第6話 王宮料理対決!パサパサの高級ヒレ肉 VS 廃棄豚皮(コティカ)とスペアリブの「ナポリ風ラグーのパッパルデッレ」
翌朝、錬金術師ギルド長のマラコールと筆頭宮廷料理長のガスパールは、本当に国王を引き連れてやってきた。
だが、彼らは人生最大のミスを犯していた。裏でこっそり衛兵を使って俺を捕らえるのではなく、自分たちの権威を見せつけようと、王都の一万人の市民と『白銀の暁』が見守る王宮大闘技場で、公開の『王宮料理審判』を開いたのだ。
貴賓席の中央には、白髪を蓄えた老王・アルデバラン陛下が座っていた。かつては剛勇で知られた名君だが、長年の戦争で受けた呪いと魔力回路の詰まりによって痩せ細り、顔色も優れない。
その目の前のステージに、巨大な滑車で吊るされて降りてきたのは、北の国境で討伐されたばかりのAランク魔物――重さ二トンを超える『霊峰の皇帝竜猪』の丸ごとの死骸だった。
「審判のルールは単純明快だ!」
マラコールが拡声魔法のマイクを握り、勝ち誇った笑みを浮かべて宣言した。「そこの【料理人】アンジェロは、我々が魔物の90%を無駄に捨てていると主張し、自分の下品な料理が宮廷料理や我々のポーションより優れていると豪語した! よって本日、ガスパール料理長とこの男の両名には、この『皇帝竜猪』を使って陛下に一皿を献上してもらう! もしこの男の料理が劣っていたり毒を含んでいたりすれば、即刻営業停止のうえ国外追放とする!」
まずステージの中央に進み出たのは、十人の助手を従えたガスパール料理長だった。
彼はハンカチで鼻を押さえながら皇帝竜猪の背中を切らせ、全体重のわずか5%にも満たない「中心部の脂のないヒレ肉」だけを切り出させた。しかも、臭みを消すためと称して、そのヒレ肉を蒸留水と錬金アルコールで三回もジャブジャブと洗わせたのだ。
そしてガスパールは、残りの95%の部位――骨と骨の間に旨味たっぷりの肉がついた『巨大なスペアリブ(あばら骨)』、分厚いコラーゲンの塊である『豚皮』、肩ロース、首肉、そして太いげんこつ骨を指差して言い放った。
「その汚らわしい脂身と皮と骨は、すべてステージ脇の焼却用ゴミ箱へ投げ捨てろ! 高貴なる宮廷料理人が使うのは、純粋な中心のヒレ肉だけだ!」
ガスパールはアルコールで洗って旨味も脂も抜け落ちたヒレ肉を、高火力の魔導グリルで焦げるほど焼き上げ、高価なだけの甘い香辛料ソースを大量にかけて二十分で陛下の前へと差し出した。
アルデバラン国王はナイフを入れたが、肉がパサパサに縮んで硬くなっており、切るのにも一苦労だった。一口噛み締めた老王は、疲れたように眉をひそめてすぐに水で流し込んだ。
「……食べられなくはない、ガスパールよ」と国王は力ない声で言った。「だが、香辛料の匂いがきついだけで、肉の味も生命力も全く感じられぬな」
「当然でございます、陛下!」とガスパールは得意げに頭を下げた。「魔物の肉自体には、人間が吸収できる魔力など最初からございません! 魔力の補給には、マラコール殿の錬金丸薬を合わせてお飲みいただくのが王国の常識でございますから!」
そして、俺の番が来た。
貴族たちがクスクスと笑う中、俺は「高級ヒレ肉」が置かれた調理台には見向きもせず、ガスパールの助手たちが今まさに『スペアリブ(あばら骨)』『分厚い皮』『肩の筋肉』『髄液の詰まった太い骨』を投げ捨てたばかりの「廃棄用ゴミ箱」の前へと歩み寄った。
「おい見ろよ! あいつ、本当にゴミ箱から骨と皮を拾い上げてやがるぞ!」とガスパールが観衆に向かって腹を抱えて笑った。「国王陛下に、犬のエサを食わせるつもりか!」
「犬のエサはお前のその頭の上に乗ってるシャンデリアみたいな帽子の方だ、ド素人め」
俺は冷たく言い返すと、自分の背後にピッツェリアの厨房設備と、業務用スパイラルミキサー、そして485℃の薪窯を出現させた。「いいか、全員黙って見てろ。今から見せてやるのは、ナポリの日曜日の食卓の王様――お前らが捨てた豚皮とスペアリブで作る『本物のナポリ風ラグーと手打ちパッパルデッレ』だ!」
実は前日の夜のうちに、俺は『無限業務用冷蔵庫』の中でヒュドラと奈落猪の同じ部位を使って完璧な下ごしらえを済ませておいた。そして今、俺のスキル【ゼロ・ウェイストの錬金術】と薪窯の熱が共鳴し、何時間もの煮込み工程をステージ上で一気に凝縮して再現する!
俺はまず、誰もが「鉄板のように硬くて食えない」と捨てた『分厚い皮』を手に取った。
薪窯の炎で表面の剛毛をサッと炙り、包丁の刃を立てて綺麗にこそげ落とすと、真っ白で滑らかな皮が現れる。それを湧き水で五分間下茹でして表面の余計な脂と瘴気だけを抜き去ると、皮は驚くほどしっとりと柔らかくなった。
俺はその広げた皮の内側に、細かく刻んだ『新鮮なニンニク』、たっぷりの『バジルと山のオレガノ』、海塩、黒胡椒、そして削りたての『24ヶ月熟成パルミジャーノ・レッジャーノ』を山盛りに敷き詰め、端からクルクルと太巻き寿司のようにきつく巻き上げてタコ糸で縛った!
ナポリの伝統料理、豚皮のロール巻き『ブラチョーラ・ディ・コティカ』だ!
続いて、巨大なテラコッタの鍋にエクストラバージン・オリーブオイルと精製ラードを熱し、骨付きの『スペアリブ(スプンタトゥーレ)』、肩の塊肉、叩き割った骨髄、そして今巻いたばかりの『皮のロール巻き(コティカ)』を並べて、表面に香ばしい焦げ目がつくまでじっくりと焼きつけた。
闘技場全体に、肉と脂が焼ける暴力的なまでに芳醇な香りが広がり、近衛兵たちが一斉に唾を飲み込む。
そこへ手で潰した大量のサン・マルツァーノ種トマトとパルミジャーノの皮を加え、俺は鍋を薪窯の奥へと滑り込ませた。
【ゼロ・ウェイストの錬金術】が発動した窯の中で、スペアリブの骨の髄と分厚い皮のコラーゲンがトマトソースの中へと溶け出し、ソースはルビー色から深く艶やかな「マホガニー色(暗褐色)」へと変化していく!
その間に、俺は『業務用スパイラルミキサー』を回して石臼挽き小麦粉を力強く捏ね上げ、大理石の上で長い麺棒を使って生地を薄く、しかし表面がザラつくように伸ばした。それを畳んで包丁で幅2センチの幅広いリボン状に切り分ける――濃厚な肉ソースを受け止めるための最強のパスタ『パッパルデッレ』だ!
沸騰した湯でパッパルデッレを二分間茹で上げ、湯を切って直接テラコッタの鍋の『ナポリ風ラグー』の中へと投入する!
火を止め、生のエクストラバージン・オリーブオイルと、雪のような『24ヶ月熟成パルミジャーノ・レッジャーノ』を大量に加えて鍋ごと煽ると、ゼラチン質たっぷりの濃厚なラグーが幅広のパッパルデッレに隙間なく絡みついた!
俺は国王陛下の前のテーブルに、深皿を置いた。
中央には深紅のラグーを纏った『パッパルデッレ』の山。その脇には、骨から肉が今にも滑り落ちそうなほどトロトロに煮込まれた『魔物のスペアリブ』が二本、そして輪切りにした『24ヶ月熟成パルミジャーノ詰めの豚皮ロール(コティカ)』と、焼きたての『パーネ・カフォーネ』が添えられている。
「アルデバラン陛下」と俺は帽子を取って一礼した。「そこの宮廷料理長がさっきゴミ箱に捨てた『皮とあばら骨とスジ肉』を100%使った、ナポリの日曜日のラグーです。熱いうちにどうぞ」
老王アルデバランは、目の前の皿から立ち昇る、これまで嗅いだこともないほど深く、温かく、慈愛に満ちた香りに目を見張った。
陛下はフォークを取り、パッパルデッレを二本巻き取ると、骨からホロリと剥がれたスペアリブの肉と、輪切りにされた豚皮を一緒に刺して口へと運んだ。
国王の歯がパッパルデッレと豚皮を噛み締めた瞬間――一万人の観衆が息を呑む音が聞こえた。
「鉄の盾のように硬い」と信じられていた魔物の皮は、トマトと骨髄の中でじっくり煮込まれたことで、舌の上で熱いゼラチンのクリームのようにとろりと溶け、中からニンニクとバジル、そして24ヶ月熟成パルミジャーノの爆発的な旨味の奔流を解き放ったのだ!
スペアリブの肉は噛む必要すらなく繊維がほどけ、ザラついた幅広のパッパルデッレがその全ての旨味を余すところなく口の中へと運んでくる!
アルデバラン陛下は目を閉じた。
その深い皺が刻まれた頬を、熱い涙が二筋伝い落ちた。
次の瞬間、老王は王の威厳も忘れて夢中でフォークを動かし、パッパルデッレとスペアリブとコティカをあっという間に平らげると、最後は自分の手で『パーネ・カフォーネ』をちぎり、皿に残ったラグーを鏡のようにピカピカになるまで拭って食べ尽くしたのだ!
そして――奇跡が起きた。
【ユニークスキル発動:『ゼロ・ウェイストの錬金術(出力300%)』!】
天を突き抜けるような黄金の光柱が玉座を包み込んだ。
スペアリブの骨髄と豚皮の純粋なコラーゲンに宿っていた極上の魔力が、老王の体内に巣食っていた十年来の呪いと魔力回路の詰まりを一瞬にして洗い流したのだ!
曲がっていたアルデバラン陛下の背中が「バキッ!」と力強い音を立てて真っ直ぐに伸び、白髪に艶が戻り、老王は十年若返ったかのような覇気を放ちながら、自らの足で立ち上がって腰の王剣を抜き放った!
「おお……おおおっ! 十年間、いかなる錬金薬を使っても消えなかった我が胸の呪いと痛みが、跡形もなく消え去ったぞ!!」
アルデバラン陛下の雷鳴のような声が闘技場全体を揺らし、そのまま青ざめて震えるガスパールとマラコールの二人を射抜いた。
「ガスパール! マラコール! 貴様ら、これほどまでの生命の恵みが宿る部位を『ゴミ』と偽って焼却させ、民と冒険者に高価なだけの毒薬を売りつけて私腹を肥やしていたのか!! 衛兵! この二人の称号と全財産を今この場で没収し、今後二十年間、北の国境砦の馬小屋掃除係として強制労働に処せ!」
泣き叫ぶ二人が引きずり出され、一万人の市民と冒険者から地響きのような大歓声が巻き起こる中、アルデバラン国王はステージへ降りてきて、小麦粉のついた俺の両手を力強く握りしめた。
「アンジェロ殿! 本日より貴殿の『ナポリピッツェリア』を王国の最高国宝と定め、未来永劫、あらゆる税金とギルドの上納金を完全免除することをここに誓おう!」




