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ドラゴンマスクより  作者: 福本 美憂


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16/25

僕 2025

僕は「ボールは友だち」って意味を間違えてた。

僕は、サッカーが好きだ。

 だから、サッカーを続ける。だから、ドラゴンマスクを続ける。


 ドラゴンマスクは、律から情報をもらって、かあちゃんを助けている。

 だから、本当は、正体なんて筒抜けなんだと思う。

 律もバカだが、僕も不器用だ。

 うまく隠せているかと聞かれれば、全く自信はない。

 これで気づかれていないとしたら、かあちゃんも大概だと思う。


 でも、かあちゃんは何も言わない。

 だから僕も、何も言わない。

 ドラゴンマスクのおかげで(自負!)、かあちゃんはサッカーを続けている。


 たぶん。

 いや、そう思いたい。


 最近のかあちゃんは、LINEでもずっとサッカーの話をしている。

 筋膜ローラーがどうとか、タンパク質がどうとか、DFラインがどうとか。四十代の会話じゃない。

 それから、最近かあちゃんは「りん」と呼ばれているらしい。サッカーは声がけの大事なスポーツなので、サッカー教室では短いサッカーネームをつけて呼び合う。かあちゃんは養生テープにマジックで『鈴』と書いて練習着に貼ってある。律がそう呼ぶのは、なんかムカついた。別に変な意味じゃないのは分かってる。律は昔から、そういう距離感の人だ。


 でも、僕の知らないところで、かあちゃんが“プレイヤー”になっていく感じがした。


 でも、その姿は楽しそうだった。


 いや。

 楽しそう、だけじゃない。

 苦しそうだった。


 律の女子チームに入ってから、かあちゃんは明らかに変わった。

 試合に勝った日でも落ち込んでいる。

 練習後、立ち上がれないくらい疲れている。

 でも、次の日にはまた動画を見ている。回転数でわかる。かあちゃん専用のドラゴンマスクのYouTubeなのだから。


 正直、心配だ。

 そこまでして、なんでサッカーやるんだろう。


 でも、その顔を見ていると、少しだけ分かる。

 かあちゃんは今、「遊び」でサッカーしてない。

 ちゃんと、勝ちたいんだ。


 ある日、こっそり練習を見に行った時だった。


「走れよ!」


 キャプテンの瑠の声がグラウンドに響いた。瑠とは、かあちゃんがサッカーを始める前にサッカー教室で会ったことがある。スピードがあって上手い。そして、めちゃめちゃ気が強い選手だ。


「そこ止まるな!」

「ちゃんと寄せろ!」


 かあちゃんが、膝に手をついていた。息を切らしているかあちゃんに向けられている言葉だ。ノロノロと走り出す。


 でも、瑠は止めない。


 正直、ムカついた。命令口調かよ。

 そんな言い方しなくてもいいだろと思った。

 かあちゃんは初心者だ。

 四十代だ。

 仕事もしてる。


 その上で、あんなにボロボロになるまでやってるんだ。一生懸命、やってるんだよ。


 次の瞬間、瑠が吐き捨てるみたいに言った。


「そんなので、サッカーやってるつもりになるなよ」


 その言葉が、なぜか僕に刺さった。

 胸の奥が、少し痛かった。


 僕は今、J3のクラブにいる。


 プロだ。一応。

 でも、降格した。


 試合にも出られない。

 ベンチに座って、終わる試合もある。


 それでも、僕は“プロ”だ。

 男子サッカーは、下のカテゴリーでも続けられる。

 環境がある。

 リーグがある。


 仕事とサッカー両立できる。

 でも、女子は違う。


 瑠は、サッカーする場所そのものを守っているんだ。8人しかいなくても、試合を成立させようとしている。いや、勝つためのサッカーをしようとしてる。


 僕は、そんな場所に立ったことがない。


 どこかで安心していた。プロだから。

 若いから。体格に恵まれてるから。

 カテゴリーがあるから。

 いつか試合に出られるかもしれないから。


 でも、本当にそれだけでいいんだろうか。


『そんなので、サッカーやってるつもりになるなよ』


 僕には、足りないものがある。ずっと、そう思っていた。とうちゃんが持っていた“エゴ”。ゴールを奪いに行く熱。


 今、少しだけ分かった気がした。

 足りないのは、それだけじゃない。


 その夜、僕はドラゴンマスクとして、かあちゃんに送った


『サッカーの神様がいる国』を買った。

 自分でももう1度読み返し、付箋を貼る。


『本気でサッカーをする人間に、年齢は関係ない』


 その言葉を声に出して読んだ。

 僕の中で何かが動くのを感じた。

僕は、サッカーを続けられることに、甘えていたんだ。


                  明日につづく

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