴は、一週間皿洗いをすること!


【全8話・完】

全8話、最後までお読みいただき本当にありがとうございます!


レベルのない異世界の奈落で485℃の薪窯を回し、魔物の捨てられる部位まで極上のナポリ料理に変えて国を救ったアンジェロの物語(「誰が家賃と税金のある地球に帰るか!」)、いかがでしたでしょうか?


正直なところ、こうした本格的なナポリピッツァや「食材を一切捨てない」異世界料理の物語をこちらで気に入っていただけるか分からなかったため、まずはこの全8話で完結した物語として公開いたしました。

(実はまだ、勇者パーティが奈落の底から回収してピッツェリアに届けてくれた「祖父ちゃんの秘蔵エクストラバージン・オリーブオイル」を魔王に盗まれる、という特別編のエピソードも残していたりします……!)


もし少しでも「ピッツァやパスタ、ラグーでお腹が空いた!」「最後の地球への帰還拒否で笑った!」と楽しんでいただけていましたら、今後の執筆の大きな励みになります!


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