第8話 私、ルナです!
「私、ルナですっ 私の前世はあなたの黒い犬だったんです!」
「……ぜ…んせ…?」
アーティーの綺麗な青い瞳が一瞬見開いた後、すっと細めた。
信じていない
それどころか怒っている
「…あなたがなぜ、私の愛称を知っていたのかお聞きしたかったのですが…それは話したくないという事でしょうか?」
「ちがうっ 本当に私は…「やめて下さい!」
ガタン!
「もうお会いする事は二度とありません。突然の訪問、大変失礼いたしました」
「待ってっ」
完全なる拒絶。
私に背中を見せ、歩き出すアーティー。
どうしようどうしようどう……
「―――――足が付くから暴れないで」
その言葉に、アーティーの足が止まった。
「あなたは川で溺れた私を助けてくれた、それが初めての出会いだった。それから私は水が苦手になったけど。そんな私を一生懸命水に慣れさせようとしてくれたよね? 私…暴れて練習にもならなかった…ふふ。ルナって名前は金色の目を見たあなたが月みたいにきれいだって言って…そこから名付けてくれた」
アーティーは振り向かない。
けれど背中で私の言葉を聞いている。
私はふたりの想い出を話し続ける。
「あとは猫も苦手だった。遊んで欲しくて付きまとったら、思い切り鼻を引っ掻かれて…。私痛くて泣いていたのに、アーティーは犬が猫にやられるなんてカッコ悪いなって笑ったわ…」
アーティーが両手を握り締める。
覚えてくれていた。
あと…この事を話せば、きっと信じてくれる。
私がルナだと。
「……死なないで…僕を一人にしないで…それが私が最期に聞いた言葉…あなたの青い瞳から流れる涙…それが最期に見た光景…あなたの小さな手が…何度…もわた…の身体を撫でた…そ…が…最期に…感じた…温もり…」
声が震える
涙が溢れる
あなたと別れるあの瞬間…
胸が引き裂かれる思いだった
死にたくなかった。
アーティーと離れたくなかった。
命の灯火が消える瞬間まで、あなたを感じていたかった。
両手を握り締めたアーティーの手が震えている。
一瞬、アーティーが顔を横に向ける。
けど、すぐに前を向いてまた歩き出した。
行ってしまう!
「―――――っ! ごめんね、一人にしてっ 大好きだよ、アーティーッ 最期に私はそう言ったの!」
「!!」
アーティーは弾かれたように、私の方に振り向いた。
泣きそうな顔をしながら私を見ている。
最期に見た小さなアーティーと重なる。
けれど、アーティーはその場から走り去った。
私は去っていく彼の後ろ姿をただ見つめていた。
涙でその姿が見えなくなっても…




