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生まれ変わっても、私はあなたの幸せを心から願う  作者: Kouei


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第7話 アーティーの訪問

 屋敷に戻り、私は部屋の窓から夜空を眺めていた。 

 

 さっきのご令嬢は確かに、アーティーではない男性といちゃいちゃしていたわ。

 あれって、浮気よね?


 アーティーがいるのに…っ

 あんなに素敵なアーティーがいるのに!

 絶対に許せん!!!


 私は部屋の中をイライラしながら回る。


 ―――とは思うもの、さてどうしよう。


 あんな令嬢と結婚しても、アーティーは幸せになれない!


「……でも、まずは…」


 私はソファに座り、クッションを抱き締めた。


「……アーティーと話がしたい…っ どうすればいいかな?」


 仰向けに倒れ、天井を眺めながらぶつぶつ呟き始めた。


「失礼な態度を取った事に対するお詫びの手紙とか…って、失礼だったのはあの香水女じゃないっ 人を突き飛ばそうとしてっ! も~うっ、うちに招待する口実なんかないかな〜っ うーん…いっその事、アーティーのお屋敷の周りを何度かウロウロしていれば、会えるよね? その時、偶然を装って…『ごきげんよう』って……それは…怪しいすぎるでしょうっっ は〜っ……」


横になったまま目を瞑る。

さっき見たアーティーの姿が浮かぶ。


アーティー…大人になっていた…

最期に見たのは7歳のアーティー。

今は…22歳。

婚約者がいて当たり前よね。


で、でもっ あの女はだめ〜~っ!


私はソファの上でジタバタする。


コンコンコン


「どうぞ」


 私はノックに応える。 


「お嬢様、アラン・コンラッド様から先触れが届きました」


「アラン…コン……アーティーから!?」


 私は飛び起き、侍女に駆け寄る。


「は、はい。明日お昼過ぎ頃に到着のご予定です」


 私の勢いに一瞬たじろぎながらも、内容を伝える侍女。


 アーティーに会える!


 私は彼に会えるという喜びが大きく、一番当たり前で、一番大事な事を失念していた。



 今の私は『人間』だと言う事に…



 ◇



 翌日、私は朝からそわそわしていた。

 お昼が近づくにつれて、身体が落ち着かない。


 私はエントランスでアーティーの到着を待ち()びていた。


「…ルナディア様。コンラッド様がお見えになりましたら、応接室にご案内いたしますので…」


 執事が部屋へ戻るように促しているのが分かる。


「そうね…」


 淑女がエントランスでウロウロとしているなんてはしたない。

 お母様がいらっしゃったら、注意されてしまうわ。

 お父様とお出かけされていてよかった。


 一旦は部屋に戻ろうかと思ったけれど、くるりとUターン。


 馬車の音だ!


「ル、ルナディア様っ」


 執事の声を無視して、バタン!と扉を開け、外に出る。

 丁度その時、コンラッド家の紋章が入った馬車が到着した。


「アーティー!」


 私は馬車から下りて来たアーティーに駆け寄った。

 そんな私に向けたアーティーの目は、冷たかった。


「え……」


 私は彼から一歩後ずさる。


(怒ってる? なんで……)


 何も言えずにもじもじしていたら、執事が声を掛けてくれた。


「ようこそお越し下さいました、コンラッド様。お部屋へご案内いたします」


 ハッと気づき、私もあわてて応接室へと促す。


「ど、どうぞ、こちらです」


「…申し訳ありませんが、庭園にあるガゼボでお話させていただけませんか?」


 感情のない瞳で、私に問いかけるアーティー。


「え…あ、はい。かしこまりました」


 私は庭園へとアーティーを案内した。


 警戒している……

 …分かる。空気を感じるもの。

 アーティーの神経がピリピリしている。

 

 ガゼボのテーブルに並べられた紅茶と焼き菓子。

 彼はそれには一切手を付けず、私を凝視している。

 侍女は距離を置いて控えているから、私たちが見つめ合っていると思っている事だろう。


 アーティーの鋭い視線を見たら、誰もそうは思わないでしょうけど…


「………誰に聞いたんです」


「え? な、なんの事ですか?」


 アーティーが何について聞いているのか分からなかった。


「先程、僕の事を愛称で呼びましたよね? それだけではない。昨夜、夜会でもアーティー…と」


「だ、だって、アーティーだからっ」


 答えになっていない事はわかってる。

 でもそれ以外の言葉がみつからなかった。


「その名で呼ぶ事を止めていただけますか? どこで聞いたか知りませんが、その名前は大切なものにしか呼ばせていません。それにあなたはあまりにも不躾(ぶしつけ)すぎる。あなたとは昨夜、夜会で初めてお会いしました。なのに一切の礼儀を(わきま)えず、馴れ馴れしい口調に不快を覚えます」


「!!」


 あ…

 そうだった…私…今はルナじゃない。

 人間のルナディアだった……


 わかっていたけれど……どうしてだかアーティーなら気づいてもらえるんじゃないかって…わかる訳ないのに…



 犬と人間。



 ただ、髪の色と目の色が同じだけ。

 ここで『私の前世はルナだったんです!』と言ったとしても信じてもらえるはずがない!

 ……でも……



 …私はすぐにアーティーに気が付いたよ…気づいたのに…アーティー……っ



 最期に見た光景は忘れられない。

 泣きながら私の名を呼ぶアーティー



『ル…ルナ…っ 死なないでっ ぼ、僕を…一人にしないで……っ』



 いつまでも尽きる事のない涙。

 あなたの小さな手が何度も私を優しく撫でる。


 ずっと一緒にいたかった。

 あなたを幸せにしたかった。


 大好きな大好きなアーティー…

 


「…れ、令嬢っ!?」


「…ふぅぐぅっっ…」


 泣くまいと目を見張り、唇を噛みしめ我慢を試みるも、涙は遠慮なく溢れ出す。

 私を見ているアーティーが狼狽(うろた)えている。


「い、言いすぎましたっ 申し訳ありませんっ な、泣かないでいただきたい…っ」


 アーティーはあわてて胸元からハンカチーフを取り出し、私の方へと差し出した。

 私はハンカチーフを受け取り、涙を抑える。


 アーティーは自分の言い方に私が傷ついたと思っているようだ。

 半分そうだけど、半分は違う…


 今は私が『ルナ』と言っても信じてもらえない。


 とりあえず、ごまかそう。

 けど、なんて言い訳すればいいんだろう。


 初恋の人とそっくりだったんです?

 知り合いと間違えました?


 「………っ」


 私は両手を握り締め、アーティーを見つめる。




「――――――――ルナです」




「え?」


「私、ルナですっ 私の前世はあなたの黒い犬だったんです!」



 言っても信じてもらえないだろう。

 だけど、やっぱりあなたに信じて欲しい!


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