第八話「今こそ、魔法界へ!!」
新志と愛莉が、リィーズの元で魔法の特訓を受けるようになってから、数週間が過ぎようとしていた。
休日の新志の家には、特訓の休息もかねて、愛莉が久々に遊びに来ていた。
新志の部屋では、ジュースとお菓子を囲んで、ベッドに愛莉が座り、その横にコルザ、机の椅子に新志が座っていた。
「なんか、久ぶりの休みだーって感じだよね!」
愛莉は、手と足を伸ばしてリラックスしながら言った。
「ほんとだね。毎日学校行っては、その後は魔法の特訓でさ」
新志はジュースを飲みながら、やっと解放されたように言った。
「でも、二人共、凄く上達したね!早いくらいだよ!」
コルザは、疲れ気味の二人の様子を見て励ました。
「でしょ!?私って、実戦で伸びるタイプなんだよね!授業みたいな説明だけじゃ、もーなんか分かんなくって!」
愛莉は、コルザの方に身を乗り出して言った。
「愛莉ちゃんは昔からそうだよね。教科書は苦手だけど、身体を動かす体育とかは得意でさ」
笑いながら言う新志の方へ振り返った愛莉は、負けじと言い返した。
「新志君だってそうじゃん!?おばあちゃんに難しい説明されても、よく分かってないでしょ!」
「…う…」
愛莉に痛いところを突かれた新志は、何も言えずに黙った。
「二人共、似た者同士ってことだね!」
コルザは笑いながら言った。新志と愛莉は、笑っているコルザに顔を向けた。
「…似てるかなぁ?私と新志君…」
「…さぁ?どうだろう…」
二人は顔を見合わせて首を傾げた。
“ピンポーン”
呼び鈴の音が家に響き渡った。
「誰か来たぞー」
愛莉はお菓子のスナック菓子を食べながら、新志に言った。
「母さんがいるから大丈夫だよ」
新志は、乗っている机の椅子をぐるぐる回転させながら言った。すると、階段を上がってくる音が聞こえ、部屋にいるみんなは扉の方に顔を向けた。
扉からノックの音がすると、新志のお母さんが、中の新志達に声を掛けた。
「新志、愛莉ちゃん、お客さんよ!」
「えっ?」
「へ?私も?」
新志と愛莉は、「?」を浮かべて顔を見合わせた。
「コルザ、ちょっと待ってて」
新志はコルザに言うと、愛莉と共に部屋を出た。
「誰?」
部屋を出た新志は、お母さんに聞いた。
「愛莉ちゃんのお姉ちゃんよ。えっと、莉々ちゃんだっけ?」
「えっ!?莉々さんが、僕ん家に!?」
新志は驚いて、興奮気味に階段を駆け下りた。
「お姉ちゃん?何しに来たんだろ?」
そう言って、愛莉も新志の後に続いて階段を下りた。
「莉々さん!お待たせしました!」
玄関にいる莉々の前までたどり着くと、新志は背筋をピンッと伸ばして言った。
「こんにちは、新志君。突然お邪魔してごめんね」
肩掛けかばんを下げた莉々は、ニコッと笑って、新志に挨拶をした。莉々の笑顔に癒された新志は、デレデレしながら言った。
「いえ!そんなぁ!」
「どうしたの?お姉ちゃん?」
新志を押しのけた愛莉は、莉々に聞いた。
「…ええ。新志君に、ちょっとお願いがあって…」
莉々は少し言いにくそうに、もじもじしながら言った。
「えっ!?僕にっ!?なんでも言ってください!!」
新志は、今度は愛莉を押しのけて言った。
「あのね…、ちょっと、買い物に付き合ってもらえないかな?」
「えぇっ!?り、莉々さんと、か、買い物っ!?」
新志は興奮を抑えきれず、目をキラキラさせて莉々を見た。横では、愛莉が驚いて唖然としていた。
「…ダメかな…?」
「い、いやっ!もちろんいいですよ!行きましょう!…あ、愛莉ちゃんは、部屋でコルザと待ってて!」
新志は急いで靴を履き、莉々と家を出る間際に、愛莉の方を振り返って言った。
「えっ?ちょ、ちょっとっ!!新志く…」
「じゃあね~っ!!」
新志は莉々と共に、バタンッと家から出て行った。残された愛莉は頭に血をのぼらせた。
「っも~っ!!なんなのっ!!新志君も新志君だけど、お姉ちゃんもお姉ちゃんだよっ!!何で新志君だけ誘うのっ!?」
愛莉はプンプン怒りながら、コルザのいる二階へ上がった。
―ガチャンッ―
勢いよく部屋の扉が開き、コルザは驚いて振り返った。
「聞いてよー!コルザー!!」
愛莉は部屋に入るなり、ベッドに飛び乗って、コルザに泣きついた。
「ど、どうしたの?愛莉ちゃん?…新志君は?」
コルザは戸惑いながら、愛莉に聞いた。
「その新志君が、私をのけ者にして、お姉ちゃんと出かけて行っちゃったー!!」
「えぇっ!?新志君が?莉々さんと?さっきのお客さんは、莉々さんだったの?」
コルザの質問に、愛莉は頷いた。
「ひどいんだよ!お姉ちゃんってば、急に来るなり、‘私、新志君と買い物に行きたい’なんてわがまま言っちゃって!新志君なんて、お姉ちゃんに弱いもんだから、言われるがままに付いて行っちゃうしさ!!」
愛莉は怒りを露わにして、枕に拳を叩きつけた。
「………」
コルザは、愛莉が怒りをぶつける様子に困惑を隠せず、何も言えずに見ていた。
「挙句に、私には、コルザと部屋で待っとけだって!どう思う?コルザっ!?」
愛莉は怖い顔で、コルザの方に顔を向けて聞いた。
「…え?あ、うん…。…莉々さんは、どうして新志君だけ誘ったんだろう?」
コルザは疑問に思って聞いた。
「知らないよ!!男の人は、みんな自分の物になるって、私への当てつけなんじゃないの?」
愛莉は、フンッとそっぽを向いて、ふてくされながら言った。
「そ、そんなことはないと思うよ…。何か、新志君じゃなきゃダメな理由があるんだよ」
コルザは苦笑いを浮かべ、愛莉をなだめた。愛莉はジロっとコルザに目をやった。
「…新志君じゃなきゃダメな理由って?」
「…えっ!?…そ、それは、僕にも分からないけど…」
コルザは困った顔で言った。
愛莉は気が収まらないようで、頬を膨らませている。
そんな様子を見兼ねたコルザは、愛莉に話しかけた。
「…でも、新志君が待っててって言ったなら、僕らは待っていようよ。新志君が帰って来たら、隠さずにちゃんと話してくれるよ。愛莉ちゃんだって、そう思うでしょ?…新志君の事、一番よく知ってるのは、愛莉ちゃんじゃないか」
コルザは、愛莉に笑顔を向けて言った。愛莉はコルザの方に顔を戻した。
「…コルザ…。…う…ん…。そ、そうだよね…。私ってば、何でこんなに怒ってるんだろ…?新志君とお姉ちゃんの事なんて、いつも見てる光景なのに…」
愛莉は、興奮した気持ちをだんだん和らげ、再度コルザに目をやった。コルザは笑顔で愛莉を見ている。
「…よぉし!」
愛莉は、コルザを持ち上げて、ぎゅっと胸に抱きしめた。
「あ、愛莉ちゃんっ!?」
突然抱きしめられたコルザは、驚いた様子で愛莉を見上げた。
「私には、コルザがいるもんっ!一緒に、女にはめっぽう弱い新志君を待ちましょう!」
愛莉の言葉を聞き、大人しく待つことを決心してくれた事に、コルザはホッとした様子を見せた。
一方、新志と莉々は、お店がある駅前までの道を、並んで歩いていた。
新志は、隣に歩く莉々が気になりながら、ちらちらとそちらに目を向けて歩いた。
(…これって、やっぱり、僕の事、デートに誘ってくれたってことだよね…?愛莉ちゃんの前で、結構大胆なことするな…莉々さんって…)
新志は終始顔を赤くして、莉々の隣を歩いていた。莉々は、黙って前を見ながら歩いている。
「…それで、何を買いに行くんですか?莉々さん、何か欲しい物でも?」
新志は、しばらく沈黙が続いていることに気付き、莉々に話しかけた。莉々は、新志の方へ顔を向けた。
「うん。…今日、新志君を買い物に誘ったのは、聞きたいことがあって…」
莉々は、少し躊躇しながら、新志に言った。
「僕に聞きたいこと…?な、何ですか?」
新志は何処か期待を膨らませ、鼓動を高鳴らせながら聞いた。
「あのね…、コルザくんの好きな食べ物って、何かな?」
「………へ?コルザ?」
新志は、急に拍子が抜けたように、呆然と聞いた。
「…うん。何か、好きな物をあげたいんだけど…。新志君なら、彼の好きな食べ物、知ってるでしょ?」
「あ…。そ、そうだな…。何でも食べるけど…」
新志は、莉々に聞かれるがままに考えた。
「例えば、お菓子とか。私に作れる物だと、ありがたいんだけど…」
莉々は、新志を見つめて聞いた。
「り、莉々さん!?ま、まさか、その材料を、今日買いに行くつもりで?」
新志は、今頃になって気がつき、恐る恐る莉々に聞いた。莉々は、黙ったままコクンと頷いた。
(……莉々さん…コルザの為にお菓子まで作ろうなんて…。本当に動物が好きなんだ…)
莉々にコルザの正体が知られていることに、新志は気づいていなく、素直に莉々の動物好きを感心していた。
「わかりました!莉々さんの為に、僕も出来る限りの事、手伝いますよ!」
「ありがとう!新志君!」
莉々は、笑顔で新志に礼を言った。新志はその笑顔に、また顔を赤くした。
「…コルザの好物でしたね…。えっと、お菓子かぁ…。……あ!そうだ!アイス!!」
新志は思い出したように声を上げた。
「アイス?」
莉々は、意外な答えに聞き返した。
「そう!コルザはアイスクリームが好きです!前、僕のを少しあげて感激してました!…あ、いや、おいしそうに食べてました!…母さんは、お腹を壊すから、コルザにアイスをあげちゃ駄目って言うんですけど…」
新志の話を、莉々は真剣に聞いている。
「…そのせいで、なかなかコルザにアイスをあげられないんです…。だから、アイスをあげたら、きっとコルザ喜びますよ!」
新志は嬉しそうに莉々に話した。莉々は少し考えた。
「…そう…。アイスね…。それなら、すぐに買ってあげられるし、まだ暑いこの時期にもちょうどいいわね」
莉々は、にっこり笑って新志を見た。
「決まり!アイスにするわ!ありがとう、新志君!!」
新志は、莉々の役に立てたことに、嬉しさで胸をいっぱいにした。
「行こうっ!莉々さん!スーパーまで、もうすぐですよ!あ、ちなみに、コルザはチョコアイスが好きです!」
「へぇ!新志君は、コルザくんの事、なんでも知ってるのね!」
二人は笑い合いながら、下り坂を駆け下りた。
新志の部屋では、愛莉がベッドに座り、足をブラブラ浮かせていた。机の上では、コルザが、新志の教科書に目を通していた。
「…そんなもの見て、面白い?」
愛莉は不思議そうに聞いた。
「…うん。文字は何て書いてあるのか分からないけど、きっと、この世界の古い歴史の事が書かれているんだろうね…。魔力があれば略せるのに…残念だな」
コルザは、人間界の事に興味があるらしく、歴史の教科書に目を向けながら言った。
「フーン…」
愛莉はコルザの様子を見ながら、何かを思い出した。
(…そういえば、コルザって、凄い魔力の持ち主だって、おばあちゃんが言ってたっけ。なんとかエレメントを持てるほどの…。…おばあちゃんの孫である私の魔力も知っているはずだし…、結構私達って、お似合いだと思うんだけど、その辺のとこ、どう思ってるのかな…?)
愛莉は、コルザをじっと見つめた。コルザは、熱心に教科書を見ている。
愛莉は、意を決したように唾を飲んで、コルザに話しかけた。
「…ねぇねぇ、コルザ?」
話かけられたコルザは、愛莉の方を向いた。
「なに?愛莉ちゃん?」
愛莉は、少し照れた表情で、コルザを見ながら言った。
「コルザと二人きりになるの、そういえば初めてだよね?」
言われたコルザは、きょとんとして答えた。
「え?あ…。そう言えば、そうだね。…あっ!ごめんね。教科書ばっかり見ちゃって…。愛莉ちゃん、退屈だよね?何か話そうか!」
そう言うと、コルザは教科書を閉じ、身体を愛莉の方に向けた。
「や、やだなっ!…そんな面と向かって話そうだなんてっ!…は、恥ずかしいじゃん」
愛莉は頬に両手をあてて、赤くなった。いつもと様子の違う愛莉を不思議に思ったコルザは、首を傾げた。
「恥ずかしい?…どうして?」
「もぅ!そんなこと言わせないでよ~っ!!」
愛莉は赤くなった顔を隠すように、枕を顔にあてた。
「……???」
愛莉の言動をよく理解できないコルザは、どうしていいのか分からず、ただ困惑して見ていた。
すると、急に枕を顔から離した愛莉は、身を乗り出してコルザに聞いた。
「あのさっ!!コルザって、魔法界に好きな人とかいるの!?」
唐突すぎる愛莉の質問にコルザは動揺した。
「えぇっ!?好きな人って…、好きな女の子ってこと…?」
愛莉は「うんうん」と頷いた。
「い、いないよ!そんな人っ!」
コルザは顔を赤くして否定した。
(やった!!)
愛莉は心の中で思いながら、ガッツポーズをした。
「ど、どうしてそんなこと聞くの?」
急にそんな質問を投げかけてくることに、コルザは疑問に思って愛莉に聞いた。
「…だ、だってさ…その……」
愛莉は顔を赤くしながら、ベッドの布団を、人差し指でなぞった。
「…私の夢…コルザ、知ってるじゃん?」
「愛莉ちゃんの夢?」
コルザは、愛莉の夢が何だったか、思い出そうと考えた。
「魔法界のプリンセスになるっていう…?」
思い出したコルザは愛莉に聞いた。
「……そ。…だから…さ?…ゆくゆくは…コルザと……その……」
愛莉はかぁーっと顔を赤くさせて、もじもじしながらコルザに意思を伝えた。
初めはあまりよく理解していなかったコルザだったが、愛莉の言いたいことを、だんだん察してくると、愛莉と同様に、みるみる顔を赤くしていった。
「…あ……えっと…。そ、そういうことか…」
コルザの様子から、気持ちが伝わったとわかった愛莉は、チラッとコルザを見て言った。
「……そ、そういうこと…です…」
「…そういうことだよね……。アハハ…」
「あ……アハハハハハ」
「…アハハハハハハハハハハ」
……部屋には、二人の異様な笑い声だけが響いた。
一方で、新志と莉々は買い物を終え、新志の家までの道を並んで歩いていた。
「ありがとう、新志君。買い物に付き合ってくれて」
莉々は新志の方を見て礼を言った。
「い、いえいえっ!これくらい、お安い御用ですよ」
新志は、手を横に振って莉々に返した。
「…愛莉…怒ってないかな?新志君を連れ出しちゃって…」
莉々は視線を少し落として心配した。
「え?愛莉ちゃん?大丈夫大丈夫!僕のこと呆れて、きっと今頃、コルザと遊んでると思いますよ」
新志は笑いながら言った。
「…そうかな?…愛莉、いつもあなたの事気にしているから、帰ったら私、きっと怒られると思うわ」
「…え?どうして莉々さんが怒られるんですか?」
新志はきょとんとして聞いた。
「だって…。今日、新志君の家に遊びに行くって、とても嬉しそうに出かけて行ったのよ?…でも、私があなたを横取りするような事をしてしまって…。よく考えたら、私の思いつきで、あの子の楽しみを奪ってしまったなって…思って…」
莉々はうつむいて、悲しそうに話した。
「…でも、あの子はいつも新志君と一緒にいられるんだし、少しくらい、私もわがまま言ってもいいかなって思ったの…。いけない事だったかな…?」
莉々は、寂しそうな顔で新志を見た。新志は胸を高鳴らせた。
「…い、いけない事だとは…僕は…思いませんけど…。僕は、莉々さんと買い物に行けて、楽しかったですよ?…莉々さんと、こんなにたくさん話した事なかったし…とっても貴重な時間だと思ってます…」
新志は、心臓をドキドキさせながら莉々に言った。莉々は、じっと新志を見つめている。
「…ありがとう。新志君…。…私、新志君と愛莉が…凄く、羨ましい…」
莉々の言葉を聞いた新志は、自分の心臓が「ドクンッドクンッ」と激しく鳴っていることに気付かずにはいられなかった。
(…う、羨ましいって…。それって…つまり…やきもちを焼いてるってこと…?)
新志は、自分の気持ちを伝えるのは今しかないと思い、心臓に手をあてて深呼吸した。
呼吸を整え、莉々の方へ身体を向けた。
「…あのっ!り、莉々さんっ!」
「………?」
莉々は足を止めて、新志の方へ振り返った。新志は真っ赤な顔でこちらを見ている。
「…なぁに?新志君…?」
いつもと様子の違う新志に、莉々は少し戸惑ったが、笑顔で新志に聞き返した。
「…ぼ、僕っ…、ま、前々から言おうと思ってたことがあるんですっ!!」
新志は莉々の顔を見ることが出来ず、目を背けて、緊張しながら話した。
「………」
莉々は黙って新志の話を聞こうとした。
「…僕…そのっ…。よく、愛莉ちゃんとラビアンローズに遊びに行くのは…、り、理由があって…。…その…なんていうか…、お、お花に囲まれてる、莉々さんに会うためなんです!」
「……えっ?」
莉々はハッとして、新志を見つめた。
新志は緊張しながら続けた。
「お花に囲まれてる莉々さんって、なんだか凄くキラキラしていて…。綺麗なんです!!…それに、最近はもっと大人びていて、凄く綺麗…」
「………」
新志に容赦なく褒められた莉々は、かぁっと顔を赤くして、視線を反らせた。だが、そんなことはお構いなしに、新志は莉々に近寄って、視線を合わせた。
「……っ!?」
視線を合わせた二人は、お互いの顔の紅潮に気付くと、なおさら恥ずかしくなり顔を赤くした。
「好きですっ!僕、莉々さんの事!!」
「っ!?」
新志は、とうとう自分の気持ちを莉々に告白した。
莉々はというと、顔を真っ赤にさせたまま、何も言えずに、ただ視線を反らせていた。
「莉々さん…。…僕と、付き合って下さいっ!!」
「えっ!?」
ストレートな告白に、莉々は驚いて新志を見た。新志は真剣な眼差しで、莉々をじっと見つめている。
「………」
莉々は、視線を落とし、言いにくそうに、躊躇した様子を見せた。
「……莉々さん?」
なかなか返事をしない莉々に、新志は答えを促すように声を掛けた。
「……そんな風に思っていてくれたなんて……ありがとう…」
莉々は視線を落としたまま新志に言った。
「…でも…、私……」
「……」
新志は、しばらく莉々の答えを待っていたが、答えに困っている彼女の様子を見ると、だんだん不安を抱き始めた。
「り、莉々さん、さっき、僕と愛莉ちゃんが羨ましいって…言ってたから…。だから…その…、それって……」
自分の期待を確かめようと、新志は、言葉を詰まらせながら莉々に話した。だが、莉々は首を横に振った。
「あれは…、そういう意味じゃ…」
「………」
莉々に否定された新志は、彼女がどういう意味を込めて、そんな発言をしたのか理解できなかった。その意味を考えさせられた新志はうつむいた。
「あっ!新志君っ!!アイスが溶けちゃうわっ!!行きましょ!」
アイスが入っている袋を見た莉々は、慌てて新志の家へ走った。新志もハッとして、答えの出ないモヤモヤした気持ちを抱きながら莉々の後を追った。
家に帰って来た新志は、莉々と玄関に入った。新志は、先程の事で気が抜けたように、どこか上の空な表情をしていた。
「…新志君、本当にどうもありがとう…。これ、新志君たちの分もあるから、食べてね」
新志の様子を見て、申し訳なく感じた莉々は、気を使いながら新志に言った。
「…あ、…はい。…あ、ありがとうございます…」
新志は気まずそうに、莉々から目を背けて礼を述べた。
「…あの、愛莉を呼んでもらえないかな?…おばあさんから、言付けを頼まれているの」
「わ、わかりました」
新志は莉々に言われた通り、階段を上って、愛莉を呼びに行った。
新志はガチャッと部屋の扉を開けて中に入った。
「あっ!お、おかえり!!新志君っ!!」
愛莉とコルザは、少し慌てた様子で、新志の方へ振り返った。
「ただいま…」
新志は疲れた様子で返事をした。愛莉とコルザは顔を見合わせた。
「どうしたの?新志君、なんか元気ないね…お姉ちゃんとのデート、楽しくなかったの?」
愛莉は新志に近寄って聞いた。
「…いや…。デートっていう感じでもなかったんだけどさ…。ただ、買い物に付き合っただけだよ」
落ち込んだ新志が愛莉に言った。
「…あれま…。ほんとに買い物に付き合わされたんだ…」
愛莉は、新志を哀れんだ目で見つめた。
「…愛莉ちゃんこそ、どうしたの?なんか、顔が赤いよ?」
新志に指摘され、愛莉とコルザは焦った。
「べ、別にっ!そんなことないよ!いつもと一緒じゃん!!ね、ねぇ、コルザ?」
「う、うん。そ、そうだよ」
コルザは慌てて愛莉に返事をした。
「…そう?…あっ!そうだ、愛莉ちゃん、莉々さんが呼んでるよ。魔女ばあさんに言付けを頼まれたって」
新志は、二人の様子に違和感を覚えながらも、莉々に頼まれていたことを思い出して、愛莉に伝えた。
「え?おばあちゃんが、私に?…なんだろ?」
愛莉は疑問に思いながら、部屋を出て行った。新志も気になって、愛莉の後について行った。
「お姉ちゃん、何?」
愛莉は階段を降りると、莉々のところへ歩きながら聞いた。
莉々は、愛莉が怒っていないか、様子を覗いながら話した。
「あ…愛莉。あのね、おばあさんが、お店に来なさいって。新志君も連れて来てほしいって言ってたわ」
「…え?おばあちゃんが…?なにかな…?」
愛莉は、後から降りて来た新志と、目を合わせた。リィーズに呼ばれるという事は、きっと魔法関係のことだと思い、新志は愛莉に言った。
「とりあえず、行ってみよう。待ってて、コルザを連れて来る」
新志が二階に上がろうとするのを、莉々がとめた。
「あ、待って、新志君!」
新志は莉々に呼び止められ、体をビクッと反応させた。
「買って来たアイス、今あげたいの。…私、コルザくんとお留守番していてもいいかな?」
「えっ?」
新志は莉々の方へ振り返った。莉々は少し切なさを混じらせた笑顔で、新志を見つめている。
新志は頬を染めて、顔を反らせた。ちゃんとした返事をもらっていない莉々に、未練が残っているようだった。
「……わ、わかりました。ちょっとだけ、待っててください」
コルザと莉々を接触させることは、リィーズから止められているのだが、新志は莉々の目を見ると断れず、承諾して二階へと上がって行った。
「…アイス?何の話?」
話の流れが理解出来ない愛莉は、新志のぎこちなさも気になりながら、莉々に聞いた。
「…う、うん…。実は、コルザくんにあげるアイスを、新志君と買いに行ってたの。新志君なら、コルザくんの好きな食べ物を知っていると思って…」
莉々は手を前に組んで、視線を反らせながら愛莉に言った。
莉々が新志を買い物に誘った理由が分かると、愛莉は「プッ」笑い出した。
「アハハハハッ!なんだ、そうだったんだ!!」
「な、何がそんなに可笑しいのよ?」
自分がからかわれている気分になった莉々は、少し怒った表情で愛莉に聞いた。
「…いや。どおりで新志君、しょんぼりしてたんだ。ただ買い物に付き合わせるなんて、お姉ちゃんも結構罪な事するね」
「…ど、どういう意味?」
「新志君、期待してたと思うよ?お姉ちゃんから誘われてさ。…でも、何もないなんて、新志君かっわいそ~!」
愛莉は意地悪な顔で笑いながら言った。莉々は、ムッとして、愛莉に返した。
「…なら、新志君の期待に添えることをしたら、愛莉は何とも思わない?」
「…えっ?」
莉々に聞かれ、愛莉はすぐに言い返せず、言葉を詰まらせた。
「愛莉のことだって、私、考えてるのよ。新志君と私が仲良くしていたら、あなた、寂しいでしょ?」
いつもの莉々と違って反論してくる彼女に、愛莉は腹立たしさを感じた。
「っ!?寂しくなんかないっ!!なにさ!こんな時だけお姉さんぶっちゃって。私のこと考えてるなんて、ただの言い訳じゃんっ!自分勝手な事して新志君を振り回してるのを、私のせいにしないでよねっ!」
愛莉は莉々に怒鳴った。莉々は驚いて慄きながら、靴を履いて出て行こうとする愛莉を見ていた。
「…あ、愛莉…」
愛莉を怒らせるようなことを言ってしまったと、莉々は後悔していたが遅かった。
「私なんかに構わず、どうぞご自由に、新志君と仲良くしてくださいなっ!!」
愛莉は莉々をキッと睨み、そのまま玄関の扉を開けて出て行った。
「………」
扉が閉まり、莉々は、悲しい表情で視線を落とした。
新志の部屋では、新志がリィーズの店に行くことをコルザに伝えていた。
「っていうわけで、僕と愛莉ちゃんは、魔女ばあさんの所に行ってくるね」
「わかった。僕は莉々さんと待っていればいいんだね?」
「…うん。コルザにあげたいものがあるんだってさ…」
「?…あげたいもの?」
コルザは首を傾げて聞いた。
新志はふと寂しそうな顔をすると、すぐに笑顔に戻してコルザを見た。
「そう!それが何かは、僕からは言えない!でも、コルザならきっと喜ぶよ!」
新志は楽しそうに言った。
「…っ!?わかった!それを、莉々さんと買いに行ってたんだね?」
コルザは閃いたように新志に言った。
「ピンポーン!…だから、ちゃんと莉々さんの前では、犬のフリをしていてね!もうだいぶ慣れたみたいだから、大丈夫だよね?」
新志の言葉に、コルザは後ろめたさを感じ、少し視線を落とした。莉々には正体がバレている為、もうコルザが犬のフリをする必要は無かった。
「…う、うん…。大丈夫だよ。ちゃんと気を付ける」
新志は純粋な笑顔でコルザを見ている。コルザは、そんな新志に嘘を付き、罪の意識を感じていた。
そんな時、下から、愛莉の怒鳴る声が聞こえてきた。
二人は、何事かといった表情で、そちらに顔を向けた。
「……愛莉ちゃん…?どうしたんだろ?…とりあえず、行ってくるね」
新志は、下の様子が心配になってコルザに言った。コルザも心配そうな顔で、新志を見送った。
「う、うん…。気を付けて…」
新志は部屋を出て、すぐに下に向かった。
新志が玄関に目をやると、そこには、うつむいた莉々だけが立っていた。
「…あれ?…莉々さん、愛莉ちゃんは…?」
新志は、莉々の様子を心配しながら、愛莉がいないことを疑問に思って聞いた。
「…怒らせて…しまって…。…出て行ったわ…」
莉々は悲しそうに新志に言った。
「えぇっ!?ど、どうして?…ま、まさか、僕と買い物に行ったことでですか?」
愛莉がそんなことで怒るはずがないと思っていた新志は、「まさか」という表情で、莉々に聞いた。莉々は首を横に振って否定した。
「違うわ…。新志君は関係ない…。ただ、私があの子の気持ちも考えずに、話してしまったから…」
「………」
莉々は、愛莉を怒らせたことを反省していた。何があったのか分からないままだったが、新志は、出て行った愛莉が心配になり、後を追うことにした
「たぶん、愛莉ちゃん、ラビアン・ローズに行ったと思うから、とりあえず行ってきます。…莉々さん、コルザの事、見ててくれますか?」
新志は、靴を履いて、莉々に言った。莉々は黙って頷いた。
新志は、ラビアン・ローズまでの道を走った。
(…愛莉ちゃん…。どうしたんだろう…?愛莉ちゃんのあんな怒鳴り声、初めて聞いた…)
新志は不安を抱きながら、息を切らせて走って行った。
新志の部屋では、先程の愛莉の怒鳴る声が気になっていたコルザが、ベッドの上をウロウロしていた。
すると、静かに部屋の扉が開き、コルザはそちらに顔を向けた。
「…こんにちは。コルザくん」
扉から莉々が顔を覗かせた。
「莉々さん!こんにちは!」
笑顔で迎えるコルザに、莉々は控えめな笑顔を見せ、部屋の中に入った。
「……」
コルザは莉々の様子をじっと見た。今日の彼女は、どこか寂し気な表情をしている。
(…さっきの愛莉ちゃんの事と、関係あるのかな…?)
コルザはふと思って、莉々に聞いた。
「莉々さん。どうかしました?…さっき、愛莉ちゃんが大きな声を出してたみたいですが…」
コルザに言われ、莉々はハッとした。
「あ…。う、ううん…。何でもないの。あ、そうだ!あなたにあげたいものがあるの」
莉々はそう言うと、ベッドの上にいるコルザの隣へと腰を下ろした。
「…えーっと、どれだったかな…」
手に持っている袋の中を覗き、莉々は何かを探すように手を入れた。コルザはその様子を黙って見ている。
「あ、あった!…はい!どうぞ!」
莉々は目当てのチョコアイスを手に取り、コルザに差し出した。
「…え?これ…。アイスクリーム?」
コルザは目を丸くして、アイスを受け取った。
「そう!好きなんでしょ?新志君から聞いたわ」
莉々はにっこり笑ってコルザに言った。
「わぁ!わざわざ買ってきてくれたんですか?ありがとうございます!この間、新志君に初めて食べさせてもらって、人間界にはこんなに美味しいものがあるんだって、感激してたんです!」
コルザはアイスのカップを両手で持ち、キラキラした目でそれを見つめた。莉々は、そんなコルザにクスクス笑った。
「魔法界には、アイスクリームは無いの?」
莉々は、プラスチックのスプーンの袋を開けながら、不思議そうに聞いた。
「似たようなものはありますが、こんなに濃厚な味じゃないんですよ。あっ!しかもチョコレート味だ!」
コルザは、アイスの蓋を開けて、感激していた。
莉々は、その様子を可笑しく思い、ずっとクスクス笑っている。
「チョコレート味が好きなのよね?それも新志君から聞いたわ。私は、アイスならストロベリーがいいな。はい、どうぞ」
莉々はスプーンをコルザに手渡すと、自分のストロベリー味のアイスを出した。
「ありがとうございます。…僕の好みを聞くために、新志君を誘ったんですね?」
コルザは莉々の方を見て聞いた。
「うん。…あなたの事、一番知ってるのは新志君だから」
莉々は、新志の事を思い出し、彼に罪悪感を抱いて、少し寂しい表情を浮かべた。
「…私の勝手な思いつきで、私、新志君と…愛莉…。二人に悪いことをしてしまったわ…」
莉々は、先程の事を思い出して、うつむいた。
「……やっぱり、何かあったんですか?」
コルザは、アイスを食べる手をとめて、心配そうに莉々を見つめた。
莉々は、そんなコルザを見て、少しためらったが、自分の思いを話し出した。
「…私ね…、新志君に、愛莉との仲が羨ましいって言ってしまって…。それで新志君、私に気を使って……その…、私の事……す、好きって言ってくれたの…」
「…えっ!」
コルザは驚いて莉々を見た。
「で、でもそれは、私に気を使って言ってくれたことだし…、新志君には、愛莉がいるし…。私、愛莉にとって新志君が大事な存在だっていうことを知ってから…、だから、愛莉から、新志君を奪う事なんて出来ない…」
莉々は、内に秘めていた自分の気持ちを、コルザに打ち明けた。
「私のそんな曖昧な気持ちのせいで、今度は愛莉を怒らせてしまって…」
コルザは、だんだんうつむいていく莉々を見つめたまま、黙って話を聞いていた。
「…私ね…昔から、愛莉と新志君のこと見てきたから、二人の間には、他の誰も入ることの出来ない、強い絆があるってわかってるの」
黙って聞いていたコルザは、少し聞きにくそうに、莉々に話しかけた。
「…だから莉々さんは、新志君の事を、諦めたんですか?」
莉々は、目を閉じて、首を横に振った。
「…諦めたとかじゃなくて…。私…、新志君の事は好きだけど……。純粋に二人が羨ましかっただけなの…。愛莉には、心の分かち合える幼馴染が、いつも隣にいていいなぁって…。私は…ずっと一人だから…」
莉々は目を開けて、寂しそうに、窓の外を見つめた。
「莉々さんは、一人じゃないです!…愛莉ちゃんは、たった一人の妹じゃないですか!いくら新志君と仲がいいと言っても、莉々さんにとっては大事な妹です!それに新志君も、愛莉ちゃんを思うのと同じくらい、莉々さんの事を思っています!…気を使ったんじゃなくて、本心で、莉々さんの事、好きだって言ったんですよ!」
コルザはしびれを切らし、身を乗り出して莉々に言った。
「それに、リィーズ様や、バラノアだって傍にいます!」
コルザは興奮気味で、莉々に言った。莉々は、驚いた様子でコルザを見ている。
「……僕に…秘密まで明かしてくれた…。…僕だって…。…みんな、莉々さんの傍にいるのに…」
コルザは、視線を落として言うと、興奮を抑えるために、またアイスを食べ始めた。
「………」
莉々は、コルザを見つめた。
「…ご、ごめんなさい…。そうよね…。私、つい悲観的になってしまって…叔母さまのようになりたいって思っているのに…。ほんと、悪い癖だわ…」
莉々は視線を落として、手に持ったアイスを見た。
「…私、一人だと思い込んでいたのよね。…そうよ…、みんないる…」
莉々は、自分に言い聞かせるように言うと、またアイスを食べ始めた。
「…僕も、実を言うと、新志君と愛莉ちゃんを羨ましく思っていました。…僕にも、何でも話せる幼馴染がいたらいいなぁって。…だから、莉々さんの気持ち、わかりますよ」
コルザは莉々の方を見て、少し寂し気な笑顔で言った。
「……コルザくん…」
莉々はコルザを見つめた。
「…コルザでいいですよ。莉々さん」
コルザは、莉々を見上げながら言った。
「…えっ?…なら、私の事は、莉々って呼んで」
戸惑った莉々は、コルザに返した。コルザは少し考えて、首を横に振った。
「莉々さんは、僕より年上です。年上の人を呼び捨てにしてはいけないって、バラノアが言ってました」
「え?…叔母さまの事は、呼び捨てにしているのに?」
莉々に指摘されたコルザは、ハッとして顔を赤くした。
「バ、バラノアは…だって…、育ての母親だし…。…そう言えば、何故か自然に呼んでたな…」
コルザは首を傾げて考えた。莉々はクスクス笑っている。
「…わかった。じゃあ、いつか自然に「莉々」って呼んでね?…コルザ…」
莉々は、照れながらコルザの名前を呼んだ。コルザは頷いた。
「…わかりました。…莉々さん…、一人だなんて、言わないで下さいよ!絶対に!!」
コルザは強い眼差しで、莉々に念押しした。
「っ!わ、わかったわ。…ありがとう」
莉々は背筋を伸ばして返事をした。コルザはそんな莉々に笑顔を見せた。
「………」
アイスを食べ終わったコルザは、何かを考え、深刻な面落ちで莉々を見上げた。
「…あの…、莉々さん…」
まだアイスを食べている莉々は、スプーンを咥えながら、コルザの方を見た。
「…僕の正体を莉々さんが知っていること、それに、バラノアのこと…、新志君達に話しては駄目ですか?」
コルザに言われ、莉々は手を止めて考えた。
「…そう…ね。…話しても…いいよ」
莉々は、そう言うと、またアイスを食べ出した。断られると思っていたコルザは驚いた。
「…え?い、いいんですか?」
莉々はアイスを食べ終えて、コルザから空のカップを受け取りながら言った。
「…私、今晩、魔法界に行くの。魔力も充分回復したし…。叔母さまから、攻撃方法も教わったし。今夜、、必ず決着をつけるつもりよ」
莉々の瞳は、以前の強い眼差しをしていた。先ほどの悲観的な莉々とは別人のように、まるで、バラノアが乗り移っているようにコルザには見えていた。
「…り、莉々さん…」
コルザは心配そうに莉々を見た。莉々はそんなコルザに笑顔を向けた。
「大丈夫。きっと、あなたの心を取り戻してみせるわ。…愛莉達を危険な目に遭わせる前に、私と叔母さまで、ジェムエレメントを消滅させてみせる。…だから、愛莉と新志君、おばあさんには、心配しないでと伝えておいて」
莉々はベッドから立ち上がって、部屋を出ようとした。
「っ!莉々さんっ!僕も行っては駄目ですか!?」
コルザもベッドを降り、莉々の後を追った。だが、莉々はコルザの方に振り返り、首を横に振った。
「…あなたは、愛莉たちと人間界で待っていて。…叔母さまがそうして欲しいって言ってるの。…自分の犯した過ちは、自分で元通りにする…。自分の手で解決しなければいけないと…。だから…ね?…お願い…」
「………」
コルザは納得できない様子だったが、莉々の真っすぐな目に見つめられ、何も言えなくなってしまった。
「……じゃあね」
莉々は笑ってコルザに言った。
「莉々さん…。気を付けて…」
コルザは、莉々の事が心配で仕方がなかったが、今は莉々を見送ることしか出来なかった。
「ええ。…ありがとう」
莉々はコルザにそう返すと、バタンと部屋の扉を閉めた。
コルザは「ドンッ」と床に拳をぶつけた。ドラゴンの姿で、魔力も無く、何もできない自分が不甲斐なくて仕方がなかった。
「……クソっ…!」
ラビアン・ローズに着いた新志は、息を切らして店の中に入った。
奥の部屋まで行き、カーテンを開けて中に入った。
部屋には、いつものソファに、リィーズと愛莉が、向かい合わせで座っていた。
リィーズは新志に気付くと、困惑した顔のまま、彼に話しかけた。
「あっ、新志君…。来てくれたのね。呼び出してごめんなさいね…」
「ううん。………」
新志は愛莉の様子を覗った。愛莉は怒った表情で、腕を組んで黙って座っている。
リィーズは愛莉を見ると、困った表情をした。
「…さっきから、ずっとこうなのよ。聞いても何も答えてくれないし…。何かあったの?」
リィーズは新志に聞いた。
「…う…ん…」
新志はリィーズに気まずそうに返事をすると、愛莉の方へ歩み寄って聞いた。
「…愛莉ちゃん、どうしたんだよ?…何をそんなに怒ってるの?」
「怒ってない!…おばあちゃん、新志君来たんだから、何の用事か早く話してよ!」
愛莉は新志の方を見ることもなく、強い口調でリィーズに言った。
愛莉の様子に、リィーズは戸惑った。新志は聞く耳を持たない愛莉に、詰め寄って聞いた。
「魔女ばあさんにあたることないじゃないか!…莉々さんと、何かあったの?…僕が愛莉ちゃんを置いて出て行ったことを怒ってるの?」
「だから怒ってないってば!…新志君だって、早く要件を済ませて、お姉ちゃんに会いに行きたいでしょ!?」
話を蒸し返された愛莉は苛立ち、立ち上がって新志に言った。
「…な、なんだよ、それ…?…僕がいつも、莉々さんの事ばっかり考えてるみたいじゃないか!」
「だって、そうじゃんっ!?お姉ちゃんに頼み事されたら断れないくせにっ!言っておくけど、お姉ちゃんは、新志君が思ってるほど、純粋じゃないからねっ!」
「…?ど、どういう意味?」
新志は一歩引いて、愛莉に聞いた。
「お姉ちゃんはね、新志君を利用してるんだよ!新志君が自分に気があることを知っておきながら、それを面白おかしく見て笑ってるんだっ!」
「……っ!?」
その瞬間、新志は何も言えなくなってしまった。
「愛莉っ!!いい加減にしなさいっ!!」
黙って話を聞いていたリィーズは、しびれを切らして愛莉に一喝した。愛莉はビクッとして、そのまま黙った。
「何があったのかはわからないけど…。愛莉、莉々はあなたのお姉さんよ?お姉さんをどうしてそんな風に悪く言えるのっ!?」
リィーズは怒った顔で、愛莉を叱った。自分の言ったことを思い返した愛莉は、リィーズに怒られたこともあり、徐々に目に涙を溜めだした。
「…だって…、だって…。お姉ちゃんがっ…」
愛莉は目に溜めた涙を、ボロボロと落とし始めた。
「うわああああああぁぁん!」
すると、愛莉は、大きな声をあげて泣き出した。
新志は驚いて、その場に泣き崩れる愛莉を、オロオロしながら見ていた。
リィーズは、目を閉じてため息をついた。
「…まったく。あなた達の魔法使いとしての能力を認めてあげようとした矢先に、これなんだから…」
「…えっ!?」
新志はリィーズの言葉に反応した。
リィーズは呆れながら、新志の方に目をやった。
「新志君、悪いけど、愛莉をソファに座らせてあげてくれる?」
新志は黙って頷き、愛莉の肩にそっと手を置いた。
「…愛莉ちゃん、大丈夫?…とりあえず、座ろう?」
新志は、両手で顔を覆って泣いている愛莉に、優しく声を掛けた。愛莉は新志に支えられながら、ゆっくりソファに座った。
「………」
新志も黙ってソファに座った。
しばらく沈黙の時間が続き、部屋の中は、愛莉のすすり泣く声だけが聞こえていた。
「…落ち着いたかしら?…一体何があったの?」
リィーズは二人に事情を聞いた。新志は、愛莉の様子を覗いながら話した。
「…実は、僕もよく分からなくて…。今日、魔法の特訓もないし、久しぶりの休みだから、僕ん家に愛莉ちゃんを呼んだんだ…。そしたら、途中で莉々さんが来て、僕と買い物に行こうって…」
「まぁ…。あの子がそんなことを?…愛莉も一緒じゃなくて、あなただけを?」
リィーズは驚いて新志に聞いた。新志は、隣の愛莉を意識しながら頷いた。
「う、うん…。で、でも、それには理由があったんだ!莉々さんが僕を誘ったのは、コルザの好物を買う為だったんだよ!」
「え?コルザの好物?」
話に急にコルザの名前が登場し、リィーズは少し戸惑った。
「…うん。…莉々さん、コルザに何かあげたいって言って。…だから、コルザの事を知ってる僕を誘ったんだ…」
「……莉々が…コルザに……?」
前々から、莉々がコルザに異様に執着していることを不思議に感じていたリィーズは、今回の件で、さらに疑惑の念を膨らませた。
「…帰ってきて、莉々さんが魔女ばあさんからの言付けを預かってるから、愛莉ちゃんを呼んでって言って…。その後に、愛莉ちゃんが怒って出て行っちゃったんです…。僕、二階にいたから、二人が何の話をしているか知らなくて…」
そこまで言うと、新志は、下を向いている愛莉の方に目を向けた。
「…愛莉…。莉々と何を話したの?…莉々に何か言われたの?」
リィーズは、愛莉に聞いた。
「………」
泣き止んだ愛莉は、隣の新志を気にしながら、もじもじと話し辛そうにしている。
愛莉の様子を見て、何かを察したリィーズは、微笑して愛莉に言った。
「…ここでは話し辛い?…本人を目の前にしているものね」
「……え?」
新志はきょとんとして、リィーズを見た。愛莉は顔を赤くしてうつむいた。
「…お、お姉ちゃんが…」
愛莉が話し始めると、リィーズと新志はそちらに顔を向けた。
「…お姉ちゃん…、新志君の事、さんざん振り回しておいて、それを私のせいにしようとしたから…。だから…、私、頭にきて…」
「……?どういう意味かしら?…あなたのせいにした?」
リィーズは詳しく聞いた。
「…私がいつも新志君と一緒にいるから…。そのせいで、お姉ちゃんは新志君と仲良く出来ない…みたいなこと言ってた…」
愛莉は涙を拭いながら話した。新志は眉間にしわを寄せて下を向いた。
「だから私、言ってやったの。私に遠慮しないで、新志君と仲良くしてって」
「…あら…まぁ…」
リィーズは、知らない間にそんな関係になっていたことに驚いた。
「…たぶん、それ違うよ…」
新志はうつむいたまま言った。愛莉とリィーズは、新志の方に顔を向けた。
「…な、何が違うの!?」
愛莉は少しムッとして新志に聞いた。
新志は、言おうかどうか迷っていた様子だったが、愛莉の誤解を解くために、話すことを決意した。
「…僕……。今日、莉々さんに好きだって告白したんだ…」
「……えっっ!?」
愛莉とリィーズは、驚いて新志を見た。新志は顔を赤くしてうつむいている。
「そ、それでっ?どうだったの?」
愛莉は莉々にどう返事されたのかが気になり、新志に答えを促した。
「……ちゃんとした返事、もらってないんだ…」
新志は、うつむいたまま答えた。
「えぇっ!?…ほら…やっぱり、新志君をもてあそんでる!!」
愛莉は怒った顔で言った。新志は慌てて否定した。
「違うっ!…莉々さん…はっきりとは言わなかったけど…、凄く…困った顔してた。きっと断ろうとしてたんだと思う。…僕が傷つかないような言い方で…」
「そんなのわかんないじゃんっ!そうしておいて、もっと、新志君の気を引きたいのかもよ?」
愛莉の言葉に、リィーズはキッと睨んだ。
「愛莉っ!またそんなこと言って!莉々がそんなことする子じゃないって、わかっているでしょう?」
「…う…。だ、だって…」
愛莉はそれ以上何も言えなくなった。
「…莉々が困っていた…。そう…。愛莉に気を使ったのかしら?」
リィーズは、先程の愛莉の言葉を思い出して彼女の方を見た。愛莉はカッと怒り出した。
「…だから、何で私に気を使うのっ!?」
「莉々さん、僕と愛莉ちゃんが羨ましいって…。それは、僕と仲がいい愛莉ちゃんに嫉妬しているんじゃなくて…。…何か、別の意味があるみたいだった…。そう言ってた莉々さん、凄く…寂しそうだった…」
新志は思い出しながら、二人に話した。
「…そう…。莉々がそんなことを…。この間は、凄く明るくなっていて、安心していたんだけど…。…あの子には、何か内に秘めた思いがあるのかもしれないわ。…でも、自分の殻に閉じこもって、それを打ち明ける相手もいない…。そんな寂しさが溢れて、あの子にも制御できなくなってしまい、今回のような事が起こってしまったのかもしれないわね…」
リィーズは、莉々の事を思い、寂しそうな顔で言った。
リィーズの言葉から、新志と愛莉は、少しずつ莉々の気持ちを察し始めた。
「…お姉ちゃん、寂しかったんだ…。だったら素直にそう言ってくれればいいのに…」
愛莉は「まったく」といった顔で言った。
「一人で考え込むことないのに…。僕や、愛莉ちゃんに、何でも話してくれたらいいのにね」
新志は愛莉の方を見て言った。愛莉は頷いた。
「…あの子の性格ね…。魔力が無くなってからあの子、どこか心を閉ざしているわ…」
リィーズは視線を下に落として思っていた。
(…莉々には…内に秘めた何かがある…)
「それにしても、お姉ちゃんに告白するなんて!新志君もやるじゃん!」
愛莉は新志を肘((ひじ)で突いた。新志は赤くなった。
「でも、やっぱりフラれちゃったや。結構手ごたえあると思ったんだけどな…」
新志は照れ笑いをして頭をかいた。
「ほんと、難しいよね、恋愛ってさ。…実はね、私も今日、コルザに告白したんだ」
何気に愛莉がぶっちゃけて話すのを、新志とリィーズはのけ反って驚いた。
「ええぇーっっ!?」
「コルザに告白っ!?コ、コルザ、何て?」
新志は身を乗り出して愛莉に聞いた。
「んー…。笑ってごまかされた。ああ見えて、コルザって結構子供なのかな?…あんまり将来のお嫁さんについて、考えてなさそうだった」
淡々と言う愛莉に、新志とリィーズは、驚きを隠せない様子で呆然としていた。
「そ、そりゃ、そうだよ。王子様っていっても、まだ十三歳なんだよ!…僕だって、まだお嫁さんの事なんて考えてないしさ」
新志は赤い顔で愛莉に言った。
「新志君は王子様じゃないもん!やっぱりお城の後を継ぐ王子様なんだから、将来の事は、今からちゃあんと考えておかないと!…いずれ、私の魅力に気付くはずだよ!」
自信満々の愛莉は、新志に言った。新志は唖然として、ただ愛莉を見ていた。
(…この子たちは…ませているのか、何なんだか…)
リィーズは、呆れた顔で愛莉と新志を見ていた。
「そういえば、新志君。コルザは?」
リィーズは新志に聞いた。
「あ…。今、僕の家で、莉々さんと留守番をしてます。莉々さんが、コルザと留守番したいって言って」
それを聞いたリィーズは、何かを確信したように目を見開いた。
「…あ…、やっぱり、まずかったかな…?」
リィーズの様子に不安を抱いた新志は、恐る恐る聞いた。
「あ…。いえ、大丈夫よ。…でも、呼んできてもらわないといけないわ」
リィーズは新志に申し訳なさそうに言った。
「え?…あ、そういえば、さっき、僕らを魔法使いとして認めたって…」
新志は、思い出したようにハッとして、リィーズに聞いた。
「ええ、そうよ。…今日一日、お休みをあげようと思ったけど、魔法界のジェムエレメントの事を考えたら、うかうかもしていられないと思って」
リィーズの言葉に、新志と愛莉は驚いた。
「えっ!じゃあ、私達、もう魔法界に行けるほどの魔力が身に付いているの!?」
「…。最後の特訓に合格したらね…。新志君、コルザを連れてきてもらえる?」
リィーズは新志にお願いした。新志は張り切って立ち上がり、嬉しそうな顔でリィーズに言った。
「わかったよ!魔法界に行けるってわかったら、コルザ、きっと喜ぶだろうな!待ってて!」
新志は走って部屋を出て行った。
新志は家までの道を走った。
(コルザ、どれほど嬉しがるかな?…早く教えてあげなくちゃ!)
新志の胸の内はワクワクしていた。
「…あれっ?」
すると、前から槍が歩いてくるのが見えた。槍もこちらに気付いた様子だった。
新志は足を止め、以前のリィーズの言葉を思い出した。
(…槍…。槍にも、魔力があるんだよね…。僕の事、疑ってるかな…?)
新志は少し寂し気な顔で、槍の方へ歩いた。
「よぅ!新志!そんなに急いでどうしたんだよ?」
槍はいつものように、新志に話しかけた。新志はハッとして、いつもと変わらない槍に、安心した表情を見せた。
「…槍…。う、うん。ちょっと、家にコルザを置いてきたからさ」
すると、槍は少し表情を変えた。それに気づいた新志は、不安を抱いた。
槍は察したように、笑みを浮かべて新志に言った。
「…そうか…。また花見さんとこの花屋へか…」
「…う、うん…。そ、槍…。あのさ…」
「…ん?」
やはり槍が何かを察していると直感した新志は、彼に心配を掛けないように、自分なりの言葉でごまかそうとした。
「…僕、槍にはいつも迷惑かけて、申し訳なかったと思ってる…」
深刻に話し出す新志を、槍は妙に思って、笑いながら返した。
「どうしたんだよ、いきなり。…まるで別れの挨拶みたいじゃないか」
新志は首を横に振った。
「僕はずっと槍の友達だよ!…これからは、僕の事も頼ってよね!こう見えても僕、前よりも強くなったんだよ!」
新志は切ない笑顔で槍に言った。
どこか成長したように感じる新志の姿を、槍はじっと見つめた。
「…槍?…どうしたの?」
新志に声を掛けられ、槍はハッとした。
「…ああ、いや…。なんでも…」
新志は、少しの間離れることになる槍に、寂しさを堪えながら、笑顔を作って彼に挨拶をした。
「…じゃあ…ね。…槍!…また…明日ね!」
新志は、そう言うと、すぐにその場から走り去った。
「あっ!新志っ!!」
槍はとっさに新志を呼び止めたが、新志はそのまま走って行ってしまった。
「……新志…」
妙な胸騒ぎを感じた槍は、不安な顔で、新志の後姿を見ていた。
新志は家に戻ると、すぐに二階に駆け上がり、自分の部屋の扉を勢いよく開けた。
「コルザっ!!」
部屋には、うつむいたコルザがベッドに座っていた。コルザは、勢いよく入って来た新志の方を向いた。
「…新志君、おかえり」
コルザはどこか元気の無い様子だった。
「…コルザ…、莉々さんは?」
新志は、コルザと留守番しているはずの莉々が部屋にいないことを疑問に思い、コルザに聞いた。
「…うん。さっき帰ったよ。…あ、アイスクリームありがとう。新志君が、莉々さんに教えたんだってね」
コルザは、少し微笑んで新志に言った。コルザの様子を妙に思っていた新志だったが、それには触れずにコルザに言った。
「喜んでくれたんだね。良かった!ちゃんと、犬のフリして食べられた?」
「……うん」
新志の質問に、コルザはうつむいて返事をした。新志は、そんなコルザを元気付けようと、彼に視線を合わせた。
「あのねっ!魔女ばあさんが、コルザを呼んでるんだ!聞いて驚くなよ?…なんと僕たち、やっと魔法界に行けるんだよ!!」
新志が興奮して言うと、コルザは驚いたように立ち上がった。
「えぇっ!?…は、本当に!?」
コルザの瞳は、まん丸く輝いた。新志は、笑顔で頷いた。
「本当さ!」
「い、今すぐに?」
コルザは身体を乗り出して聞いた。
「今すぐじゃ…。最後の特訓を受けて、その成果が認められてからだって…」
新志は、申し訳なさそうにコルザに言った。
「そうなんだ…。…でも、こんなに早く行けることになるなんて…。本当に、新志君と愛莉ちゃんには才能があるんだね…。…新志君…どうもありがとう!僕、今凄く嬉しいよ!!」
コルザは、目をウルウルさせて新志に礼を言った。
「そ、そんなっ!僕だけの力じゃないよ。魔女ばあさんも親身になって教えてくれたし、愛莉ちゃんがいたから、闘争心を燃やすことが出来た。それに、まだ最後の試練が残ってるんだ。…お礼を言われるのは、もう少し先だよ!」
新志は照れ笑いをして、コルザに言った。
「…そ、そうだね!」
コルザも笑って新志に言った。
「…あ、そういえば、愛莉ちゃん、大丈夫だった?」
コルザは、怒鳴って出て行った愛莉を思い出し、心配して新志に聞いた。
「え?ああ、うん。大丈夫!愛莉ちゃんなら、ちゃんと、いつも通りだよ!」
新志は、コルザに変な心配を掛けないように言った。すると新志は、ふと先程の愛莉の話を思い出した。
(…コルザ…。…愛莉ちゃんからの告白、なんとも思ってないのかな…?)
そう思い、新志は少し頬を赤くして、コルザに話しかけた。
「ね、ねぇ、コルザ…?」
コルザは笑顔のまま、新志に返した。
「何?新志君?」
「……あー、えっと…。……な、何でもないよ…」
魔法界に行けることで、期待に胸膨らませているコルザに、今聞くことではないと思い、新志はブンブンと顔を振って、コルザに笑顔を見せた。
「さぁ!行こう!コルザ!!いざっ!魔女ばあさんの最終試練へ!!」
新志はコルザを抱き上げ、二人は笑い合いながら部屋を出た。
下へ降りた新志は、リビングを覗いて、台所にいるお母さんの様子を覗った。
お母さんは、いつもと変わりない様子で、晩御飯の支度をしている。
(…魔法界へ行ったら、しばらく母さんとは、会えなくなるんだな…)
新志は、寂しい表情でお母さんを見つめた。
(…新志君…)
コルザは新志を見上げ、彼の気持ちを察した。
新志はリビングに入り、お母さんに声を掛けた。
「…母さん。ちょっと、愛莉ちゃんとこの花屋さんに行ってくるよ」
お母さんは、新志とコルザに気付き、顔を上げた。
「あら、今から出掛けるの?コルザちゃんも。…そういえばさっき、愛莉ちゃんが怒っていたみたいけど、大丈夫だったの?」
「あ…、う、うん。…何でもないよ。怒ってなんかない」
新志は笑ってごまかした。新志の様子を変に感じたお母さんは、手を止めて、新志の方へ歩み寄った。
「…なら、いいんだけど…。早く帰って来なさいね。今日はあなた達の大好きなチキンカレーだからね!」
お母さんは、新志とコルザに微笑んで言った。新志とコルザは、お母さんの向ける笑顔がどうにも切なく感じて、下を向いた。
「……わかった…。夕飯までには帰るよ…」
「…気を付けるのよ」
元気の無い新志を妙に思いながらも、お母さんは、コルザの頭を撫でた。
(…これで最後になるのかな…。お世話になりました…。新志君のお母さん…)
コルザは、目を潤ませて、お母さんを見上げた。
「…うん」
お母さんの言葉に返事をするも、新志は、お母さんの顔を見ることが出来ないまま、その場を去った。
「………」
お母さんは、心配した様子で、家を出て行く新志を見ていた。
「…お母さんと離れるの…辛いよね…。…ごめんね、新志君…」
ラビアン・ローズまでの道を歩く新志に、コルザは話しかけた。新志はハッとした。
「だ、大丈夫だよ!何も、永遠の別れってわけじゃないんだからさ。それに、母さんはいつも僕に対してうるさく言うから、少しくらい離れていた方が、お互いのために丁度いいんだよ!」
新志は、コルザの前で見栄を張った。
無理に笑う新志を、コルザは寂しそうに見つめた。
「さ、もうすぐだよ、コルザ!」
新志はコルザに声を掛け、遠くに見えるラビアンローズまで走った。
「魔女ばあさん、愛莉ちゃん、お待たせ!」
新志とコルザは、お店の奥の部屋へ入った。
「あ!やっと来た!」
愛莉はいつもの様子で、二人を出迎えた。愛莉はすでに魔法使いの格好へと変身していた。
「あ!愛莉ちゃん、もう変身してる!早いね!」
新志は焦って自分の真の鍵を出した。
「だって、魔法界に行けるんだよ!なんかドキドキしちゃって!…コルザ、すぐに連れて行ってあげるから、待っててね!」
愛莉は胸に手を当てて、ワクワクしながら言うと、しゃがんでコルザに微笑んだ。
「あ、ありがとう…。愛莉ちゃん!」
いつもと変わらない様子の愛莉に、コルザは安心して礼を言った。
「…でも、最後の特訓を制覇しないといけないって…」
新志はそう言って、リィーズの方をチラッと見た。水晶玉の前にいるリィーズは、新志の言葉を聞いて、そちらに目を向けた。
「ええ。そうよ。…でも、そんなに難しくはないわ。最初に特訓したように、この水晶玉にあなた達の魔力を注ぎ込んで欲しいの。…昨日の魔力では、もう一歩のところだったけど、あなた達の能力は日々成長しているから、今はもっと大きなものになっていると思うの。…もう少し力を付けてからと思ったけど、出来れば早い方がいいわ」
リィーズは期待に胸を膨らませて、新志と愛莉に言った。
「じゃ、じゃあ、僕らの魔力が、魔法界の扉を開ける力にまで成長していたら、合格ってこと!?」
新志の言葉に、リィーズは笑顔で頷いた。
「そうよ!さあ、新志君、すぐに変身して!そして、あなたの今持っている魔力を全て、ここに放出する気持ちで注ぎ込んでちょうだい」
「は、はい!」
リィーズに言われた新志は、背筋を伸ばして、緊張した面持ちで返事をした。
変身した新志は愛莉の隣に立ち、二人は、二メートルほど先に置かれた水晶玉をじっと見つめた。
「……あの…。魔女ばあさん?」
新志は、深刻な顔で何かを考えて、リィーズを見て言った。
「何かしら?新志君」
少し離れたところで、コルザと共に二人を見守っているリィーズは、新志を見て聞いた。
「…魔法界へ行っている間、僕たちって…、家族に心配かけることになるんだよね?」
新志は不安そうな顔でリィーズに質問した。愛莉も新志の言葉にハッとして、同じようにリィーズの方を見た。
不安そうな二人を見たリィーズは、穏やかな顔で返した。
「大丈夫よ。時が経っても、こちらへ戻ってきて、時間を元に戻せばいいわ。大丈夫。心配しないで。また、あなた達のお父さんとお母さんには、ちゃんと会えるから」
リィーズの言葉を聞いた新志と愛莉は、安心した様子で、互いの顔を見合わせた。
「そっか…。…よし!なら、僕からいくね!!」
新志は気を取り直し、気合を入れて、杖を掲げた。
横にいる愛莉は、新志から少し距離をとって、後ろで見守った。
新志がゆっくりと目を閉じると、杖は黄色い光を放ち、瞬く間に形を変えていった。
新志が目を開けると同時に、光は最高潮に達し、光の中からは、新志の愛用武器の剣が現れた。
新志は視線を水晶玉に向け、そして、右手に持った剣の先も水晶玉へと向け、狙いを定めた。
(…僕の持っている魔力を…全部あの水晶玉に解き放つんだ!)
新志は再び目を閉じ、体中に宿る魔力を、剣の先へと集中させた。
(…っ今だっ!!)
新志はカッと目を開き、剣を振りかざして、溜めた魔力を水晶玉に向けて放った。
魔力はすさまじい威力を成して、水晶玉めがけて飛んでいった。全ての魔力を受け取ろうとした水晶玉だったが、あまりにも強い衝撃のために受けきれず、固定するためのクッションから、滑り落ちそうになってしまった。
「っ!?あっあぶないっ!!」
みんながそう叫んだ瞬間、黄色く光る魔力が瞬時に水晶玉の元に飛んでいった。
魔法がかかった水晶玉は、重力に逆らうようにふよふよと浮き出し、元のクッションの上に静かに戻された。
「………っ!?」
みんなは驚いた顔で、新志の方を見た。新志は手を腰に当て、「へへん!」といった顔で、満足そうに黄色い光を放つ水晶玉を見ている。
みんなが驚いている理由は、新志の魔力の大きさだけではない。落ちそうになった水晶玉に、瞬時に魔力をかけるという、瞬発力も身につけていたからだ。
「…あ、新志君…。す、すごいわ!…魔力だけではなく、あんなにすごい瞬発力まで、身に付けていたなんて…」
リィーズは、新志の成長に、感激しながら言った。
「ほんとっ!?…じゃあ…僕は…合格…?」
新志は少し躊躇いながら、リィーズに聞いた。リィーズは大きく頷いた。
「もちろんよ!素晴らしいわ!短期間でこんなに成長するなんて」
リィーズの言葉に、新志は飛び跳ねて喜んだ。
「やったー!!コルザ!これで君を魔法界へ連れて行って、元の姿に戻してあげられるよ!」
新志はコルザの元に駆け寄って、嬉しそうに抱き上げた。
「ありがとう!新志君!…で、でも…っ」
コルザは何かが気になるようで、喜びを分かち合えず、視線を愛莉に向けた。
「…?」
新志は、コルザの様子に気付き、彼の視線の先へと目をやった。すると、異様なオーラを放った愛莉が、こちらを睨んでいた。
「…あのねぇ…。盛り上がってるとこ悪いんだけど、まだ私が残ってるんだよねぇ…。私の事忘れて、次々先へ行かないでもらえるかなぁ…?」
新志は、愛莉の事をすっかり忘れていたようで、「まずい」という顔で、愛莉に謝った。
「ご、ごめんっ!愛莉ちゃんっ!で、でもさ、愛莉ちゃんは僕よりずっとすごい魔力を持ってるんだから、大丈夫だよ!きっと!」
「………」
新志の言葉を聞き、愛莉は黙った。このところの特訓で、新志の成長を直に見て来た愛莉は、彼の魔力が自分の能力に追いつかれるまで、時間の問題だと実感してきているようだった。
(…私に…、今の新志君を抜くほどの…いや、同等の力があるのかな…?)
愛莉は、先程の新志の魔力を見せつけられ、自信を失っていた。
「…愛莉?どうしたの?あなたの番よ?」
リィーズに言われ、愛莉は我に返った。
「あ、う、うん…」
愛莉は水晶玉に魔力を放つ、自分の右手をじっと見た。そして、しばらく何かを考えた。
なかなか魔力を溜め始めない愛莉を、他の三人は不思議に思っていた。
すると、愛莉はリィーズの方に顔を向けた。
「…ねぇ、おばあちゃん。…私も、新志君と同じやり方で、やってみてもいい?」
「…え?…え、ええ。あなたのやりやすい方法でいいわよ。…でも、どうするの?」
リィーズは不思議そうに聞くも、愛莉は彼女に笑顔だけ向けた。
愛莉は、ゆっくり目を閉じて、杖を掲げた。杖は愛莉の魔力を吸い出すように、ピンク色に光り出した。
愛莉は目を開け、的を定めるかのように、杖の先を水晶玉に向けた。グッと目を細めた愛莉は、自分の魔力を振り縛るように体に力を入れて、魔力を杖に集中させた。
(…っ!いけるっ!!)
愛莉は、ここだというタイミングで、力強く杖を振りかざし、水晶玉に向かって、溜めた魔力を放出させた。杖に溜められていた魔力は、勢いよく飛び出し、いっきに水晶玉へと吸収された。
その瞬間、水晶玉は、今までに見たことのない、大きなピンク色の光を放ち出した。
「……わぁっ!!」
ピンク色の輝きを放つ、大きな光に、愛莉以外のみんなは、目を奪われていた。
「…凄いよ!愛莉ちゃん!今までにないぐらいの魔力じゃないか!」
新志は興奮気味に、愛莉の方へ目をやった。
「っ!?」
新志の目には、愛莉が力を出し尽くして、ぺたんと床に座り込み、肩でハァハァと息をしている姿が映った。
「あっ愛莉ちゃんっ!?」
新志はすぐさま愛莉のもとに駆け寄ると、膝を着いて、愛莉の様子を覗った。
リィーズとコルザも、心配して、愛莉の元に駆け寄った。
「だ、大丈夫!愛莉ちゃん?」
新志は、汗だくの愛莉の顔を覗き込んで聞いた。
「…だ…だいじょう…ぶ…。…へへ、ちょっと、張り切りすぎちゃった…」
疲れ切った愛莉は、無理に笑顔を作り、みんなに言った。
「………」
みんなは心配した顔で、杖を使って立ち上がる愛莉を見ていた。
「…力の加減を制御しない所が、あなたの悪い癖のようね。…でも、すごいわ。この歳でこんなに大きな魔力を持つことが出来るなんて。…やっぱり私の孫ね!」
リィーズは愛莉に向けて、ウインクした。
「…な、なら…、私も合格?」
愛莉は疲れながらも、期待に胸膨らましてリィーズに聞いた。
「もちろんよ!愛莉!…二人共、よく頑張ったわね!…今の二人の魔力なら、きっと魔法界への扉を開けることが出来るわ!」
リィーズは、水晶玉に込められた二人の魔力を見つめて言った。
新志と愛莉は、互いに見つめ合い、嬉しそうに笑った。
しばらく嬉しそうに見ていたコルザだったが、だんだん思いつめたように、顔を曇らせていった。
「よぉし!愛莉ちゃん!二人で力を合わせて扉を開けよう!」
「もっちろん!コルザ!とうとうだよ!コルザが一番楽しみだよね!?」
新志と愛莉は、笑顔でコルザを見た。だが、当のコルザは、どこか浮かない顔をしている。
新志と愛莉は顔を見合わせて、首を傾げた。
「…コルザ…?」
新志は心配そうに声を掛けた。
「…新志君…。愛莉ちゃん…。リィーズ様。本当になんとお礼を言っていいか…」
コルザは顔を上げて、三人の顔をそれぞれ見た。新志、愛莉、リィーズは、かしこまるコルザに、「いえいえ」といった素振りを見せた。
「…だけど…、僕、みんなに黙っていたことがあって…。魔法界に行く前に、それを話しておきたいんです…」
「…黙っていたこと…?」
新志は、頭にハテナを浮かべてコルザを見た。
愛莉とリィーズも「?」といった顔で、互いを見合った。
「…僕、みんなに謝らないといけない。…実は、僕、バラノアが何故、僕を襲ったのか知っているんです…。…そして、何故僕の魂がキルスに埋め込まれ、人間界へ送られたのかも…」
コルザが申し訳なさそうに打ち明けることに、三人は驚いた顔を見せた。
「ええっ!?だって、君は、何も知らずに人間界へ追放されたんじゃ…?」
「そ、そうだよ!ここへ来た時、そう言ってたじゃん!?」
「…コルザ、どういうことなの?どうして、私達に嘘を付いたの?」
三人は寄ってたかってコルザに聞いた。コルザは慌てて否定した。
「う、嘘を付いたわけでは…っ!…全て…、全ては莉々さんに聞いた事なんです…」
「…えぇっ!!?」
コルザが思い切って打ち明ける話に、新志達は再度驚いた。
「莉々が?…以前から、あなた達が妙に親密だから、おかしいとは思っていたのだけど…。どういうことなの?…まさか…いえ、やっぱり、莉々の魔力は戻っているのね?そうなのね?コルザ!?」
リィーズは、以前から願っていたことが本当なのだと確信し、コルザに期待の眼差しを向けて聞いた。
新志と愛莉は、「まさか」という顔で、コルザを見た。
「…いえ…。莉々さんの魔力は、戻っていません。…でも、僕の正体や、新志君に魔力があることは、最初から知っていました」
コルザの言葉に、三人は、驚きの表情を隠せずにいた。
「…莉々さんが、僕の事も…!?」
「どういうこと?お姉ちゃんって、いったい何者なの??」
新志と愛莉は、訳が分からず、困惑した様子を見せていた。
リィーズは、コルザをじっと見て、彼の次の言葉を待っていた。コルザは続けた。
「…僕、莉々さんには前から違和感を抱いていて、ある日の夜、ここに忍び込んで、彼女が魔法界と関係しているのか、調べようと思ったんです。…ここには扉がある。ここに隠れていれば、彼女の秘密を知ることが出来ると思ったんです」
三人は驚いた顔のまま、黙ってコルザの話を聞いた。
「…予想通り、彼女は、扉から姿を現しました。…僕に気付いた彼女は、僕に全てを打ち明けてくれました…。その時、莉々さんから聞いた話を、今ここで全てお話しします…」
コルザは、その夜に莉々から聞いた話の全てを三人に話した。
三人は、いつものソファに腰かけて、ずっと黙って聞いていた。
一通りを話し終えたコルザは、三人に申し訳なさそうに頭を下げた。
「…黙っていて、本当にごめんなさい…。みんなに心配かけるからと、莉々さんに口止めされていて…」
新志と愛莉は、終始驚いていた。
「ま、まさか…、莉々さんが、バラノアさんの力を借りて、ジェムエレメントを消滅させる為に、魔法界に乗り込んでいたなんて…」
「私たちに心配かけるからって…。お姉ちゃんったら…何も秘密にすることないのに!」
リィーズは、ずっと目を閉じている。コルザはリィーズの様子が気になり、声を掛けた。
「…あの…。リィーズ様、…ごめんなさい。リィーズ様には話すべきだったんですが…」
リィーズはゆっくり目を開けて、コルザを見た。
「…いいえ。全てを打ち明けてくれてありがとう、コルザ…。あなたも、秘め事を抱えて、辛かったでしょう。…そう…、バラノアが、あの子に…」
リィーズは目に涙を溜めて、流れ落ちないように上を向いた。
「…全ての責任を負って、自分だけで解決するなんて…。あの子の考えそうなことだわ。…全く、莉々まで巻き込んで…」
リィーズは涙を拭いながら言った。そんなリィーズを見たコルザは、罪の意識を感じながらうつむいた。
「…って事は、今夜、莉々さんは魔法界に行くんだね!…なら、僕たちで、莉々さんを助けることが出来る!」
新志はこぶしを握りしめ、立ち上がって言った。
「…全く、どこまでも世話が焼けるお姉ちゃんなんだから…。仕方ないなぁ…」
愛莉も立ち上がって言った。すると、何かを思い出し、ハッとして、リィーズの方へ顔を向けた。
「…もしかして、おばあちゃんの言ってた、お姉ちゃんの内に秘めたものって、そのことだったの?」
愛莉の言葉に、リィーズは静かに頷いた。
「なぁにそれ!…もう!ほんっとに一人で抱え込むんだから!」
愛莉は、呆れ顔で言ったが、内心では莉々の気持ちを察し、心のどこかで彼女を心配していた。
リィーズは、うつむいているコルザに声を掛けた。
「…莉々は、あなたに全てを打ち明けて、心が楽になったのね。最近のあの子が明るくなっていたのは、心が分かち合えるあなたと出会えたからよ。…あの子の話をいつも聞いてくれていたあなたに、感謝するわ…」
リィーズは優しい笑顔をコルザに向けた。
「…リィーズ様…」
リィーズの言葉を聞いたコルザは、顔を上げ、頬を赤く染めた。
「ぼ、僕だって、莉々さんが話してくれていたら、ちゃんと話し相手になったよ!」
新志は、コルザにやきもちを焼いて言った。
「なに焼いてんの…。新志君…」
愛莉は呆れた顔で、呟いた。
「焼いてないよ!愛莉ちゃん余裕だね。コルザが莉々さんと仲良くしてたっていうのにさ!」
赤くなった新志は、慌てて愛莉に言い返した。
「だって、お姉ちゃんは、魔法界のプリンセスなんて興味無いもん!…魔力も無いんだから、コルザとは吊り合わないしさ!やっぱり、プリンセスになるのは、私しかいないよね!!」
自信満々に部屋中をクルクル回る愛莉に、新志とリィーズは、呆れ顔をし、コルザは顔を赤くしたまま黙って下を向いた。
「…問題は、バラノアの封印を解いた人物が誰かという事ね…。あなた達は、その人物を突き止めなければならないわ」
リィーズは新志達に言った。
「そう!それに、コルザの魂を元の身体に戻すことだね!」
「お姉ちゃんより先に、ジェムエレメントを消滅させないと!」
新志と愛莉は、魔法界で自分たちがやらなければならないことを確かめた。
リィーズは笑顔で頷き、表情をキリッと一転させて、二人に言った。
「…では、魔法界の扉を開きましょう!二人共、奥へ移動して!」
「は、はいっ!」
全員は、魔法界への扉である宝石箱が置いてある奥の物置部屋へ移動した。ここには部屋の電気が無いため、リィーズは、ランプに火を灯して運んできた。
「…どうやって、扉を開くの?」
愛莉はリィーズの方へ振り返って聞いた。
「杖の先を宝石箱に向けて、呪文を唱えるのよ。新志君と愛莉、そしてコルザを魔法界へと連れて行って欲しいと…、扉が開くように、強く念じるの」
「魔女ばあさんは、行かないの!?」
新志は驚いて聞いた。愛莉とコルザも、不安そうな顔でリィーズを見ている。リィーズは、そんな三人を安心させるように笑顔で頷いて言った。
「魔力の無い私が行っても、足手まといになるわ。大丈夫、あなた達にはもう充分な魔力が備わっている。あなた達の真っすぐな心は、魔法界で悪事を働く者の考えを、きっと改めさせることが出来るわ。…それに、魔法界に詳しいコルザも付いている。…コルザ、二人の役に立ってくれるわよね?」
リィーズはコルザに聞いた。
「もちろんです!」
コルザは強い眼差しを向けて、リィーズに返事をした。新志と愛莉も、自分の力に自信を持ち、お互いを見て頷いた。
「…分かった!僕らの力で、魔法界の悪者をやっつけるよ!それこそ、本当にヒーローになったみたい!」
新志はいつものように顔を明るくさせて、笑顔で言った。
「もう、新志君たら、先走っちゃって…。任せて、おばあちゃん!おばあちゃんの望んだ世界になるように、愛莉、頑張って来るからね!プリンセスになる報告、待っててね!」
愛莉も、いつもと変わらず元気いっぱいな様子で、リィーズに言った。
「ありがとう愛莉!…新志君、愛莉をお願いね。コルザも気を付けて」
リィーズは笑顔の中に、少し心配そうな顔を混じらせた。
「わかったよ!…じゃあ、愛莉ちゃん。コルザも、こっちに来て」
新志はリィーズに背を向けて、杖を構えて愛莉とコルザに言った。
愛莉は新志の隣に行き、同じように杖を構えた。コルザは、魔法界に移動した後のことを考え、警戒して、二人の前に立った。
「悪事を企む者の正体が分かっても、むやみに攻撃してはいけないわよ!そんな企みを図るからには、相手はきっと知恵の働く者だわ。…くれぐれも気を付けて」
リィーズは、魔法界へと旅立つ三人を心配して言った。
心に決意を抱いた新志と愛莉は、振り返って笑顔で頷いた。
「…じゃあ、始めようか」
「了解!」
新志は真っすぐに宝石箱を見つめて、愛莉に言った。愛莉も同様に新志に返事をした。
二人は杖の先を宝石箱に向けた。杖の宝石はパアッと光り出した。
そして、二人は目を閉じて呪文を唱えた。
僕たちを
「トワール・ワイル・エトワール! 魔法界へ連れて行って!」
私たちを
二人はパチッと目を開いた。
「ストームズリベラシオン!!」
「アイリズリベラシオン!!」
新志と愛莉は、呪文を唱え終えた。
すると、杖の光と共鳴するように、宝石箱全体が銀色に光り出した。中からの光をとどめておけなくなったように、宝石箱の蓋は勢いよく開き、中から光があふれ出した。
光は、波のように勢いよく、新志、愛莉、コルザを包み込んだ。
三人を飲み込んだ光は、そのまま、引きずり込まれるように、宝石箱の中へと入って行った。
光を飲み込んだ宝石箱は、蓋が閉まり、一瞬銀色の光を纏わせて、そのまま何事も無かったかのように、いつものただの宝石箱へと戻った。
「……お願いね…。私の英雄たち…」
リィーズは目を閉じ、新志達のいなくなった物置部屋で、一人、両手を胸の前に組んで祈った。
第八話、読んでいただきありがとうございます。
第九話「協力!!目指すはジェムエレメント!!」も是非よろしくお願いいたします!




