律 1999
俺は1999を忘れない。
あの日、俺の自慢の親友は、彗星みたいに呆気なく消えた。
突然のことに、バカみたいなことを動かないお前に聞いたよな。
「なあ、俺のウイイレ、お前んちにある?」
そんなんどうだってよかった。まだ、繋がってるって思いたかった。返事なんか・・・返ってくるわけないのに。サッカーしてても見たことない、ボクサーのように歪んで傷だらけの顔だった。
俺たちの前には、いつもサッカーがあった。
道は違っても、ボールを蹴り続ける仲間だった。
同じ高校だったが、俺が選んだのは高校サッカーだ。
うちの高校は野球は強いが、サッカーはイマイチだった。全国を目指すには厳しい。なんたって、市内にはプロチームのユースが二つもある。県内には私立の強豪が乱立していて、才能あるやつは、だいたいそっちに持っていかれる。
いろんなセレクションを受けて、いろいろ落ちて、それでもサッカーを続けたいってやつが、俺だ。
でも、あいつは違った。
プロチームのユースでサッカーをしていた。だから、放課後には、クラブに直行する。正直、羨ましかった。
それは、悔しさとは、ちょっと違った。
あいつがサッカーしてるのを見ると、「ああ、サッカーってこうやるんだ」って思わされるのだ。昼休み、校庭に出れば、俺は必ずあいつに勝負を仕掛けた。
「お前に勝ったら、俺もユース入れる?」
「無理無理」
「なんでだよ!」
「お前、すぐ足出すじゃん」
笑いながら、簡単に抜かれる。でも、悔しいから何回も行く。
たまに止められると、あいつはちゃんと悔しそうな顔をした。
そういうところが好きだった。
ユースだから偉そうとか、プロに近いから違う世界の人間とか、そういう感じが全然ない。ただのサッカー小僧だ。
でも、放課後になると、急に遠くなる。
クラブでボールを持った瞬間に「選ばれたやつ」になるのだ。
怪我をして、部活の練習に参加してた時期があった。あいつは「絶対トップ行くから」って普通に言って笑っていた。「好き」以上がダダ漏れで、冗談に聞こえなかった。眩しかった。
本当に行くんだろうなと思っていた。
実際、紅白戦でトップ組に入ったとか、サテライトのベンチ入ったとか、少しずつトップチームとの距離を縮めていた。
だから、余計に分からなかった。
動かないって、なんだよ。
駒場のピッチでゴール決めるんじゃなかったのかよ。
葬式の日、サッカー関係の人間が何人も来ていた。
ユースのスタッフ。
高校の監督。
スーツ姿の大人たち。
葬式には不似合いな赤いサポーター。
みんな「惜しい選手だった」と言った。
惜しいってなんだよ。
勝手に終わらせるな。
俺は、動かないお前見ながら、「起きろよ」って本気で思ってた。
起きないと失点するだろ!いつまでも寝てんじゃねーよ!奪われたボールは自分で取り返しにいけよ。
だって、昨日まで普通にボール蹴ってたやつだぞ。
昨日まで、「一年で昇格する」とか言ってたやつだぞ。こんなんで、終わるわけないだろ。
お前さーふざけてると焼かれちまうんだぞ。体がなくなったら、俺とサッカーできないだろ。
空に登る煙を見ながら、現実をゆっくり噛み締めて泣いた。
彼女は、泣いていなかった。
いや、多分、泣けなかったんだと思う。
子ども抱いて、ひたすら頭を下げてた。
小さい子どもだった。
何も分からない顔して、時々泣いていた。
その時、俺は思った。
あいつのサッカー、ここで終わらせちゃダメだ。
意味なんか分からない。
俺、バカだからどうすればいいかも分からない。
でも、あいつの「続き」みたいなものを、誰かが持ってなきゃいけない気がした。
だから、あいつの子どもには、できるだけ関わった。
ゆっくりとサッカーに近づけるように、試合に誘ったり、グッズ持って行ったり。あいつみたいに、自分の意思でサッカーと向き合ってほしいから。
あの子がサッカーの道を歩み始めた時「あーこれが続きなのか」と正解が見えたみたいで嬉しかった。
彼女はずっと“見る側”だった。
それでいいと思ってた。「あいつの分まで」とか、気負う必要はない。あの子と自分の人生を生きてくれればいい。
多分、それが。
今、俺にできる、親友へのパスなんだと思う。
明日へつづく




