第15話 父への断罪(side:アーティー回想)
【注意】
※残酷描写があります。
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父上にルナを殺されてから、僕の心は父への憎悪しかなかった。
成人を迎えると、僕は前から計画していた事を実行した。
父から当主の座を奪い、義母と異母弟を追い出す事を。
まさか僕がこんな事を考えていたとは夢にも思っていなかっただろうな、父たちは。
だから呑気な毎日を暮らしていた。
僕にした仕打ちなど忘れて…
予定通り、うるさい親子は追い出した。
あいつらは父が逃げたと思ったようだが、前日に別の場所に運び出していた。
さて、次は父上の番だ。
◇
「ん……」
「気が付いたか」
「アラン…? ん…? ……っ! な、なんだっ ここは!!」
父上は自分の状態を見て、一気に目が覚めたようだ。
首から下は地面に埋められ、動かせるのは頭の部分だけ。
こんな状態じゃあ、誰でも驚くだろうな。
さっきまで執務室にいたのだから。
そこに突然現れた僕とレイ、そしてトムとターラを見て戸惑っていたな。
トムが素早く父に当身を食らわせ、気絶させた。
さすが元護衛騎士だ。
侯爵家には非常用に備え、いくつかの隠し通路がある。
お祖父様の執事だったレイが案内してくれた。
お陰で誰にも見られず、父を運び出す事ができた。
僕は今、その父の目の前で胡坐を掻いて座っている。
「だ、出せ! 早く出すんだ!! お、おまえは…っ 息子のくせに父親をこんな目に遭わせるとは! やはりおまえは出来損ないだ!」
「…この状態でも悪態を付けるとは大した度胸だよ。だが、それもいつまでもつかな? この場所、わかるか?」
「え?」
父は、僕の言葉にぎこちなく首を動かした。
「ここは町の外れにある北の森だ。あんたは罪から逃れる為に、行方を晦ますんだ」
「つ、罪!? な、何を言って……」
「あんたは国に納めるべき税を過少報告し、その差額で私腹を肥やし、愛人と異母弟に浪費していた」
「これが証拠だ」
裏帳簿を目の前に突き付ける。
「そ、そんな帳簿は知らん! わ、わしはそんな事はしておらん!!」
「知ってるよ、偽造したからね」
「偽、偽造!? おまえにそんな事ができるはずないだろう!」
「まぁ、確かに。だからレイに頼んだんだ」
「レイ?」
「お祖父様が頼りにしていた優秀な執事をしていた人だよ」
「あ、あいつが…!」
苦虫を噛み潰したような表情を見せている。
「これを証拠に国へあんたを告発した。嫡男である僕が告発し、領地を一部返還して献金した事で家名を守る事はできたよ。あんたは逃亡した事になっているけど…それももうすぐ終わる…」
「な、何を…何を言っているんだ! アラン!!」
「…そろそろ日が暮れる。獣たちの時間だ」
僕は薄暗くなり始めた空を見上げながらこの男へ、死へのカウントダウンを予告した。
「ア、アランッ いい加減にしろ! 早くここから出せ!!!」
「………」
僕は黙って父を見つめる。
バロッサとガルベスの事は頭に浮かばないのか。
控えめな母とは真逆で、バロッサは派手で妖艶な容貌だ。
そんな平民女に惹かれ、母を裏切ってまで手に入れたのではなかったのか。
……しょせんこいつは、自分が一番大事なんだな。
「―――――た、頼む…助けてくれ…っ ここから出してくれぇ! 謝る…っ 今までお前を蔑ろにしてきて…本当に悪かったっ 土下座でも何でもするっ だ、だから助けてくれえぇ!!」
父上は僕が本気だと言う事にようやく気が付いたようだ。
涙と鼻水をたらしながら、命乞いをし始めた。
無様な…
「確かに…母上を蔑ろにしてきたあんたをずっと憎んでいたよ。けれど殺意までは持っていなかった。ルナを殺しさえしなければ!」
「ルナ? だ、誰の事だ…っ」
「……ぷっ あははははは! そうか、あんたは覚えてさえいなかったんだな」
「な、何の事だっ 教えてくれ! あ、謝るから! だから殺さなっ「必要ない」
「死ぬ理由なんて知らなくていいんだよ。それに殺しはしない、僕はね」
「……え? どういう意味だ…」
僕の言葉に父上は違和感を持ったらしい。
それくらいの頭はあるんだな。
べちゃべちゃっっ
「うわっ ぷ! な、なんだっ!」
僕は手に持っていた革袋の中身を父上の頭にぶちまけた。
「血も滴る生肉だよ。しばらくすれば、匂いを嗅ぎつけて獣たちがやってくるだろう」
「な、なっ! や、やめてくれ! 頼むから助けてくれ! アラン!!」
僕は馬に飛び乗り、父上を見下ろしながら別れの言葉を告げる。
「くたばれ」
馬の腹を蹴り、僕は駆け出した。
「い、行かないでくれっ 助けてくれ…っ 助けてええええええ!!!」
助けを呼ぶ父の声に何の感情も湧かなかった。
あんたは『ルナ』をなぶり殺しにした。
あの時の光景を忘れた事などなかった。
“やめて”と言った僕の言葉は一切聞かず、何度も何度もルナを殴り付けるあんたの姿を。血塗れになって死んだルナの姿を……
あんたにとって『ルナ』は畜生だろうが、僕にとっては何よりも大切な存在だった。
母を裏切り愛人に子供を産ませていたあんたは、母が亡くなった途端、僕を離れへと追いやり、愛人とその息子を本邸に招き入れた。
ルナはそんな僕の孤独を埋めてくれたんだ。
あんたから父親としての愛情を受けた事はただの一度もない。
だから、あんたより『ルナ』を大切に思う事は至極当然だろう?
母を裏切った事への……ルナを殺した事への復讐。
その身をもって、思い知るがいい。
「待たせた、すまない」
「「「とんでもないことでございます」」」
森の入口では、レイとトムそしてターラが荷馬車の傍で立って待っていた。
「さあ、帰ろう」
今回の件では、三人に助けられた。
いや…母を亡くし、本邸から追い出されたあの日からずっと……
「ぎゃああああああああああああ!!!」
しばらくすると、遠くから父の断末魔が聞こえた……気がした。
◇
ガタン
馬車が止まり、ハッと現実に引き戻される。
外に出るとルナが出迎えてくれた。
「アーティー、いらっしゃい!」
まさかまた『ルナ』に出会えるとは思わなかった。
この奇跡を…もう決して放しはしない。




