瑠 2026
いつまでサッカーやる?
そんな問いが世界からなくなればいいと思った。
彼女は、私が一緒にサッカーした中で、一番年上だ。
本来なら敬語だし、生きた分だけ尊敬する。その上、彼女はJリーガーを育ててる。
すごいよ。
それでいいじゃん、とも思う。
なんで、今、サッカーなんだろう。
余裕ができたからサッカー?
だったら、その辺の公園でやってりゃいい。
でも。
このチームに誘ったのは私だ。
だから、イライラするんだ。
壁でいいと思ったのに、何を期待してるんだろう。
練習を重ねるたびに、勝手に期待してイライラしてる。
律も律だ。
なんのつもりか、彼女を私と組ませて練習させる。教えろってことだとは思う。
でも、私は気が短い。
教えることには向いてない。
和を作るタイプのキャプテンでないのは自覚してる。
彼女を怯えさせるだけだ。
「なぁ、瑠。絶対に手加減すんなよ」
律はそう私に言った。
鼻からそのつもりだ。
律は彼女にサッカーを諦めさせたいんだろうか?だとしたら、私と組むのが適任なのか?やっと試合ができる人数になったのに、どうするつもり?
ま、私は手加減なんかしない。
サッカー続けたいなら、こっちのレベルに来てくれ。
私はサッカーがしたい。
ただするんじゃなくて、勝ちたいんだ。
だから、本気でやってほしい。
最初、彼女は私のボールについて来られなかった。
ロングキックは後逸するし、トラップは浮くし、ターンは遅い。
気持ちだけじゃ、どうにもならない。
正直、イライラした。
でも。
逃げないんだよなー。
普通、初心者は空気を読む。
「迷惑かけてるな」って顔して、小さくなる。
逃げたくなる。辞めたくなる。
でも彼女は違った。
悔しそうにする。
できない自分に、ちゃんと腹を立てている。
それが、少しだけ面白かった。
悔しがれ。私もそうやってサッカーをやってきた。
「鈴! 後ろ!」
律の声が飛ぶ。
マーカーをDFに見立てたパス練習。
私は、その練習が好きだった。
判断が遅いと詰む。
考え続けないと回らない。
サッカーっぽい。
でも、彼女は最初、本当に酷かった。
視線は下がる。
ワンタッチで逃がせない。
身体が止まる。
なのに、律はニヤニヤしている。
「瑠を走らせろー!」
余計なことを。
こっちはフォローで走らされてるんだよ。
でも、その時だった。
鈴が、こっちを見ずにワンタッチでボールを流した。
一瞬遅れた。
でも、ちゃんと次のスペースだった。
私は反射でそこへ走る。
間に合う。
その瞬間、少しだけ分かった。
ああ。
律、これをやりたかったのか。
彼女は、上手くはない。
でも、見る。
ちゃんと周囲を見ている。
自分ができないから、見て考えるしかないんだろう。それに、多くの試合を見てきているからわかることがある。
そして、怖がらない。
私のボールは重い。
男子相手でも嫌がられる。
でも鈴は、ビビりながらも前に出る。
逃げない。
ワンバウンドを待たずにトラップに行く。
多分、律は慣れさせたかったんだ。
強いボール。
速い判断。
本気の相手。
その空気に。
サッカーで「壁になる」って、ただ立ってることじゃない。
怖がらずにそこにいることだ。
私は、少しずつ彼女が分かるようになってきた。
ついでに律の目論見も。
早く試合したい。
できる。そう思った。
彼女は、私が見つけた。そう、私が見つけた選手だ。
試合当日。
彼女は分かりやすく緊張していた。
相手のアップを見ながら、「いやだな」とか口にしてる。
「何?」
「マッチアップ、高くて速そう」
私は真顔で返した。
「幅で勝ってる。壁になるでしょ」
冗談のつもりだった。
でも彼女も真顔だった。多分、伝わってない。
まぁ、いい。
ホイッスルが響いた。
試合は、練習みたいにはいかなかった。
相手は速いし、こっちは人数が少ない。
走らされる。
でも、彼女はちゃんと見ていた。
ピッチの流れ。
私の位置。
誰が危ないか。
足は遅い。
でも、限定が上手い。
縦を切る。
半身で遅らせる。
相手が迷う。
そこを、私が回収する。
気づけば、私は何度も鈴の近くに戻っていた。
フォローじゃない。
そこへ出てくるって分かるからだ。
後半、残り十分。
ロングボールが上がった。
「鈴!」
競る。
鈴が飛ぶ。
次の瞬間。
ゴッ!!
嫌な音がした。
でも、ボールはこぼれる。
前だ。
私は反射で走った。
振り返らない。
ゴールだけ見る。決めてやる。
DFを外して、右足を振る。
入った!
ネットが揺れる。
よしっ!
ガッツポーズして、振り返る。
一緒に喜ぼうと思った。
でも。
そこにいた鈴は、額に大きなコブを作って、膝をついていた。
だめだ。
これは続けられない。
私はベンチへ向かって、両手で大きくバツを作った。
りんを認めることに、これからの女子サッカーの未来があるのかもって、言い過ぎか(笑)
明日につづく




