第11話 分かり合えた想い
「今も猫が苦手なんだな。………ルナ」
面白そうにアーティーが笑っている。
アーティー……今……
「近くの知り合いに飼っている人がいて、借りて来た。ずっと驚かされっぱなしだからその仕返しっ 驚いた?」
アーティーはいたずらっぽく笑った。
「………ア、アーティー…ルナって…今、私の事…ルナって…」
「姿が変わっても髪と瞳の色は変わっていないね、ルナ」
「アーティーッッ!!!」
「ルナ…ッ…」
私は泣きながらアーティーに抱きついた。
懐かしい匂い。
姿は大人になってもこの匂いは変わらない。
私の髪に触れる手が優しい。
あの頃よりずっと大きくなった手。
身体も私一人すっぽりと隠れるくらい成長している大人の…男のひ…!
「―――っとおぉっっ!! ひゃっ! ご、ごめんねっ いきなり抱きついちゃって!」
私はあわてて身体を放し、涙を拭う。
私は今、人間の女性なのに、男の人に抱きつくなんて…っ
鍛えられた逞しい胸に大きな手。
身長は私の頭一個分高くて…もう小さなアーティーじゃない。
そう思ったら突然恥ずかしくなって、急に『ルナディア』の感情が溢れ出す。
アーティーは指でそっと私の涙を拭ってくれた。
そして私の顔を両手で包むと、こつんとおでこをあてた。
「……ごめんっ…ルナ…ッ 守ってあげられなくて…助けてあげられなくて…ごめんっ…僕のせいで…っ」
アーティーは手が震えている。
私はそっとその手に触れた。
「ちがうよ、アーティーのせいなわけないじゃないっ!」
「…ルナ…」
「あれはどう考えてもアーティーのお父さんが悪い! ガルベスが悪い!!」
アーティーの手を握りながら、頬を膨らまして文句を言う私を見て、ふっと柔らかい笑みを浮かべるアーティー。
「あ、そう言えば、アーティー、お父さんや赤毛親子と一緒に暮らしているんだね」
その時なぜか一瞬だけ、アーティーの空気が張り詰めた。
なんで?
「………いや…本邸に住んでいるのは僕だけだ。父は問題を起こしてね、今は逃げて行方不明、義母と異母弟は追い出したよ」
アーティーはそっと手を下ろし、部屋の中に戻った。私もその後を付いていく。
「そ、そうなんだ!」
私は、思いもしなかった現状に驚いた。
アーティーのお父さんは行方不明、赤毛親子はこの家から追放。って言う事は……
「アーティーが当主なの?!」
「何を今更。分かっていると思ってた」
「え、だってそんなの聞いてなかったからっ そうなんだ~… あ、そういえばノーラも昔と変わらず侍女として働いているのねっ さっき会って前のように話しかけそうになっちゃった」
「ノーラは今、侍女長だよ。レイに言ってノーラにお茶を運ぶように指示したんだ。ルナがどんな反応するかなって。戸惑っていたのはノーラの方だったけど」
「じゃあ、トムは?!」
「トムはコンラッド家の護衛騎士の騎士長をしているよ、そろそろ引退するか~っなんて言ってるけど。今は部下たちの稽古中だろうな。他の使用人たちは僕が当主になった時に一新したんだ」
「そうなんだ。そもそも二人ともアーティーのおじいさんに仕えていて…レイは有能な執事だったし、トムも護衛騎士をしていたもんねっ 良かった、みんな元気で。嫌な奴らがいなくなって、良かったねっ アーティー!」
「…そうだね」
私は小さなアーティーがどんな生活をしていたか知っている。
だから今、アーティーを苦しめたやつらがいなくなり、アーティーを支えてくれた人たちが変わらずいてくれたことがとても嬉しい。
「ところで…」
アーティーが私をソファに促し、並んで座りながら話し始める。
「なんでもっと早く会いにきてくれなかったの?」
「あ、それはねっ 『ルナ』の記憶を思い出したのがつい最近なのっ ほら、アーティーと会った夜会の日、庭園で…っ…あ!」
「あの夜会の庭園? …………ルナ?」
私が話を途中で止めて、アーティーが訝しむ。
話を促すように私の顔を覗き込むアーティー。
どうしよう…
まさか…『アーティーの婚約者が不貞している場面に遭遇して、その二人の匂いからアーティーの香りを嗅いで思い出したの!』……とは言えないわよね。
まぁ…あの時、婚約者が現れて思わず言いそうになってしまったけど…
本当の事を言うべき?
どうする? どうする、私。
私が黙り込んで悩んでいるとアーティーが聞いて来た。
「―――― 何か見たの? あの庭園で」
ギクリ!!
ど、どうしようっっ!




