私 2025
練習は、置かれたハードルを必要以上に超えるためのものだと思う。
律は何のつもりだろう。
私と瑠を組ませて練習させる。
走って、ブラタイして、ストレッチして、短いパス練まではギリ頑張るよ。
でも、ロングキックの練習を二人組にするのは本当にやめてほしい。
距離が伸びない私のパスを、瑠は「いい加減にしろよ」という顔で拾いに行く。
そして、ドッカンと私の足元に蹴ってくる。
最初はついていけずに後逸した。
瑠のボールは重い。
速い、だけじゃない。
重い。
きっちりエッヂを作ってトラップしても、足ごと持っていかれる感じがする。角度を間違えれば、跳ねる。顔に当たる時だってある。
くそっ、と思う。
でも、多分、瑠はその百倍イライラしている。
そして、それを隠そうともしない。
私は、それが少しだけ救いだった。
「OK!」とか、「大丈夫!」とか、そういう優しい言葉で包まれるよりずっといい。
本気でイラつかれている方が、まだプレイヤー扱いされてる気がする。
だから、私もいちいち「ごめん!」と言わなくなった。
本当に気まずい。
でも、逃げたくはなかった。
DF練習は好きだった。
GKを含めたDF組は、連携を大事にする。
後ろの声は、神の声だ。
「上げよう!」
GKの声でDFラインを上げる。
「ずれて!」
CBの声で、攻撃参加したSB側へスライドして中心を守る。
声で動く。
誰か一人が頑張るんじゃなく、みんなで穴を埋める。
私は、その感じが好きだった。
私にできることは限られている。
足は遅い。
一発で奪う技術もない。
だから、とにかく相手のスピードを殺す。
方向を限定する。
半身で下がりながら、縦を切る。
一発では行かない。
じっくり待つ。相手が焦るまで。
勝負をやめてボールを出したら、私の勝ちだ。
初心者の私ができることなんて、本当に少ない。
律の指示通り、なんて当然できない。
だから、「多分こういうことだろうな」というプレイを目指す。
少しずつ分かってきたことを一生懸命やるのみだ。
それに、サッカーって走るだけじゃない。
どこを見るかで、全然違う。
そーゆー意味で、瑠との練習で好きなものもあった。
マーカーをDFに見立てて、狭いスペースでボールを回す。
私の周り半径五メートルくらいに、いくつもマーカーが置かれている。
それに当てないように、瑠から出されたボールをワンタッチで返す。
どこのマーカーを通して返してもいい。それを瑠が追うのだ。
私の周り半径五メートルくらいに、いくつもマーカーが置かれている。
マーカーを敵に見立てて、狭いスペースでボールを回す。
どこへ返してもいい。
360度自由。
でも、マーカーに当たったら失敗。
「鈴! 取られてんぞー!」
律の声が飛ぶ。
つまり、考え続けなきゃいけない。見続けて、感じ続けなきゃいけない。
これはもちろん瑠の練習でもある。
でも何より、試合を想定した私の練習だ。
瑠がどこにいるかを間接視野で感じ、ワンタッチで返せた時は気持ちいい。
高校の頃、あいつとやった練習に似ている。
マーカーをDFに見立てて、間接視野を使って。
だから、これくらい、やってやる。
「鈴! 後ろも見ろよ! お前には360°あるんだから!」
律から声がかかる。
「瑠を走らせろー!」
余計なことを、と瑠が舌打ちする。
出せるもんなら、翻弄してみたい。
でも、私にはワンタッチで背後へ出す技術なんてない。
右足とか左足とか、考えた瞬間に遅れる。
体が流れる。
視線が下がる。
すぐにマーカーへ当たる。
「ターンのモーションで足を引いて軸にする。次の足で蹴る」
瑠が短く言った。
ぶっきらぼうだ。
でも、ちゃんと教えてくれている。
私は言われた通りやってみる。
できない。ボールはすり抜ける。
軸足がぶれる。
タイミングが遅い。
ボールが足元に入りすぎる。
頭では分かるのに、体が追いつかない。
悔しい。
でも、瑠は待たない。
トラップしても、パスの強さは容赦ない。
私の胸元へ、足元へ、逆足へ、次々ボールが飛んでくる。
走らされているのは、むしろ私だった。
「鈴! 止まるな!」
「顔上げろ!」
「遅い!」
律はうるさいし、瑠は怖い。
なのに。
私は、楽しかった。
気づけば、「できない」が悔しくなっていた。
最初の頃みたいに、「できないが当たり前」では終われなくなっていた。
次は通したい。
次は瑠を走らせたい。
次は、ワンタッチで逆を取りたい。
そう思っている自分がいた。
瑠が私のパスを回収して、また強く返してくる。
私は歯を食いしばって、ついていく。
ベンチでは、監督が大笑いしてた。
あいつ!見てろよ!
明日につづく




