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ドラゴンマスクより  作者: 福本 美憂


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18/25

私 2025

練習は、置かれたハードルを必要以上に超えるためのものだと思う。

 律は何のつもりだろう。


 私と瑠を組ませて練習させる。

 走って、ブラタイして、ストレッチして、短いパス練まではギリ頑張るよ。

でも、ロングキックの練習を二人組にするのは本当にやめてほしい。


 距離が伸びない私のパスを、瑠は「いい加減にしろよ」という顔で拾いに行く。

 そして、ドッカンと私の足元に蹴ってくる。

 最初はついていけずに後逸した。

 瑠のボールは重い。

 速い、だけじゃない。

 重い。

 きっちりエッヂを作ってトラップしても、足ごと持っていかれる感じがする。角度を間違えれば、跳ねる。顔に当たる時だってある。


 くそっ、と思う。

 でも、多分、瑠はその百倍イライラしている。

 そして、それを隠そうともしない。


 私は、それが少しだけ救いだった。

「OK!」とか、「大丈夫!」とか、そういう優しい言葉で包まれるよりずっといい。

 本気でイラつかれている方が、まだプレイヤー扱いされてる気がする。

 だから、私もいちいち「ごめん!」と言わなくなった。


 本当に気まずい。

 でも、逃げたくはなかった。


 DF練習は好きだった。

 GKを含めたDF組は、連携を大事にする。

 後ろの声は、神の声だ。

「上げよう!」

 GKの声でDFラインを上げる。

「ずれて!」

 CBの声で、攻撃参加したSB側へスライドして中心を守る。


 声で動く。


 誰か一人が頑張るんじゃなく、みんなで穴を埋める。

 私は、その感じが好きだった。

 私にできることは限られている。


 足は遅い。

 一発で奪う技術もない。

 だから、とにかく相手のスピードを殺す。

 方向を限定する。

 半身で下がりながら、縦を切る。

 一発では行かない。

 じっくり待つ。相手が焦るまで。

 勝負をやめてボールを出したら、私の勝ちだ。

 初心者の私ができることなんて、本当に少ない。


 律の指示通り、なんて当然できない。

 だから、「多分こういうことだろうな」というプレイを目指す。

 少しずつ分かってきたことを一生懸命やるのみだ。


 それに、サッカーって走るだけじゃない。

 どこを見るかで、全然違う。

 そーゆー意味で、瑠との練習で好きなものもあった。


 マーカーをDFに見立てて、狭いスペースでボールを回す。

 私の周り半径五メートルくらいに、いくつもマーカーが置かれている。

 それに当てないように、瑠から出されたボールをワンタッチで返す。


 どこのマーカーを通して返してもいい。それを瑠が追うのだ。

 私の周り半径五メートルくらいに、いくつもマーカーが置かれている。

 マーカーを敵に見立てて、狭いスペースでボールを回す。


 どこへ返してもいい。

 360度自由。

 でも、マーカーに当たったら失敗。


「鈴! 取られてんぞー!」

 律の声が飛ぶ。


 つまり、考え続けなきゃいけない。見続けて、感じ続けなきゃいけない。

 これはもちろん瑠の練習でもある。

 でも何より、試合を想定した私の練習だ。

 瑠がどこにいるかを間接視野で感じ、ワンタッチで返せた時は気持ちいい。


 高校の頃、あいつとやった練習に似ている。

 マーカーをDFに見立てて、間接視野を使って。

 だから、これくらい、やってやる。


「鈴! 後ろも見ろよ! お前には360°あるんだから!」

 律から声がかかる。

「瑠を走らせろー!」


 余計なことを、と瑠が舌打ちする。

 出せるもんなら、翻弄してみたい。

 でも、私にはワンタッチで背後へ出す技術なんてない。

 右足とか左足とか、考えた瞬間に遅れる。

 体が流れる。

 視線が下がる。

 すぐにマーカーへ当たる。


「ターンのモーションで足を引いて軸にする。次の足で蹴る」


 瑠が短く言った。

 ぶっきらぼうだ。

 でも、ちゃんと教えてくれている。


 私は言われた通りやってみる。


 できない。ボールはすり抜ける。

 軸足がぶれる。

 タイミングが遅い。

 ボールが足元に入りすぎる。

 頭では分かるのに、体が追いつかない。


 悔しい。


 でも、瑠は待たない。

 トラップしても、パスの強さは容赦ない。

 私の胸元へ、足元へ、逆足へ、次々ボールが飛んでくる。

 走らされているのは、むしろ私だった。


「鈴! 止まるな!」

「顔上げろ!」

「遅い!」


 律はうるさいし、瑠は怖い。


 なのに。


 私は、楽しかった。


 気づけば、「できない」が悔しくなっていた。

 最初の頃みたいに、「できないが当たり前」では終われなくなっていた。


 次は通したい。

 次は瑠を走らせたい。

 次は、ワンタッチで逆を取りたい。


 そう思っている自分がいた。

 瑠が私のパスを回収して、また強く返してくる。

 私は歯を食いしばって、ついていく。

ベンチでは、監督が大笑いしてた。

あいつ!見てろよ!


                 明日につづく

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