第七話「新志の剣(つるぎ)と莉々の秘密」
真夜中のカラビーニア城。
コルザの部屋では、巨大なジェムエレメントを目の当たりにした、三姉妹とその臣従達が、驚愕で立ちすくむ中、異様なオーラを放つコルザと、何かの目的を持つ莉々が睨み合っていた。
「…フフ。今夜、必ず来ると思ってた」
コルザはジェムエレメントを見上げ、それを撫でながら言った。
「目的はこれでしょ?」
コルザは笑みを浮かべて莉々に言った。
「………っ」
莉々は、黙ってコルザを睨んだ。
(…まさか…、こんなに大きくなっていたなんて…。…でも、やるしかない…)
莉々は、グッと杖を持つ手に力を加えた。
「な、なんで、コルザの部屋にこんな大きなジェムエレメントがあるの?」
スヴァイは戸惑いながらミトに聞いた。
「…わ、わかりません。私には…」
ミトは混乱しながら返した。
バーロンは黙ったまま、じっとジェムエレメントを見上げている。
困惑を隠せないランバダも、状況を理解できず、眉間にしわを寄せて、睨み合うコルザと莉々を見ていた。
「……っ!?」
コルザに目をやったランバダは、何かに気付いた。
「コ、コルザっ!?あ、あんたっ…その身体っ…!!」
ランバダの言葉に、全員そちらに目を向けた。
「っっ!?」
バーロン、スヴァイ、ミトは、ランバダと同様に驚いた。コルザは胸の大きく開いたドレスを着ていて、膨らみがあるのがはっきりわかった。
ジュセとパントラは、目を伏せて黙っている。
莉々はじっとコルザを睨んだままだった。
「えっ!?コ、コルザっ!!女になってる!?…ど、どういうことなの?ミト!?ねぇ!?」
スヴァイはパニック状態でミトに聞いた。
「わ、わかりません!わかりません!!わ、私には何もっ!!」
ミトも混乱に陥り、スヴァイと同様にパニックになっていた。
「…コルザ、あんたとうとう現実逃避にまで陥ったようね。…そこまでしてお父様に気に入られたいの?」
ランバダはツカツカと前に出て、腕を組んで言った。コルザはランバダを怪訝な顔で睨んだ。
「…なによ、その顔は…?あんたがどう悪あがきしたって、お父様はあんたになんか見向きもしないのよ!!」
すると、コルザはクスクス笑いだした。それを見たランバダはハッとして、コルザに怒りを示した。
「何が可笑しいのよっ!?」
コルザは笑うのを止め、強い眼差しでランバダを睨んだ。
「……っ!?」
ランバダは何も言い返せずに黙った。
「…なら、私の作り出した、このジェムエレメントを見たら、どう言うかな…?…それでも、ランバダ姉様を後継ぎにすると言うのかな…?」
コルザは、「フフフフ」と笑い出し、ジェムエレメントを撫でた。
「…あんたが…作ったですって…?」
ランバダはジェムエレメントを見ながら、驚愕の表情を見せた。
後の三人、バーロン・スヴァイ・ミトも、また同様に驚いている。
「あんたっ…さっきから、この私に向かって生意気よ!?」
頭に血が上ったランバダは、コルザに詰め寄ろうとした。しかし、バーロンが彼女の前に出て、首を横に振ってとどまらせた。
「…姉弟げんかは、それくらいにしてもらえる?」
莉々は、手に炎を纏わせていた。
「悪いけど、その夢を叶えさせるわけにはいかないっ!!」
莉々はコルザに言い放ち、手の炎を弾丸のように変えて、コルザの元へ放った。
勢いよく向かってくる炎の弾丸に、コルザは「フッ」と笑みを浮かべ、それに向けて静かに手をかざした。
コルザの手からは、金色に光る球体が現れ、クッと目を細めると同時に、それを弾丸の方へ、勢いよく放った。
「パアァァンッッ」とお互いの攻撃が勢いよくぶつかり合い、まぶしい光を放って消失した。
「………くっっ」
莉々はコルザに攻撃をくらわすことが出来ず、悔しい表情を見せた。
「…軽い魔法なのに消し合っちゃった…。あなた、もう少し本気出してもいいんだけど?」
コルザは莉々を挑発するように言った。莉々は、キッとコルザを睨んだ。コルザは笑みを浮かべたまま、涼しい顔で莉々を見ている。
「なんなのよ…?こいつら…」
ランバダは二人の戦う意図がよくわからず、困惑してその様子を眺めていた。
(…私の手を煩わせることなく、始末してくれそうだ…)
ランバダの隣で、バーロンは妙な笑みを浮かべて、二人の戦いを見ていた。
「…コルザ様…」
その後ろでは、パントラとジュセが、心配そうにコルザを見ていた。
莉々は考えていた。
(…焦っては駄目。本人を攻撃するより、ジェムエレメントを狙った方が早いわね…)
莉々は、ジェムエレメントに目をやった。
「…っ!?」
コルザはそれに気づき、表情を変えた。
莉々は、勢いよくジェムエレメントに向かって走り出し、同時に杖を振りかざした。
コルザはすかさずそちらに指を向け、莉々へと標準を合わせた。その瞬間、体が締め付けられるように固定され、莉々の身体はピタッと動かなくなった。
「っっ!?なっ…!?」
莉々は、コルザの指先に操られ、身動きがとれなくなってしまった。
コルザは莉々の元へ歩み寄った。自分の魔力では、打破できないと悟った莉々は、近づいてくるコルザを、黙って睨むことしか出来なかった。
そんな様子に、コルザはクスクス笑って、莉々の頬にそっと手を添えた。
「…っ!?」
すると、コルザは莉々に顔を近づけて囁いた。
「私の魔力が薄れているとわかって、それで来たんでしょう?…生憎、私の魔力はこの通り、元に戻った。いや、もっと強くなったみたい」
「………っっ!!」
何も言い返すことが出来ない莉々は、クスクス笑うコルザを憎しみを込めて睨むことしか出来なかった。
コルザは表情を一転させ、莉々の身体の前に手をかざした。
「私を倒せるなんて思わないでよ!!あなたには、もう入る隙なんてないんだからっ!!」
「っ!!きゃあああああっ!!」
コルザが叫ぶのと同時に、手から強大な魔力が放たれ、一瞬で、莉々を壁まで吹っ飛ばした。
「……っ…うぅっ……っ」
物凄い勢いで壁にぶち当たった莉々は、すぐに身体を起こすことが出来ず、その場にうずくまった。
部屋にいる他の者は、コルザに備わった異様な程の強大な魔力を見せつけられ、驚愕と恐れの表情でその光景を見ていた。
コルザは、ランバダ達に目を向けた。
「……私、そろそろ一人になりたいんだけど…」
コルザがジェムエレメントに手をかざして言うと、全員ハッとして身構えた。
「みんな、早く出てってくれないかなぁっ!!」
コルザの怒りの声と共に、ジェムエレメントがカッと白く光り出し、目に見えない風圧で、その場にいたコルザ以外の者を全員、部屋の外へ吹き飛ばした。
「うわあああああぁっ!!」
「きゃあああああっ!!」
全員を吹き飛ばすと、壊れたはずの部屋の扉が、魔力で瞬時に元通りになり、「バタンッ」と音を立てて閉まった。
「…な、なにすんのよ!?」
「スヴァイ様、お怪我はありませんか?」
尻もちをついて怒るスヴァイに、ミトは駆け寄って心配した。
「…どういうつもりよっ!…なんであいつに、あんな力があるのっ!?」
ランバダは困惑と怒りが入り交じり、膝をついたまま床を叩いた。
「ランバダ様…」
身体を起こしたバーロンは、ランバダの身体を支えた。
「ジュセ様!?大丈夫ですか?お怪我は?」
パントラは、ジュセの身体を起こしながら心配した。
「……だ、大丈夫よ。ありがとう…」
ジュセは、パントラの手につかまって立ち上がった。
すると、その後ろで莉々が立ち上がり、負傷した肩に手を当てて、その場から素早く去って行った。
「あっ…!」
パントラは、逃げていく莉々に気付き、声を発した。
全員そちらに顔を向けた。
「放っておけ。あの様子じゃ、すぐには復帰など出来ないだろう」
逃げていく莉々を見たバーロンは、パントラに言った。
「かなりのダメージ喰らっていたものね」
身体を起こしたランバダは、バーロンに言った。
「はい。それに奴の目的はジェムエレメントだとわかりました。…あのコルザ様に太刀打ちできないことがわかった今、出直してくることなど、考えられません」
バーロンは、莉々の走って行った方を見つめて言った。
パントラとジュセは、心配そうに、バーロンと同じ方向を見つめた。
人間界。
ラビアン・ローズの物置部屋。沢山の西洋風の小物や道具が置かれているこの部屋は、リィーズが魔法界から持ってきた物がしまってある部屋だった。
うす暗い部屋の奥に置かれた、アンティーク調の宝石箱が、カタカタと音を鳴らして揺れている。
これは、リィーズの言っていた、魔法界と人間界を繋ぐ、「扉」の役目を果たす宝石箱だった。今は、封印の鍵が掛けられ、ただの宝石箱となっているはずだったが、それが今、柔らかい光を放ち、封印が解かれようとしている。
光が大きくなると、途端に宝石箱の蓋が開き、光に包まれた一人の姿を人間界に送り込んだ。
光が弱まっていくと、宝石箱の蓋が閉じて、辺りは元の通りに薄暗くなった。
宝石箱の前には、疲れた様子の莉々が立っていた。変身を解き、いつもの格好で、負傷した肩に手をあてている。
「……大丈夫。そんなに痛くない…」
莉々は、誰かの問いに答えるように呟いた。宝石箱を見つめると、思いつめたようにため息をついた。
莉々は身体の向きを変え、家に戻るために部屋を出ようとした。
「………っ!?」
莉々はハッとして、足を止めた。
莉々の視線の先には、部屋の入口に立っている、ドラゴンの姿のコルザがいた。コルザは、黙って莉々を見ている。
「………」
莉々は、気まずそうにコルザから視線を反らせた。
「……僕の正体…。分かっていますね?」
コルザは核心を突いた目で、莉々に聞いた。
「っ!?」
莉々はハッとして、コルザに目を向けた。
「………」
「………」
二人は黙って見つめ合った。すると、フッと目を閉じた莉々は、微笑んだ。
「…わかったわ。そうする…」
「………?」
莉々は誰かに囁かれ、それに答えるように返事をした。コルザは莉々の様子を不思議に思って見ている。
莉々はそんなコルザに笑顔を向け、そちらに歩み寄った。コルザは少し警戒して、一歩後ろに下がった。
コルザの様子に、莉々は「クスッ」と微笑みを見せ、コルザのところに来ると、しゃがんで彼を抱き上げた。
コルザは半信半疑な顔で、莉々を見上げた。
「…大丈夫。全てお話しするから。だから、そんなに怯えないで」
莉々は優しい顔で、コルザに言った。コルザは、何処か懐かしく感じるその笑顔に、少し安心感を抱いた。
莉々とコルザは、いつものリィーズの部屋へと移動した。リィーズが起きてこないように、部屋の電気をつけるのを避け、莉々は、キャンドルに火を灯し、それをテーブルへと持って来た。
莉々はキャンドルの灯を見つめながら、コルザの向かいのソファに座った。
「………どこから、お話しすればいいかな?あなたは、どこまでおばあさんから聞いているの?」
莉々の言葉から、彼女はすべての事を知っているとコルザは察した。
「…あなたは、全て知ってるようですね」
コルザは、莉々を真っすぐ見て聞いた。
「全て…ではないと思うけど…、あなたよりは」
莉々はコルザに笑顔を見せた。コルザは少し下を向いた。
「…どうして?…あなたのことは、バラノアの事がきっかけで、魔力が無くなったと聞いています。なのにどうして、僕より真実を知っているんですか?それに、さっきも、扉の鍵を開けて魔法界へ行っていた…。あなたからは魔力が感じられないのに、どうして…?」
コルザは、真実を知りたい気持ちと、莉々への疑惑が積もり積もって、次々に質問をぶつけた。
莉々は、表情を優しく保ったまま聞いていた。
「…私には、魔力はないわ。あなたが感じるようにね…」
莉々は視線を落として言った。
「じゃあ、どうして?」
コルザは答えを促した。
「私は魔力を借りているのよ。…バラノア叔母さまから」
「魔力を…借りている…?バラノアから…?」
コルザはよく意味が分からず、莉々をじっと見つめて聞いた。莉々は頷いた。
「あなたが人間界にやって来た日の夜。バラノア叔母さまの霊が、私のところに来たの。叔母さまは私に願いを聞いて欲しいと言ったわ」
「…願い?」
「ええ。一つは、人間界にやって来たあなたを陰で支えて欲しいと。もう一つは、魔法界に置いてきた、ジェムエレメントを破壊すること」
「………っ!?」
コルザは莉々の話に驚き、黙って続きを聞くことにした。莉々は話を続けた。
「バラノア叔母さまがあの夜、あなたを攻撃したのは、あなたがもう一つの心に飲み込まれる前に、それを阻止しようとしたからなのよ…。あなたは、それに心当たりがあるんじゃない?」
莉々はコルザに聞いた。
「もう一つの…心…」
考えたコルザはハッとした。
(あの日の夜、僕は自分の気持ちに戸惑っていたんだ…。バラノアがいなくなって、カラビーニア家を継ぐためには、僕は父様の考えに従い、僕自身変わらないといけないと思っていた…。権力を知らしめる為には、父様や、姉様のように生きなければいけないと…そして、父様に認めてもらう為には…)
コルザはうつむいた。
「…それで、僕の心は分裂して、僕は人間界へ追い出されたってこと…?」
莉々は、うつむくコルザに目を向けた。
「…追い出したんじゃない。…バラノア叔母さまの、誤算だったのよ」
その言葉に、コルザは顔を上げて莉々を見た。
「バラノア叔母さまは、あの日、封印を解かれて亡霊となって現れた。あなたに秘められたジェムエレメントを、あなたが悪用しようとしていると、誰かに告げられたと言っていたわ」
「…いったい誰に?」
コルザの質問に、莉々は首を横に振って返した。
「それは、分からないって。叔母さまはジェムエレメントの存在を気にかけながら死んでいったから、何とかそれを消滅させないといけない。あなたを正気に戻さないといけないという気持ちが先走ってしまって…それが誰だか見てはいないそうよ…」
莉々とコルザはうつむいた。
「…バラノアの、誤算っていうのは…?」
コルザが聞いた。莉々は頷いて話し出した。
「ええ。…あなたの魔力が、思いのほか強力だったことよ。叔母さまは、あなたからジェムエレメントを引き出して、それを消滅させようとした。でも、それは叔母さまが思っていたよりも、かなりの大きさのものだった。…そして、あなたのもう一つの秘めた心も、それと一緒に大きく育っていた。叔母さまはその両方を破壊するために、あなたの心を分裂させたんだけど、秘めた心の魔力が強すぎて、謝って、表向きのあなたの心を、ドラゴンに封じ込めてしまったの。秘めた心を持ったあなたの身体に、攻撃するわけにもいかないし、亡霊となった叔母さまの力では、大きくなったジェムエレメントを破壊することも出来ない。…そう考えていると、叔母さまは、誰かに魂を封印されそうになった…」
「…誰かに封印?」
ずっと黙って聞いていたコルザは、莉々に聞き返した。
「多分、叔母さまの封印を解いた人と同一人物だと思う。叔母さまの石碑の前で封印を解いたのは、その人だから。…後からわかったみたいだけど、叔母さまは、その人に利用されたみたい…」
「…どういうこと?」
コルザは眉を顰めた。
「その人は、叔母さまがあなたからジェムエレメントを引き出す前から、あなたにジェムエレメントを持つほどの力があることを知っていた。その人の狙いは、あなたからジェムエレメントを引き出させる事だったのよ。おばあさんがいない今の魔法界では、唯一、叔母さまだけが、その生み出し方を知っている。…そのために、叔母さまの霊に嘘を付き、利用した…」
莉々は、悲しそうにうつむいた。
「………」
コルザは莉々の心境を察して、黙って彼女を見つめた。
「…バラノアの魔力を借りているとは、どういうことですか?」
コルザは、躊躇いながら聞いた。莉々は思い出したように話を続けた。
「そう、…それで、叔母さまは、再度封印される前に、何とか必死におばあさんのいる人間界へ逃れてきたの。すぐに私のところへ来てくれたわ」
「莉々さんのところへ…?」
「ええ。…魔法界で石碑に封印されていた叔母さまは、ずっと私の事を気にかけてくれていたみたいなの…。私は叔母さまから事情を聞いて、戸惑ったわ。…だって、私には魔力がないんですもの。私には、叔母さまを助けることが出来ない」
「………」
莉々の話をコルザは黙って聞いた。
「私の魔力が無くなった経緯を知った叔母さまは、ひどく自分を攻められたわ。私は、叔母さまのせいじゃないって言ったんだけどね…」
莉々は少し笑顔を見せた。
「叔母さまは、私にお願いしたの。叔母さまの魔力を使って、果たせなかったことを成し遂げてほしいと。…私にとって、荷が重い願いをすることを気に病んでいたけど…。私は、叔母さまに会えただけでも嬉しかった。死んだと聞かされても、とても信じられなかったもの。私は、叔母さまの力になりたいと思ったわ。…だから、叔母さまの魔力を授かって、叔母さまの叶えられなかったことを果たしているの」
「………」
真実を知ったコルザは、動揺を隠せない様子でうつむいていた。
「……ドラゴンの姿にしてしまったあなたのこと、凄く気にかけているわ」
莉々は、コルザの気持ちを察して声を掛けた。コルザはハッと顔を上げた。
「…え?バラノアが…?」
「うん」
莉々は頷いた。
「莉々さんは、バラノアの声が聞こえるの?」
驚いて聞くコルザに、莉々は再度頷いた。
「叔母さまはずっと私のそばで、私を助けてくれているの。…倒れたあなたの首に、ジェムエレメントの欠片を撒いたのは、叔母さまなのよ」
「…えっ!?」
コルザは、人間界に来た時、咥えていたはずのジェムエレメントの欠片が、何故、首に下がっていたのかを理解した。
「それだけじゃないわ。人間界とをつなぐ入口がある西の塔に、あなたを誘導したのも、叔母さまよ」
バラノアに助けられて人間界へと送られたことを知り、コルザは少し安堵して視線を下げた。
「……そうだったんだ…。…?」
コルザは莉々の様子が気になった。彼女は、魔法界での戦いで負傷した腕をさすっている。
「…あの…、腕、どうかしたんですか?」
コルザの質問に、莉々は顔を上げ、少し言いにくそうに話した。
「…ええ。さっき、魔法界へ行った時に、ちょっと…」
そういえばどことなく、莉々は疲れた表情をしている。
「…魔法界へは、ジェムエレメントを消滅させるために?」
「ええ。…でも、話に聞くより、もっと大きなものになっていて…。私は、何も出来なかったわ」
莉々の言葉に、コルザは青ざめて、恐る恐る聞いた。
「……まさか…。その傷は…もう一人の僕が…?」
莉々は躊躇いながらも、静かに頷いた。
「っ!?ご、ごめんなさいっ!!…なんてことを…っ!!」
コルザは莉々の顔を見ることが出来ず、必死に頭を下げて謝った。莉々は慌ててコルザに言った。
「い、いいのよ。あなたのせいじゃない。…こうなることは、覚悟していたの。叔母さまから力を授かった時から、覚悟は出来ているの」
覚悟を決めた莉々の目は、芯を貫いていた。顔を上げたコルザは、その目をじっと見つめた。
(…似てる…バラノアに…)
コルザはそう思った。
「…それにしても、あなたのもう一つの心。とても強い魔力を持っているのね。…それを封じ込めていた、あなたも凄いわ」
莉々は、コルザの攻撃を思い出しながら言った。コルザは何かを考えながらうつむいていたが、莉々に聞くことを決心して、顔を上げた。
「……あの…、魔法界の今の僕って……男でしたか…?」
「……え?」
聞かれた莉々は少し考えた。さすがにコルザは自分の心を知っているので、もう察しはついているだろうと莉々は悟り、コルザの質問に真実を伝えた。
「いえ…。綺麗な女性の姿をしていたわ…」
「…やっぱり…」
コルザは、険しい顔で視線を落とした。だが、すぐに顔を上げて、次の質問をした。
「姉様達は…。ジュセ姉様とパントラは、元気そうでしたか?」
コルザは、心配そうな顔で聞いた。
「ええ。あなたのお姉様方やお仕いの人達は、あなたのジェムエレメントと、女性の姿のあなたを見て、凄く驚いていたわ」
莉々は頷き、微笑んで答えた。
「…そう…ですか…」
ジュセとパントラが元気な事を知り、コルザはホッとした様子を見せた。
コルザを見つめ、莉々は少し躊躇いながら、話かけた。
「……あの…。…私からも聞いていいかな…?」
コルザは莉々の顔を見た。
「…?はい…」
コルザは、若干の不安を感じながら、莉々の質問を聞いた。
「…あなた、私の事、ずっと疑っていたよね?…どの辺りから、私に疑惑を感じ始めたの?…やっぱり、あの観覧車の時から…?」
莉々は少し申し訳なさそうに、コルザに聞いた。コルザは目を反らして考えた。
「…それもありますが…。あなたの目が…その…」
コルザは、言いにくそうに莉々を見た。
「私の目が?」
莉々は、言葉の続きが気になって促した。
「…はい。…あの…。妙に怖かったんです…。魔力とかじゃなくて、なんとなく…。僕、目を合わせられなくって…」
失礼な発言をしていることは、コルザにとっても分かっていた。案の定、莉々は「まあ」といった顔でコルザを見た。
「ご、ごめんなさい。…でも、僕、あなたには、僕の気持ちがわかっているような気がして…。…ま、魔力を使っていたわけではないですよね…?」
「魔力で気持ちを読み取ることは出来ないわ…。それに、叔母さまの命で、人間界では極力魔力を使わないようにしていたの。特にあなた達の前では…。……そう、…そうだったの…」
(………)
莉々は、穏やかな目でコルザを見つめた。
「…それと…」
コルザは話を続けた。
「僕の事、最初から“コルザくん”って、呼んでました。…新志君から、性別を聞いてなかったのに…」
莉々はハッとして、クスクス笑いだした。
「ほんとね!アハハッ!失敗したわ。まさか、そんなところまで気付いていたなんて、思いもしなかった!…私ったら、やっぱり駄目ね。叔母さまのように完璧にはなれないな」
コルザは、初めて見る、声を上げて笑う莉々の姿に、新鮮さを覚えた。
「だ、駄目だなんて…。あなたはバラノアから重大な使命を受けてるんです。そのくらい迂闊になるのは、仕方ないですよ…」
コルザは必死にフォローした。だが、莉々は少し寂しい顔で、首を横に振った。
「…ううん。叔母さまにも怒られたのよ…」
「……え?」
「あの時…、あの観覧車で、あなたに叔母さまの話をしたこと…。あなたに不安な気持ちを抱かせてしまって、叔母さまにひどく怒られてしまったわ…」
「………」
コルザは莉々を見つめた。
「私も…、あの時なんであんな話をしたのか…。静かに観覧車に乗るだけのつもりだったのよ?……ただ、ちょっとやきもちを焼いたのかもしれないわ…」
「…え?…やきもち…?」
コルザは不思議に思って聞き返した。莉々は頷いた。
「…私だけの叔母さまだったのに…、あなたにも愛情を注いでいたと知って…。ちょっと、悔しくなったのよ…。……だから、あなたに意地悪を言ってしまったわ。…ごめんなさい…」
頭を下げて、素直に謝る莉々を前にし、コルザは慌てて頭を下げた。
「い、いえ…こちらこそ…」
コルザの様子を見た莉々は、クスクス笑った。
「あなたは、本当にあのお姉さん達とは違うのね。…威張らずに、とても謙虚だわ。叔母さまの教えのおかげなのかな?」
莉々は得意気に言った。コルザは微笑んだ。
「あなたも…。心の中に強い何かを持っている。…バラノアとそっくりです」
「まぁ…」
莉々は嬉しそうにコルザを見つめた。すると、ソファからスッと立ち上がった。
「…早く帰らないと、夜が明けてしまうわ。…あなた、道は分かる?」
時計を見ながら言う莉々は、コルザの方へ顔を向けた。
「大丈夫です。…莉々さんは、一人で大丈夫ですか?」
コルザは心配して聞いた。莉々は微笑んで頷いた。
「叔母さまがいるから、大丈夫よ。ありがとう」
莉々はそう言って、部屋から出ようとした。コルザは莉々を呼び止めた。
「あのっ!…リィーズ様や新志君たちに、あなたの事、お話ししてはいけませんか?」
莉々はコルザの方へ振り返った。
「…まだ…、黙っておいて…。おばあさんは、きっと、頼りない私の事、心配するわ。…愛莉や新志君達を危険な目に遭わせないためにも、私が…いえ、私と叔母さまで、きっと解決してみせるわ」
莉々はにっこり笑ってコルザに言った。コルザは寂しそうな顔で莉々を見つめた。
「…僕、何もお役に立てることが出来ませんが…、何か出来ることがあれば、言ってください」
コルザは顔を上げて、莉々に言った。莉々は微笑んで、コルザの方へ歩いた。
莉々はそっとコルザを抱き上げた。
「…ありがとう、コルザくん。…じゃあ、一つだけお願いしてもいい?」
「……?」
コルザは莉々を見上げた。
「私と…、また一緒に、お話ししてくれる?」
莉々は少し頬を染めて、照れ臭そうにコルザに言った。コルザはそんな莉々を見つめ、微笑んで返した。
「…はいっ」
莉々とコルザは、笑顔で互いの顔を見つめ、部屋を後にした。
人間界は朝を迎えた。
「…うーんっ…」
朝日の眩しさに、目を覚ました新志は、両手を上にあげて背伸びをした。
「…あれ?」
横にコルザがいないことに気付き、机の方に目をやった。コルザはカーテンを開けて、窓の外を眺めている。すると、新志の視線に気付き、振り返った。
「あ、おはよう新志君!」
太陽の眩しさのせいか、コルザの笑顔は、すがすがしく輝いて見える。
「ごめんね、起こしちゃった?」
コルザは、机からピョンッと降りて、新志のいるベッドの上へ移動した。
「ううん。…コルザ、今日はなんだか元気がいいね。魔力、戻ってきてるの?」
新志は、嬉しそうにコルザに聞いた。
「え?い、いや。さほど変わらないかな…。僕、新志君達のおかげで、もうすぐ魔法界に行けるのが嬉しいんだよ」
「…コルザ」
新志君は、嬉しそうな顔で言うコルザを見つめた。
「君には本当に迷惑掛けてばかりで…。ごめんね。本当にありがとう!」
「な、なんだよ!まだ扉も開いてないのにさ。もう、プレッシャーかけるなぁ」
コルザに頭を下げられた新志は、いたたまれなくなって、ベッドから降りた。
「問題はこれからなんだよ!魔法界に行って、バラノアさんの霊が、なんでコルザに攻撃したのか突き止めて、それで、君の身体を元に戻さなきゃいけないんだからさ!」
新志はパジャマを脱いで、着替えながらコルザに言った。
「………」
コルザは、莉々から聞いたバラノアの話を思い出して、黙っていた。
「…コルザ?」
急に返事をしなくなったコルザを、妙に思い、新志はコルザに近寄った。
「…ああ、ごめん。そうだね。…新志君と愛莉ちゃんには、危険な目に遭わせるかもしれない…」
昨日の莉々の負っていた怪我の光景が、コルザの脳裏にフッとよぎった。
負い目を感じているコルザに、新志は笑顔のまま言った。
「何、今さらそんなこと気にしてるのさ!僕と愛莉ちゃんが力を合わせれば、怖いものなんてないよ!そのために、今日から魔女ばあさんの所で特訓するんだからさ!」
新志はコルザを抱き上げて、ウインクした。
「…新志君…。ありがとう!」
コルザは笑顔に戻って新志に礼を言った。
「さぁて、今日の朝ごはんは何かなぁ?」
新志とコルザは、笑い合いながら部屋を出た。
放課後。
掃除当番だった新志は、愛莉と待ち合わせをしているようで、急いで学校を出ようとしていた。
「おい!新志!」
後から呼び止める声に、新志は振り向いた。
「今から俺んちでゲームしないか?新しいのが手に入ったんだ」
別の教室の掃除当番だった槍が、帰ろうとしている新志を誘った。
「…あ…」
新志は困った顔をした。
「……?」
槍がそんな新志を疑問に思っていると、後ろから急に声がした。
「君たち、いつもそんな遊びをしているのですか?だからいつも空想的な発想しか出来ないんですね。…まったく、もっと為になることをしてはどうですか?」
同じく、別の掃除当番だった顕影が、二人の会話に入って来た。
「うるせぇな。ほっとけよ」
槍は、顕影の嫌味に慣れて来たのか、彼の顔を見ることなく言い返した。
新志はずっと困った顔をしている。
「どうした?」
槍は新志に聞いた。
「う、うん…その…」
断り辛そうにする新志を見た槍は、察した様子で「はぁ」とため息をついた。
「なんだ、また花見さんか…」
「えっ!?」
まだ理由を言っていないのに、槍が核心をつき、新志は驚いて槍を見た。
「お前の事くらい見てて分かる。…わかった。今日はいいよ」
槍はフイッと顔を反らして言った。
「ご、ごめん…槍…。今度、必ずね!」
「…ああ」
新志は慌てて槍に謝った。槍は新志の方を見ることなく返事をした。
新志は申し訳なさそうに槍を見つめ、学校から出て行った。
(…まったく…。隠される方も辛いもんだな…)
槍は眉間に皺を寄せ、心の中で思っていた。
「花見さん…ということは、またあの花屋ですかね!今度こそ、秘密が明らかになる時です!」
顕影は、今にも新志の後を追って行きそうだった。すると、槍は、顕影の首根っこを掴んだ。
「なっ!?何するんですか!?」
「…お前、さっきゲームの事馬鹿にしたな?…なら、博学多才なお前が一発クリアするところ、とくと拝見させてもらうぞ…。来いっ!」
槍は顕影を睨み、そのままズルズルと引っ張って行った。
「な、なんて野蛮な!!僕に何する気ですかーっっ!!」
顕影の叫び声が、通学路に響いた。
「遅くなっちゃった。愛莉ちゃん、怒ってないかな?」
新志は、途中家に寄ってコルザを連れてから、ラビアンローズへと向かっていた。
「…あれ?」
ラビアン・ローズが見えてくると、店の前に、愛莉と莉々がいることに気付いた。
「愛莉ちゃんと莉々さんだ!おーい!!」
新志はそちらに向けて手を振った。コルザもそちらに顔を向けた。
「あ、新志君!!遅いじゃーん!」
愛莉と莉々は、新志達の方へ振り返った。
「ごめんごめん!思いのほか、掃除が長引いちゃって…あれ?」
二人のいる店の前まで来ると、新志は、莉々がかばんを持ち、帰ろうとしていることに気が付いた。
「莉々さん、もう帰るんですか?」
新志は少し残念そうに莉々に聞いた。コルザも莉々をじっと見上げている。
「ええ。今日は、家でやることがあるから、早めに帰ろうと思って」
「お姉ちゃんだって中学生なんだから、いつまでも暇人みたいに、花屋にいるわけにいかないでしょ!今までがおかしかったんだって」
愛莉は意地悪く、莉々に言った。
「もう、そんな言い方ないでしょ!」
莉々は少し怒った顔で愛莉に言った。
「そうだよ!愛莉ちゃん!莉々さんは、それほどお花が好きなんだよ!」
新志が莉々の味方をすることに、愛莉は頬を膨らませて、プイッとそっぽを向いた。
「じゃあね!新志君」
「さようなら。莉々さん!」
莉々は笑顔で新志に挨拶し、新志も笑顔で返した。
莉々はコルザに目を向けた。そして、膝に手をつき、コルザと視線を合わせた。
「…またね!コルザくん」
莉々はニコッと笑ってコルザに言った。コルザも、莉々に笑顔を見せた。
莉々は笑顔のまま、愛莉の方へ振り返った。
「愛莉、あんまりおばあさんに迷惑かけちゃ駄目よ!それと、遅くならないようにね!」
「…はーい…」
愛莉はふくれっ面のまま、莉々に返事をした。莉々は店を後にした。
「…莉々さん、なんだかどんどん綺麗になっていくな…」
新志は、莉々の後姿を見つめながら、ぼーっと顔を赤くして言った。コルザも黙ったまま、じーっと莉々が帰って行くのを見ている。
「…なにさ!みんなお姉ちゃんばっかり…」
愛莉は、プゥっと頬を膨らませた。
新志達は、リィーズのいる奥の部屋へと入った。
「こんにちは、魔女ばあさん!」
「こんにちは!」
新志とコルザは、台所にいるリィーズに挨拶をした。
「あ!新志君、コルザ、こんにちは!」
リィーズは、明るい笑顔で、新志達を迎えた。
「魔女ばあさん、なんだか嬉しそうだね」
新志は部屋の中まで移動しながら、リィーズの様子を見て言った。
「あら、そう?……莉々がね、なんだか明るくなって。今日の学校での出来事なんかを、自分から進んで話してくれたのよ。なんだか私、嬉しくなってしまって。用事があるみたいで、今日は店番が出来ないそうなんだけど…。自分の居場所を、見つけたのかしらね!」
リィーズは嬉しそうに話しながら、新志達の元にお茶を運んだ。
「そうか…だから莉々さん、キラキラしていたんだね!」
新志は納得したように言った。コルザは微笑んで、新志を見ている。
「もう、またお姉ちゃんの話?早く特訓しようよ!」
部屋に入った愛莉は、壁に手をついて、不満そうに言った。
「あ、そうね。こっちに来て」
リィーズはそう言うと、部屋の真ん中のテーブルの上にある、水晶のところへ歩いた。
「あなた達の魔力が目に見えてわかるから、この水晶玉を使いましょう」
新志達は、水晶玉の前に移動した。
「これ…、確か飾りって言ってなかった?」
新志は水晶玉をのぞき込み、リィーズに聞いた。
「魔力の無いものにとっては、当然、ただの飾りよ。…私にとってもね。でも、今のあなた達なら、きっと使いこなせるわ」
リィーズはそう言って、新志と愛莉の方に身体を向けた。
「さぁ、では、変身してちょうだい!まずはそれからよ!」
リィーズに言われ、新志と愛莉は顔を見合わせた。お互い頷くと、自分の「真の鍵」を取り出し、柄の部分を握った。
二人は目を閉じ、鍵に力を念じ始めると、埋め込まれた宝石がゆっくり光り出した。
「変身!!」
二人は同時に目を開けて唱えた。
唱えると同時に、宝石からまばゆい光が放たれ、二人の身体を包み込んだ。光は最高潮に達すると、徐々に弱まっていき、魔法使いの姿に変身した二人の姿をそこに現した。
二人はゆっくり目を開いた。
「で?で?次は何をすればいいの?」
愛莉は、楽しそうにワクワクしながらリィーズに聞いた。
「そうね。じゃあ、まずは先輩の愛莉からいきましょう。この水晶玉の前に立って」
「はーいっ!」
リィーズは愛莉を誘導した。愛莉は言われた通り、水晶玉の前に立った。
愛莉は次の行動を促すように、リィーズを見た。
「いい?あなたの力の全てを注ぎ込む気持ちで、この水晶玉に向けて魔力を放出するのよ」
「…ん?どうやって?」
愛莉は、魔力をどう放出してよいのか分からず、リィーズに聞いた。
リィーズは、愛莉の手を取り、彼女の掌を水晶玉に向けた。
「目を閉じて。掌に魔力を集中させなさい…」
愛莉は言われた通り、目をぎゅっと閉じ、掌に魔力を込め始めた。
すると、愛莉の身体はピンク色に光り出した。
「愛莉、いいわよ!放って!」
リィーズが力強く言うと、愛莉は力を込めて、魔力を水晶玉に放った。
愛莉の魔力を注がれた水晶玉は、パアァとピンク色に大きく光り出した。
「……わぁ」
新志は、その光の輝きに目を奪われた。
うしろでその様子を見ているコルザも、その光をじっと見つめている。
目を開けた愛莉は、少し息を切らして、その光に目をやった。
「愛莉、これが今のあなたの能力の大きさよ。だいぶ成長したわね」
リィーズは以前の愛莉が宿す魔力が、どれほどなのかを知っており、その時の物と比べて言った。
「わぁ!これが私の魔力!?…へぇ…!!」
愛莉は感激したように、水晶玉に近寄って、光の輝きを見つめた。
リィーズは、愛莉に微笑むと、今度は新志の方へ振り返った。
「…では、次は新志君の番ね!」
「……えっ!?」
リィーズに言われた新志は、急に緊張がこみ上げ、顔を強張らせた。
新志の元に駆け寄った愛莉は、彼の肩をポンッと叩いて勇気付けた。
「新志君っ!ファイトだよっ!!」
「…あ、愛莉ちゃん…」
愛莉は新志の背後に回り、背中を押した。
「新志君、頑張って!」
後で見ているコルザも、新志にエールを送った。
「…う…うんっ!やってみるよ!!」
二人の応援を受け取り、新志はリィーズのいる水晶玉の前まで歩いた。
(…愛莉ちゃんみたいに、上手く出来るかな…?)
新志の心の中に不安が過った。リィーズは、新志に優しく話しかけた。
「さぁ、新志君。先ほどの愛莉のように、あなたもこの水晶玉に向けて、魔力を放出してみて」
「……は、はい」
新志はまだ緊張しており、彼の心境をリィーズは察した。
「…大丈夫。あなたはもう何度も魔法を使っているわ。失敗を恐れないで…。さぁ、水晶玉に手をかざして」
「……はい」
新志は水晶玉に向けて、スッと手をかざした。
「目をつむって…。気を集中させて。あなたの魔力を掌に…」
「…はい…」
新志はそっと目を閉じ、掌に気を集中させた。すると、新志の身体は、まばらな黄色い光に包まれた。
「……新志君……」
愛莉とコルザは、心配そうに新志の様子を見ている。
「大丈夫よ…。落ち着いて…。魔力を掌に集めることだけを考えなさい」
リィーズは、新志がまだ自分の魔力を制御しきれていないとわかり、彼を落ち着かせようと、優しく囁いた。
「………」
新志は瞼に力を入れ、ぎゅっと目をつむった。すると、まばらだった光が、徐々に一定になっていった。
「いいわ!今よ、新志君!魔力を放って!!」
新志は力を込めて、魔力を水晶玉に放った。魔力を注がれた水晶玉は、パアァと黄色く光り出した。
「わぁ!できたできたっ!すごいよ!新志君!!」
愛莉は、ぴょんぴょん飛び跳ねて、新志の元に駆け寄った。
目を開けた新志は、疲れた様子で水晶玉を見た。
「……あ…れ?」
新志の目に映った光は、先程の愛莉のものよりは小さかった。
「…そう、これが、今のあなたの魔力の大きさよ。…愛莉よりは小さいけど…。愛莉はずっと前から魔法を使っていたし、これが妥当だと思うわ。…いえ、魔法使いになったばかりで、ここまでにした方が凄い事よ」
リィーズは、微笑んで新志に言った。コルザも安心したように、微笑んで見ている。
「そ、そうなの…?そうか…、これが僕の力…」
新志は、再度自分の放った魔力の輝きを目に映した。
「じゃあ、もっと経験を増やして頑張れば、この光は大きくなるんだね?」
新志は希望に満ちた笑顔で、リィーズに聞いた。リィーズは、新志が自信を付けたことに喜びを見せた。
「……っ!ええ、そうね!頑張れるかしら?」
「うんっ!!」
リィーズが聞くと、新志は自信たっぷりな笑みで返した。
「いつか、愛莉ちゃんと同じくらいに…いやもっと大きくしてみせるよ!」
「なんだとーっ!?私だって、もっと大きくするんだからね!新志君には負けないよー!!」
「僕だって!!」
二人は顔を合わせて、互いの競争心を募らせた。
リィーズとコルザは、微笑んで二人を見つめた。
リィーズは、柔らかい笑顔を少し強張らせて、二人の方に歩いた。
「では、次に移りましょう。…あなた達には、自分の攻撃魔法を覚えてもらうわ」
リィーズの言葉を聞いて、驚いた新志と愛莉は、そちらへ振り返った。
「えっ!?攻撃?」
「そう。私の予想だけど、今の魔法界へあなた達が行ったら、コルザのように攻撃に遭う可能性が高いと思うわ」
リィーズは、コルザを見て言った。コルザは険しい顔でうつむいた。
「僕らも、バラノアさんの霊に攻撃されるって事?」
新志は不安そうに、リィーズに聞いた。
「…ええ。バラノアの意思が分からない限りは、こちらも警戒しなければいけないわ。それに、今、魔法界で不穏な動きがあるのは間違いない。コルザの身体が元に戻ったのが、その証拠よ」
リィーズは深刻な顔で話し、新志と愛莉は不安そうに顔を見合わせた。
新志は視線を落として、少し考えると、顔を上げてリィーズに言った。
「……僕、その攻撃魔法っていうの覚えて、早く自分の物にしたい!…魔法界へ行って、コルザの身体を必ず元に戻すって、約束したんだ!!」
「……新志君……!」
新志の力強い言葉に、コルザは胸を打たれた。
「それに僕、愛莉ちゃんを守る騎士なんだ。僕の魔法で愛莉ちゃんを守って、愛莉ちゃんを魔法界のプリンセスにすることが、僕の使命だと思ってる」
「あ、新志君~っ!!」
新志のたくましさに、愛莉は感激して、目をうるうるさせた。
リィーズは、表情をフッと緩め、優しい目で新志を見つめた。
「新志君……。私達はあなたを巻き込んでしまったのに、あなたはなんて優しくて強い子なの…。本当に心強いわ…。あなたが、魔法使いの素質を持っていて、本当に良かった…。ありがとう、新志君…」
リィーズは新志の方に歩み寄り、彼をそっと抱きしめた。安心感のある、柔らかいリィーズの身体に抱きしめられた新志は、少し頬を赤くして戸惑った。
リィーズはゆっくり身体を離し、気を取り直した。
「……では、新志君。あなたに攻撃魔法を教えるわ」
「…はいっ!」
新志君は背筋を伸ばし、声を張って返事をした。
「新志君、あなたは聞くところによると、物を変えたり、人を変身させる魔法をよく使うみたいね」
「…え?…あ…。う、うん。そうかもしれない」
新志君は、今まで使った魔法を、思い出しながら答えた。
「あなたは創造魔法が得意ね」
リィーズは核心をついた顔で、新志を見た。
「…そうぞう魔法…?」
新志は首を傾げた。
「…そう。魔法をかける対象に、変身した後の姿を思い描いて創り出すことよ。だから、あなたは何か攻撃する物…、武器を思い描いて、それを使って攻撃する方法が、あなたに向いていると思うわ」
「……武器……」
新志は、心の中で思い描き始めた。
「…あなたが攻撃魔法を使うのに適した物よ…。杖にしっかり思い描いて、創り出してみて」
リィーズの言うとおりに、新志は目を閉じて、それを思い描いた。
(……僕に適した武器……。愛莉ちゃんを守る騎士である僕が持つもの……。っ!?これだ!!)
武器を頭に思い描いた新志は、パッと目を開けて、魔法をかけ始めた。
「トワール・ワイル・エトワール 杖よ姿を変えて!僕の力を宿した剣に! ストームズ リベラシオン!」
新志の呪文と共に、新志の持っていた杖が黄色く光り出し、姿を変え始めた。
「…わぁ…」
新志は、杖を持つ手を目の高さに上げ、剣の姿に変わっていく様子をじっと見つめた。
黄色い光が、杖から消えていくと、それは大きな剣の姿に変わっていた。
「わあっ!!これが僕の武器!?か、かっこいいー!!」
新志は、現れた剣を高く上げて、まじまじと見つめた。
「きゃーっ!すっごい!!新志君ー!!見せて見せてっ!!」
興奮した愛莉は、新志の元へ駆け寄り、新志の剣を見上げた。
「……凄い…!!」
新志の魔力から創り出された、大きな剣を見たコルザも、それに目を奪われていた。
「…大きな剣を軽々と持ち上げているわ。魔力を制御出来ているのね。…それに、あんなに鮮明で立派な物を創造するなんて…。初心者では、考えられないでしょう?」
リィーズは、コルザに近寄って言った。
「…はい。彼の才能なんですね…」
コルザは、新志を見つめて言った。
「ねぇねえ!?おばあちゃん!私は?私もこんな武器が持てるの?」
愛莉はリィーズの元へ駆け寄って聞いた。
「…いえ、愛莉には、別の方法の方が適しているわ」
「…へ?別の方法?」
愛莉は少し残念そうにリィーズに聞いた。新志は、そちらに顔を向けた。
「ええ。あなたが得意なのは、幻想魔法よ」
「げ、げんそう魔法?」
難しそうな言葉に、愛莉は眉を顰めた。
「そう。あなたは新志君のように物を変えるより、直接的な魔力を使うことが得意よ。だから、あなたの魔力で、相手に攻撃を与える方が、あなたには適してる」
「えー?どういうこと?」
愛莉は、リィーズの言っていることがイマイチよく分からず、首を傾げた。
「幻想魔法は、言葉で説明するより、実戦で学ぶ方がいいわね。…たとえば…そうね」
リィーズは、先程の水晶玉に目をやった。
「新志君、これに魔法をかけてくれないかしら?攻撃の魔法を受け止めるように」
「えっ!?は、はいっ!!」
リィーズに言われ、新志は慌てて呪文を唱えた。
「トワール・ワイル・エトワール 攻撃の魔法を受け止めて! ストームズ リベラシオン!」
新志の剣の先端から、黄色い光が放たれ、魔法を掛けられた水晶玉は、パアッと黄色く光った。
「さぁ、愛莉。この水晶玉に向けて、魔力で攻撃してみなさい」
リィーズは振り返って、愛莉に言った。
「してみなさいって…。言われてもなぁ…」
愛莉は、どうやって攻撃したらいいのかわからず、困った様子を見せた。
「さっき、あなたの魔力をこの水晶玉に注いだでしょう?今度は、この水晶玉を攻撃するつもりで、魔力を放ってみなさい。あなたのやり方でいいのよ」
リィーズは、新志を水晶玉から離し、自分も少し離れた位置で、愛莉を見守った。
「……私の…やり方…」
愛莉は、自分の利き手の右手をじっと見つめた。
「頑張って!愛莉ちゃん!!」
愛莉は、応援する新志の方を見た。新志とコルザがファイティングポーズをとって、愛莉を応援している。
「…うん!わかった!やってみるよ!!」
愛莉は目を閉じて、右手に魔力を集中させた。
パチッと目を開けると、上に掲げた右手を斜め下に向かってに切るように、溜めた魔力を勢いよく水晶玉に放った。
「たああああぁっ!!!」
愛莉の叫びと同時に、手からピンク色のハートを模った魔力が、鋭い速さで放たれた。
魔力は一目散に水晶玉に飛んでいき、水晶玉は飲み込むように、魔力を受け取った。
水晶玉からは一瞬、パチッとピンクの光が放たれた。
愛莉は、はぁはぁと息を切らして、その光景を見ていた。
「うわぁ…。す、すごいな愛莉ちゃん!か、かっこいい…!!」
愛莉の攻撃方法を見ていた新志は、頬を染めて、愛莉の姿に見惚れていた。
「初めての攻撃魔法にしては、上出来よ、愛莉!!」
リィーズは、安心した様子で愛莉に言った。
「ほ、ほんと!?やった!!」
愛莉は喜んで飛び跳ね、新志とコルザの元に駆け寄った。
「褒められちゃった!ねぇねぇ、コルザ?私の魔法、どうだった?」
愛莉は、みんなから褒められた魔法を、コルザがどう思ったか気になって彼に聞いた。
「うん!とっても上手だね!それに、可愛かった!」
コルザは笑顔で愛莉に言った。
「そ、そう?やっぱり?エヘヘ!照れるなぁ」
愛莉は、赤い顔で頭を掻いた。
新志は、二人の様子を面白くなく感じ、間に割って入った。
「ところで、何でハートの形をしてたの?」
新志は愛莉に聞いた。
「え?だって、フツーじゃつまんないでしょ?おばあちゃんが、私のやり方でいいって言ったから、私らしく、キュートに仕上げてみたんだけど?」
「な、なにそれ?そんなんでいいわけ?」
理由を聞いた新志は、ガクッと膝を崩した。
「いいでしょ!ねぇ?おばあちゃん?」
愛莉は、振り向いて、リィーズに聞いた。
「え?ええ、まぁ。大事なのは威力だから…。形までとやかくは言わないけど…」
リィーズは苦笑いで答えた。
「ほらー!!」
愛莉は新志の方に振り返り、得意気に言った。
「う…ん…。まぁそれなら僕も何も言わないけどさ…」
新志はしぶしぶ言った。
「…なら、次は、実際に攻撃を受けてみましょう!」
リィーズは水晶玉の位置に戻って、二人に言った。
「ええっ!?攻撃を受ける!?」
二人は驚いて、リィーズを見た。
「そうよ。そうしないと、実戦の時に、防御が出来ないでしょ?実際に与えられる魔法が、どれくらいの威力なのか知っておかないと、とても危険よ」
「………」
どんどん本格化していく特訓に、新志と愛莉は、不安を抱き始めた。
「どうしたの?今になって怖くなってきた?愛莉。こんなことでくじけていたら、プリンセスには到底なれないのよ?今さら逃げ出すの?」
リィーズは真剣な表情で、愛莉に言った。人間界で育ってきた愛莉には、とても厳しい事だとわかっていたが、魔法使いの血筋に生まれた以上、リィーズは、彼女の能力を無駄にしたくなかった。
リィーズに言われた愛莉は、チラッとコルザに目をやった。
(…そうだよ…。魔法界のプリンセスになることが、私とおばあちゃんの夢なんだ。…魔力を失ったお姉ちゃんの代わりに、私が…。私の力で、コルザを元の姿に戻して、必ずプリンセスになるんだっ!!)
愛莉はこぶしにグッと力を入れた。
「…わかった。やるよ!私、おばあちゃんの特訓、最後まで頑張って受ける!!」
愛莉の力強い言葉に、リィーズは笑顔で彼女を見た。そして、横にいる新志に目を向けた。
「…新志君、愛莉はこう言ってるけど、あなたはどう?」
「…え?」
新志は愛莉を見ると、すぐにリィーズに目を戻して言った。
「ぼ、僕だって、もちろんやるよ!愛莉ちゃんを守るんだ!魔女ばあさんと、約束したもんね!」
「その意気よ、二人共!」
リィーズは笑顔で新志と愛莉を見つめた。
「どうするの?」
新志はリィーズに聞いた。
「そうね。じゃあ、新志君からいきましょう。愛莉はこっちに来て」
リィーズは愛莉を水晶玉の元へ呼んだ。
「愛莉。水晶玉に魔法をかけて。新志君の攻撃を跳ね返すように」
「うえぇ?で、でも、そんなことして、もし逸れたりしたらどうするの?部屋がめちゃめちゃにならない?」
愛莉は焦ってリィーズに聞いた。
「あら、その時は、あなた達が魔法で直してくれるんでしょう?」
リィーズは、さらっと涼し気に言った。
「……え…」
新志と愛莉は、唖然とした。
「さ、愛莉、魔法を」
リィーズは構わず、愛莉を促した。
「わ、わかったよ…。どうなっても知らないよ!」
愛莉は杖を掲げて、呪文を唱えた。
「トワール・ワイル・エトワール 攻撃の魔法を跳ね返して! アイリズ リベラシオン!」
愛莉に魔法をかけられた水晶玉は、ピンク色に光った。
「さぁ!どんと来なさい!新志君っ!!」
愛莉は腰に手をあてて、新志に向かって言った。
「あなたはどきなさい、愛莉。危ないわよ!」
リィーズは愛莉を引っ張って、攻撃が当たらないように、部屋の隅に移動させた。
「…よ、よぉし!僕も、さっきの愛莉ちゃんみたいに攻撃してみせる!」
新志は両手で剣を持ち、上に振り上げた。
「あ、待って、新志君。最初は軽い攻撃でいいわ。跳ね返ってくるのも、与えた威力と同じものが返ってくるから」
リィーズは慌てて新志に言った。
「あ、そうなの?…よし…わかった」
新志は剣を右手に持ち替え、少し上に上げて構えた。そして、徐々に剣へと魔力を集中させた。
新志はグッと目を細め、剣を振りかざした。そこから放たれた魔力が、一目散に水晶玉へと向かって行った。
水晶玉は、新志の攻撃を受け切り、同じ威力の魔力を、新志の方へ放出した。
「…っわっ、きたっ!?」
自分の攻撃が勢いよく向かってくると、新志はそれを受けるように、剣を盾のようにして構えた。
水晶玉から放たれた魔力は、新志の剣に直撃した。新志は、その衝撃に耐えるように、目をつむって剣を持つ手に力を加えた。
「……うぅっ!!」
新志は力を込めて、剣を振った。新志によって力を加えられた剣は、攻撃の魔力に打ち勝ち、その魔力を消滅させた。
「わぁお!凄い!!」
愛莉は興奮して手を叩いた。
「新志君、素晴らしいわ!上出来よ!」
リィーズも嬉しそうに、新志に言った。
「…へ?僕、上手く出来たの?」
無我夢中だった新志は、いつの間にか跳ね返って来た魔力が消滅していることに気付き、目を丸くした。
「ええ。基本的な事はおさえているから大丈夫よ。この調子で、スピードと威力を上げて行けば、どんどん上達するわ」
「…え…?もっとパワーアップするの…?」
新志は呆然とリィーズに聞き返した。リィーズは聞こえなかったように、愛莉の方を向いた。
「さぁ、愛莉!次はあなたよ!新志君と同じように、攻撃してみなさい!」
「っ!?は、はいっ!!」
愛莉は慌てて、新志と入れ替わるように位置に着いた。
「よぉし!いっくぞぉ!」
気合を入れた愛莉は、手を高く上げて、攻撃のポーズをとった。
「ちょっと、愛莉!さっきも言ったけど、最初はほどほどの力にしなさい!じゃないと、防御しきれないわよ!」
リィーズに慌てて言われた愛莉は、ハッとした。
「あ!そうだった!!」
愛莉は、上げた手を少し下げて、ほどほどの力を放つ努力をした。
「こんなもんかな…?」
探り探りで手の位置を決め、愛莉は水晶玉に目を向けた。
(…狙いを定めて…行くぞっ!!)
右手に魔力を溜めた愛莉は、自分のタイミングで水晶玉に攻撃を放った。
水晶玉は、愛莉の攻撃を受け取ると、すぐに同じ威力の攻撃を愛莉に放った。
「っわっわわっ!?」
焦った愛莉は、どう防御していいか分からず、慌てた様子を見せた。
「愛莉!杖を!!」
リィーズは、急いで愛莉に助言した。
愛莉は、慌てて向かってくる攻撃を杖で防御した。攻撃を受けた杖はピンク色に光り、その威力を抑えた。
「……くっ!」
杖で攻撃を押し返すように、愛莉は手に力を加えた。
「えぇいっ!!」
愛莉が杖を振りかざすと、攻撃の魔法は消滅した。
無事に攻撃を回避することができ、リィーズと新志とコルザは「ホッ」とした様子を見せた。
「よ、よかった…。凄いよ!愛莉ちゃん!!」
新志は愛莉の元へ駆け寄り、息を切らしている愛莉に声を掛けた。
「…わ、私だって、新志君に負けてられないもん…。はぁ、でも、怖かったぁ」
安心した愛莉は、力が抜け、新志に抱き着くように、身体をもたれさせた。
「………っ!?」
何も言えず、かぁっと顔を赤くした新志は、慌てて愛莉を支えた。
リィーズとコルザは、少し頬を染めて、その様子を見ている。
「……っ!?」
「……っ!?」
赤い顔の新志と目が合ったリィーズとコルザは、空気を読んで、ぎこちなくそっぽを向いた。
二人に気を使わせていることが、なおの事恥ずかしくなり、たまらず、新志は愛莉に声を掛けた。
「あ、あの…。愛莉ちゃん、大丈夫?」
愛莉は新志から、ゆっくり身体を離した。
「うん。魔法で攻撃するのも大変だけど、受けるのはもっと大変なんだね。今まで使っていた魔法とは全然違うから、私、なんかびっくりしちゃったよ」
愛莉は新志に笑顔で言った。
「僕もだよ。自分の魔法で戦うなんて、思いもしなかった。でも、最後までやるって決めたから、きっと使いこなしてみせるよ!」
愛莉の笑顔を見た新志も、自然と笑顔になっていた。
「私もっ!」
愛莉は、新志にファイティングポーズを見せて言った。
二人の様子を微笑んで見ていたリィーズは、二人の元に歩み寄った。
「二人共、お疲れ様。今日は凄く頑張ってくれたわね。このくらいにしておいて、お茶にしましょう。…実は、新志君に話したいことがあるの」
リィーズは、少し深刻そうな顔をした。新志は頭に「?」を浮かべた。
いつものソファに座り、二人と一匹は、お茶とお菓子を囲んで、一息ついていた。
「…僕に話って何?魔女ばあさん?」
気になった新志は、リィーズがソファに座ると同時に、先程の事を聞いた。
リィーズは、お茶を飲んで、一息ついた。
「…あのね…、槍君のことなんだけど…」
「えっ?槍?槍がどうかしたの?」
新志はもちろん、愛莉とコルザも話に興味を持って、リィーズの顔を見た。
「ええ。…あなた達には、何も感じないかしら?」
リィーズは新志達を見て言った。
「…え?感じるって、何を?」
「何も感じないけど…?」
新志と愛莉は、顔を見合わせて、「?」という顔をした。
「…あなた達には、魔力を読み取ることも、教えないといけないわね…。コルザ、あなたは感じるわよね?」
「…はい」
リィーズはコルザを見て聞いた。コルザは頷いて返事をした。
「え?えっ?ま、魔力!?」
「挿崎君にっ!?う、うっそだぁ!?」
新志と愛莉は、驚いて言った。
「本当よ。人間として生まれたから、自分でも気付いていないでしょうね。でも、彼は新志君と同じで、魔法使いの素質を持っている子よ」
「………」
リィーズの言葉を、新志は信じられない様子で聞いていた。
「あの子、きっと、私達のことに少しずつ気づき始めてると思うわ。あの子に感じる何かが、私達にあるんでしょうね」
「……え、ええ…!?」
愛莉は驚いた様子のまま、リィーズの話を聞いていた。新志は徐々に、視線を下に落としていった。
「新志君、…槍君は、とても頼もしい存在だと言っていたわよね?いつもあなたの事を助けてくれるって」
「……。うん…」
新志は、元気をなくしたように、リィーズに返事をした。
「どうかしら?あの子の魔力を解放して、あなた達の力になってもらうようにお願いしては?」
(……っ!?)
新志はうつむいたまま、目を見開いた。
「いいじゃんっ!!それ!!私たちの仲間になってくれるってことでしょ?こんなに頼もしい助っ人はいないよ!!」
愛莉は立ち上がって、賛成した。
「ねぇ?新志君!私達だけじゃ、心細いしさ…」
「駄目だっ!!!」
新志は、愛莉の言葉を裂くように怒鳴った。
新志以外の者は驚いて彼を見た。新志はうつむいたまま震えている。
「…ど、どうしたの?新志君?」
愛莉はいつもと様子の違う新志を心配して、彼をのぞき込んだ。
「…新志君…」
リィーズとコルザも、新志を心配そうに見つめている。
「そ…槍は…、駄目だよ…!」
新志は顔を上げて、リィーズに訴えた。
「………」
必死な表情の新志を、リィーズは黙って見つめた。
「あ!分かった!!魔法使いの騎士としてのかっこいい立場を、挿崎君に横取りされるのが嫌なんだ!」
愛莉は悪戯に新志に言った。新志は表情を強張らせ、立ち上がって愛莉に言い返した。
「違うっ!!そんなんじゃないっ!!」
珍しく本気で言い返してくる新志に、愛莉は「おっと」といった顔で、一歩下がった。
「…新志君、落ち着いて。そこまで頑なに拒む理由を、教えてくれないかしら?」
リィーズは優しい口調で、新志に言った。新志は下を向いて、ストンッとソファに腰を下ろした。
「……槍には…僕、ずっと迷惑を掛けて来たんだ…。だから、こんな危険な目に遭うかもしれないことに、槍を巻き込みたくない…」
うつむいて話す新志の気持ちを、リィーズ達は察したように黙って見つめた。
「それに…、僕、魔法使いになれたことで、槍に恩返しをしたいと思ってるんだ。いつか、僕の魔力を極めて、槍の助けになりたい。…愛莉ちゃん達には黙っていたけど…、僕、ずっとそう思ってた…」
新志は少し顔を上げて、気持ちを打ち明けた。
「……新志君…。…あなたの気持ちはよく分かったわ。…この話は、なかったことにしましょう」
リィーズの言葉を聞いた新志は、彼女を見つめた。リィーズは笑顔を新志に見せた。
「…ごめん…。新志君…」
愛莉はしょんぼりして、新志に謝った。
「…僕こそ…。槍が力になってくれたら、心強いのは充分わかってる…。でも、その代わり、僕が愛莉ちゃんを絶対に守るからっ!!」
新志は愛莉の目をじっと見つめた。
「……あ、ありがと」
愛莉は少し頬を赤らめて、いつもより逞しく見える新志に礼を言った。
「もちろん、コルザもだよ!」
新志は、コルザに笑顔で言った。
「ありがとう!新志君!」
コルザは、先程の事で、新志の優しさを身に染みて感じ、彼に笑顔で返した。
第七話、最後まで読んでいただきありがとうございます!
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