僕 2025
僕は「ボールは友だち」って意味を間違えてた。
僕は、サッカーが好きだ。
だから、サッカーを続ける。だから、ドラゴンマスクを続ける。
ドラゴンマスクは、律から情報をもらって、かあちゃんを助けている。
だから、本当は、正体なんて筒抜けなんだと思う。
律もバカだが、僕も不器用だ。
うまく隠せているかと聞かれれば、全く自信はない。
これで気づかれていないとしたら、かあちゃんも大概だと思う。
でも、かあちゃんは何も言わない。
だから僕も、何も言わない。
ドラゴンマスクのおかげで(自負!)、かあちゃんはサッカーを続けている。
たぶん。
いや、そう思いたい。
最近のかあちゃんは、LINEでもずっとサッカーの話をしている。
筋膜ローラーがどうとか、タンパク質がどうとか、DFラインがどうとか。四十代の会話じゃない。
それから、最近かあちゃんは「りん」と呼ばれているらしい。サッカーは声がけの大事なスポーツなので、サッカー教室では短いサッカーネームをつけて呼び合う。かあちゃんは養生テープにマジックで『鈴』と書いて練習着に貼ってある。律がそう呼ぶのは、なんかムカついた。別に変な意味じゃないのは分かってる。律は昔から、そういう距離感の人だ。
でも、僕の知らないところで、かあちゃんが“プレイヤー”になっていく感じがした。
でも、その姿は楽しそうだった。
いや。
楽しそう、だけじゃない。
苦しそうだった。
律の女子チームに入ってから、かあちゃんは明らかに変わった。
試合に勝った日でも落ち込んでいる。
練習後、立ち上がれないくらい疲れている。
でも、次の日にはまた動画を見ている。回転数でわかる。かあちゃん専用のドラゴンマスクのYouTubeなのだから。
正直、心配だ。
そこまでして、なんでサッカーやるんだろう。
でも、その顔を見ていると、少しだけ分かる。
かあちゃんは今、「遊び」でサッカーしてない。
ちゃんと、勝ちたいんだ。
ある日、こっそり練習を見に行った時だった。
「走れよ!」
キャプテンの瑠の声がグラウンドに響いた。瑠とは、かあちゃんがサッカーを始める前にサッカー教室で会ったことがある。スピードがあって上手い。そして、めちゃめちゃ気が強い選手だ。
「そこ止まるな!」
「ちゃんと寄せろ!」
かあちゃんが、膝に手をついていた。息を切らしているかあちゃんに向けられている言葉だ。ノロノロと走り出す。
でも、瑠は止めない。
正直、ムカついた。命令口調かよ。
そんな言い方しなくてもいいだろと思った。
かあちゃんは初心者だ。
四十代だ。
仕事もしてる。
その上で、あんなにボロボロになるまでやってるんだ。一生懸命、やってるんだよ。
次の瞬間、瑠が吐き捨てるみたいに言った。
「そんなので、サッカーやってるつもりになるなよ」
その言葉が、なぜか僕に刺さった。
胸の奥が、少し痛かった。
僕は今、J3のクラブにいる。
プロだ。一応。
でも、降格した。
試合にも出られない。
ベンチに座って、終わる試合もある。
それでも、僕は“プロ”だ。
男子サッカーは、下のカテゴリーでも続けられる。
環境がある。
リーグがある。
仕事とサッカー両立できる。
でも、女子は違う。
瑠は、サッカーする場所そのものを守っているんだ。8人しかいなくても、試合を成立させようとしている。いや、勝つためのサッカーをしようとしてる。
僕は、そんな場所に立ったことがない。
どこかで安心していた。プロだから。
若いから。体格に恵まれてるから。
カテゴリーがあるから。
いつか試合に出られるかもしれないから。
でも、本当にそれだけでいいんだろうか。
『そんなので、サッカーやってるつもりになるなよ』
僕には、足りないものがある。ずっと、そう思っていた。とうちゃんが持っていた“エゴ”。ゴールを奪いに行く熱。
今、少しだけ分かった気がした。
足りないのは、それだけじゃない。
その夜、僕はドラゴンマスクとして、かあちゃんに送った
『サッカーの神様がいる国』を買った。
自分でももう1度読み返し、付箋を貼る。
『本気でサッカーをする人間に、年齢は関係ない』
その言葉を声に出して読んだ。
僕の中で何かが動くのを感じた。
僕は、サッカーを続けられることに、甘えていたんだ。
明日につづく




