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ドラゴンマスクより  作者: 福本 美憂


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15/25

瑠(るぅ) 2025

W杯で優勝しても、女子サッカーの環境は厳しい。

 サッカーが好きすぎて、仕事に集中できない。


 試合前なんて最悪だ。パソコンの画面を見ながら、頭の中ではフォーメーションを組んでいる。


 兄の影響だった。

 小さい頃から、兄のサッカーについて回っていた。グラウンドの隅でボールを蹴って、真似して、覚えて、「女の子だから」なんて言葉を無視して同じチームに入った。


 後で知った。

 それ、澤穂希とほとんど同じだった。

 でも違ったのは、その先だ。


 兄は、どんどん上に行った。

 何もかもすっとばして、海外に向かった。

 気づけば、テレビの向こう側みたいな場所にいた。

 私はそこには行けなかった。


 ボールだけが残った。


 悔しかった。

 だから練習した。


 足は早い。それが強み。正直に言えば、恐ろしく気が強い。

 削られたら削り返した。


 泥だらけの手でユニフォームを掴まれた時は、その泥を相手の顔に塗り返してレッドカードをもらった。これは、母校で今も語り継がれているらしい。


 相手チームの監督には怒鳴られた。

「フェアプレイ精神はないのか!」

 でも、あの時の私には「やられたら、やり返す」が正義だった。


 私は昔からサッカーで負けるのは嫌だった。

 いつだって、やらない選択肢はない。

 負けたくなくて、大学までサッカーを続けた。


 でも、プロにはなれなかった。

 女子サッカーは、男子みたいに「下に行けば続けられる」世界じゃない。


 やめたら終わる。

 だから、この県リーグのチームに来た。高校の時の同級生に誘われたのがきっかけだった。


「瑠なら、まだやるでしょ」


 その一言で来た。実際、その通りだった。私にはサッカーしかなかった。ここで、サッカーを続ける覚悟を持ってこのチームにきたのだ。楽しくて仕方なかった。

 でも、直ぐに女子チームの現実を知ることになる。部活と違って、社会人の女子チームは続けること自体が難しいのだ。


 仕事。

 結婚。

 出産。

 子育て。

 介護。

 男より、女の方がサッカーを諦める理由が多い。


 「また戻るね」

 そう言って戻って来なかった選手を何人も見た。


 その年、リーグ開幕前、うちのチームの登録人数は8人だった。

 8人いれば、試合は成立する。でも、成立するだけだ。試合にはならない。


 11人相手に、8人で90分走る。


 体力だけでなくメンタルも削られる。

 勝てる相手に人数が足りないだけで翻弄されるのは、死んでも嫌だ。誰でもいいからサッカーする人間が欲しかった。スターなんかいらない。壁でいい。ゴール前に立ってくれるだけでいい。


 「サッカーしたい」つて人が欲しかった。


 そんな時、監督の律に、ゲームコントロールのバイトを頼まれた。初心者クラスの試合。最初は気乗りしなかった。でも、人探しになるかもしれないと思って行った。律は雇われ監督なので、自分のビジネスであるサッカー教室から、選手を引き抜いたりしない。


 そこで、彼女を見た。正直、最初は笑いそうになった。


 走れてない。

 蹴れてない。

 フォームも変。

 なのに、目だけが本気だった。


 その目が、少し嫌だった。

 サッカーを始めたばかりの人間の目じゃない。

 ああいう目は、サッカーにハマる。


 人生を、生活を

 持っていかれる。

 でも、

 これ以上上手くなるわけがない。


 人数が欲しかった。だから誘った。

 壁でいいと思った。最初は、本当にそれだけだった。多くは望まない。


 はずだったのに、

 練習が始まると、私は毎回イライラした。


「走れよ!」

「そこ動けよ!」

「もっとちゃんとパス出せよ!それじゃ、取られる!」


 だって、私はサッカーがしたい。

 ちゃんとしたサッカーがしたいのだ。

 なのに、彼女は、足も遅いくせに必死に走って、息を切らして、足を痛めて、それでもついてくる。追いつかないのに。意味が分からなかった。


 そんなので、サッカーやってるつもりになるなよ。

 一生懸命なのは分かる。

 でも、一生懸命だけじゃ勝てないんだよ。勝てなきゃ、サッカーは苦しい。


 そんなことも知らないくせに。


 でも。

 練習後、誰よりボロボロになりながら、彼女はグラウンド整備をしていた。

 誰もいなくなったピッチで、一人、ラインを踏み直していた。

その姿を見た時、私は少しだけ、自分が嫌になった。


                 明日につづく

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