律 2025
さぁて、困った。。。
サッカーって、こんなしちめんどくせーもんだったっけ。
ウイイレやサカつくは、もっと簡単で楽しかったじゃん。
俺は、サッカー教室の経営の他に、「個人契約の監督」をやっている。まぁ、小遣い稼ぎでもあるけど、
「サッカーやるなら目指すは監督っしょ」
ゲーム好きの俺には、結構向いてると思ってる。
フォーメーション考えて、選手配置して、相手見て修正する。サカつくの延長みたいなもんだ。……まぁ、現実はゲームみたいにいかないんだけど。
日本サッカーの指導者はライセンス制だ。研修受けて、実績積んで、試験受けて、やっと上に行ける。S級を取ればJや代表に関われるけど、まぁ、俺にはそこまでの才はない。
でも。
みんなには内緒だけど、A級を取って高校サッカーの指導者にはなりたいと思ってる。それだって十分難関だ。
だから、この監督業は俺の修行でもある。
遊びじゃない。
で、何に困ってるかというと、まず、俺が見てる県リーグの女子チームは人数が足りない。登録上は8人いる。
だから試合は成立する。でも、成立するだけだ。
交代枠なし。一人怪我したら終わり。
仕事、家庭、育児。
女子サッカーは、「続ける」こと自体が難しい。
男子みたいにカテゴリーが山ほどあるわけじゃない。消えていったチームを俺は何個も見てきた。「また来年」そう言って、そのまま終わったチームを。
だから、サッカーを続けてるだけで、結構すごい。
そんな中で、キャプテンの瑠は別格だった。
速い。
強い。
上手い。
しかも、めちゃくちゃ気が強い。
絶対に負けたくないって顔でサッカーをする。
チームの中心であることは間違いない。
本当なら、縦軸に瑠を三人並べたい。
343のCB、トップ下、CF。
これで勝てる。
でも、ゲームじゃないんで、瑠は一人しかいない。
4123の「1」に置けば試合を支配できる。でも、それじゃ得点力が落ちる。瑠は決定力もある。前でも使いたい。いや、まずは8人しかいないのだ。
どう使うか。
それをずっと考えていた。
そんな時だった。
サッカー教室の試合のバイトで借り出した瑠が、
「あの人どうかな」と指差した。
「初心者みたいだけど、背が高いよね」
嫌な予感しかしなかった。初めての試合に夢中になっている鈴だった。
正確には、鈴はサッカーネームだ。
俺のサッカー教室では、お互いを短いサッカーネームで呼んでいた。名字より短くて、練習の際、グラウンドで呼びやすい。
でも、その呼び方の方がしっくり来る。
鈴は、最近サッカーを始めた。きっかけは、わからないが、親友の息子に「かあちゃんにサッカー教えてやって」と頼まれて、うちのサッカー教室に来るようになった。最初は、本当にサッカーに詳しいだけの人だった。
走れない。
蹴れない。
息切れする。
でも。
知識だけはあるからしんどい。
動画見て、ノート取って、体のケアして、食事まで変えて。最近は、初心者の熱量じゃない。
目がいい。どこが危ないかを見つけるのが妙に上手かった。サッカーをよく知ってる。
でも、技術は追いつかない。
だから最初、瑠が「入れたい」と言った時、俺は半信半疑だった。
今日の試合もLMFで置けば、縦のバランス役くらいはできるかもしれない。クロスは上げられない。トラップもおぼつかない。ロングキックは蹴れない。
でも、鈴はバックステップのDFだけは上手かった。
一応、息子にも了解を得て、鈴は女子チームに入った。
リーグ戦前にチームは必死に人数を集め10人になった。あと1人。これで勝てるほど、県リーグは甘くない。10人で戦える練習をしなければならない。
自分が言ったくせに瑠は、鈴が練習に加わると、イライラしていた。
「いや、そこ絶対狙われるって」
「取られるでしょ」
「無理だって」
練習中も、鈴が気になって仕方ない。
下がる。
寄る。
フォローに行く。
瑠の持ち味、いつもの自由さが消えていた。
「瑠! 戻りすぎ!」
「でも!」
「お前が回れ!」
瑠は遠慮なく舌打ちして走る。
その瞬間だった。
瑠が消えたそのペースに入った鈴が、半身で相手のスピードを止めた。
奪えない。
でも、コースを切る。
相手が迷う。
瑠がすかさず反応して離れたボールを回収する。
また鈴がコースを限定する。
瑠が奪う。
あ。
俺、これ知ってる。
ゲームで、めちゃくちゃ弱い選手引いた時に、役割だけ特化させてハメるやつだ。
で、俺は考えた。
走れないなら、動かさなきゃいい。
鈴をアンカーに置く。
真ん中固定。
守備ブロックの芯にする。
その代わり、瑠を自由にする。
衛星みたいに、鈴の周りを走らせる。
SBは絞らせる。
L字でバランスを取る。
思わず笑った。
使える。
このシステム、使える。
瑠はまだ納得いってない顔で鈴を睨んでいた。
でも、その顔がちょっと面白くて、俺はベンチからニヤニヤ眺めていた。
面白いなーサッカーって。
明日につづく




