第13話 仕組まれた婚約破棄(side:アーティー)
バン!!
「きゃあっ!」
「うわぁっ!」
いきなり扉を開けられて、叫び声を上げる男女。
二人は寝台の上で、裸で固まっていた。
そこにはいたのは、僕の婚約者であるヘリン・アルゲオとロジュ・オドゥール男爵令息。
ここは僕の知人である伯爵家で行われている晩餐会。
僕は婚約者のヘリンを連れて出席した。
ヘリンは「知り合いに挨拶をしてまいります」と席を立ったので、僕は知人たちを引き連れて飲み明かそうと、この部屋にやってきた。
するとこの有様だ。
「あの女性は…コンラッド侯爵の婚約者ではないのか…?」
「相手の男性は…オドゥール男爵家の…っ」
僕の後ろで騒めきが起こる。
「これはこれは、我が婚約者とオドゥール男爵令息ではありませんか。こんなところで何をされているのでしょう?」
僕は事務的に、婚約者であるヘリンに問い質した。
「ア、アラン様っ こ、これは…っ…」
シーツで胸元を隠している婚約者。
真っ青な顔をしながら言葉を探しているようだが、どんな言い訳もこの状況をごまかす事は不可能だろう。
「そもそも、婚約者がいるにも関わらず他の男に肌を晒すなど。君が娼婦だったとは恐れ入った」
「ア、アラン様…っ! ち、ちが…っ」
ガタガタと震えながら僕の名を呼ぶ婚約者。
「も、申し訳ございません! コンラッド侯爵!」
男爵令息が、寝台の上で平伏す。
謝罪の仕方も知らないのか。
「ああ、謝罪は結構。許すつもりは毛頭ありませんから。侯爵家が侮辱されたんです。それ相応の覚悟があっての事でしょう、ねぇ? 婚約者殿」
「あ…ああ…っ アラン様! お、お許し下さいっ わ、私は…か、彼に無理矢理…っ」
「な、何を言っているんだ! 誘ってきたのはそっちだろう!」
「嘘言わないで!」
見苦しい言い訳。
責任の擦り合い。
見苦しいにもほどある!
ガッシャーン!!
「きゃああああ!」
「ひえええぇ!」
僕は傍にあったワイングラスを壁に投げつけた。
「――――静かにしろ。おまえたちの言い訳に興味はない」
僕は二人を見下ろしながら警告した。
ただでさえ、こんな奴らの為に使っている時間がもったいない。
さっさと終わらそう。
「「……」」
二人は半裸状態で紙のようになった表情で、震えている。
「何をしている、早く出て行け。婚約破棄に関しては、今後は弁護士が対応する。そしてオドゥール男爵令息。そちらにも慰謝料の件で弁護士を向かわせるからそのつもりで」
「ま、待って下さい! い、慰謝料なんて…っ!」
「―――――出て行け」
僕は二人を睨みつけた。
「「ひっ!」」
二人とも小さい悲鳴を上げて、寝台から下りようとしたが動きが止まる。
自分たちの状態を思い出したのだろう。
もじもじしている二人。
「何をしているさっさと寝台から出ろ」
二人は遠慮がちに答える。
「そ、その…服を…」
「…早く出て行けと言った。君たちは僕に、服を着終わるまで待てと言うのか?」
「で、でも…その…っ」
「この二人をすぐに追い出せ。今すぐにだ!」
使用人たちは寝台から二人を引きずりだした。
「きゃああああっ ま、待って! やめて!!」
「ま、待て! は、放せ!」
裸で部屋を引きずり出される二人。
「そのままではさすがに、他の方々の目に毒だろう。ほら、このシーツを一枚くれてやる。皆様の前にその姿を晒し、正面玄関から出て行け!」
バサリッと一枚のシーツが二人の頭に落ちる。
「そ、そんな……」
二人は絶望した顔で僕を見上げた。
使用人たちに連れ出される愚かな二人は、まだ外で何やら喚いている。
余計目立つと言うのに。
下には大勢の貴族たちがいる。
明日にはこの醜聞を知らぬものはいないだろう。
「いろいろ迷惑をかけたな」
「これで良かったんだろ?」
僕はこの晩餐会の主催者である伯爵に礼を述べた。
彼は面白そうに口元を上げる。
僕もつられて笑った。
うまくいった。
わざわざ婚約者をこの晩餐会に連れて来たのはこの為だ。
今回主催者である伯爵に、男爵令息を招待するように頼んであった。
伯爵家に招待されたら、喜んで出席するだろう。
会場でヘリンがオドゥールをみつければ、近づく事も予想できた。
媚薬入りのグラスをそれぞれに渡すよう、給仕係に指示。
あわせて二人を部屋へ誘導するように手配していた。
あとはそこで勝手に盛ればそれでいい。
そして僕が知人たちを引き連れて、目撃させればジ・エンド。
元々、あの令嬢の事などなんとも思っていなかった。
ただの政略だ。
二十歳を過ぎても独身のままだと、さすがに世間体が悪い。
全く…適齢期を過ぎても独り身の者を変人扱い、愛人がいても既婚者ならまとも。
世間のこの認識は改めた方がいいと思うがな。
ともかく、それは侯爵家とは言え例外ではない。
だからあくまでも、お飾りの妻にする予定だった。
子供は養子をもらうつもりだったし。
けれど、お飾りとは言え、淫乱女と結婚するつもりはさらさらない。
それにもう…政略結婚をするつもりはないしな。
僕にとって大切なのは、『ルナ』。
その為にもあの女はもう邪魔だ。
「さて、ルナに会いに行こう」
僕は先触れを出し、会場を後にすると、馬車に乗り込んだ。




