私 2026 開始
世界中に響き渡るようなホイッスル。
私のもうひとつの人生が始まった。
試合が始まる。
全てが速い。
ドキドキする。
でも、
瑠ほどじゃないし、思ったより見える。
GKの声。
CBの声。
瑠の声。
後ろから飛んでくる声と瑠の声は、神の声だ。
私は、相手のスピードを殺すことだけ考える。
一発では行かない。
半身で下がる。
縦を切る。
焦らせる。
勝負をやめてボールを離したら、私の勝ちだ。
前半の途中、瑠が奪ったボールをワンタッチで返した。瑠が、そのまま走る。
あ。
練習通りだ。
ちょっと嬉しくなった。
でも、得点できない。
後半、残り10分を切った頃だった。
ロングボールが上がる。
競る。
跳ぶ。
その瞬間。
ゴッ!!
相手の頭が、思いっきり私の頭に入った。
いっ……!
頭を押さえ、その場にしゃがみ込む。
痛い。
いや、痛いっていうか、変だ。
抑えた手のひらに違和感。
でも、競り勝ったボールは前へ流れていた。
振り返りもせず、瑠がそれを運ぶ。
競り勝ったのは私だ!私はちゃんとボールを瑠に送った!
そのままゴール前へ。
シュート。
ネットが揺れる。
遠くで瑠がガッツポーズしている。
頭を押さえた手に、もこもこと何かが膨らんでくる感覚があった。これ、ヤバいやつじゃない?
ベンチを見る。
律が、瑠のゴールにガッツポーズしていた。
いや、律。こっち見ろ。
これ、ヤバいって。
センターマークにボールが置かれて、やっと律と目が合った。
律は一瞬、ぎょっとした顔をした。
したくせに。
両手でバツを出した。
交代なし。
やれってことだ。
まぁ、そうだよな。
私が抜けたら、試合が成立しない。
没収試合となって、終了となる。負けだ。
行けるか? 私。
いや、やらないと。
ゆらりと立ち上がる。
その瞬間、少しだけ、自分をかっこいいと思った。
あの日の坪井を思い出した。
血を流しながら、包帯を巻いて戻ってきた試合。
「あんなんじゃ、まともに守れるわけない。ヘディングできないじゃん!」と思ったが、坪井は引かなかった。今、その時、チームには坪井が必要だった。
ああ。背番号は「2」でもよかったな。
私、今、チームに必要なんだ。
この試合に必要なんだ。
勝ち点3をとるんだ。
なら、やるしかない。
目は見える。
ふらつかない。
審判も止めないから、出血もないんだろう。
よし。
「左だ!りん!」
その時、瑠の声が飛んだ。
了解、瑠。
ドリブルで左を抜けようとする相手を睨み、バックステップで下がる。ライン側へ追い込む。
よし。
遅らせた。
瑠が奪いに来る。
私は離れてパスコースを作る。
速くて、強くて、重い瑠のパスが来る。
ワンタッチでボールを出す。
背中を向けた瑠は、もう走り出していた。
練習通りだ。
「ひゅー!!」
ベンチから律の奇声が飛ぶ。
すぐに、
「鈴! ポジション!」
分かってる。
ここは、私のエリアだ。
自分で夢中だった。
でも、はっきりわかった。
瑠が初めて私を「りん」と呼んだのを。
気持ちいいくらい力強く。
明日につづく




