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第九話「協力!!目指すはジェムエレメント!!」


夕刻(ゆうこく)の魔法界。

琥珀色(こはくいろ)に輝く夕日は、カラビーニア城を囲む湖の向こう側へと沈もうとしていた。

城の西側に立つ、一番高い塔の屋根に、数羽の(かささぎ)がとまっていた。

すると、塔の中から、強い光が溢れ出し、鵲たちは驚いて、その場から飛び立った。

西の塔の内部には、人間界へと繋がる扉である、黒い鏡があった。強い光はそこから溢れ出し、塔の内部中をまばゆい光でいっぱいにしていた。

鏡から溢れる光が弱まってくると、光は引き戻されるかのように、シュルシュルと鏡の中へ戻っていった。

光が止んだ西の塔は、先程と変わりなく、誰も寄り付かない闇の塔の姿へと戻った。

黒い鏡の前には、光と共に人間界からやって来た新志あらし、愛莉、コルザが、目を閉じて立っていた。

「………?」

辺りから光が消えていく気配を感じた二人と一匹は、恐る恐る目を開けた。

「…ここは…?」

「…なんか、薄暗くて寒いとこ…。魔法界に着いたの?」

新志と愛莉は、辺りをキョロキョロ見渡して、少し不安そうに言った。

コルザは、見たことのある光景に反応を示した。

「…ここ、僕が人間界へ送られる時に来たところだ…。この鏡、見覚えがある」

コルザは、目の前の壁に飾られた黒い鏡を指さして言った。新志と愛莉は、その鏡に目を向けた。

鏡はふちにガラス片が散りばめられ、光の当たり具合でその色を変えた。中心の鏡の部分は、真っ黒に染まっていて、まるで、覗く者を闇へと(いざな)うような心境にさせる漆黒の色だった。

新志と愛莉は、その鏡に近づいて、眉をひそめた。

「これ、鏡なの?」

「…映ることは映るけど…、なんか、真っ黒で見えにくいね。周りの飾りは綺麗だけど」

愛莉は、自分の顔を映しながら言った。

コルザは、ここが本当に魔法界なのか確信を得るために、四つん()いで窓へと駆けて行った。

壁をよじ登り、空洞になった塔の窓の外へと顔を出した。

「っ!?」

コルザの目には、見慣れた風景が映った。夕日が湖の中へと沈んでいくこの光景。彼にとって、この世界で好んだ景色の一つだった。久しぶりに眺める城からの景色に、コルザは懐かしさを感じた。

「…間違いない。魔法界だ…」

コルザは、湖から目を離すことなく、じっと眺めたまま言った。

「え?ほんと?」

新志と愛莉は、コルザの言葉を聞いて、彼のいる窓へと駆け寄った。

「わぁ!綺麗!!まるで海外みたい!!」

愛莉は、城から見える、夕日に染まった湖に感激し、手を合わせて言った。

「ほんとだ!そういえば、コルザ言ってたもんね。周りが湖だって。こんなに大きな湖見るの、僕初めてだよ!」

新志も感激した様子で、窓から見える一面の湖を見渡した。

「じゃあ、僕たち、とうとう魔法界にやって来たんだ!なんか凄いなぁ!」

新志は興奮して、窓の外の景色を見た後、塔の中に目を戻し、辺りを歩き出した。

「でもさ…なんだかここ、暗いね…。ここはお城の中なの?コルザ?」

愛莉も新志の後に続いて歩き出し、振り返ってコルザに聞いた。

コルザは、愛莉達の方へ顔を向け、頷いた。

「…うん。ここは、誰も寄り付かない、西の塔のてっぺんだ。僕も知らなかったけど、ここにあるこの鏡が、人間界への扉だったみたい。…バラノアはそれを知っていて、僕を人間界へと逃がしたんだ…」

コルザは、黒い鏡を見つめて、寂しそうに言った。

「…とりあえず…ここから出ない?なんかここ、怖いよ…」

いつもの様子と一転して、愛莉は新志に近づき、不安そうな素振りを見せた。

「あれ?愛莉ちゃんが怖がるなんて珍しいね」

新志は、からかうように愛莉に言った。愛莉は赤い顔でムッとして、新志の先を行き、下へと続くであろう階段がある扉の方へ向かった。

「フンだ!いいもん!なら私、意気地のない新志君なんて放っておいて、先に行くからね!」

新志は慌てて、愛莉の方に駆け寄った。

「ま、待ってよ愛莉ちゃん!一人で行ったら危ないよ!みんなで行かないとさ。ねぇ、コルザ。まず、どこへ行ったらいい?この扉開けたら、どこに着くの?」

新志は、城の内部を良く知っているコルザに、まず何をするべきか聞いた。

コルザは新志の方に駆け寄った。

「ここは最上階だから、まず下に行くしかないかな。…父様や姉様にバレると厄介だから、気配を消して、姉様達の部屋を通り過ぎるしかない。…とりあえず、パントラに会えればいいんだけど…。今頼れるのは、彼だけだ」

コルザは、考えながら言った。

「ぱんとら?」

新志と愛莉は、頭にハテナを浮かべて顔を見合わせた。

「あ、パントラはここの使用人で、僕の世話係をしてくれてるんだ。彼なら、きっと僕たちの事、信用してくれるはずだ。まずは、彼に会って、事情を話さないと」

コルザは顔を上げて、新志と愛莉に言った。

「よし!じゃあ、僕たちは、まずその人を探そう!」

新志は、愛莉に言った。

「うん!どこにいるか分かるの?コルザ?」

愛莉は笑顔に戻って言うと、コルザの方に顔を向けて聞いた。

「パントラはジュセ姉様の使いでもあるから、もしかするとジュセ姉様の部屋にいるかもしれない。…いや、きっといると思う」

コルザが確信を持って言うことに、新志と愛莉は疑問を抱いた。

「どうして分かるの?君の世話係でもあるんなら、君の部屋にいるかもしれないよ?」

新志はコルザに聞いた。

「…パントラは、ジュセ姉様の事がいつも気がかりで仕方ないんだ。僕の世話係の時もそうだったけど、魔法界に危機が迫っている今、彼が姉様から離れることは、ほとんどないと思う」

コルザは、パントラの心境を知っているようで、微笑しながら説明した。

「ふーん。そっか…」

イマイチ理解していない様子の新志だったが、コルザの言葉に相槌あいづちを打って返した。

「ねえねえ、ジュセお姉さんって、コルザが姉弟たちの中で、一番信頼しているお姉さんだったよね?」

愛莉は膝に手をついて、興味あり気にコルザに聞いた。

「そうだよ。ジュセ姉様は、僕と一緒にバラノアに育てられた、家族の中で、唯一心が分かち合える姉様だ」

コルザは笑顔で愛莉に答えた。コルザの言葉から、愛莉は、彼が早くお姉さんに会いたがっていることを察した。

「なら、私も会ってみたい!新志君、とりあえずその人の部屋に行ってみよう!」

愛莉はワクワクしながら、新志に言った。

「うん。そうだね!…莉々さんは、夜に来るから、それまで、そこにかくまってもらおう!」

「お姉ちゃんが来る前に、私達で何とか出来るかもよ!」

新志の言葉を聞いた愛莉は、莉々に対抗心を燃やして、自信満々に新志にもたれかかって言った。

新志はたじたじになりながら、苦笑いを浮かべた。

「…でも、気を付けて。ジュセ姉様の部屋に行くには、まず、ランバダ姉様とスヴァイ姉様の部屋の前を通らないといけない。気配を消して通らないと、姉様達にきっとバレてしまうよ」

「気配を消すって、どうやって?」

新志は、念押しするコルザに聞いた。

「そうだな…。魔法使い同士は、互いの魔力を感じ合う事が出来るんだ。…だから、一旦変身を解くっていうのはどうかな?君たちは人間界の人だから、変身していない時には、魔力は薄れるはずだよ」

新志は「なるほど」といった顔でコルザを見た。愛莉はコルザに聞いた。

「コルザは大丈夫なの?魔力を感じ取られたりしない?」

コルザは、下を向いて少し考えてから愛莉に答えた。

「…多分大丈夫だと思う。魔力が戻ってきたと言っても、以前のように戻ったわけじゃないから、姉様達には気付かれないと思う」

「じゃあ、平気じゃん!よし!それでいこう!」

愛莉は、持ち前の明るさを取り戻し、下へ向かう扉の取っ手に手をかけた。

「愛莉ちゃん、気を付けて」

警戒もなしに先へ進もうとする愛莉を、新志は心配して言った。

「………」

新志に言われた愛莉は、彼の言う通り警戒して、ドアの取っ手を握った。鉄製の少し重たい扉を、愛莉は力を入れてゆっくり開けた。蝶番(ちょうばん)がサビているせいか、扉は「ギイィィ」っという音を立てた。

扉の先を、愛莉と新志は、不安な表情で見つめた。

扉のすぐ先は石造りの螺旋らせん階段になっていて、下は薄暗く、どこまで続いているのか確認し辛かった。

「…どうしよ…。なんか出てきそうだ…」

愛莉は新志を見て、先へ進むのを躊躇ちゅうちょした。

「だ、大丈夫だよ!下に行けば、明るくなるよ。だって、コルザの家族やお使いの人達が、ここで暮らしているんだろ?」

新志は、愛莉を安心させるように、コルザに聞いた。

「うん。特にここは、誰も寄りつかない塔だからね。城の中心部に行けば、もう少し明るいよ。なんなら、僕が先に行こうか」

コルザは笑顔で二人に言うと、四つん這いになって、ぴょんっと階段を降りた。

「あっ、待ってよコルザ!」

愛莉は、慌ててコルザの後に着いて行った。新志は、力を入れて、開けたままの重たい扉を閉めると、二人の後を追いかけた。

二人と一匹は、螺旋状の階段を、しばらくの間ぐるぐると下りていった。

「…なんか、だんだん魔法界に来たって実感が()いてきた」

愛莉は、高鳴る心臓を抑えながら言った。

「僕も!なんかドキドキするなぁ」

新志は、辺りの石造りの階段や壁を見ながら、冷たい空間のスリルを楽しんでいた。

「もうすぐ中央の塔へと繋がる廊下の入口だよ」

コルザは振り向いて二人に言った。

二人は、階段の先に、入口のような空洞があることに気付いた。

「ここだね。…わぁ…」

廊下の入口に立った二人は、一体どこまで続いているのか分からないくらい長い廊下を、ただじっと見つめた。廊下の壁には窓があるが、外は日が暮れていることもあり、廊下の中は薄暗く、行く先は真っ暗で、何も見えなかった。

「暗っ!ここを進むの?…コルザ、こう言っちゃなんだけど、ここ、本当に人住んでるの?」

愛莉は、先程から明かり一つもない城内に不安を抱き、コルザに聞いた。

「う、うん…。でもおかしいな。この廊下はいつも明かりを灯しているはずなんだけどな…」

コルザも、いつもと様子の違う城内に、少しの疑念を抱いた。

「明かりって、これに?」

新志は、上部に等間隔に備え付けられた、ランタンを指さして聞いた。

「そうだよ。いつもはこの中のロウソクに火が灯ってるんだ。まだ火を灯す時間じゃないのかな?」

コルザは首を傾げた。

「なら、私がつけてあげよ!」

暗いのが苦手な愛莉は、パチンと指を鳴らして、ひらめいたように言った。


「トワール・ワイル・エトワール この廊下の全部のロウソクに火を灯して! アイリズ リベラシオン!」


愛莉は、杖の先を行く先に向けて、呪文を唱えた。杖の宝石はピンク色に光り出し、それと共鳴するように、廊下中のランタンのロウソクに、火が灯った。

廊下の内部は、不安な心を溶かすような暖かな光に包まれた。

「わぁ!さすが愛莉ちゃん!…えっっ!?」

新志は、愛莉の姿を見て驚いた。

愛莉の顔は、赤みを帯びたピンク色になっている。

「…ん?どうしたの?新志君?」

自分をじっと見つめる新志を不思議に思い、愛莉は聞いた。新志は驚いたまま愛莉に言った。

「ど、どうしたのって…、愛莉ちゃんこそ、どうしたの?その顔の色?…あっ!手も!足もだ!」

新志は、愛莉の体中をまじまじ見るように、彼女の周りをぐるぐる回った。愛莉も、自分の身体の色が変わっていることに気付き、驚いた。

「わっ!ほんとだっ!なんだこれっ!?」

コルザは、愛莉の身体の色の変化を見ると、ハッとして二人に言った。

「愛莉ちゃんの魔力が、魔法界で解き放たれたからかな…。魔法界の者は、それぞれ特有の肌の色を持っているんだ。きっと愛莉ちゃんは、魔法使いの血を引いているから、ここで魔法を使ったことで、その特性が現れたんだよ」

慌てている二人は、コルザの方へ顔を向けた。

「え?特有の肌の色?」

愛莉はきょとんとして、コルザに聞いた。コルザは頷いた。

「あ!そういえば、コルザも確か、肌は褐色だったもんね!…ふーん…」

新志は面白そうに、肌の色が変わった愛莉を、再度まじまじ見つめた。新志に体のあちこちを見られ、愛莉は、かぁーっと顔を赤くして恥ずかしがった。

「や、やめてよ!そんなに見るなーっ!」

「どうして?綺麗な色だよ?」

愛莉が嫌がる理由が分からない新志は、キョトンとして聞いた。

「綺麗」と言われた愛莉は、なおさら恥ずかしくなり、赤くなった顔を新志から背けて、先へ進もうとした。

「もう!いいから行くよ!新志君!!」

「あっ!待ってよ愛莉ちゃん!一人で先に進んだら危ないよ!」

新志は慌てて、先へ進もうとする愛莉に言った。

すると、廊下の向こう側から何かが近づいてくることに、二人は気付いた。

近づいてくるのは人影で、どうやら二人いるようだ。二人の「コツコツ」と響く靴音が、新志達の方に近づいてくる。

「……誰か来る…」

新志は警戒して、不安な顔をしている愛莉の前に立った。

魔力が完全に戻っていないコルザは、相手の魔力を読み取れず、目を凝らして警戒した。

「……っ!?」

人影がだんだん近づくと、その正体に気付いたコルザは、驚いた表情を見せた。

「…ま、まさか…っ!?」

「え…?」

コルザの反応に、新志と愛莉は、彼に目を向けた。

「…なぁに?炎の魔法の気配がしたから、例の小娘侵入者かと思って来てみたけど…。もっとガキんちょなのが現れたわ」

近づいてきた人物の言葉に反応し、新志と愛莉は、そちらに顔を向けた。

二人の影は、ロウソクの明かりに灯され、姿をはっきりと現した。

「ほんと!ただの迷子の子供じゃなーい!」

意外な所に現れたのは、カラビーニア家の長女ランバダと次女スヴァイだった。

「…姉様…」

コルザの呟きに、新志と愛莉はハッとして、目の前にいる二人を見た。

「子供ちゃん達、どこから来たの?駄目よ!無断でお城に入っちゃ!こわーい大魔王様に怒られちゃうわよー!!」

スヴァイはまるで小さな子に話すかのように、膝に手をついて、新志と愛莉に忠告した。

「……っ」

新志と愛莉は、馬鹿にしたように話すスヴァイを、警戒しながら見ていた。

「あんたら、迷い込んだわけじゃないんでしょう?こんなに警備が厳重な時に、ただの子供が入れるわけないわ…。きっと、アイツの仲間ね?」

スヴァイの前に出たランバダは、ジロッと睨んで二人に言った。新志達は、何も言えずに黙っている。

「……ん?」

すると、ランバダは新志と愛莉の間にいるドラゴンに気付いた。

「…キルスじゃない。なんでこんなところにいるのよ?」

「ほんとだ!キルスだわ!コルザのとこにいないと思ったら、こんなところにいたんだ」

うしろからひょこッと顔を出したスヴァイが言った。

三人は黙ったままだった。何も話そうとしない新志達に、ランバダはフッと笑った。

「あの小娘…。一人じゃ(かな)わないからって、まさかこんなガキんちょを仲間にするなんて…。相当落ちぶれたようね」

ランバダは微笑してスヴァイに言った。スヴァイは「キャハハハ」と声高らかに笑った。

莉々の事を言っているとわかった新志と愛莉は、キッと二人を睨んだ。

「…何よ?あんたら、私たちに(かな)うとでも思ってるの?それにしても災難だったわね。忍び込めた途端、私達と遭遇(そうぐう)しちゃうなんて」

黙って聞いていた新志は、しびれを切らして前に出た。愛莉とコルザは驚いて新志を見た。

「莉々さんを悪く言わないでよ!…僕たちは、君達と争うつもりなんてないんだ!だから、先を通して!」

勇ましい新志の様子に、ランバダはじっと目を向け、スヴァイは目を丸くして見ている。黙っているランバダとスヴァイに、妙な不安を感じた新志だったが、めげずに続けて彼女達に話しかけた。

「……あの…。君達、コルザのお姉さんだよね?…僕たちは、コルザのとこに行きたいんだ。…だから、通してよ」

すると、ランバダとスヴァイは、クスクスと笑い始めた。二人が笑い出す理由が分からない新志は、困惑した表情を見せた。

「フフフフッ、かっわいい~っ!!ねぇ、坊や!名前何て言うの?お姉さんと遊ばない?」

スヴァイはピョンッと近寄り、頬ずりしながら新志に言った。突然の事で、何が起こっているのか分からない新志は、驚きを隠せずに戸惑った。

「…わっ!えぇっ!!」

すると、今度はランバダが、スヴァイを押しのけて、自分の自慢の大きな胸を、新志の身体に押し当てて、グイッと顔を近づけた。

「よく見ると、あんたいい男になりそうね。育てがいがありそうだわ…。ねぇ、コルザのとこなんて行かないで、私の部屋に来てよ。…イイことしてあげるから…」

ランバダは、新志の耳に口を近づけて(ささや)いた。

二人の年上の女性に迫られた新志は、頭がパニックになり、真っ赤な顔をして慌てた。

うしろでは、怪訝(けげん)な顔で一連の様子を見ていたコルザが、黙っていられなくなり、姉たちを止めようとした。

また、その隣では、愛莉が頭から湯気を出して、怒りを(あら)わにしていた。

「ちょ、ちょっと…っ!!」

コルザより先に、愛莉がランバダ達を新志から引き離そうと近寄った時だった。

「…どうかなさいました?」

ランバダ達が現れた廊下の向こう側から、こちらに向かって声を掛ける人物がいた。

全員は、声のする方へ顔を向けた。

そこには、心配そうな顔でこちらを見る、パントラの姿があった。

(…パントラ…っ!!)

コルザは、今にもパントラに声を掛けたそうに、彼を見つめた。

「…あら…。パントラ…。あなたも侵入者の気配に気付いて来たの?でも、何もこのタイミングで来ることないじゃない。あんたも気が利かないわね…」

ランバダは新志から名残惜しそうに離れ、パントラの方に身体を向けた。

「…え?どういう事ですか?」

パントラは、ランバダの言っている意味がよく分からず、彼女達の向こう側にいる、新志達に目を向けた。

「どういうって…。あなたもここの臣従しんじゅうなら察してよ!この子が今夜の獲物なんだから!」

スヴァイは、呑み込みの悪いパントラに分からせようと、新志の頬に自分の頬を付けて言った。

新志はどうしていいか分からず、赤くなったまま下を向いた。

「…あ…。そ、そうでしたか…。ですが、その方たちは…」

侵入者である新志達を、容易に城に入れるわけにはいかないパントラは、困った顔で、なんとかランバダ達に言い聞かせようとした。すると、新志達の後ろにいるドラゴンに気付き、パントラはハッとした。

「…えっ!キ、キルスっ!?」

パントラが驚いて言った。キルスの姿をしたコルザは、黙ってパントラを見つめている。

「なんか知らないけど、この子たちと一緒にいたのよ。ねぇ、パントラ?この子たち、あの女より全然弱そうだから、ちょっと遊ぶくらいいいでしょ?」

スヴァイは上目遣いで、パントラにお願いした。

「いや、で、ですが…!彼らがここに来た目的が分かりません!危険です!」

パントラは臣従として、スヴァイの頼みを承知できなかった。

「…コルザに会いに来たんですって。きっと、狙いはジェムエレメントよ」

ランバダは、腰に手を当てて言った。

「えっ!?コルザ様に…?」

パントラは新志と愛莉を見た。二人は不安な顔で、黙ってじっとパントラを見つめている。

(…悪い人たちには見えないけどな…)

パントラは、二人を見た後、何かを訴えたそうに、こちらをずっと見ているキルスに目を向けた。

「………」

「でも、こいつらを今のコルザに会わせたところで、きっと何も出来ないと思うわ。…だったら、せめていい思い出を残してあげた方がいいじゃない?…ねぇ、だから、見逃してよ?」

ランバダは、パントラに詰め寄った。

「………っ」

パントラは、たじろぎながら考えた。

「…いえ…。とりあえず、僕が話を聞きます。いくら子供だからとはいえ、お嬢様方を侵入者と一緒にするわけにはいきません」

「えーーーっ!!」

スヴァイは落胆した表情で言った。ランバダは黙ってパントラを睨んだ。

「…あなた方、こちらへ…」

パントラは、ランバダ達を差し置き、新志達を呼び寄せた。

新志と愛莉は、顔を見合わせるとコルザに目を向けた。コルザは、二人を見上げて頷いた。

新志と愛莉とコルザは、ランバダとスヴァイの横を通り抜け、黙ってパントラの後に続いた。

パントラは、新志達を引きつれて、中央の塔へと入って行った。

ランバダとスヴァイは、不満感を露わにした顔で、その様子を見ていた。

「…ねぇ、お姉様!行っちゃったわよ!いいの?久しぶりの獲物だったのにっ!…あんなにかわいい子、滅多に手に入らないわよ!」

スヴァイは、ランバダの腕を掴んでなげいた。

「…まぁ、いいんじゃないの…?しばらく様子を見るのも」

ランバダは、余裕な表情で、パントラ達の向かった方に視線を向けながら言った。

「でもっ!お姉様だって、バーロンや、他の臣従に飽きたから、そろそろ他の獲物が欲しいって言ってたじゃない!」

ランバダは、ゆっくりとスヴァイの方に顔を向けた。

「フフッ…。馬鹿ね。すぐに手に入ったらおもしろくないじゃない?…奴らの魔力じゃ、どうせ何も出来ないわ。いずれ手に入るんだから、その間、どうやってあの子を遊んでやるか考えるのも、いい暇つぶしってものよ?」

ランバダは、笑みを浮かべて言った。スヴァイの表情は、パッと笑顔に変わった。

「そっか!さっすがお姉様!そうよね!あの子はいずれ私たちの物!!キャハハっ!!楽しみー!!」

先を見据えた二人は、不敵な笑みを浮かべて、新志達の向かった中央の塔の入口へ目を向けた。


「………」

パントラは、新志(あらし)達を引きつれて、中央の塔へと足を踏み入れた。新志達に妙な気配は感じないものの、城に容易に侵入して来たことから、ただ物ではないと感じていた。

パントラは新志達の前を歩きながら、横目で彼らを警戒した。

中央の塔は、先程の廊下よりほのかな明かりが灯っていた。ここは、それぞれの階を繋ぐ柱となっており、中は吹き抜けで、がらんとしていた。ただ、中央の大きな階段だけが、異様な存在感を放っている。

「…わぁ、テレビとかでよく見る、大貴族のお屋敷みたい!」

新志は、辺りをキョロキョロしながら歩いた。

「ほんとだね!まさに西洋のお城って感じ!!」

愛莉も、遥か上まで続く天井を見上げて言った。

「………」

新志と愛莉は、黙ったまま自分たちを誘導するパントラに、不安な感情を抱いて、互いに顔を見合わせた。

「…ね、ねぇ、コルザ?この人が君の言っていたパントラなんだろ?…君から、僕たちの事、説明してよ」

新志は、コソっとコルザに耳打ちした。コルザは少し考えた。

(…さっきは姉様達がいたから、僕の正体をおおやけに出来なかったけど、今なら彼しかいないし、大丈夫か…。新志君達をこれ以上不安にさせたくはないし)

コルザは顔を上げて、新志に笑顔で言った。

「そうだね…。話してみるよ」

新志と愛莉は、安心してコルザを見た。

「………」

コルザは、二人の前に出ると、黙って歩くパントラを見上げ、様子を覗った。

「…ねぇ、パントラ…?」

声を掛けられたパントラは、ピタッと歩くのをやめた。聞き覚えのある声に、パントラは、少し困惑した様子で振り返った。

「…え?…今の声は…」

パントラは困惑したまま、新志と愛莉に目を向けた。

新志と愛莉は、首を横に振って、下にいるコルザを指さした。

「僕だよ。パントラ」

パントラは、声のする足元に目をやった。

「!?…キルス…!?でも、その声は…」

パントラは、キルスが言葉を発していることに驚いたが、尚且(なおか)つその声が、聞き覚えのあるコルザの声だということに、状況が飲み込めず困惑していた。

「パントラ…、驚かないで聞いて。…僕、今はキルスの姿をしているけど、魂は僕…、コルザなんだ」

コルザはパントラを見上げて訴えた。

「…えっ?…何を言っているのか…。ど、どういう事ですか?」

パントラは、よく意味が分からず、理解が出来ないまま、ただコルザを見ていた。

「本当だよ!コルザは、魂を抜かれて、このキルスの身体に埋め込まれたんだ!」

「それで、私達のいる人間界に、逃れて来たんだよ!」

新志と愛莉は、困惑するパントラに説明した。

「で、ですが、コルザ様は今っ…!!」

魔法界にいる今のコルザを思い出し、パントラはハッとした。

コルザは存在はしているものの、以前とは全くの別人で、それに性別まで変わっている。

目の前にいのは、見た目はキルスだが、声や、話し方が、以前のコルザと全く同じだった。

「…パントラ…。すぐには、信じてもらえないかもしれないけど…」

コルザが話しているのを見たパントラは、どこかそれを懐かしく感じた。

きっとコルザの身に何か起き、そして目の前にいる新志と愛莉は、その原因を知っているのだと、パントラは察した。

「……とりあえず、お話を(うかが)えますか?…こちらへどうぞ…」

パントラは、気持ちが動揺するも、それを抑えて、新志達を誘導した。


パントラは、出来るだけ人のいない道を選び、警戒しながら、人気のない隅の部屋までたどり着いた。

扉を開け、誰もいないのを確認すると、新志達を中へ誘導した。

「…どうぞ」

新志と愛莉は、頭をペコッと下げて、部屋の中に入った。

後に続くコルザを、パントラはじっと見つめた。

部屋の中は明かりが無く、薄暗かった。

パントラは、壁に備え付けられたランタンに向けて、手をかざした。

すると、ランタンが一瞬黄緑色の光に包まれ、次々に壁中のランタンに、火が灯っていった。

「わぁ…。凄い!手をかざしただけで!」

新志は、パントラの使う魔法に感激した。

「呪文を唱えなくても、魔法って使えるの?」

愛莉は、驚いてパントラに聞いた。

パントラは、思いがけない質問に、首を傾げて答えた。

「え…?こういった簡単な魔法を使う時は、わざわざ呪文は唱えませんが…。初心者ならともかく…」

新志と愛莉は、互いを見合わせて苦笑いをした。

「…しょ、初心者…ね…」

パントラは、扉を閉めながら、新志達を見ていた。

(…魔法について良く知らないのか…。人間界から来たっていうのは、本当みたいだ)

パントラは、いつまでも辺りをウロウロしている新志と愛莉に気付き、慌てて言った。

「あ、どうぞ、お掛けください」

「え?…あ、はい」

言われた新志と愛莉は、近くにあるソファに腰掛けた。コルザも黙ってソファに飛び乗った。

「……杖をしまわれても大丈夫ですよ。僕はあなた達を捕えたりしませんから。…あなた達は、どうも悪い人ではなさそうです」

新志と愛莉が、いつまでも杖を手に持っていることに、パントラは気を使って言った。

「………」

新志と愛莉は、困った顔で、顔を見合わせた。パントラは疑問に思って聞いた。

「…?…どうかなさいました?」

コルザはハッとした。

「あ、そうか。二人は杖をしまったことなかったんだったね」

「……え…?」

コルザの言葉に、パントラは表紙が抜けたように、困っている新志と愛莉に目を向けた。

「パントラ、少し待ってて」

コルザは、パントラの方を振り返って言った。

「………」

パントラは、その仕草を、以前のコルザの姿と重ね合わせ、だんだん懐かしさを蘇えらせた。

「新志君、愛莉ちゃん。杖の宝石と、胸の宝石とを照らし合わせてみて」

コルザは新志と愛莉の前に移動し、杖のしまい方を教えた。

「…う、うん」

二人は立ち上がって、コルザに言われた通りに、宝石を照らし合わせた。

すると、両方の宝石から光が放たれ、杖は、胸の宝石に吸収されるように、シュルシュルと姿を消していった。

「わぁ!凄い!杖が無くなっちゃった!」

「こんなこと出来るんだ!収納できるなら、早く教えてほしかったなぁ!いつも重たかったんだもん!おばあちゃんも、特訓ばっかりで、こういうことは教えてくれないんだから!」

新志と愛莉は、興奮して言った。

まるで初心者のようなことを話す二人に、黙って聞いていたパントラは、耐えられずに噴き出した。

「な、なにさ!ぼ、僕たち、そんなに変なこと言ってる?」

新志と愛莉は、顔を赤くしてパントラに言った。

「い、いえ。すみません。でも、どうやらあなた方が人間界から来たというのは、本当のようですね」

パントラは、笑いを抑えて、二人に言った。

「それに…、ここにいるキルスは、本当にコルザ様なんですね…」

パントラは、目の前にいるコルザをじっと見つめた。

「…コルザ様…。僕…、ずっと心配していたんですよ…。急に、僕に姿を見せなくなってしまって。そしたら、突然、あなた様は別人のようになられてしまった…っ」

パントラは、目に涙を溜めてコルザに言った。コルザも、パントラをじっと見つめた。

「…パントラ…。…ごめん。全て話すよ。…ここにいる、新志君と愛莉ちゃんは、僕の事を助けてくれた恩人なんだ」

コルザは、新志と愛莉の方を向いて、パントラに彼らを紹介した。

パントラは、新志と愛莉を見ると、立ち上がって頭を下げた。

「コルザ様の恩人だったとは…。数々のご無礼お許し下さい。なんとお礼を申し上げて良いか…。コルザ様を、無事に魔法界まで連れて来て下さって、あなた達には、感謝の気持ちしかございません」

新志と愛莉は慌てて、パントラと同様にかしこまり、頭を下げた。

「そ、そんなっ!と、当然のことをしたまでだよ!ねぇ、愛莉ちゃん?」

「そ、そうだよ!…それに、私達だけじゃなくて、おばあちゃんの力もあってだもん!」

愛莉は、笑顔でパントラに言った。

「…おばあちゃん?」

パントラは、頭に「ハテナ」を浮かべて、愛莉に聞いた。

「愛莉ちゃんのおばあさんは、あのリィーズ様なんだよ」

コルザの言葉に、パントラは、驚きの表情を見せた。

「えぇっ!?あの偉大なリィーズ様が、あなたの…?」

愛莉は少し得意気な顔で、「フフン」といった仕草を見せた。

「…どうやら、魔法界と人間界とを繋ぐ隠し扉が存在していたみたいなんだ。…この姿になった僕は、その扉を通って、リィーズ様の元へ逃れることが出来たんだ」

コルザは、視線を落として、パントラに言った。

「…コルザ様、一体何があったのか、話してください」

パントラは、寂しそうな顔で、コルザに願った。

コルザは、パントラに頷くと、新志と愛莉の方に、目をやった。

新志と愛莉は、コルザに答えるように頷いて返した。


魔法界の夜空には、丸い月が輝いていた。

窓際で、静かに本を読んでいたジュセは、本を閉じて、ふと、夜空の月を見上げた。

(…いつの間にか、暗くなっていたのね…。パントラ、どうしたのかしら…?…今日は、夕方から、姿を見ないわ。…コルザに何かあったのかしら…?それとも、あの侵入者…?)

ジュセは、どこか不安な面持ちで、部屋の扉に目を向けた。


パントラは、新志(あらし)達を案内した応接室で、彼らの話を聞いていた。

「……そう…でしたか…。なんだか、驚くようなことばかりで…。まさか、そんなことがあったとは…。ここ最近、城が異様な空気に包まれているのは、それが原因だったんですね…」

パントラは、一気にいろんな情報を聞かされ、頭の中で整理をするのがやっとだった。

「…バラノアさんの封印を解いた人に、心当たりはない?」

新志は、パントラに聞いた。パントラは、新志の質問に少し考えたが、首を横に振って返した。

「…いえ。僕にはわかりません…。でも、この城にそんな者がいるとは、どうも考えにくいですが…」

パントラの答えに、新志と愛莉は、がっかりした様子を見せた。

「そっかぁ…。とりあえず、私達は、ジェムエレメントを消滅させるのに、お姉ちゃんに協力した方がいいのかな?」

愛莉は新志に言った。新志は仕方なしそうに頷いた。

「…ジェムエレメントを消滅と言っても、そう簡単には出来ないと思います。…今のコルザ様は、言うなれば無敵。…バラノアさんの力を借りた、あなたのお姉さんでさえも、太刀打ち出来ないようでした」

パントラは、以前の事を思い出しながら言った。

「だからって、何もしないわけにはいかないもん!」

愛莉は、自分が特訓してきたこともあり、それを無駄にしない為にも、何か行動を起こさずにはいられなかった。

「…今のコルザって、そんなに強いの?」

新志は、ここにいるコルザに気を使いながら、パントラに聞いた。

「…あんなに大きなジェムエレメントを生み出す程ですから…」

パントラは、コルザにチラッと目をやった。コルザは、黙って下を向いている。

「…どうでしょう?やたらに攻撃を仕掛けては、相手を興奮させるだけです。…私達の目的は、無事にコルザ様の魂を元に戻すことですから、お部屋にいらっしゃるコルザ様と、少しお話をされてみては…?」

パントラは、少しでもことを穏便に済ませたい考えのようで、新志達に提案した。

「お話っていっても、すんなり、自分の魂を引き渡すことなんて、しないだろう?」

新志は、眉をしかめて、パントラに言った。

「…ですが、元はコルザ様の内に秘めた心から生まれた存在です。…私達や、コルザ様の気持ちを伝えることで、心が動く可能性も無きにしもあらずです」

新志と愛莉は、「うーん」と考えた。そんな二人を見て、パントラは立ち上がった。

「とりあえず、コルザ様のところに行ってみますか?…僕も、ご様子を覗いに行かなければいけませんし、……あっ!!」

突然声をあげるパントラに、新志と愛莉とコルザは、ビクッと驚いた。

「な、なに?」

「しまった…ジュセ様の様子を覗うのを忘れてた…」

パントラは、青い顔をして言った。新志と愛莉は、ポカンとした表情で、パントラを見ている。

コルザは、パントラの様子を見ると、クスクスと笑いだした。

「コ、コルザ様っ!?」

パントラは、焦ってコルザの方を見た。

「なら、ジュセ姉様のところへ行こう。…パントラが来ないもんだから、きっと怒ってるよ?」

コルザは、笑いながらパントラに言った。

「そ、そんなっ!か、からかわないで下さい!コルザ様!」

パントラは、かぁーっと顔を赤くして、コルザに訴えた。

「…ジュセ様だって、コルザ様を心配されていたんですよ…?」

パントラは、少し寂し気にコルザに言った。コルザはハッとして、視線を落とした。

「…そうだよね…。二人には、本当に心配かけたと思ってる…。ごめん…」

コルザは、パントラに謝った。パントラは、笑顔に戻り、コルザの方へ歩み寄った。

「…早く、ジュセ様に、元気な姿を見せてあげて下さい。コルザ様」

コルザは顔を上げて、パントラを見つめた。

「…うん」

二人の様子を、新志と愛莉は、微笑ましく見ていた。


人間界。

辺りはすっかり暗くなっていた。

ラビアン・ローズのお店はシャッターが閉まり、「CLOSE」の札が掛けられていた。

奥の部屋では、水晶玉の中に残された、黄色とピンク色に光る新志(あらし)と愛莉の魔力を、ソファに腰かけたリィーズが静かに見つめていた。

(…扉に何も反応が無いという事は、あの子達、無事にたどり着いたようね…)

リィーズは、笑顔で魔法界へ旅立って行った新志達の姿を思い返し、彼らの無事を祈って、ギュッと両手を握った。

「……おばあさん」

急に声を掛けられ、リィーズはハッとして、顔を上げた。

リィーズの近くには、莉々が立っていた。

「り、莉々!?…あなた…っ!!」

リィーズは驚いて立ち上がり、彼女に話したいことが有り余って、言葉を詰まらせた。

莉々はそんなリィーズに、微笑みかけた。

「…全部、聞いたのね?」

莉々は、リィーズをゆっくりソファに座らせた。

「ええ、…ごめんなさい。全て私のせいよ…。あなたに大きな負担をかけてしまって…。バラノアもあなたに頼るしかなかったんだわ…」

リィーズは昔の自分の過ちと、それによって引き起こされた今回の問題に責任を感じ、涙して謝った。

「…泣かないで、おばあさん。叔母さまも、悲しんでいるわ…」

リィーズはハッと顔を上げた。

莉々は、寂し気に微笑んで、リィーズを見つめている。リィーズはその姿を、バラノアと重ね合わせた。

「…っ…バラノアっ!あなたに全てを押し付けてっ…ごめんなさい…」

リィーズは両手で顔を覆い、泣き崩れた。莉々は、リィーズの肩に手を置いて、彼女をなだめた。

「…おばあさん。私こそ、黙っていてごめんなさい…。おばあさんには話さなければいけなかったんだけど…。叔母さまが責任を感じて、全て自分で片を付けたいって…。それに、愛莉と新志君にも迷惑が掛かるわ。…だから、言えなかった…」

莉々は床に膝をついて、リィーズの両手を取って謝った。

「…いいえ。でも、あなた一人で抱え込むことは無いのに…」

「……愛莉達、魔法界へ行ったのね…」

莉々は、少し不満そうに顔を()らして言った。リィーズは頷いた。

「…愛莉と新志君に魔力を付けてもらったわ。私に出来る方法はそれしかなかった…。だから、向こうではあの子達と力を合わせて…」

リィーズの言葉の途中で、莉々は首を横に振り、立ち上がった。

「私は、叔母さまと協力して、ジェムエレメントを消滅させるの。叔母さまがそうしたがってる。…他の誰も巻き込みたくないって。…私も、叔母さまと同じ気持ちよ。私と叔母さまで決めたことなの」

莉々は、魔法界への扉である宝石箱が置いてある部屋に足を向けた。

「なら、向こうでは、あなた一人で行動するつもり?」

リィーズは立ち上がり、心配して、莉々に駆け寄った。

「大丈夫よ!コルザから聞いてるでしょ?今まで、何度も魔法界へ行ってるの。だから、心配しないで。叔母さまも一緒だから!」

莉々は、リィーズの肩に手を置き、彼女をこれ以上心配させないように言った。

「………」

リィーズは心配した表情のまま、黙って莉々を見つめた。

莉々は、笑顔でリィーズを見ると、どこからかスッと白い百合の花を、彼女の前に差し出した。

リィーズはハッとして、その花を見た。その百合からは、懐かしいバラノアの魔力を感じた。

「…これは…」

「持っておいて。きっと役に立つと思うわ」

リィーズは、微笑む莉々に目を向けた。彼女はいつもの大人しい姿とはまるで別人のように、凛々しく、強い瞳を有している。その姿は、自分の娘であるバラノアとそっくりだった。

「………」

リィーズが黙って見つめる姿を見届けると、莉々は、暗い奥の部屋へと入って行った。

リィーズはハッとして、奥の部屋まで莉々を追いかけた。

「莉々っ!!……っ!?」

リィーズの目には、正魔飾着(せいましょくぎ)まとった莉々が映った。

その凛々しさに、リィーズは再度、以前のバラノアの姿と今の莉々を重ね合わせた。

「…じゃあね。おばあさん。必ず、愛莉と新志君を連れて帰るから。…いってきます」

莉々がそう言うと、宝石箱の蓋が開き、中から勢いよく光が飛び出してきた。光は瞬く間に莉々の身体を包み込み、シュルシュルと宝石箱の中へと飲み込んで言った。

「バタン」と蓋が閉まり、辺りは何もなかったようにシンッと静まり返った。

「…莉々をお願いね…。バラノア…」

リィーズは、手に持った白い百合を見て呟いた。


魔法界。

パントラは、新志(あらし)、愛莉、コルザを連れて、辺りを警戒しながら、ジュセの部屋の前までたどり着いた。

「コルザのお姉さんに会えるんだね!楽しみー!!」

「ほんとだね!」

新志と愛莉は、ワクワクが抑えられないようだった。

パントラは、微笑んで新志達を見ると、反対側の奥の部屋へと顔を向けた。

「……あそこがコルザ様のお部屋です。ジュセ様に先程の話をしてから、後で伺いましょう」

「…うん…」

新志と愛莉もそちらに顔を向け、少し不安気な様子で返事をした。

「………」

コルザは、複雑な気持ちで自室を見つめた後、目の前の扉に顔を戻した。

(…ジュセ姉様…。やっと会える…!)

コルザは、ジュセに早く会いたい心持ちを(つの)らせ、扉を見つめた。

パントラは、ふうっと息を吐くと、コンコンと部屋の扉を叩いた。

「…ジュセ様、パントラです。ご様子をうかがいに参りました」

パントラが声を掛けて、間もなくすると、扉がゆっくり開きだした。

扉が完全に開くと、中に立っているジュセが、姿を現した。

ジュセは、パントラ以外に人がいることに気付いており、黙って彼らをじっと見つめている。

「…失礼します。…さ、あなた方も…」

パントラは、新志達を中に誘導した。新志と愛莉は、緊張した面持ちで、中に足を踏み入れた。

パントラは、扉を閉めると、慌ててジュセの方へ頭を下げた。

「遅くなって申し訳ありません、ジュセ様」

「……いえ…。…っ!?」

ジュセは、新志達と一緒に入って来たキルスの姿に目を奪われた。

「あ…、ジュセ様…、実は、このドラゴンは、キルスではなくて…」

ジュセは、パントラの言葉を(さえぎ)るように、キルスの方へゆっくり近づいた。

「……コルザ?」

ジュセは、コルザの目をじっと見つめて、恐る恐る聞いた。

コルザも、視線を反らすことなく、ジュセの目をじっと見つめた。

「…ジュセ姉様…!…僕がわかるんですね…?」

コルザの声を聞いたジュセは確信し、コルザの元へ走った。コルザも、ジュセの想いに応えるように、彼女の胸に飛び込んだ。

「……コルザっ!…あなた、どこへ行っていたの?…どれだけ心配したと思ってるの…」

床に座りこんだジュセは、コルザを胸に強く抱いて言った。

「…ごめんなさい…っ、心配かけて…。でも、すぐに僕だって分かってくれて、良かった…」

コルザは、ジュセの顔を見つめて言った。

ジュセは、コルザを身体から少し離して、彼をじっと見つめた。

「…わかるわ。…(かす)かだけど、あなたの魔力を感じるもの。…でも、どうしてキルスの姿に?」

「それは…」

コルザは、後ろで姉弟の再会を微笑んで見ている、新志達の方へ振り返った。

「ジュセ姉様、まずは、彼らの紹介をしない事には…」

コルザは、ジュセから離れて、新志と愛莉の元に駆け寄った。

「新志君、愛莉ちゃん、こっちへ来て」

コルザは、新志と愛莉をジュセの前に誘導した。二人は照れながら、ジュセの前まで歩いた。

ジュセは立ち上がり、新志と愛莉を迎えた。

「ジュセ姉様、僕が人間界でお世話になった、新志君と愛莉ちゃんです。新志君、愛莉ちゃん、僕の姉のジュセ姉様だよ」

コルザは、互いを紹介した。

ジュセは、長いスカートの裾を両手で軽く上げ、頭を下げた。

「コルザが大変お世話になりました。そう…人間界の方たちなの…」

ジュセは微笑んで、新志と愛莉を見つめた。普段クールなジュセが、人前で笑顔を見せることなど滅多にない為、コルザとパントラは少し驚いた。

愛莉は、慌てて頭を下げた。

「こ、こちらこそ!王子様のコルザに、大したお構いが出来ませんでして…っ!」

愛莉の慌てっぷりに、ジュセはクスっと笑った。

愛莉は、赤くなって頭をかいた。

すると、横で微動だにしない新志を不思議に思った愛莉は、そちらへ顔を向けた。

新志は、赤い顔で、ぼーっとジュセに見惚れていた。

「ちょ、ちょっと!新志君!コルザのお姉さんの前なんだよ!ちゃんと挨拶しないと駄目じゃん!」

愛莉に肩を揺らされ、ハッとした新志は、慌てて頭を下げた。

「あっ、あの、僕、剣野新志(つるぎやあらし)っていいます!お近づきになれて、光栄です!!」

ジュセは、新志の様子を見て、同様に自己紹介をした。

「ジュセ・カラビーニアです。どうぞよろしく」

新志は顔を上げて、また、ぼーっとジュセに見惚れた。

「…思っていた通り、綺麗な人だぁ。大人の女性っていいなぁ…」

「……え?」

新志の呟きに、ジュセは反応し、愛莉とコルザは、いつものように呆れた顔で新志を見ていた。

妙な闘争心を燃やしたパントラは、咳ばらいをして、ジュセを新志から離した。

「…ジュセ様、とりあえず、お座り下さい。コルザ様から、お話があるとのことです」

「…え、ええ」

ジュセは、パントラに肩を抱えられ、部屋の椅子に座った。

「私も先程うかがいましたが、あまり驚かれないように、お聞きください」

パントラは、ジュセが興奮しないように、前もって念押しした。

パントラは、新志達の方に歩き、コソっと言った。

「…ジュセ様を驚かせるような話し方は、控えて下さいね」

「え?…う、うん」

「…わかった」

新志と愛莉は、パントラに言われるがまま、頷いて返した。コルザはクスッと笑って、ジュセと向かい合わせの椅子に飛び乗った。

新志と愛莉もコルザの両脇に座った。

パントラは、ジュセの横に立ち、様子を見守った。

「…バラノアの霊と関係があるのね?」

ジュセは、新志達を見て聞いた。

「え!?凄い!!どうして分かるの?」

愛莉は、驚いてジュセに聞いた。新志も同様に驚いている。

「変だと思っていたの。あの頃からだもの、コルザの様子がおかしくなったのも、城に侵入者が現れるようになったのも。これらは何か関係性があるものだと思っていたわ」

ジュセは、そう言うと、パントラの方を向いた。

「あなたは話を聞いたのよね?」

「えっ!?あ、はい…」

パントラは、急にジュセに振られ、慌てて返事をした。

「…悪いけど、お茶を入れてきてくれないかしら?この子たちから、ゆっくり話を聞きたいわ」

ジュセは、新志達の方に顔を向けた。

新志と愛莉は、照れながら会釈(えしゃく)をした。

パントラは、先程の内容をジュセが一人で聞くことに、若干の不安を覚えたが、主の指示に従うのがおきての為、仕方なく承知した。

「…分かりました。行ってまいります」

パントラは、部屋の扉まで歩き、ジュセたちの方を向いて頭を下げ、部屋を出て行った。


月明かりだけが照らす暗い廊下を、パントラは歩いていた。小さな台車を引き、その上には、人数分のカップとお茶の入ったポットが乗っている。

(…ジュセ様、驚かれていないだろうか…。…でも、まさか、コルザ様の心が分裂していたなんて…。ずっと悩んでいたんだ…。世話役の僕が不甲斐ないばっかりに…)

パントラは、眉間にしわを寄せて、コルザの気持ちに気付けなかった自分を()めた。

とにかく早く戻ろうと、パントラは速足でジュセの部屋まで急いだ。

「こんばんは」

後方から声がし、パントラは驚いて振り返った。

「…あ、あなたはっ!?」

パントラが見上げた視線の先には、上方の大きな窓の縁に立って、こちらを見降ろす莉々の姿があった。

莉々は、パントラの反応を見ると、素早く彼の元へ降り立った。

すると、口の前に人差し指を出し、忠告した。

「しっ!大きな声を出さないで!…私の事、聞いているんでしょう?」

目の前に降り立った莉々を、パントラは驚いた表情のまま見ている。

「愛莉と新志君、来ているのね…。駄目だって言ったのに、コルザったら…」

莉々は、そう言うと、ずっと驚いて自分を見ているパントラに目をやった。

「…あなたは、私を攻撃する?…いくらジュセ様とコルザの臣従といっても、元はこのお城につかえる身だものね」

「…えっ」

莉々に聞かれ、パントラは考えた。

この城の臣従であれば、今ここにいる侵入者を捕まえるのが妥当だとうだ。だが、彼女の目的は、パントラ自身も願っていることで、今のパントラには、彼女を捕まえることは、自分の意に(そむ)くことだった。

「…いえ。僕は、あなたがこの城に来る目的の真相を知ってしまいました。…僕はコルザ様の心を戻したい。ジュセ様とコルザ様を苦しめる原因となるジェムエレメントを無くしたい。だから…あなたと同じ気持ちです」

それを聞き、莉々は微笑んだ。

「なら、私に協力してくれるのね?…フフッ、良かった」

パントラは、眉を(しか)めて視線を落とした。莉々は、パントラの表情に気付き、彼に言った。

「大丈夫。あなたのするべきことは、ジュセ様とコルザを守ることよ。何も、お城の人達と敵対することはない。…あなたはお役目を守ればいいのよ」

「……あなたに協力とは…?」

パントラは顔を上げて、莉々に聞いた。

「…私の妹達…、愛莉と新志君には、私が来たこと、黙ってておいて欲しいの」

莉々は、真剣な表情で、パントラに願った。

「え?…ですが、彼らはあなたに協力するために、ここまで来たのですよ?」

パントラは、莉々が何故、新志達の力を借りないのか疑問に思った。

「全ては、私の…。いえ、バラノア叔母さまのあやまちから始まった事。愛莉達には関係ない。あの子たちを危険な目に()わせたくないのよ」

「……」

パントラは、窓の向こうの夜空を見つめながら言う莉々に、黙って視線を向けていた。

「…私がちゃんと、あなたの大事な主様(あるじさま)を元の姿に戻してあげるって言ったのに…。なのにコルザったら、私の忠告も聞かないで、愛莉達をここへ連れて来るなんて…」

莉々は、不満な顔で、パントラに愚痴をこぼした。

「…それは違うと思います」

パントラは、少し強い口調で莉々に言った。

「…違うって?」

莉々は驚いて、パントラの方へ顔を向けた。

「僕がコルザ様なら、きっと同じことをすると思います。僕は話に聞いただけでしたが、実際のあなたの考えを聞いて、コルザ様の気持ちがわかりました。…あなたは、一人で何もかも解決できると思い込んでいる。確かに、あなたは魔力も戦闘も優れています。でも、自分を過信(かしん)しすぎる程、戦いで怖いものはありません。…信用できる人たちが周りにいるのに、何故頼ろうとしないのですか?…コルザ様や、新志君、愛莉さんは、それを伝えるために、やって来たのではないでしょうか?」

莉々は、パントラをじっと見つめていた。パントラは続けた。

「それに、責任を感じているのは、あなただけではない。コルザ様だって、自分の誤った心が暴走して、みんなに迷惑を掛けていることに、罪の意識を感じているはずです。…魔力が無くても、何か出来ることはないかと…」

莉々はうつむき、黙ってパントラの言葉を聞いていた。

「正直なところ、僕は、あなた一人にジェムエレメントを消滅させること…、コルザ様の心を元に戻す事ができるのか不安ですね」

パントラは目を閉じ、下を向いて言い放った。莉々も下を向きながら、自分の気持ちを思い直した。

「…ここへ来る前、コルザにも同じような事言われたわ。私が一人で行くと言ったら、一緒に連れてって欲しいって言われた…。…そういう事だったのね…。彼は、あなたみたいにはっきりとは言わなかったけど…」

莉々はうつむいたまま、胸に手を当てて、バラノアと気持ちを分かち合った。

「あなたが傷つく言い方を避けたのでしょう。…コルザ様は、あなたの独りよがりな性格を、とても心配されていました。…愛莉さんや、新志君も」

莉々はクスッと笑って、顔を上げた。

「あなた、コルザの気持ちがよく分かるのね」

パントラは、同じように莉々に笑顔を見せた。

「あなたは、どうやらコルザ様にとって、大切な方のようです」

莉々の話の内容から、パントラはそう察した。莉々は顔を赤くして、少し戸惑った。

「え?……あ…、バ、バラノア叔母さまの事ね…」

莉々の焦った様子に、パントラは、クスクスと笑った。

「……お話は終わったかな?」

「っっ!?」

月明かりの届かない、暗い廊下の向こうから声がして、莉々とパントラは、とっさにそちらへ身体を向けて身構えた。

暗闇の向こうから、自身の武器を手にしたランバダと、彼女の臣従バーロンが現れた。

「ランバダ様っ!?…バーロンっ!?」

パントラは、「しまった」といった顔で、二人を見た。

(…気が付かなかった…!油断したわ…)

莉々は、身構えながら思った。

「ほうら、言った通りでしょ?パントラの奴、侵入者とグルなんだわ。…さっきも、こいつの仲間を城に入れたのよ」

ランバダは、自分の武器である銃で莉々をさしながら、バーロンに言った。

「…パントラ…、貴様一体どういうつもりだ?…何を企んでいる!?」

「………っ」

バーロンの目は怒りに満ちていた。パントラは、恐怖を感じ、何も言い返すことが出来なかった。

すると、パントラの前に、莉々がすかさず回り込んだ。

「彼は何も知らない!ただ、私を引き留めようとしただけよ!」

「っ!?」

パントラは、自分をかばってくれる莉々に目をやった。

「…ほぅ。庇い立てするところをみると、ますます怪しいものだが…。それは後でゆっくりと聞くことにしよう」

バーロンは、二人を(とら)える為に、手に持った大きな(やり)を構えた。

「大人しくした方が身のためよ。じゃないと、彼の趣味の八つ裂きを喰らわされるから」

バーロンの後ろでは、ランバダが腕を組んで、クスクスと笑った。

莉々はランバダを睨んだ。睨まれたランバダは、かんに障り莉々を睨み返した。

「…バーロンっ!早く殺っちゃいなさいよ!じゃないと、この女!またコルザのとこに行くつもりよ!」

後で吠えたてるランバダを、バーロンはなだめるように言った。

「ご心配なさらずとも。コルザ様の所は、今、ミトと見張りの兵に任せてありますから」

バーロンの言葉を聞いたパントラと莉々は、驚いた表情で彼を見た。

「なっ!バーロンっ!僕に無断でそのような事を…っ!」

パントラは、コルザの臣従である自分に無断で見張りを付けたことに怒りを見せた。

「黙れっ!もはやお前は信用ならん。…大王様に話して、お前には即刻、臣従のお役目を退しりぞいてもらう!」

すると、バーロンの視界に、光る何かが飛んで来るのが映った。

「っ!?」

バーロンはすぐさまそれを避け、飛んできた方に目をやった。

バーロンの視線の先には、杖を振りかざした莉々がいた。

(いつの間にっ!)

莉々のスピードに驚いたバーロンは、すかさず槍を構えて、間一髪のところで莉々の攻撃を防いだ。

莉々のスピードは、以前よりも増して早くなっており、目で追うのがやっとだった。ここをなんとか突破しようと、莉々は再び杖を振りかざした。

「クソッ!!」

「この小娘!!」

バーロンは槍から深緑色の魔力を放ち、同時にランバダは銃を向け、真っ赤な魔弾を放った。

槍と銃の攻撃をギリギリでかわし、莉々は自分の攻撃魔法である、光を放つ花びらを数枚飛ばした。

それは、月明かりにキラキラ反射し、チャフのような目くらましの役割を果たした。

「………くっ!」

ランバダは狙いを定められず、数弾放ったが、仕留めることが出来なかった。

莉々は、そのまま、暗い廊下の方へと走って行った。

ランバダは、渾身こんしんを込めた一撃を放ったが、手ごたえを感じず、悔しさで自身の銃をその場に投げ捨てた。

「もう!なんでもっと本気を出してくれないのよ!あんたがその気になれば、あんな小娘、すぐにとっ捕まえられるじゃないっ!!」

ランバダは、隣にいるバーロンを攻めた。

「大丈夫。この先にはミトたちが控えています。彼らに花を持たせるのも、たまにはいいものだと」

バーロンはそう言うと、ゆっくりと振り返って、パントラの方を見た。

ランバダもそちらに目を向けた。

「………」

パントラはその場から動かず、黙ってバーロンとランバダを見ている。

「お前はいさぎよいな。…まぁ、足掻あがいたところで、同じことだが…」

「可哀そうなパントラ。一度お相手してあげてもいいけど…。お父様に叱られちゃうかしら?」

ランバダはパントラに近づき、人差し指で彼の顎を上げた。

パントラは目を閉じ、眉間に(しわ)を寄せて、ランバダから顔を(そむ)けた。


莉々は、急いでコルザの部屋へ向かって、長い階段を駆け上がっていた。

(彼…いえ、彼女を興奮させてはまずいわ!急がないと!!)

莉々は一目散に、目的の場所へ走った。

「…あっ!」

だが、城中は厳重な警戒がされており、途中、何度も警備にあたる兵に遭遇した。

そのたびに莉々は、得意の瞬発力とスピードで、彼らの攻撃をかわし、道を突破して行った。

(…見えたわ!)

莉々の視線の先には、何人かの兵を引きつれたミトが、ライフル銃を構えて待っていた。

莉々は、ジュセの部屋の前を走り抜け、まっすぐにそこへ駆けて行った。

「……っ!?」

部屋の中にいたジュセは、外からの気配を感じ取り、扉に顔を向けた。

「……?どうしたの?」

新志(あらし)と共に、話をしていた愛莉は、急に顔を強張らせたジュセを不思議に思い声を掛けた。

「……この気配は…」

微かだが、コルザもそれを感じ取ったようで、ジュセと同じ方へ顔を向けた。

「…バラノア…」

「…えっ?」

立ち上がったジュセを、新志と愛莉は見上げた。

「莉々さんだっ!莉々さんが来たんだ!!」

コルザも興奮して立ち上がり、二人に言った。

「えっ!?もうっ!?」

「お姉ちゃんっ!!」

新志と愛莉も立ち上がり、愛莉は、部屋を出ようと、扉の方へ駆けて行った。

「待ちなさい!!」

ジュセは、先走る愛莉を止めた。愛莉は、足をピタッと止め、ジュセの方を振り返った。

「やみくもに行動しては駄目よ。あなた達は、彼女を補佐する立場に回らないと。…諸突猛進(しょとつもうしん)の彼女には、それが一番役に立つでしょう」

いつものように正面突破する莉々の行動に、ジュセはやや呆れた様子で愛莉と新志に言い聞かせた。

「補佐って言っても、どうやって?」

新志は、いざ戦いとなると、どうしていいのか分からず、ジュセに助言を求めた。

「彼女が危なくなった時に、あなた達が力を貸すのよ。…最初から協力してしまったら、彼女はきっと、あなた達を守ることに気を取られてしまうわ」

ジュセはそう言うと、コルザに視線を向けた。

「…そうでしょう?コルザ」

扉の方へ、ずっと心配そうな顔を向けていたコルザは、ハッとして振り返った。

「…えっ?…う、うん…」

コルザは返事をすると、また直ぐに扉の方へ顔を戻した。

今すぐにでも、彼女の元へ行きたい気持ちをこらえているコルザを見て、ジュセはフッと微笑んだ。


莉々は走る速度を緩め、ミトから少し距離を置いたところで立ち止まった。

「待っていたよ、侵入者さん。…あ、この呼び方では失礼だね。お名前何て言うのかな?」

ミトは、落ち着いた様子で笑みを浮かべ、近くまで来た莉々に話しかけた。

「……莉々」

「そうか、莉々さんっていうのか。可愛いね。こんなに可愛い君が、お城に忍び込んで悪さをするなんて、とても似合わないよ」

女性慣れしているミトは、スヴァイがいないこともあってか、莉々を油断させるために口説き始めた。

軽いミトの言葉に、いつもの花屋の客を思い出した莉々は、嫌気がさし、怪訝な表情で顔を背けた。

油断を見せた莉々に、「しめた」と思ったミトは、すかさずライフル銃を構え、莉々に向けて銃弾を何発かぶっ放した。

「っ!!」

だが、ミトの手口など、とうに読んでいた莉々は、笑みを浮かべて銃弾を避けた。

「なにっ!?」

上方に飛び上がった莉々を見上げ、ミトは、彼女のスピードに驚いた表情を見せた。

「そんな手には引っかからないわよ。甘かったわね!」

莉々はミトの後ろ側へ着地した。

「…フッ!腕を上げましたか。一筋縄ではいかないということですね!!」

一枚上手な莉々に、ミトは強がった態度を見せ、周りの兵たちに合図を出した。

「手加減などいりません!攻撃なさい!!」

「承知しました!!」

周りの兵は、莉々を囲み、たいした刀を抜いて構えた。

「………っ!!」

身動きがとれなくなった莉々は、汗を垂らして兵達を睨んだ。

四方八方から狙われてしまうと、少し動くだけで攻撃が飛んでくる。上空へ飛んだところで、兵の後ろに構えたミトに攻撃されてしまうのは分かりきっていた。

「…フフフ。さぁて、どうしますか?莉々嬢。こんなことで身動きが取れなくなるなんて…。先程の強気なあなたは何処に行ってしまわれたのかな?」

「………っ」

莉々は、兵の向こうにいるミトを睨んだ。


ジュセの部屋の扉を、新志(あらし)と愛莉はゆっくり開けて、外の様子を覗いた。

コルザは、新志達の後ろで、外の様子を心配そうに気にしながら、二人に声をかけた。

「気を付けて」

「分かってるよ」

「……あっ!!」

すると、コルザの部屋の方に目を向けた愛莉が、兵達に囲まれている莉々の姿に気が付き、とっさに声を出して部屋を出た。

「あ!愛莉ちゃん!!…わっ!莉々さんがっ!!」

「…えっ!?」

新志は勢いよく飛び出す愛莉を止めようと、部屋を出た瞬間、莉々の姿に気付き、声を上げた。新志の言葉を聞いたコルザも、とっさに部屋を出た。

「あっ!あなた達っ!!」

様子を覗うはずが、勢いよく部屋を飛び出す新志達を、ジュセが慌てて止めようと部屋を出た。

「…あら、あの小娘の仲間、ジュセの部屋に転がり込んでたのね」

後からの声に、ジュセはハッとして振り返った。

「……っ!?」

ジュセは驚いた表情で、言葉を失った。

ジュセの目の前には、ランバダとバーロン、そして、鎖で身体を縛られ、とらわれの身となったパントラが立っていた。

「パ、パントラっ!?あなたっ…どうしてっ?」

ジュセがパントラに近づこうとするのを、バーロンが立ち塞がって阻止した。

「…ジュセ様…。申し訳ありません…。僕が油断していたばかりに、こんな情けない姿をお見せすることになるとは…」

パントラは申し訳なさそうに下を向いて、ジュセに謝った。

「…っ!?パントラが何をしたっていうの!?…彼は何も関係ないわ!!」

ジュセは、必死にランバダとバーロンに訴えた。

「黙りなさい!!こいつがあの女と話していたところを、私達はこの目で見てるのよ?これ以上の証拠なんてないじょない!?」

ランバダは、ジュセに詰め寄って言った。

「…それは違うわっ!パントラは、彼女に考えを改めるように説得していただけよ!」

「ジュセ様っ!!」

自分を庇ってくれるジュセを、パントラは止めた。

「あんたまで言い訳するなんて…。見苦しいわよ!…こいつの魔力は、私が全部絞り出してあげるから、心配しないで」

ランバダは声高らかに「キャハハ」と笑って、ジュセを押しのけた。ジュセは、ランバダを心の底から憎んだ表情で睨んだ。

ランバダはそのまま、ミトたちの様子を見に向かった。バーロンは、パントラを縛った鎖を引っ張り、ランバダに続いた。

「…パントラっ!!」

自分の前を通り過ぎるパントラに、ジュセは声を掛けた。

「………」

パントラは、ジュセの顔を見ることが出来ず、申し訳なさそうな顔で下を向いたまま、黙ってバーロンに引っ張られて行った。


ミトたちの方はというと、莉々を追い詰め、やっと彼女を捕えられると、手ごたえを感じている時だった。

「お姉ちゃんっ!!」

後方から愛莉が、追い詰められている莉々に呼びかけ、ミトはそちらへ振り返った。

「…っ!?愛莉っ!?新志君もっ!?…だ、駄目っ!来ちゃ駄目っ!!」

莉々が愛莉に叫んだ瞬間、一人の兵が、莉々に切りかかった。

「……っ!?」

莉々はとっさに避けたが、刀は彼女の腕をかすめ、傷口から噴き出た真っ赤な血が数滴舞った。

莉々は傷口を抑え、その場に膝を着いた。

「お…お姉ちゃんっっ!?」

莉々が攻撃を受ける姿を目の当たりにした愛莉は、衝撃を受けて、それ以上近づけなくなった。

「り、莉々さんっ!!」

愛莉の後を追って来た新志とコルザも、驚いた表情で、すぐさま愛莉の元へ駆け寄った。

「…おやおや、莉々嬢の妹さんですか?これはまた可愛いらしい」

ミトは微笑みながら、愛莉に近づいた。

「…っ!?」

愛莉は、ビクッと身体を強張らせて、何も反応出来ずに、ただミトを見ていた。

「愛莉ちゃんに近づくなっ!!」

愛莉に近づくミトから、彼女を守ろうと、新志が前へおどり出た。

「…これはこれは…。今度は小さなナイトのご登場だね」

ミトは、新志をからかうように笑って言った。

「ば、馬鹿にするなっ!!僕だって、愛莉ちゃんを守る魔力をちゃんと持ってるんだ!!」

そう言うと、新志は胸の宝石に手を当て、杖を出し、そして杖を自身の武器である(つるぎ)の形に変えて、身構えた。

「へぇ…。何故、正魔飾着を着てるのかと思ったら、どうやら初心者さんのようだね。なら、教えてあげるけど、その恰好はね、魔力を授かった時や、自分の階級が上がった時、正式な儀式の時に(まと)うものなんだよ」

ミトは、再度新志を見下したように話した。

「………っ」

新志はじっと黙って、ミトを睨んでいる。

「けど、初心者にしては、大きな剣だね。…ありがちなんだよね。特に初めは、見かけだけ大きくしようとするのって。これから分かるだろうけど、自分の身の程に合った物にしないと、困ることになるよ?」

ミトは、そう言うと、新志に銃を向けた。

「防ぐんだっ!!新志君っ!!」

後ろにいたコルザが、ミトからの攻撃をくらわないよう、新志に向かって叫んだ。

コルザの叫びと同時に飛んできた銃弾を、新志は剣を盾のようにして防いだ。

新志は無意識に剣から魔力を放ち、銃弾を勢いよく跳ね返した。

「なっ!?」

跳ね返った銃弾は、ミトの頬をかすめた。

思いもよらない程の新志の魔力に、ミトは驚きを隠せない表情で新志を見た。

「…僕の顔に…!小僧…っよくも…っ!」

「………」

新志とミトは睨み合った。

「…いいね?愛莉ちゃん?」

「オッケイっ!!」

その後ろでは、コルザと愛莉が何やら作戦をっていた。

すると、コルザが新志の前に出て行き、ミトの前に姿を現した。

新志は前へ出たコルザに、ふと目をやった。

「…コルザ?」

「…キルス?何故ここに…?」

ミトは、新志を睨んでいた目をコルザに向けて、眉をしかめた。

「キルスじゃない!コルザだよっ!!ミト!!」

コルザはミトに力強く言った。

「…っ!?キ、キルスが喋ったっ!?」

キルスが口を利くことに困惑したミトは、動揺した様子を見せた。

「今だよっ!!愛莉ちゃんっ!!」

コルザは後ろで構える愛莉に合図を出した。

「はぁいっ!!」

愛莉は、すかさず手に溜めた魔力を、ミトへ向けて放った。

ハート型に飛んできた愛莉の魔力は、ミトの持っていたライフルに直撃し、廊下の向こう側へと吹っ飛ばした。

「っなにっ!?」

油断したミトは、ライフルの飛んで行った方を呆然と眺めた。

「…どう?まだやるっていうの?」

ミトはハッとして振り返り、目の前に立ち塞がる愛莉に目を向けた。

「い、いや…。ぼ、僕は……ただ、バーロンに言われただけで…その…」

成す術が無くなったミトは、慌てて言い訳し、急いでその場から走り去っていった。

新志はポカンとした様子で、逃げていくミトを見ていた。

「…ど、どういう事?」

愛莉とコルザの方へ顔を戻した新志は二人に聞いた。愛莉とコルザは、クスクスと笑い合っている。

「コルザの言った通りだったね!!」

「うん!…新志君、ミトはね、自身の愛用武器が無いと、攻撃魔法が何も使えないんだ。だから、愛莉ちゃんに彼から銃を取り上げるようにお願いしたんだよ」

コルザは新志に説明した。

「そうだったのか!!だから、慌てて逃げて行ったんだね!!」

新志は納得して笑った。

「うわぁっ!!」

莉々を囲む兵達の方から、叫び声がして、新志達はハッとそちらへ顔を向けた。

見ると、莉々が上空に飛び上がり、兵達に向けて、光る花びらの攻撃を喰らわせていた。

「お姉ちゃんっ!!」

愛莉は莉々に助太刀すべく、すかさず油断している兵に向かって、自身の攻撃魔法を喰らわせた。

「ぐわぁ!!」

花びらで目くらましを喰らっていた兵は、愛莉の攻撃をまともに浴びた。

「たああぁっ!!」

新志も加わり、剣を振りかざして、兵の持っている刀を次々にぎ払っていった。

上空からストッと降り立った莉々は、二人の戦いぶりをじっと見つめていた。

「莉々さんっ!!」

コルザは心配した様子で、莉々に駆け寄った。莉々はハッとして、こちらへ駆けてくるコルザに目をやった。

「…コルザ…」

「大丈夫ですか?その怪我…」

莉々は、思い出したように、先程負った傷に目をやった。

莉々は、微笑んでコルザに言った。

「大丈夫よ。ありがとう。…おばあさんの言っていた通り、愛莉も新志君も、充分に魔力を身に付けたのね。…私の出る幕なんて、ないみたい…」

莉々は、新志達を見つめながら呟いた。

「…えっ?」

コルザも、莉々と同じ方へ視線を向けたが、すぐに戻した。

「そんなことないっ!新志君と愛莉ちゃんは、あなたの力を必要としています!莉々さんだって、新志君達の協力が必要なはず!」

コルザは、必死に莉々に訴えた。

「………」

莉々は、黙ってコルザを見つめた。

兵達は、自身の武器を薙ぎ払われ、成す術が無くなり、先程のミトのようにその場から逃げ去って行った。

「どんなもんだいっ!!」

「べーっだっ!!」

新志と愛莉は、肩で息をしながら腰に手を当てて、逃げて行く兵達に向かって言った。

「お姉ちゃんっ」

愛莉は、すぐに後ろを振り返り、心配した顔で莉々に駆け寄った。

「…愛莉」

莉々も、愛莉に歩み寄り、彼女の手をギュッと握った。

「大丈夫なの?血が出てるよ?」

愛莉は、莉々の腕の傷の具合を見て、心配そうに聞いた。

「ええ。大丈夫。慣れてるわ」

莉々は笑顔で返した。

「莉々さん…」

後から来た新志も、心配そうに莉々に声を掛けた。

「新志君も…。ありがとう。助けてくれて」

笑顔で莉々に言われ、新志は顔を赤くして首を横に振った。

「ごめんね…。二人に黙っていて。…心配かけたくなかった…」

莉々は、寂し気な表情になってうつむいた。

「ほんとだよ!こんなに大事なこと黙ってるなんて!私たちがまるで役に立たないみたいにさっ!」

愛莉は怒った表情で、莉々に言った。

「……ごめんなさい…」

うつむいた莉々は震え出し、新志達に出会えて、今までの緊張が解けたかのように、目から涙をこぼした。

「…っ!?」

莉々の様子を見た愛莉は驚いて、それ以上は何も言おうとしなかった。

「…莉々さん、僕らのこと、もっと頼って欲しいな。一人で解決したいのは分かるけど、僕らだって、莉々さんと気持ちは一緒なんだ」

新志は両手で顔を覆う莉々に優しく言った。莉々は、黙って「うんうん」と頷いた。

莉々以外の三人は、黙って微笑み合った。

「…感動の再会シーンは、もうそろそろいいかしら?」

ランバダの声に、一同は身体をそちらへ向けた。

「…っ!?パ、パントラっ!?」

コルザは、鎖につながれているパントラを見て、驚いて声を発した。莉々や新志、愛莉も同様に驚いている。

「あなた…。私のせいで…?」

莉々は、自分を庇ったために、パントラが身代わりとなって捕まったのだと察した。

パントラは、下を向いたまま首を横に振った。

「…キルス…?あんたなんで喋ってんの?…しかもその声…。コルザじゃないの」

ランバダは、キルスがコルザの声で話していることに疑問を感じた。

「…まさか…、コルザ様の性別が変わられたことに、関係があるのでは?」

カンの鋭いバーロンは、横にいるランバダに言った。

「性格と性別が変わられ、どこか変だと思っていたが…。そうか、以前のコルザ様は、その中か…」

バーロンは、何かを秘めたような冷たい瞳で、じっとドラゴンの姿のコルザを見た。

「……っ!?」

コルザは恐怖を抱き、たじろいだ。

「…っ!?ここにいるキルスは、コルザってこと?」

ランバダは、驚いてバーロンに聞いた。

「…そのようです」

バーロンは、笑みを浮かべてランバダに言った。

「…っやめろっ!!コルザ様を傷つけるなっ!!」

コルザの魂がキルスの中にあると知られ、パントラは妙な不安を抱いて、バーロンに訴えた。

「…だが、今のコルザ様はこの部屋の中だ。侵入者の肩を持つ者など、お前同様、この城では敵にすぎん。…悪いが、一緒に始末させてもらう」

バーロンは、手に魔力を念じて、深緑色の光と共に武器である大きな槍を出現させた。

新志、愛莉、莉々、コルザは身構えた。

「待って!私にも殺らせてよ!」

ランバダも、胸の宝石から赤い光を纏わせて、銃を出現させた。

「…ランバダ様のお手をわずらわせるわけにはまいりません。どうぞ、後ろへ下がっていて下さい」

自分の槍の攻撃に、縦横無尽(じゅうおうむじん)に撃つランバダの銃は邪魔になるだけだと思ったバーロンは、彼女を怒らせない言い方で、攻撃を遠慮させた。

「いいじゃない!あの女にはずっとムカついてたのよ!始末するなら絶対私の手でって決めてたんだから!」

ランバダは引かず、バーロンに食って掛かった。

「………」

バーロンは返事をせず、黙ってランバダを見た。

二人がそういったやり取りをしている中、新志達は、ランバダ達にバレないように何かコソコソと話していた。

「いい?扉の前までなんとか逃げて、攻撃が来たら、二人共私に掴まって、一緒にジャンプするのよ?」

莉々は、新志と愛莉に言った。二人は黙って頷いた。

「……分かりました。ランバダ様のお好きなように…」

バーロンは仕方なく折れ、ランバダに言った。ランバダは勝ち誇った顔で、新志に目をやった。

「…ごめんね、可愛い侵入者さん。あなたのお相手が出来なかったわ。恨むなら、この怖い臣従さんを恨んでね?」

「………」

ランバダは、バーロンを指さして言った。新志は黙ってランバダを睨んだ。

「…じゃあ…、消えてっ!!」

ランバダとバーロンは、武器を構えて一斉いっせいに攻撃を放った。

「っきゃあっ!!」

「うわっ!!」

「………くっ!!」

すさまじい攻撃を喰らう中、新志達を庇うように杖で攻撃を防ぎ続けた莉々は、なんとか扉の方まで移動した。

「こざかしいわね!!…けど、子守りしながらはさすがに戦えないようね!これで終わりよっ!!」

ランバダは次の一発で仕留めようと、狙いを定めて、銃口を莉々達に向けた。バーロンも、ランバダに続くように、槍を構えた。

(…来るっ!!)

「っ!!行くわよっ!!飛んでっ!!」

莉々は新志達に叫び、新志と愛莉を支えて飛び上がった。新志と愛莉は、莉々に言われた通り、彼女に掴まりながら、力を込めて床を蹴り上げ、コルザは自身の翼で飛び立った。

莉々達は、渾身を込めたランバダの一撃とバーロンの攻撃を、間一髪のところで避けた。

「ドオンッッ」

ランバダとバーロンの同時の攻撃は、鈍い音を立てて、コルザの自室の扉を破壊した。

「なっ…!」

「しまった…」

砂埃が舞う中、ランバダとバーロンは、呆然と破壊した扉を見ていた。

莉々達は、無事に着地し、破壊された扉の方へと振り返った。

「…あらら…」

「…凄い事になっちゃったね…」

新志と愛莉は、ガラガラと音を立てて落ちる、扉の破片を見ながら言った。

「…これでいいのよ。やっと目的地に着いたわ」

莉々は、二人に言うと、迷うことなく部屋の方へ歩き出した。

「………」

コルザも黙って莉々の後に着いて行った。

「あっ!待ってよ!」

「あ、僕も!」

新志達も慌てて後に続いた。

「気を付けて」

莉々は、扉の破片に注意するよう、新志達に言った。

四人は、警戒しながら壊れた扉の隙間から中の様子を覗った。だが、部屋の中は薄暗く、外からではどうも見え辛かった。四人は顔を見合わせ、そのまま部屋の中へと足を向けた。

不安を抱いた愛莉は、新志の腕を掴んだ。

「…大丈夫?愛莉ちゃん?」

新志は不安そうにする愛莉に聞いた。

「……怖い…」

愛莉は、ギュッと新志の腕にしがみついて言った。

「………」

新志は愛莉を黙って見つめると、キッと険しい顔で前を向いた。

「………っ!?」

部屋に入り、中に目をやった四人はハッとした。

「…こ、これは…っ!?」

四人の目の前には、赤い光を帯びた、大きなジェムエレメントがそびえ立っていた。



第九話、読んでいただきいつもありがとうございます。

いよいよ物語も後半へと入りました。

第十話「真直と裏切りの臣従」もよろしくお願いいたします!!

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