【劇場版1・後編】全員共闘の『千年竜豚』討伐!魔物食材から生まれる『5大パスタ』9対3の圧勝と、神と魔王の頭をゴッツンコさせる職人のW平手打ち(スキアッフォ)!
スペシャル長編【劇場版・後編】へようこそ!
(※前回の第14話【劇場版・前編】と2話連続の映画のような物語になっていますので、まだ前編をお読みでない方は、ぜひ第14話から続けてお読みいただくのがおすすめです!)
いよいよ60トンの『千年竜豚』との全員共闘、そして目隠し審査員15人による『三界料理大戦』が幕を開けます!
少数の魔物食材から次々と生まれるイタリア伝統の『5大パスタの階段』と、485℃の薪窯が起こす最後の奇跡をどうぞお楽しみください!
王都『新ナポリ』にある俺のピッツェリアの厨房で、俺と二番手シェフのカイルは、白いカッラーラ大理石のカウンターに置かれた『実況中継用の通信魔導球』の映像を固唾を呑んで見つめていた。
画面の向こう、『玄武岩の大火口』の最深部。
俺の特製『ティラミス』を食べて全能力とスキル出力が【+2000%(20倍)】に限界突破したうちの半額給料の皿洗い兼荷物持ち――ニコは、システムの制限すらねじ曲げて元パーティー『紅蓮の牙』のヴァンスたち四人を自分の【無限次元倉庫】へ緊急収納して救い出し、身長二メートルの盾職ゴランの大盾の後ろへと跳躍した!
『みんな、倉庫から出ます――【緊急解放】!!』
――フラッシュ!!
ニコが火口の岩床に両手をついた瞬間、黄金の光と共に、ヴァンスたち『紅蓮の牙』の四人が傷一つない状態で地面に出現した!
『な、なんだ……!? 俺たちは生きてるのか!?』
リーダーのヴァンスが震える手で自分の胸を触り、呆然と周囲を見回した。『時間が止まった真っ白な空間の中にいたはずだ……! ニコ、お前、俺たちがお前を泥の中に蹴り出して見捨てたのに、命懸けで俺たちを助けたのか……!?』
『話している暇はありません、ヴァンスさん!』
ニコは【無限次元倉庫】から、さっき自分が食べ残しておいた最後の熱々の『パヌオッツォ(アンジェロ師匠の骨髄ラグーと水牛モッツァレラのピッツァ生地サンド)』を取り出すと、それを四等分にちぎってヴァンスたち四人の手に押し付けた!
『早くこのアンジェロ師匠のパヌオッツォを食べてください! 粗悪なポーション中毒で麻痺した胃と魔力回路が、一口で完全に治ります! 目の前の『千年竜豚』は、明日の三界料理大戦に絶対必要な食材なんです! 剣を取ってください、ここにいる全員で一緒に倒します!!』
ヴァンスたち四人は涙を浮かべながら、85℃の湯気を立てるパヌオッツォにむしゃぶりついた。
パリパリの皮と伸びる水牛モッツァレラ、そして骨髄ラグーの生命力が四人の胃袋に落ちた瞬間――黄金の輝きが弾け、彼らを苦しめていたポーション中毒の麻痺が一秒で吹き飛んだ!
「おい見ろよカイル、あいつら立ち上がったぞ!」
俺は店のカウンターを拳で叩き、通信魔導球に向かって腹の底から怒鳴り声を上げた。
「おーい、火口のバカ野郎ども!! 九人がかりでやるのはいいがな、その『千年竜豚』の喉元とホッペタ(頬肉)に傷をつけたり焦がしたりしたら絶対に許さねぇぞ!! 極上の『グアンチャーレ(豚トロ・頬肉の塩漬け)』が無傷で俺のまな板に届かなかったら、今夜は全員ニコと一緒に鍋洗い百個だからな!!」
『『『了解です、アンジェロ師匠ォォォッ!!』』』
火口の底にいる九人全員の咆哮がひとつに重なり、六十トンの神話級Sランクボス『千年竜豚』との総力戦が火蓋を切った!
+2000%の黄金オーラを纏ったニコが、音速のステップで味方全員の間を駆け抜け、レオたち『白銀の暁』だけでなく、ヴァンスたち『紅蓮の牙』の鎧と武器にも次々と手のひらで触れていく!
『全員に付与します――【ゼロ・ウェイト(全装備重量0.0グラム)】!!』
重鎧と大剣の重さが完全に消え去り、羽毛のように体が軽くなったヴァンスたち四人は、人生で初めて「金や見栄のため」ではなく「自分たちを救ってくれた仲間の誇りを守るため」に地面を蹴った!
『うおおおおおっ!! ニコ、お前の背中は俺たちが守る!! 紅蓮の牙、両脇から鎖を打ち込めぇぇぇっ!!』
ヴァンスたち四人が決死の連携で鋼鉄の鎖と斬撃を叩き込み、千年竜豚の丸太のような後ろ足を地面に縫い止める!
正面からは、盾職ゴランが【金剛不壊の肉体】で大盾を構えて六十トンの突進を真っ向から受け止め、聖女エレナと大魔導師ヴィクトルが氷と光の魔術で背中の装甲を封じ込めた!
そして最大の決定機――小柄なニコが真上へと跳躍し、ティラミスの【+2000%】の怪力と【ゼロ・ウェイト】を同時に発動させて、千年竜豚の燃え盛る二本の巨大な牙を素手でガシィッ!!と掴み、重さをゼロにして頭部を地面へ押さえつけた!
『今です、レオさん!! 美味しい頬肉を傷つけずに、首の付け根の急所だけを一閃でお願いします!!』
『任せろ、ニコ!! 【深淵断ちの聖剣】!!』
――ズバッ!!
空を駆けた剣聖レオの白銀の一閃が、熟練の精肉職人のメスのような精密さで首の関節の魔力核だけを綺麗に断ち切った!
――ズシィィィィィィンッ!!
大切な頬肉や脂身を1ミリも傷つけることなく、六十トンの『千年竜豚』が地響きを立てて絶命した!
ニコがその巨大な身体にそっと手を触れると、六十トンの最高級食材は湯気を立てた最高鮮度のまま、一瞬で【無限次元倉庫】の中へと収納された。
戦いが終わり、静まり返った火口の底。
ニコの背後で、カラン、と四本の剣が地面に落ちる音がした。
振り返ると――元パーティー『紅蓮の牙』のリーダー・ヴァンスと三人の仲間たちが、火山灰の地面に揃って両膝をつき、ニコのボロボロの靴の前に額をこすりつけて、声を上げて泣き崩れていた。
『すまなかった……本当にすまなかった、ニコォォォッ!!』
ヴァンスはかつての傲慢さを微塵も残さず、涙で顔をぐしゃぐしゃにして叫んだ。
『俺たちは人間のクズだった! 大蜘蛛の卵を捨てなかったお前を殴り、給料まで奪って雨の中に捨てたのに……お前はそんな俺たちを見捨てずに命を救い、アンジェロ師匠のパンまで分け与えてくれた! どうか俺たちを許してくれ! もう一度『紅蓮の牙』に戻ってきてくれ! 荷物持ちとしてじゃない、俺たちの新しいリーダーとして迎えさせてくれ! 報酬も俺たちの全財産の半分を払う!!』
店のカウンターで、俺とカイルは息を止めて通信魔導球の画面を見つめた。
土下座する四人の元仲間を見下ろしたニコは、少しだけ困ったように首の後ろを掻くと、晴れやかな太陽のような笑顔を浮かべて静かに首を振った。
『頭を上げてください、ヴァンスさん。もう怒ってなんかいませんよ』
ニコは澄んだ声で言った。
『だって、あの夜にヴァンスさんたちが僕を雨の中に追い出さなかったら、僕はアンジェロ師匠のピッツェリアの勝手口の前で倒れることも、あの温かいピッツァイオーラを食べることもできなかったんですから。……でも、ごめんなさい。僕はもう、あなたたちのパーティーには戻れません』
『ど、どうしてだ、ニコ!?』ヴァンスが涙目で顔を上げた。『そのピッツァ屋の親方に、金貨の山でも貰っているのか!?』
『まさか! アンジェロ師匠は毎晩僕に五十個の銅鍋を洗わせますし、最初の一ヶ月はピッツァイオーラ代の借金を返すために【給料半額】でこき使われてるんですよ!』
ニコがケラケラと楽しそうに笑うと、隣のレオとゴランも吹き出した。
『でもね、ヴァンスさん。あのお店では、誰も食べ物を一グラムも捨てないし、働く人を馬鹿にしたりしないんです。毎晩営業が終わったら、師匠とカイルさんとレオさんたちと一緒に、同じ温かいテーブルを囲んで「美味しいね」って笑いながらご飯を食べるんです。……だから僕はもう、パーティーを探す必要なんてないんです。アンジェロ師匠のピッツェリアで、僕の「本当の家族」を見つけたんですから!』
魔導球のスピーカーから流れてきたその言葉に、隣のカイルが「うっ、ニコのやつ……っ」とエプロンの裾で目頭を押さえた。
俺も思わず鼻の奥がツンと熱くなり、慌てて485℃の薪窯の方へそっぽを向いて、わざとらしく「ゴホン! ゴホン!」と咳払いをした。
「……チッ、薪の煙が目に染みやがったぜ! あのおしゃべり小僧が、帰ってきたら誰がいつまでも給料半額なんかにしておくかよ、まったく!」
* * *
そして翌日の正午。
王都『新ナポリ』の中央大広場は、十万人を超える市民や冒険者たちの熱気で埋め尽くされていた。
広場の真ん中に設えられた特設ステージには、三つの厨房が並んでいた。
左側には、黄金の雲の台座の上で傲慢に胸を張る【天界の最高神】と天使の料理人たち。
右側には、黒曜石と炎の祭壇の上で不敵に牙を剥く【地底の獄炎王】と、その横で面白そうに腕を組む創世の魔王。
そして中央には――485℃の銅張り薪窯がゴウゴウと唸りを上げる俺の【伝統的ナポリピッツェリア】! 白いカッラーラ大理石のカウンターの後ろには、俺と、二番手のカイル、そして頼もしい【無限次元倉庫】の相棒・ニコの三人が並んで立っていた!
ステージの正面に座るのは、この『三界料理大戦』の勝敗を決める【15人の審査員団】だ。
内訳は、天界から選ばれた神聖天使が「5人」、冥府から選ばれた上位悪魔が「5人」、そして地上代表が「5人」(アルデバラン国王、ソフィア王女、海神ネプトゥーノ、剣聖レオ、大魔導師ヴィクトル)。
しかも、身内びいきや不正を完全に防ぐため、15人の審査員全員の目には【視覚と気配を完全に遮断する魔法の目隠し布】がしっかりと巻かれていた!
誰が作った料理か一切分からない状態で、純粋に「鼻で嗅いだ香り」と「舌で味わった美味さ」だけで一番美味いと思った一皿に札を上げる、完全なるブラインド(目隠し)審査だ!
『フン、まずは我が天界の至高の一皿を味わうがいい!』
天界の最高神が最初に審査員たちの前に出したのは、【天界の雲を喰らう翼水牛のブッラータ・アンブロシア蜂蜜添え】だった。
純白のモッツァレラの袋の中に、生クリームと細かく裂いたチーズ(ストラッチャテッラ)が詰まった神聖なフレッシュチーズで、甘く清らかで優しいミルクの香りが広がる。
『笑わせるな! 次は我が冥府の至高の一皿だ!』
続いて地底の獄炎王が出したのは、【冥府のマグマ竜のンドゥイヤ(激辛熟成生サラミ)と黒炎肉の炙り】だった。
魔界の豚肉と永劫回帰の赤唐辛子を練り上げて発酵・燻製させた真っ赤なペースト状の激辛サラミ『ンドゥイヤ』がジュウジュウと赤い脂を弾けさせ、暴力的なまでの辛さと燻製香を放っている。
そして、最後に俺たち【地上(新ナポリ)代表】の番が来た。
「よしニコ! 昨日お前がみんなと一緒に獲ってきた、地上の最高の魔物食材をカウンターに出せ!」
「はいっ、アンジェロ師匠!!」
ニコが【無限次元倉庫】から大理石の作業台の上に取り出したのは、昨日命懸けで回収した『皇帝大蜘蛛の巨大な新鮮卵』と、六十トンの『千年竜豚』から俺が一晩かけて時間加速熟成で仕込んだ二つの宝――美しいピンクの脂身と赤身が層をなす極上の豚頬肉の塩漬け『グアンチャーレ』と、粗挽きの生ソーセージ『サルシッチャ』だ!
そしてその横に俺が置いたのは、無限食材庫から出した『ペコリーノ・ロマーノ・チーズ』『粒黒胡椒』『サン・マルツァーノ種トマト』、そして『ブロンズダイスのパスタ』だけ!
「いいか、天界の神も冥府の王もよく見ておけ!」
俺は十万人の観衆に向かってお玉を突きつけた。
「天界は『甘いだけ』、冥府は『辛いだけ』の一皿しか出さなかったな! だが俺たち地上の料理人は違う! 俺とカイルとニコは、このテーブルの上にある【たった数種類の同じ基本食材と魔物食材】に、一つずつ食材を足していくだけで、5つの異なる小宇宙を生み出すイタリア料理の真髄――【ローマ&イタリア伝統・5大パスタの階段】を15人の審査員全員に食わせてやる!!」
俺とカイルの両手が、コンロの上で神速のダンスを始めた!
■【階段の1段目:『カチョ・エ・ペペ』(たった3つの材料!)】
まずは肉も卵も使わない。俺は粒黒胡椒を砕いて鉄フライパンで乾煎りし、スパイシーな香りを爆発させたところに、デンプンがたっぷり溶け出たパスタの茹で汁を投入! そこへ硬めに茹でたスパゲッティを移し、必ず火を完全に止めてから(火にかけたままだとチーズがゴムのように分離するからだ!)、細かくすりおろした『ペコリーノ・ロマーノ』と少量の茹で汁を加え、フライパンを激しく煽って空気を含ませながら乳化させた!
生クリームもバターも一滴も使っていないのに、パスタとチーズと黒胡椒の3つだけで、シルクのように真っ白で濃厚な極上チーズクリームパスタが完成した!
■【階段の2段目:『グリーチャ』(+千年竜豚のグアンチャーレ!)】
「次は、今のカチョ・エ・ペペに『たった1つ』だけ食材を足すぞ!」
俺は『千年竜豚の頬肉』を拍子木切りにし、油をひかない冷たいフライパンからじっくり弱火で炒めた。竜豚の極上の脂が溶け出して黄金の液体となり、肉の表面がヘーゼルナッツのようにカリカリの狐色に焼き上がったところで、砕いた黒胡椒と茹で汁を投入! スパゲッティを絡め、火を止めてから『ペコリーノ・ロマーノ』でマンテカトゥーラ!
ペコリーノの塩気と黒胡椒の刺激に、千年竜豚のグアンチャーレの甘く香ばしい脂の旨味が合体した、すべてのパスタの母『スパゲッティ・アッラ・グリーチャ』だ!
■【階段の3段目:『カルボナーラ』(+皇帝大蜘蛛の卵!)】
「そして3段目! 今のグリーチャ(グアンチャーレ・ペコリーノ・黒胡椒)に、ニコが体を張って守った『皇帝大蜘蛛の卵』を足す!」
ボウルの中に、大蜘蛛の卵の『濃厚なオレンジ色の卵黄だけ』を割り入れ、山盛りのペコリーノ・ロマーノと黒胡椒、そしてフライパンで溶け出た千年竜豚の温かいグアンチャーレの脂を少し加えて泡立て器で混ぜ、黄金のペースト(カルボクレマ)を作る!
グアンチャーレのフライパンに茹でたてのスパゲッティを移したら、絶対に火を完全に止める(卵が炒り卵になったらカルボナーラじゃねぇ!)。そこへ卵黄とチーズのペーストを一気に流し込み、鍋の余熱と茹で汁だけで手早く煽って乳化させ、仕上げにカリカリのグアンチャーレと黒胡椒をトッピング!
生クリームを一切使わず、大蜘蛛の卵黄と竜豚の脂とチーズだけで黄金のベルベットのように輝く、至高の『カルボナーラ』!
■【階段の4段目:『アマトリチャーナ』(グリーチャ+サン・マルツァーノ種トマト!)】
「4段目は、さっきのグリーチャから卵を抜き、代わりに俺の故郷の太陽『サン・マルツァーノ種トマト』を1つだけ足す!」
千年竜豚のグアンチャーレをカリカリに炒めて一度取り出し、その黄金の脂が残ったフライパンに白ワインと赤唐辛子、そして手潰しのサン・マルツァーノ種トマトを投入して強火で煮詰める! 穴あきパスタ『ブカティーニ』を絡め、火を止めてペコリーノ・ロマーノで乳化させ、カリカリのグアンチャーレを戻した真紅の王者『アマトリチャーナ』!
■【階段の5段目:最終到達点『パスタ・アッラ・ゾッツォーナ』(全部乗せの究極融合!)】
「そして最後の5段目! 今までのすべてを一つに統合し、さらに『千年竜豚の粗挽きサルシッチャ(生ソーセージ)』を加えた、ローマで最も罪深く、最も濃厚な伝説のパスタ――『ゾッツォーナ』だ!!」
フライパンで千年竜豚のグアンチャーレと粗挽きサルシッチャを炒めて肉の旨味を爆発させ、そこへサン・マルツァーノ種トマトを加えて濃厚な赤いラグーを作る(アマトリチャーナ)! そこへ太い筒状パスタ『リガトーニ』を投入し、火を完全に止めてから、その真っ赤な熱々のトマトソースの中へ『大蜘蛛の卵黄とペコリーノ・ロマーノの黄金クリーム(カルボナーラ)』を直接流し込んで一気にマンテカトゥーラしたのだ!!
赤いアマトリチャーナと黄金のカルボナーラ、そしてグアンチャーレとサルシッチャが鍋の中でひとつに溶け合い、オレンジ色の珊瑚のように輝く究極のクリームソースが誕生した!
広場全体を包み込んだその5つのパスタの香りに、十万人の観衆がゴクリと生唾を飲み込んだ。
目隠しをした15人の審査員(天使5人、悪魔5人、地上5人)が、先入観ゼロの状態で天界の料理、冥府の料理、そして俺たちの『5大パスタの階段』を順番に口へと運んだ。
どの審査員も、俺たちのグリーチャ、カルボナーラ、そして最後のゾッツォーナを口に入れた瞬間、目隠し布の下からポロポロと涙をこぼしながら夢中でフォークを動かしている。
そして――運命の判定の時が来た。
「これより、目隠しをしたまま15人の審査員に、最も魂を揺さぶられた『至高の料理』の札を上げてもらいます! ――判定を!!」
司会者の号令と共に、15人の審査員が一斉に札を上げた!
集計を終えた司会者が、震える声で拡声魔導具に向かって叫んだ!!
『け、結果発表ォォォッ!! 全15票中――』
『【天界の料理:3票】!! 【冥府の料理:3票】!! そして【地上の料理(アンジェロ師匠の5大パスタ):9票】!! 圧倒的過半数により、勝者・地上代表『新ナポリ』のアンジェロォォォッ!!!』
――ウオオオオオオオオオオッ!!!
広場全体が地割れのような大歓声に包まれた!
審査員たちが目隠しを外すと、なんと地上代表の5人だけでなく、天界の神聖天使のうち2人と、冥府の上位悪魔のうち2人までもが、自分が誰の料理を食べているかも知らずに俺の『カルボナーラ』と『ゾッツォーナ』に投票していたのだ!
『な、なんだとぉぉぉっ!? この天界の最高神である私の料理が、たったの3票で、しかもあの汚らわしい冥府と同点だとぉ!?』
天界の最高神は顔を真っ赤にして激昂し、隣の冥府の獄炎王に食ってかかった!
『お前のせいだ、地底のトカゲ野郎!! お前があんな下品で激辛のンドゥイヤなんかを出して審査員の舌を麻痺させたせいで、私の繊細なブッラータの味分からなくなったのだ!!』
『なんだと、この白い羽根むしり鳥がぁっ!!』
地底の獄炎王も黒炎を噴き上げてブチ切れた!
『貴様のあの病院食みたいに甘ったるい白いチーズこそ、審査員の胃をムカつかせた元凶だろうが! そもそも地上のパスタが9票だと!? この審査はイカサマだ! こうなれば貴様も、あの天界のチーズも、この広場ごと地獄の業火で灰にしてくれるわ!!』
『望むところだ! 天界の聖光で貴様の厨房ごと消滅させてくれる!!』
天界の最高神と地底の獄炎王が、俺のカウンターの目の前で宙に浮き上がり、都市を吹き飛ばすほどの巨大な「聖光の球体」と「黒炎の球体」を両手に作り出して、お互いの料理が乗ったテーブルごと広場を破壊しようとした!
俺は呆れ果てて、空で喚いている二柱のバカ神を見上げた。
そして、俺は目の前の天界の皿に残っていた『翼水牛のブッラータ』をスプーンで一口すくって食べ、続いて冥府の皿に残っていた『マグマ竜の激辛ンドゥイヤ』を一口舐めてみた。
モグ、モグ……。
その瞬間――俺のこめかみの血管が、ヴェスヴィオ火山のようにブチィッ!!と音を立てて切れかけた。
俺はスプーンを大理石のカウンターに置いた。
スキルも使わなければ、魔力も1ミリも使わない。
俺は毎日五十キロの小麦粉を手で捏ね上げ、何百枚ものピッツァ生地を叩き伸ばしてきた自分の両手のひらに、フッと息を吹きかけてセモリナ粉を払うと、一歩前に踏み出して、天界の最高神と地底の獄炎王のど真ん中に割り込んだ!
「おい、そこの二人。ちょっと歯ァ食いしばれ!!」
俺は両腕を大きく後ろに振りかぶると――右手のひらと左手のひらを同時に叩きつける、本場ナポリの伝統奥義【職人の両手平手打ち(ダブル・スキアッフォ)】を、天界の最高神の左頬と、地底の獄炎王の右頬に、全体重を乗せてぶちかましたァァァッ!!
――パァァァァァァンッ!! パァァァァァァンッ!!!
新ナポリの空気がビリビリと裂けるような、特大のビンタの快音が二つ同時に響き渡った!
『『ぐぎゃあぁぁぁっ!?』』
だが、俺の怒りはそれだけでは収まらない!
ビンタの衝撃で目を白黒させている天界の最高神と地底の獄炎王の襟首を、俺は左右の剛腕でガシィッ!とひっ掴むと、そのまま二人の頭を真ん中で思いっきり鉢合わせにぶつけた!!
――ゴッツーーーーーーーンッ!!!
鐘を鳴らしたような鈍い音が響き、額に巨大なタンコブを作った天界の最高神と地底の獄炎王は、頬にくっきりと白い小麦粉の「五本指の手形」をつけたまま、俺のカウンターの前で仲良く両膝から崩れ落ちた!
『い、痛ってぇぇぇぇっ!! き、貴様、ただの職人の分際で、天界の神と冥府の王を同時にビンタして頭までゴッツンコさせただとぉ!?』
涙目で頭を抱える神と魔王の前に仁王立ちし、俺は腰に両手を当てて十万人の観衆が静まり返るほどの声で怒鳴りつけた!
「うるせぇ、この幼稚園児どもがぁっ!! お前らが3票ずつしか取れなかった理由がまだ分かんねぇのか!? 俺は今、お前らの料理を両方味見してみた……どっちも『めちゃくちゃ美味い』じゃねぇか、この大馬鹿野郎!!」
俺は天界の『ブッラータ』の皿と、冥府の『ンドゥイヤ』の皿を両手に持ち、二人の鼻先に突きつけた。
「天界のブッラータは雲みたいに甘くてミルキーで最高だし、冥府のンドゥイヤは燻製の香りと唐辛子のパンチの効いた辛さがたまらねぇ! 料理っていうのはな、天界も、冥府も、地上も、心を込めて作られたもんは『全部美味い』んだよ!! だがな、甘いミルクだけを十皿も食えば誰でも胸焼けするし、激辛のサラミだけを十皿も食えば舌が麻痺するに決まってるだろうが! 自分の料理だけが一番だと威張って喧嘩する暇があったら、どうして同じテーブルに座って『全部の料理を一緒に』食わねぇんだ!!」
俺は呆気にとられる神と魔王の前で、48時間低温熟成させた『地上(新ナポリ)のピッツァ生地』をバン、バン!と一瞬で伸ばした。
その上にサン・マルツァーノ種トマトソースを塗り、冥府の獄炎王が作った真っ赤な激辛生サラミ『マグマ竜のンドゥイヤ』をちぎってたっぷりと散らすと、485℃の薪窯へ放り込んだ!
たった70秒!
485℃の猛火の中で、冥府の『ンドゥイヤ』のスパイシーな赤い脂がジュワジュワと溶け出し、トマトソースと一体になって焼き上がった熱々のピッツァを窯から引き出す!
そして――その燃えるように熱い激辛ピッツァのど真ん中に、俺は天界の最高神が作った冷たくて甘い『翼水牛のフレッシュ・ブッラータ』を生のまま丸ごと一つポンと乗せ、包丁で十字に切り込みを入れて、仕上げに『祖父ちゃんサルヴァトーレの黄金オイル』を三滴垂らした!!
切り開かれた純白のブッラータの中から、濃厚で甘いミルクとストラッチャテッラがとろりと溢れ出し、真っ赤に燃える冥府のンドゥイヤのソースの上へと雪崩れ込んだ!
「ほらよ! これぞ地上の生地の上で天国と地獄が抱き合う究極の一枚――『天国と地獄と大地のピッツァ(ンドゥイヤ&ブッラータ)』だ!! そこに俺たちの『5大パスタ』と、お前らの料理も全部並べた! 四の五の言わずに、二人で仲良く全部食え!!」
頬に白い手形、額にタンコブをつけた天界の最高神と地底の獄炎王は、恐る恐るそのピッツァを一切れずつ手に取って折り畳み(ア・ポルタフォリオ)、同時にかぶりついた。
――パリッ、ジュワァァァァッ……!!
次の瞬間、神と魔王の目から、同時に黄金と真紅の光の粒が弾け飛んだ!!
『な、なんだこれはぁぁぁっ……!?』
天界の最高神が全身を震わせて叫んだ。『485℃で焼かれた地上の小麦の香ばしさの上で、冥府のンドゥイヤの暴力的な辛さと肉の旨味が弾けた直後……私の天界のブッラータの冷たくて甘いミルクのクリームがそれを優しく包み込んで、辛さを極上のコクへと変えている!! 一人で食べるより百倍美味いぞ!!』
『う、うまぁぁぁいっ!! こっちの『カルボナーラ』と『ゾッツォーナ』も食ってみろ、天界のじいさん!!』
地底の獄炎王も涙を流しながら、俺たちの5大パスタと天界の料理を交互に頬張った。『地上の竜豚のカリカリの脂と大蜘蛛の濃厚な卵黄が、俺たちの料理と合わさると無限に食えるぞ!! すまなかった、お前の白いチーズは病院食なんかじゃなかった、最高の相棒だ!!』
『私の方こそすまなかった、冥府の友よ!! アンジェロの往復ビンタと頭ゴッツンコの言う通りだった、料理は喧嘩するものではなく、みんなで分け合って食べるものだったのだなぁぁぁっ!!』
一万年の間いがみ合っていた天界の最高神と地底の獄炎王は、額のタンコブをすり合わせながら肩を組んで号泣し、最後には二人で仲良く『パーネ・カフォーネ(田舎パン)』をちぎって、5大パスタの大皿とピッツァの皿を鏡のようにピカピカになるまで拭い合って(スカルペッタして)平らげたのだ!
『これにて三界料理大戦、完全勝者は地上の『新ナポリ』! これより天界・地上・冥府の三界は永遠の美食同盟を結ぶことを宣言する!!』
十万人の大歓声と拍手が広場を揺らす中、俺は厨房のカウンターの奥で、粉と汗にまみれながら誇らしげに微笑んでいる小さな相棒――ニコを手招きして呼んだ。
「おい、ニコ」
俺は大理石のカウンターの下から、金の糸で『新ナポリ』の紋章が刺繍された「真っ白な新品のシェフエプロン」と、ずっしりと重い「金貨が詰まった革袋」を取り出し、ニコの胸にドン!と押し付けた。
「え……!? あ、アンジェロ師匠、これは……!?」
「お前がダンジョンで元仲間を救い、六十トンの竜豚と大蜘蛛の卵を運んでくれたおかげで、今日俺たちは三界をひとつに繋ぐことができた」
俺はニヤリと笑い、ニコの肩を分厚い手でバシン!と叩いた。
「お前の『試用期間』は今日で終わりだ! 今日から『給料半額』は廃止――今までの未払い分と特大ボーナスをつけた【満額給料】で、お前を俺のピッツェリアの『正式な食材管理長』に任命する! よく頑張ったな、家族へようこそ、ニコ!」
「あ、アンジェロ師匠ォォォォッ!! カイルさん、レオさん、ゴランさん……!! ありがとうございます、ありがとうございますぅぅぅっ!!」
新品の白いエプロンを胸に抱きしめて子どものように泣きじゃくるニコを、カイルとレオとゴランが笑顔で胴上げし、隣では創世の魔王と海神ネプトゥーノと天界の神と冥府の王が「祝杯だ、マイナス18℃のリモンチェッロを持ってこい!」と肩を組んで歌い始めた。
俺は485℃の薪窯に新しい樫の薪を放り込み、真っ赤に燃える炎を見つめて満足そうに腕を組んだ。
神様だろうが、魔王だろうが、雨の中で震えていた荷物持ちの少年だろうが、俺の店では全員が同じテーブルを囲む大事な客であり、家族だ。
この485℃の薪窯の火が燃え続ける限り、新ナポリの食卓から笑顔が消えることは未来永劫あり得ない。
「よしカイル、ニコ! 三界合同の大宴会の始まりだ、朝まで焼きまくるぞ!! ――Buon appetito(召し上がれ)!!」
(【劇場版・前後編】完結!)
* * *
【アンジェロ師匠の「1つずつ食材を足すだけ!」本場ローマ&イタリア『5大パスタの階段』黄金チャート】
(※基本の『ペコリーノ・ロマーノ(または粉チーズ)』と『黒胡椒』と『パスタ』から始まり、食材を1つずつ足すだけで5つの名作が作れます!最大の鉄則は、すべてのチーズと卵は【必ず火を完全に止めてから(余熱で)】絡めること!)
■1段目:【カチョ・エ・ペペ】(パスタ+ペコリーノチーズ+黒胡椒)
・砕いた黒胡椒をフライパンで乾煎りし、パスタの茹で汁をお玉1杯加えて乳化させる。硬めに茹でたパスタを移し、【火を完全に止めてから】すりおろしたペコリーノチーズと少量の茹で汁を加え、激しく振ってクリーム状にする。
■2段目:【グリーチャ】(カチョ・エ・ペペ + 豚頬肉の塩漬けグアンチャーレまたは厚切りベーコン)
・1段目の手順の最初に、拍子木切りにしたグアンチャーレ(またはベーコン)を油なしでカリカリになるまで弱火で炒め、溶け出た極上の豚の脂と茹で汁を乳化させてから、火を止めてペコリーノと黒胡椒を絡める。
■3段目:【本場カルボナーラ】(グリーチャ + 卵黄 ※生クリーム不使用!)
・ボウルに「卵黄(1人前につき2個)」「たっぷりのペコリーノ」「黒胡椒」「炒めたグアンチャーレの温かい脂少々」を混ぜてペーストにしておく。グアンチャーレのフライパンにパスタを移し、【絶対に火を完全に止めてから】卵黄ペーストと茹で汁少々を加え、余熱だけで手早く煽って黄金のクリームにする。
■4段目:【アマトリチャーナ】(グリーチャ + トマトソース&唐辛子)
・カリカリに炒めたグアンチャーレを一度取り出し、残った脂に赤唐辛子と白ワイン、ホールトマトを加えて10分煮詰める。パスタを絡め、火を止めてペコリーノチーズを振り、カリカリのグアンチャーレを戻す。
■5段目:【伝説のゾッツォーナ】(カルボナーラ + アマトリチャーナ + サルシッチャ/生ソーセージ!)
・フライパンでグアンチャーレと粗挽きソーセージ(サルシッチャ)を炒め、トマトソースを加えて煮込む(アマトリチャーナ)。茹でたリガトーニ(またはショートパスタ)を絡め、【火を完全に止めてから】、3段目の「卵黄とペコリーノの黄金ペースト(カルボナーラ)」を赤いトマトソースの中へ直接流し込んで一気に乳化させる! Buon appetito!!
『奈落の底の485℃ピッツェリア』本編・番外編、そして今回のスペシャル長編【劇場版・前後編】まで最後までお読みいただき、心の底からありがとうございました!!
天界の神も冥府の王も、アンジェロの容赦ない両手ビンタ(ダブル・スキアッフォ)と頭ゴッツンコ、そして同じ食材から階段のように進化する『5大パスタ&天国と地獄のピッツァ』の前には、仲良く肩を組んでスカルペッタするしかありませんでしたね!そして半額給料で頑張ったニコも、ついに満額給料+特大ボーナスの正式な家族になりました!
もしこの物語やアンジェロの料理を楽しんでいただけましたら、ページ下部から【評価】や【ブックマーク登録】をしていただけると、作者にとってこれ以上ない励みになります!
また、「もっとアンジェロたちのスペシャル番外編や劇場版第2弾が読みたい!」と思っていただけましたら、ぜひ感想欄などで教えてくださいね。
天界と冥府の次は……もしかすると宇宙へ飛び出して、別の惑星で宇宙人を相手に485℃の薪窯で『エイリアン・ピッツェリア編(宇宙食材クッキング)』を開く日が来るかも……!?
ここまで応援してくださった全ての読者の皆様に最大の感謝を込めて!
それではまた次回作、あるいは新たな『劇場版』でお会いしましょう!チャオ、そして Buon appetito(召し上がれ)!!




