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第4話 戦闘携行食「パヌオッツォ」と、食材にしか見えない迷宮ボス

「お前らと一緒に地上へ出て、久しぶりにお天道様の下を歩くっていうのは悪くない話だな」


俺はエプロンで手を拭きながらニヤリと笑った。「三週間もこんな暗い穴蔵でトカゲやサソリばっかり眺めてたんだ、王都の市場にどんな食材が並んでいるのか興味がある。……ただ、一つ問題があるよな? ここからの帰還階段は崩落して塞がってるんじゃなかったか?」


「はい、ボス部屋を迂回するための脇道が崩落で塞がってしまったんです」


タンクのゴランが、骨密度が三倍になったおかげで木のお盆みたいに軽々と片手で大盾を持ち上げながら答えた。「ここから地上への転移陣がある部屋へ行くには、この奈落層の主――『黒曜石の五頭ヒュドラ』が眠る氷結の玉座を正面突破するしかありません!」


大魔導士ヴィクトルも眼鏡を押し上げて頷いた。

「昨日までの我々なら、補給なしでヒュドラの領域に踏み込めば確実に全滅していたでしょう。奴が吐き出す絶対零度の瘴気は、戦っているだけで人間の体温とスタミナを奪い、三十分もすれば剣を振るう腕が凍りつくからです。……ですが、アンジェロ師匠の骨髄ラグーによって永久進化を遂げた今の我々なら勝てます! ただし、奴の巨大な生命力を削り切るには、氷点下の戦場で最低でも二時間の連続戦闘が必要になりますが……」


「氷点下の戦場で二時間の連続戦闘だと?」


俺は腕を組み、呆れたように首を振った。「おいおい、お前らまさか、そんな極寒の戦場で二時間も腹を空かせたまま戦う気か? かといって、戦闘の途中でテーブルクロスを広げて皿でピッツァを食うわけにもいかねぇだろ。……よし、だったら戦場で走り回りながら片手で食える、ナポリ伝統の『最強の戦闘携行食』を作ってやる!」


俺は再び大理石のカウンターへと向かった。

取り出したのは、熟成庫で出番を待っていた300グラムの大きめの生地玉四つと、鍋に残っていた『魔物肉と骨髄のホロホロ煮込み』、水牛のモッツァレラ、そして24ヶ月熟成パルミジャーノだ。


俺は生地玉を丸いピッツァではなく、長さ三十センチほどの細長い楕円形(バゲットのような形)に伸ばし、まずは何も乗せずに300℃に落とした薪窯で「八分焼き」のパンとして焼き上げた。

外側の皮がパリッと固まり、中がまだふんわりと白い状態で一度窯から引き出すと、パン切り包丁で横から腹をパカッと二つに切り開く。


その熱々の断面の中に、骨髄のゼラチンでとろとろになった魔物肉のラグー、分厚く切った水牛のモッツァレラ、削りたての24ヶ月熟成パルミジャーノ、香り高い山のオレガノとバジルを、パンが閉まらなくなるほど豪快に挟み込んだ!

そして――ここからが最大の秘訣だ。

具材をたっぷり挟んで閉じたその巨大サンドイッチを、俺は『もう一度、高温の薪窯の中へと戻して二百秒間焼き上げた』のだ!


二度目の窯焼きによって、外側の皮はビスケットのように驚異的なカリカリ感(クロッカンテ)を生み出し、内側ではモッツァレラとパルミジャーノが完全に溶けて魔物肉の熱い肉汁と一体化し、パンの柔らかい中身に染み込んでいく!

ピッツァ生地で作るナポリ伝統の究極のホットサンド――『パヌオッツォ(Panuozzo)』の完成だ!


さらに俺は、作業台に残った最後の小さな切れ端の生地も一切捨てなかった。

切れ端の生地に、先ほど抽出したばかりの装甲猪の黄金ラードとオリーブオイル、黒胡椒と砕いたパルミジャーノを練り込み、指先で輪っか状にねじって窯の余熱でカリカリに焼き上げた伝統のリング菓子『タラッリ(Taralli)』を四袋作った。


俺が焼き上がったばかりの熱々の『戦闘用パヌオッツォ』を四つ、茶色い包み紙で半分だけ巻いて手渡した瞬間、俺のステータス画面が再び金色に輝いた。


【戦術的携行料理の創造を確認:『窯焼きパヌオッツォ』および『端材生地のタラッリ』】

【新規ユニークスキル獲得:『ピッツァイオーロの保温包み紙』】

効果:アンジェロが紙に包んで渡した料理は、冒険者の鞄の中や極寒の戦場にあっても、窯から出た瞬間の【85℃の熱々状態】【皮のパリパリ感】【チーズの伸び】を48時間完全に維持し、片手で一切手を汚さずに食べることができる!


「ほら、こいつを各自のポーチに入れておけ!」


俺は四人にパヌオッツォとタラッリの袋を渡した。「これなら左手で盾や杖を持ったまま、右手で包み紙ごと掴んでかぶりつける。しかも俺の新しいスキルのおかげで、氷点下の吹雪の中でいつ取り出しても、今この瞬間の焼きたてアツアツのままだ!」


タンクのゴランが包み紙の上から伝わる熱気と匂いを嗅ぎ、感極まって吠えた。「アンジェロ師匠……あんたは料理人じゃねぇ、戦場の神様だ!!」


準備を終えた俺たちは、店の外へと出た。

俺が指をパチンと鳴らして【伝統のナポリピッツェリア】を収納すると、店舗は煙のように俺の固有空間へと消え去り、『無限業務用冷蔵庫』の中の食材もそのまま安全に保管された。


氷に覆われた黒い岩の回廊を歩くこと二十分。

俺たちの目の前に、巨大な氷柱が垂れ下がる『灰氷の玉座の間』の扉が現れた。

扉を蹴り開けると、凍りついた地下湖の真ん中に、奈落層の絶対王者――全長三十メートル、黒曜石の鱗と五つの巨大な首を持つ『黒曜石の五頭ヒュドラ』が鎮座していた。


――グオオオオオオオオッ!!


五つの首が一斉に咆哮し、周囲の空気をマイナス三十度まで一気に引き下げる『絶対零度の猛吹雪』と氷の槍の豪雨を俺たちに向かって吐き出した。


俺は入り口の安全な岩の上に腰を下ろし、腕を組んで見物することにした。

なぜなら、ヴィクトルが「二時間の死闘になる」と予測していたそのボス戦は、開始十秒で『ただの公開処刑』へと変わったからだ。


タンクのゴランが一歩前に出て、氷の上に大盾を突き立てた。

パッシブスキル『【金剛不壊の肉体】』が発動し、ヒュドラの五つの首が放った氷の槍の嵐が、ゴランの盾に当たって小枝のように粉々に砕け散った。ゴランは1ミリたりとも後ろへ下がらない!


それどころか、ゴランは左手でヒュドラの猛攻を受け止めながら、右手で懐から『パヌオッツォ』を取り出し、マイナス三十度の吹雪の中で大きく口を開けてかぶりついたのだ!


――バリィッ、ジュワァァァッ!!


ボス部屋中に、焼きたてのパンの皮が弾ける音と、50センチ以上も伸びる熱々の水牛モッツァレラと骨髄ラグーの湯気が広がった!


「うおおおおおっ!! 本当にまだアツアツで皮がパリパリだァッ!! 腹の底から火が噴き出してくるぜ、ちっとも寒くねぇ!! かかってこいデカトカゲェッ!!」


ゴランが片手でパヌオッツォを頬張りながら大盾で体当たりを繰り出すと、三十メートルのヒュドラの巨体が衝撃で後ろへ吹き飛んだ!

その後方では、大魔導士ヴィクトルが片手で『タラッリ』をポリポリと優雅にかじりながら、倍増した魔力で神話級の雷撃と業火の魔法を連発し、聖女エレナは鼻歌交じりに黄金の結界を張っている。


だが、何より異常だったのは――四人の英雄たちがボスを見る「目」だった。

そこには、国家災厄級の怪物を前にした恐怖など微塵もなかった。あるのは、精肉店のショーケースを覗き込む主婦のような『ギラギラした食欲の目』だけだった!


「レオ! 頼むから雷撃や斬撃で奴の『五本の首の肉』と『腹のバラ肉』を焦がすなよ!」


ヴィクトルがタラッリを飲み込みながら必死に叫んだ。「アンジェロ師匠がさっき、ヒュドラの首肉と腹肉があれば、薪窯でローストポーク(ポルケッタ)と極上のラグーが作れるとおっしゃっていたんだ! 肉に傷をつけたら私が許さんぞ!」


「分かってるっての、教授! 骨の関節だけを狙って綺麗に解体してやるよ!」


剣聖レオが氷の上を蹴って空高く跳躍し、白銀の大剣に進化したばかりのスキル『【深淵断ちの聖剣】』の光を宿した。


「行くぞ――極上食材(ヒュドラ)ァッ!!」


――ズバァァァァァンッ!!


白銀の閃光が一閃し、まるで熟練の精肉職人が包丁を入れたかのように、可食部の肉を1ミリも傷つけることなくヒュドラの急所である魔力核の継ぎ目だけを正確に断ち切った!

奈落層の絶対王者『黒曜石の五頭ヒュドラ』は、わずか五分足らずで氷の湖の上にドォンと倒れ伏し、動かなくなった。


部屋の奥で地上へと続く巨大な「帰還の転移陣」が青白く輝き始める中、レオ、ゴラン、エレナ、ヴィクトルの四人は財宝の宝箱には目もくれず、ヒュドラの巨大な死骸へと駆け寄った。


「よし、アンジェロ師匠の『無限業務用冷蔵庫』に丸ごと運び込むぞ! 血抜きを完璧にして、内臓も骨も一本残らず持ち帰るんだ!」


四人が嬉々として三十メートルのヒュドラを担ぎ上げるのを見て、俺は岩の上から立ち上がり、ズボンの小麦粉をはたいて笑った。


「よし、お前ら、よくやった! このヒュドラを俺の冷蔵庫に吊るしたら、いよいよ地上へ帰還だ。……王都の連中に、本物のナポリピッツァと薪窯の匂いを嗅がせてやるとするか!」

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