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ドラゴンマスクより  作者: 福本 美憂


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11/25

私 2025

サッカーでは「後ろの声は神の声」と言う。

 私は、少しだけ体が楽になっていることに気がついた。朝、階段を降りる時の足の重さが違う。以前は、練習の次の日になると、椅子から立ち上がるたびに「よ」と声が出ていた。さすがに「よっこいしょ」とフルには言わなかったが、今はそれもない。悔しいが、ドラゴンマスクのおかげだ。

食事。

睡眠。

ストレッチ。

水分。

最初は「そんなので変わるのか」と思っていた。でも、少しずつ変わっていくのに気がついた。特に、練習後にちゃんと食べるようになってから、次の日の体が違う。体は精神論だけじゃダメなことを身を持って知った。


人間って、ちゃんと整備すると動くんだなと。

まるで私、中古車だもんなー。放っておけば錆びる。


でも、楽になったからと言って、急にサッカーが上手くなるわけではない。

私は相変わらず足が遅い。

ロングキックも飛ばない。

競り合いで吹き飛ばされることだってある。

試合中、自分だけ一瞬遅れている感じがする。「今!」と思った時には、もう相手が動いている。サッカー経験の差は、やっぱり大きい。

悔しい。

でも、律が言うには、私は見えてるものがあるらしい。

どこにリスクがあるのか。

どこにスペースが空くのか。

私は、誰よりもサッカーを見てきた。チームメイトの中では、1番年上だからってのもあるけど、Jリーグを発足から知ってるのは、私だけだ。海外のサッカーもドイツもオランダもイタリアもフランスも韓国も家で見ることができるサッカーはなんでも見てきた。だから、ピッチの中でも、ウイイレのようにボールの動きが読める時がある。

どうボールを動かせば、チャンスになるのか。

それは、ずっと“見る側”だった時間が長かったからかもしれない。

動けない。

でも、見えている。


だったら、伝えればいいんだ。


最初はできなかった。

こんな初心者が声を出していいのか分からなかったから。

でも、ある日の練習で、サイドを突破されそうになった時、思わず叫んでいた。

「縦切って!」

自分でも驚いた。

でも、その瞬間、味方が半歩早く動いた。

相手は中に切り返した。

そこにチームNO,1のスピードプレーヤー、キャプテンが入って奪った。

「ナイス!」

誰かが叫ぶ。

その“ナイス”が、自分にも向けられたものだと気づくのに少し時間がかかった。

その日の帰り道、私はずっとそのプレーを考えていた。

そして、不意に思い出した。

半身。

バックステップ。

相手をゴールから遠ざける。

高校生だったあいつが、公園で教えてくれたことだ。

『その構えだと簡単に股抜きできる』

そう言われて、悔しくて、何度も練習した。

あの時は股抜きされたくない、だけだった。が、今は分かる。

それが攻撃の方向を限定すること。

ゴールから遠ざけること。

ラインを味方につけて追い込むこと。

でも、今、体が勝手に動く。

相手の利き足。

重心。

抜きたい方向。

全部は止められない。

でも、ゴールから遠ざけることはできる。

私は、走れない。

でも、遅らせることはできる。

時間を作ることはできる。

その時間で、味方が戻れる。

そういう守備なら、私にもできるかもしれない。

練習中、

声が出るようになった。

「外切る!」

「一回戻そ!」

「逆空いてる!」

最初は、自分の声に自分が驚いていた。

でも、次第に、周りも反応するようになった。

ある日、律が笑いながら言った。

「最近、うるさいな」

「悪口?」

「褒めてる」

そう言って、ボードに磁石を置いた。

「お前さ、走力とかキック力とか、今から急激には変わらない」

「ひどいなー」

「でも、試合を読む力はある。そして、伸びる」


 ーお前、DF、アンカーだなー

律はそう言って、ボードのピッチを指でなぞった。


「そこ、才能あると思うよ」

その言葉に、少しだけ息が止まった。

“才能”。

その言葉を、サッカーで自分に向けられる日が来るなんて思っていなかった。

もちろん、若い選手みたいな伸び方はしない。

でも、自分のサッカーなら作れるのかもしれない。

私は、初めてそう思った。

そして、その夜。

ドラゴンマスクから届いたメモには、一行だけ書いてあった。

『声は、走力を超える』

私は、しばらく、その文字を見ていた。


                       明日につづく

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