第6話 再会
「…思い、…出した…っ …そして…今度は人間になったんだ…私…」
どうして、突然思い出したのだろう。
今までずっと忘れていたのに……
原因と思えるのは『匂い』
さっきの男女から微かにアーティーの香りがした。
あの二人は一体誰だろう?
…私が死んで15年。
アーティーは22歳になっているはず。
もう結婚したのかな?
幸せに暮らしているのかな?
近くにいるのなら一目でもいいから会いたい。
幸せに微笑んでいる顔が見たい。
この会場のどこかにいるの?
私は涙を拭きながら会場内へと戻り、アーティーの香りを探した。
人込みの中、匂いが入り乱れている。
香水や葉巻、食べ物やお酒の匂い。
うっ…交ざりすぎて無理……
コルセットの締め付けが、その気持ち悪さを倍増させる。
「ちょ、ちょっと一旦外に…」
私は今来た通路をまた戻り、廻廊に出る。
「ふぅ…」
夜の冷えた空気を吸うと、少し楽になった。
そういえば…子供の頃から、やたらと耳と鼻がきいたわ。
かけっこもいつも一番だった。
全部『ルナ』の影響なのかな?
見上げると夜空には金色に輝くお月様。
アーティーの髪の色と同じだわ。
そして、『ルナ』の名前の由来。
私が死んだあと、どうなったのかな?
アーティー…きっと泣いたよね。
たくさん泣いたよね。
「会いたいよ…アーティー……」
私は切ない気持ちを抱きながら、アーティーの顔を思い浮かべた。
月の明るさがアーティーを思い起こさせ、ますますその想いが募る。
「………っ!」
ハッとし、顔を上げる。
アーティーの匂いだ!
どこ?! どこ!!
私は香りの行方を捜しながら、頭を振る。
廻廊にある柱二本向こうに、夜空を仰ぎ見ている金髪の青年。
彼を目にした瞬間、時が止まった—————…
私は彼のところへゆっくりと近づく。
私の気配を感じて、彼が私の方を見た。
彼は私の顔を見て、驚いているようだった。
大人になった風貌に子供の頃の面影はなかった、でも分かる。
きらきらの金髪
きらきらの青い瞳
そしてこの香り——————…
忘れもしない大好きな人。
「…アーティー…」
名前を口にした途端、両目から涙が溢れた。
「え…?」
私に名前を呼ばれ、戸惑っているアーティー。
「…あ、会いたかった…っ アーティー…ッ 私ですっ ル「あなたっ 私の婚約者に何しているのよ!」
声とともにこちらに手を向けて近づいて来る人間の気配。
ひょいっ
「きゃあ!」
ドサリ!
私の足元で、四つん這いになっている令嬢。
なぜか私を突き飛ばそうとしたからとっさに避けた。
(今この人、“私の婚約者”って……)
「…大丈夫ですか? ヘリン嬢」
アーティーが事務的に、彼女へ手を差しのべる。
すると私を指差し、言いがかりをつけて来た
「ア、アラン様っ い、今この女が私の足を引っかけて…っ!」
「は?!」
あなたが私に向かってきて、勝手に倒れただけで…ん?
「あ————! あなたさっき庭園で!!」
私は彼女に指をさしながら、声をあげた。
クンクン、間違いない!
さっき庭園のガゼボで、アーティーじゃない男の人といちゃついてた香水女!!
私の言葉にギクリとした表情を浮かべる令嬢。
あわててアーティーを引っ張り始めた。
「い、行きましょうアラン様! こ、この人、何だか変だわっ」
令嬢の焦りが言葉から伝わる。
「…待ってくれ。私はアラン・コンラッドと申します。あなたのお名前を聞かせていただけませんか?」
「ア、アラン様!?」
香水女が咎めるようにアーティーの名前を呼ぶ。
「ルナ…ディア・カルテノと申します」
私は礼を取りながら、名乗りをした。
「……」
「!」
アーティーの唇が微かに動いた。
私は囁いた言葉を聞き逃さなかった。
(ルナ…)
確かにそう言った。
「も、もう行きましょう! アラン様!」
アーティーをぐいぐいと引っ張っていった香水女。
私は訳が分からなかった。
あの人がアーティーの婚約者?!
じゃあ、さっき一緒にいた男の人は何なの??
あの令嬢は、アーティーの婚約者のくせに、別の男とつきあっているって事!?
えええええええ!!!




