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生まれ変わっても、私はあなたの幸せを心から願う  作者: Kouei


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第9話 知りたかった言葉 (side:アーティー)

『私、ルナです!』


 嘘だ!


『前世は黒い犬でした』


 嘘だ嘘だ!!


 何を言っているんだっ あの令嬢は!


 前世!?

 彼女はルナの生まれ変わりだと言うのか!?

 馬鹿馬鹿しい!



 そう思いながらも否定しきれない自分がいる。

 ルナディア嬢から逃げるように馬車に乗り込むと、僕は彼女の言葉をずっと反芻していた。



 ――――そう…令嬢が言った事は全て本当の事だ。



 ルナと僕の数々の思い出。


 何よりも…ルナが死んだ時の事まで…


 父に何度も殴られ、血塗れになったルナ。



『…ワ…ゥ…ッ…クゥ…ン…アーゥ…ン…』



 ルナの最期の声。

 苦しそうに何かを言っているように聞こえた。


 あの時、ルナは何と言ったんだろう。

 その事が頭からずっと離れなかった。



『ごめんね、一人にしてっ 大好きだよ、アーティーッ 最期に私はそう言ったの!』



「ルナ……」



 僕は名前を呟きながら、ルナと初めてあった日を思い出していた―――――



 川で溺れていた黒い犬。

 周りに親犬はおらず、連れて帰って来た。


 母は早くに亡くなり、父は母の死を待っていたかのように愛人と異母弟を本邸に招き入れ、僕は離れへと追いやられた。


 傍にいてくれたのは、母が実家から連れて来た侍女のノーラ。先代であるお祖父様に仕えていた使用人のトム、料理人のレイ。


 父には疎まれ、僕を愛してくれた母はいない。

 使用人たちは割に合わない環境にも関わらず、僕を大切にしてくれた。

 亡くなった母への恩義に…亡くなった祖父への忠義の為に…

 

 助けてくれる人はいた。

 けれど……寂しかった。


 そんな時に出会ったのが、ルナだった。

 初めての友達。


 楽しい時、嬉しい時、

 いつも一緒に笑いあった。


 悲しい時、つらい時、

 いつでも傍にいてくれた。


 ルナはまるで言葉を理解しているかのように、僕の気持ちに寄り添ってくれた。

 僕を守るように常に隣にいてくれた。


 ルナの存在が僕の孤独を満たし、どれだけ救いになった事だろう。

 この穏やかな時間がずっと続くと思っていた。



 あの日、ガルベスがルナを連れて行こうとしなければ…



 ルナを助けようとしたが、逆にガルベスに暴力を振るわれた。

 そして…


「ウウゥッッ ガウゥッ!!」


「わああああ!! 痛い痛い痛いいいぃい!!!」


 僕を守ろうとして、ルナはあいつの足に噛みついた。

 だが、次の瞬間…



「キャイン!」


「ル、ルナ———————ッッ!!!」



 悲痛な叫び声を挙げたルナ。

 あの声は決して忘れない。



「このぉ! 畜生の分際で!!」


 そう言いながら、父は何度もルナを殴りつけた。


「ルナ!! や、やめて下さいっ 父上! やめて! ルナを殺さないで! やめてええええ!!」


 父は僕の言葉を聞いてはくれなかった。

 繰り返しルナを殴りづける父。


 ルナが動かなくなると、父上はガルベスを抱きかかえた。


「すぐに医者を呼べ!」


 使用人たちが慌ただしく動き出す。

 父はガルベスを連れて去って行った。


『畜生の分際で!』


 父が吐き捨てた言葉に怒りを覚えた。

 ルナを殴りつけた父に、初めて殺意を抱いた瞬間だった。

 そんな僕を止めるかのように、弱々しく僕の手を舐めるルナ。


「ル…ルナ…っ 死なないでっ ぼ、僕を…一人にしないで……っ」


 僕一人では重くてルナを抱きかかえる事ができない。

 誰かを呼びにいけば良かったが、血塗れになったルナを置いて離れる事ができなかった。

  

「ルナ…ルナ…っ」


 泣きながらルナの頭を何度も撫でる。

 少しでも痛みがやわらぐように…


「…ワ…ゥ…ッ…クゥ…ン…アーゥ…ン…」


「ルナ…? 何!?」


 ルナが何か話しているようだった。

 けど、わからない…っ…



 そして—————…

 それがルナの最期の声だった。



「…ルナ…? お、お…きて…ルナ…やだ…よっ…一人にしな…で…っ…ルナ…ルナ…ル…ッ…ルナあああああ!!!!」


 動かなくなった血塗れのルナを抱き締め、僕は名前を呼び続けた。

 ノーラ達が探しに来るまで、僕はルナを放さなかった。


 ルナはいつも僕を守ろうとしてくれていた。

 なのに、僕は何もできなかった…っ

 ルナを殺されたのに、僕は何もできない!



 許さない……っ

 父を許さない!

 義母(バロッサ)異母弟(ガルベス)を許せない!

 なにより…ルナを守れなかった自分が許せなかった!!



「ル…ナ…ごめ…ね…守って…あげ…れな…て…っ ……ごめ…!」


 いつも傍にいてくれたルナ。

 いつでも…僕のために……最期まで……




『ごめんね、一人にしてっ 大好きだよっ 最期にそう言ったの!』




 彼女の言葉が、脳裏に浮かんだ。


 あの日…夜会の廻廊で初めて彼女を見た時、本当はひどく懐かしい気持ちになったんだ。


 真っ黒な髪に、明るい金色の瞳。

 ルナの姿と令嬢の姿が重なる。

 

「…同じ色だな…」


 思わず呟いた。

 


 ガタン



「…着いたか」


 小さな窓からは、見慣れた風景が見えた。


 ガチャリ


 馬車の扉が開くと、僕は外に出た。

 そこにはいつも通り執事が出迎えて……



「おかえりなさいっ アーティー!」



 目の前には艶やかな長い髪を(なび)かせ、黄金の瞳を輝かせながら令嬢が立っていた。


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