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第六話「パニック!!元に戻ったコルザ」


魔法界。

不穏な闇がおおっていた夜はすっかり明けていた。辺りは薄い霧がかり、朝焼けの光が城を照らしている。

食堂では、カラビーニア家の三人の娘が、珍しく顔を合わせ、朝食をとっていた。

「ねぇ、お姉さま。城の中、何かおかしいと思わない?」

手に持っているナイフとフォークを置いて、次女スヴァイは、ワクワクしながら長女のランバダに話しかけた。

「フフッ、遠回しに言うわね。あなただって分かってるくせに」

ランバダは食事を続けながらそう言うと、それぞれのあるじのそばにいる臣従しんじゅう達にチラッと目を向けた。

淡々と食事をするジュセの斜め後ろに立っているパントラは、ギクッとして視線を()らせた。

「ええ!?また何か起きたの?ねぇねぇ、ミト、そうなの!?」

スヴァイはわざとらしい反応を見せ、そばにいる彼女の臣従、【ミト・ライユース】に話しかけた。

「スヴァイ様、まだお食事の途中です。レディはお食事の間、むやみにお話ししてはいけません」

ミトは癖っ毛の金色の髪を揺らして、にっこり笑ってスヴァイに言った。スヴァイは頬を膨らませ、彼からプイッと顔を(そむ)けて食事を続けた。

事を隠そうとする臣従達に、ランバダは意味深な笑いを見せた。

「どうせまた、例の侵入者にまんまと入り込まれたんでしょう?…で、逃げられた。全く。あんた達って、案外使えないのね…。お父様が知ったら何て言うかしら?」

ランバダは意地悪そうに言うと、布巾をテーブルに置いて、赤ワインを飲んだ。

臣従達三人は、彼女の言動に慣れており、黙って彼女の小言を聞いた。

ランバダは、そばに立っているバーロンをキッと睨んだ。

「あんたが居ながら、何よこのありさまは!私に(つか)えておきながら、侵入者一人捕まえられないの?これじゃあ私の評判も悪くなって、()められる一方じゃないのよ!」

ランバダのヒステリックな発言に、食堂内はシーンと静まり返った。

「…こわーい…」

スヴァイがクスクス笑うのをよそに、ジュセは黙って食事を続けた。

「申し訳ございません、ランバダ様。…ですが、今回は侵入者の目撃情報を得られました。そして、奴の攻撃方法も」

バーロンは、冷静な表情を保ったまま、ランバダに言った。

スヴァイとジュセは、バーロンの言葉に反応し、顔を上げた。

ミトとパントラは、侵入者の情報を安易(あんい)に話すバーロンを止めようとしたが、ランバダの睨みにかかり、何も言えずに黙った。

「…へぇ。で、今、城中を騒がせているその侵入者さんは、どんな顔をしていたのかしら?」

ランバダはバーロンを見上げて聞いた。

「…奴は…、炎の魔力を巧みに操る、正魔飾着(せいましょくぎ)まとった、……女でした」

「っっ!?」

バーロンの言葉に、三姉妹は驚きの表情を見せた。

ランバダはガシャンッと大きな音を立てて立ち上がり、バーロンに食い掛った。

「お、女ですって!?ふざけないでよっ!!なんでたかが女一人に、何十人の男が手も足も出ないのよ!?」

バーロンは視線を反らした。

「フフフフッ。出たわ。お姉さまの女嫌いが」

スヴァイが笑いながらコソっと言うと、聞こえていたランバダにキッと睨まれ、スヴァイは手で口を押さえて知らん顔をした。

「ランバダ様、落ち着いてください。これだけの情報を手に入れたのです。次に現れた際は、必ず私どもの手で奴を捕えてみせます。大王様やお嬢様方には、一切ご迷惑をお掛け致しません」

バーロンはランバダの肩に振れ、椅子に座らせた。

「フッ…。どうかしらね…」

怪訝けげんな顔をしたままのランバダは、手と足を組んで、ふてくされたように言った。

ジュセの食事が終わるのを見届けたパントラは、彼女の様子を覗いながら話しかけた。

「…ジュセ様、お茶をお持ち致しましょうか?」

ジュセは、パントラと目を合わせると、軽く頷いた。

「…ええ。お願い」

「承知しました」

パントラは頭を下げると、ジュセの前の食器を下げ、キッチンへと移動した。

「ねぇミト、私も食べ終わったから何か飲みたいわ」

ジュセとパントラのやり取りを見ていたスヴァイは、やきもちを焼いたようにミトに甘えた。

「かしこまりました。では、ハーブティーを入れてまいります」

ミトは笑顔で返すと、スヴァイの前の食器を下げて、キッチンへ入って行った。

「バーロン。私にはコーヒーを入れてきて」

一連の流れを聞いていたランバダは、バーロンに言った。

「かしこまりました。ランバダ様」

バーロンは、ランバダに頭を下げ、ランバダの前の食器を下げて、先程の二人同様、キッチンへと向かった。


「…なんだか、重圧を感じてしまいます…」

パントラはお茶を用意しながら、後から来たミトに言った。

「あの場の空気かい?何を今さら…」

ミトはハーブティーの缶を手に取って笑顔で言った。

「いえ、侵入者の事です。次に現れた時は、必ず捕まえなければ…」

そう言うと、バーロンがキッチンへ入って来た。パントラとミトは、ハッとして振り返った。

「バーロン…。あなた侵入者の事、お嬢様たちに話してはいけませんよ」

ミトはバーロンに忠告した。バーロンは表情を変えずに、コーヒーの入った瓶を手に取った。

「侵入者の存在はもはや彼女たちには知れている。うやむやにしておく方が、彼女たちには鬱憤うっぷんが溜まっていくだろう…」

「…だけど…何も、次は必ず捕まえるなどと、宣言しなくても…」

ミトはパントラと目を合わせた。

「彼女たちを安心させるには、そう言うしかないだろう。私たちの誠意(せいい)も見せなければ。…それともお前たちは、奴を捕まえる自信がないのか?」

バーロンは、左目でミトとパントラを睨んだ。睨まれた二人はたじろぎ、顔を()せた。

「…そういうわけでは…」

「今夜も現れるかもしれん。…気を抜くなよ」

バーロンは、そう言い放ち、ドリップさせたままのコーヒーを台車に乗せて、キッチンから出て行った。

残った二人は、顔を見合わせ、バーロンの後に続いた。


カラビーニア家の三姉妹だけとなった食堂では、沈黙が続いていた。

次女スヴァイは、何かを話したそうだったが、長女ランバダの機嫌の悪さを感じ取り、彼女には諦めて、三女のジュセに話かけた。

「…ねぇ、ジュセ?」

「…はい。スヴァイ姉さま」

ジュセは伏せていた目を、スヴァイに向けた。

「コルザって、今どうしてるの?」

「…えっ?」

唐突(とうとつ)に聞かれ、ジュセは少し困惑した。

スヴァイの質問に興味を示したランバダも、視線をジュセに向けた。

「あなた、パントラから聞いてるんでしょ?」

スヴァイは質問を続けた。パントラはジュセの臣従であると共に、コルザの世話係でもあった。

「そうよ。まだ部屋から顔を出さないの?…って言っても、以前から引きこもりだったけどね」

ランバダがそういうと、スヴァイと一緒に「キャハハ」と笑い合った。

「………」

ジュセは眉をしかめて目を背けた。ジュセにとってコルザは、唯一信頼できる弟だ。彼の事を笑い者にする姉たちに、ジュセは嫌悪感を抱いた。

「コルザ様は、まだ体調が優れない様子で、お休みになられています。どうか、そっとなさって差し上げてください」

ジュセが困っているのを助けるように、キッチンから出て来たパントラは、ランバダとスヴァイに言った。

「体調が悪いって…、もう何か月になるの?あなたにも顔を見せないなんて、何か変じゃない?」

スヴァイは、ミトからハーブティーを受け取って聞いた。

「…そ、それは…」

パントラは、何も言い返せずうつむいた。そんなパントラを、ジュセは心配そうに見つめている。

「全く、カラビーニア家の長男として呆れるわね。まぁ、お父様もコルザなんかに継がせる気はないでしょうけど」

ランバダは、バーロンからコーヒーの入ったカップを受け取って、一口飲んだ。

「お父様とコルザが話してるとこなんて、見たことないものね。お父様ったら、よっぽどコルザの事が嫌いなんだわ。それが今さらになって分かって、絶望してるのかしら?」

スヴァイがそう言うと、またランバダと共に、声高らかに笑い合った。

聞くに()えなくなったジュセは、「バンッ」とテーブルに手をついて立ち上がり、足早にその場を去って行った。

「ジュ、ジュセ様っ!!」

パントラは慌ててジュセの後を追った。

食堂は一瞬シンっと静まり返ったが、すぐにスヴァイが話し出した。

「なぁに?あれ?」

スヴァイは面白くなさそうに、ランバダに言った。

「フフッ。ジュセはコルザを可愛がっているもの。仕方ないじゃない。…所詮(しょせん)二人は、あの(あわ)れな女に育てられた能無しよ…」

ランバダは、自分のうねった黒髪をいじりながら言った。すると、何かを思い出したように、ハッとした。

「…そういえば、あの女の霊が出たって話があってからじゃない?コルザが部屋から顔を出さなくなったの」

「…え?そうだっけ?」

スヴァイはミトを見上げた。

「さぁ…?そうでしたでしょうか…?」

ミトは首を傾げてスヴァイに返した。

「…あの女の霊とコルザ…。何か関係があるのかしら…?」

ランバダは爪を(くわ)えて、考え込んだ。

バーロンは、そんなランバダを、黙ったままじっと見ていた。


ジュセの部屋ではパントラが、ジュセの興奮を抑えようと、彼女をベッドに座らせていた。

「…ジュセ様、どうか気を高ぶらせないように…。体に毒です」

パントラは、ひざ掛けを持って、ジュセの前まで歩いた。

「あなたは、悔しくないの?コルザの事、あんなに好き勝手に言わせて!」

ジュセは憎しみを込めた目で、パントラにあたった。

「…僕だって悔しいです。コルザ様の気持ちを考えると…。なにもあそこまで言う必要など…」

パントラは視線を落として言った。ジュセは、そんなパントラを見て、少し落ち着きを取り戻した。

「…ですが、コルザ様が、今どんな気持ちでおられるのか、それさえも分からない…」

パントラは、涙ぐんだ目で膝を着き、ジュセの膝にひざ掛けを掛けた。

「……」

ジュセは、パントラを見ながら、何かを考えた。

「ねぇ、パントラ…」

パントラはジュセの顔を見上げた。

「コルザに、私が会いたいと言っていると、伝えてもらえないかしら?」

ジュセの言葉を聞き、パントラは、視線を下に向けた。

「ですが、以前、ジュセ様が自らコルザ様の部屋に出向かわれた時、会う事を(こば)まれたのですよ?」

また以前のように断られると悟ったパントラは、ジュセを傷つかせまいと、彼女に言い聞かせた。

「だからって、何もしなければ、何も変わらないわ。せめて私が出来ることは、やってあげたいのよ…」

パントラを真っすぐに見つめて、ジュセは言った。

「あなただって、同じ気持ちのはずでしょう?」

ジュセは、パントラの手を両手でギュッと握った。パントラは、かぁっと頬を赤く染めたが、すぐに我に返った。

「…僕も、コルザ様と会って、お話がしたいです。…僕も、コルザ様とジュセ様の力になりたい…」

パントラの言葉を聞き、安心したジュセは、笑顔で彼を見つめた。パントラも、頬をほんのりピンク色に染めて、ジュセを見つめた。


コルザの部屋の前まで来たパントラは、ノックをしようと(こころ)みるが、何度も躊躇とまどい、深いため息をついた。

(ジュセ様に押されて、勢いで来てしまったものの、きっと断られるんだろうな…。ジュセ様に何と言ったらいいか…。彼女を悲しませたくない…)

パントラは幾度(いくど)とコルザと対面を(はか)ろうとしたものの、その都度断られてきたようで、今回も諦めた様子で部屋のドアに視線を向けた。

「……はぁ」

パントラは、また深いため息をついた。そして、意を決して、扉を三度ノックした。

「……はい」

扉の奥からコルザの声が聞こえた。

「パ、パントラです。コルザ様…。あ、あの、何か申しつけはございませんか?」

パントラは少し緊張した声で、中にいるコルザに話しかけた。

「………」

中からの返事はない。パントラは中の様子をうかがおうと、扉に耳をあてた。…特に物音もしない。

パントラは姿勢を戻し、再度、コルザに話しかけた。

「…コルザ様。…あの…、ジュセ様がコルザ様にお会いしたいとおっしゃられています。…ジュセ様はコルザ様をとても心配されています。もちろん、僕も…。あの…、お顔だけでも、見せては頂けないでしょうか…?」

パントラは、コルザがどう返事をしてくるか、ドキドキしながら待った。

「………」

しかし、中からの返事はなかった。しばらく待っていたパントラだったが、肩を落として、ため息をついた。

すると、中から返事がした。

「………わかった」

「……そうですよね…………って、…ええぇっ!?」

当然断られると思っていたパントラは、コルザの意外な返事に驚き、パッと顔を上げた。

その瞬間、中からの魔力で、扉が「ギィィ」と開いた。

扉が完全に開くと、パントラは、中の様子を覗った。部屋のカーテンが閉まっており、中は薄暗く見え辛かった。

「…し、失礼します…」

パントラが部屋に入ると、扉は「バタン」と閉まった。パントラは驚いて扉の方へ振り返った。

「………」

扉が閉まったコルザの自室は真っ暗で、ほとんど何も見えない状態だ。パントラは目を()らして、部屋の中央の辺りに視線を向けた。そこにはベッドがあり、コルザの気配をそこに感じていた。

「……コルザ様…?」

パントラは、いつもと違った雰囲気のコルザに、若干の不安を抱きつつ、彼に問いかけた。

すると、突然部屋の中央から魔力が放たれ、部屋の壁に備え付けられたロウソクに火が(とも)った。

部屋に少しの明かりが灯り、パントラは、部屋の様子を確認することが出来た。以前と特に何も変わった様子は無い…。

「…っ!?」

パントラは、窓際に浮いている、巨大な水晶に目を奪われた。

「こ、これは……!?」

パントラが、その水晶に少し近づくと、ベッドの方から声がした。

「…ジェムエレメント」

「っっ!?」

パントラはそのワードに驚き、声のする方へ顔を向けた。パントラの視線の先には、ベッドに横たわっているコルザがいた。

「ジェ、ジェムエレメント!?…これが、噂に聞く…?し、しかし、こんなに大きな…」

パントラは、再度ジェムエレメントに目をやった。それは、部屋の大きな窓と、同じ位大きいものだった。

「…コ、コルザ様が生み出されたのですか!?」

パントラは、またコルザの方へ振り返った。コルザはコクンと頷いた。

「………」

パントラは、コルザに壮大(そうだい)な魔力が備わっていたことに驚いたが、それよりも、彼が辛そうにしている事に気が付いた。

「…コルザ様、いかがされました?…このところ、お顔も拝見出来ず、心配していました…。どこかお悪いのですか?」

パントラは、心配してコルザのいるベッドに近づいた。

「……コルザ様、ジュセ様も心配されています。一度お顔を見せて差し上げて…」


「……っっっ!!?」


パントラは、横たわるコルザを見た途端、驚きのあまり言葉を失った。

先程まで、遠目で分かり辛かったが、近くになるにつれ、それがはっきりと確認できた。

毛布を軽くかけたコルザの胸は、膨らみを成している。また着ている服が薄手のせいで、形まで鮮明だ。

「……コ、コル…ザ…様…?」

パントラは困惑状態で、呆然と、ただコルザの身体に釘付けになっていた。パントラの反応を見たコルザは、クスッと笑って、毛布で胸元を隠した。パントラはハッとして、状況が理解出来ないまま、立ち尽くした。

「…ジュセ姉様が私に会いたいって?」

身体を起こしたコルザは、パントラを下から眺めるように聞いた。

(…わ、私……?)

パントラは、コルザの言葉にも戸惑った。

「…は、はい…。で、ですが…その……」

今のコルザをジュセに会せたら、どうなるのか…。自分が状況を把握出来ないまま、彼女に会わせたところで、ただ、困惑するだけではないだろうか。パントラの脳内では、そんな事が(よぎ)っていた。

「…あ…の…。コルザ様?」

パントラは、本人に思い切って聞くことを決意した。

「…何?」

コルザはパントラに聞いた。

「ど、どうして女性の姿をされているのですか?…な、何かのお遊びですか?」

パントラは、少し冗談交じりにコルザに聞いた。だが、コルザは表情を変えず、パントラをじっと見つめた。

「パントラ…」

「は、はい?」

パントラはドキッとした。

「…何言ってるの…?私はずっと女でしょ…?」

「………え…」

コルザの答えに、パントラは困惑を隠せず固まった。そんなパントラをよそに、コルザはダルそうにベッドに横たわった。

「…少ししんどい…。ジュセ姉様にここへ来るように言ってもらえない?」

コルザは目を閉じて、パントラに言った。

「……わ、分かりました…」

疑問が解消されないまま、パントラはコルザに(したが)った。


深刻な面持ちで、パントラはジュセの部屋に戻った。ジュセはパントラの帰りを待ちわびていたようで、椅子から立ち上がって、彼の元に歩み寄った。

「おかえり。…コルザの様子どうだったの?…やっぱり、断られてしまった?」

パントラの表情を覗いながら、ジュセは、今回もダメだったと察した。

パントラは、ずっとうつむいている。

「………?…パントラ…?」

様子のおかしいパントラを不思議に思い、ジュセは心配そうに声を掛けた。すると、パントラは、顔を上げた。

「…ジュセ様……。僕…、もう、何が何だか…」

ジュセの目に映るパントラの表情は、ひどく困惑していた。

「…何?何があったの…?コルザに、何かあったの?」

パントラの言動は、ジュセの不安感を一層に(あお)いだ。

「…しばらく会われない間に、だいぶお変わりになられました。…僕が今から話すこと、どうか落ち着いてお聞き下さい」

パントラは、ジュセを椅子に座らせた。

「………?」

ジュセの不安は消えず、戸惑った表情でパントラを見上げた。


「コルザっっ!!」

ジュセは、魔力の掛かった扉を、自分の魔力で解き放った。

「バタンッ」と大きな音と共に、ジュセは勢いよくコルザの自室に入った。後からは慌てた様子のパントラが、彼女を必死に追いかけて来ていた。

コルザは、先程と変わらない様子で、ベッドに横たわっている。

「…ジュセ姉様…。どうしたの?そんなに血相変えて。らしくもない」

コルザは身体を起こし、「フフフ」と笑いながら、ジュセに言った。

「………」

ジュセはコルザをじっと見つめた。すると、奥に浮いているジェムエレメントに目をやった。

「これが…ジェムエレメント…。なんて大きさなの…」

ジュセは驚きを隠せない様子だった。コルザはそんなジュセを見て、「フフ」と笑った。

「ジュ、ジュセ様、お身体に(さわ)ります。あまり興奮されては…」

パントラが気遣うも、ジュセは聞く耳を持たず、コルザの元へ歩み寄った。

「………」

ジュセは久しぶりに見るコルザの顔をじっと見つめた。そして、コルザの身体に目をやった。

「……っ!?」

パントラの言うように、ジュセの目には、女の身体を持つコルザが映った。

「…何?そんなにジロジロ見て」

コルザは少し恥ずかしそうに、はにかんでジュセに言った。

「…コルザ…。あなた…」

ジュセは、悲し気な顔でコルザを見つめると、いつもの冷静さを取り戻し、ベッドに座った。

「疲れているわね…」

ジュセは、コルザの頬に手を当てて言った。

「…少しだるい…」

コルザはジュセに笑みを返した。コルザは頬に当てているジュセの手を取ると、ジェムエレメントの方を見て言った。

「…大きくするのに、かなり魔力を奪われたみたい。おかげで力が出なくなってしまった…」

ジュセもそちらに目を向けた。

「あなたにこんなに力があったなんて…。でも、大丈夫よ。しばらく休めば、また良くなるわ」

ジュセは優しくコルザに言った。コルザは頷いた。

パントラは、黙って二人の会話を聞いている。

「ジュセ姉様。ジェムエレメントの事、まだ誰にも話さないで。…私の魔力が戻るまで…」

コルザはジュセの手をぎゅっと握って言った。ジュセはコルザを見つめた。

「…わかったわ。誰にも言わない。…だから、今はゆっくり休みなさい」

ジュセは笑顔でそう言って、コルザの頭を()でた。コルザはゆっくり頷き、身体を横たわらせて、目を閉じた。

コルザが眠るのを見届けると、ジュセは立ち上がってパントラの方へ振り返った。

「パントラ。あなたもこのことを誰にも言ってはいけないわ」

パントラは、少し戸惑った。

「は、はい。で、ですが…」

「あなたの気持ちは分かるわ。私にも、何故こんな事になったのかは分からない…。でも、今はそっとしておきましょう。いずれ分かる時が来る。コルザが自分で話してくれる時が…」

ジュセは、眠りにつくコルザを見つめた。そして、ジェムエレメントに目をやった。

「…お姉様達や、臣従達。…お父様に話しては、絶対に駄目よ!」

ジュセは怖い顔つきで、パントラに念押しした。

パントラはビクッとして、慌てて頭を下げた。

「…とりあえず、あなたは、今夜やって来るかもしれない侵入者にだけ、気を集中させてちょうだい」

ジュセは、そう言うと、ツカツカとコルザの部屋から立ち去ろうとした。

「しょ、承知致しました!」

パントラは返事をすると、慌ててジュセの後を追いかけた。

部屋から出ようとするジュセは振り返り、ロウソクに灯った火を、魔力で消した。

「バタン」と扉が閉まると、コルザの部屋は、また真っ暗になった。

しばらくすると、部屋に浮いているジェムエレメントが、内側から燃え出すように、赤く光だした。

「……うっ……う…んっ…っ」

ベッドに横たわったコルザは、それに共鳴して体の内側から込み上げてくる熱に耐えながら、苦しそうにうなった。

コルザは薄目を開き、赤く光るジェムエレメントに目を向けた。

(…短時間で…魔力を使いすぎた…?…焦りすぎたか……)

コルザは苦しそうにハァハァと息をしながら、心の中で思っていた。


人間界。

こちらも朝を迎え、新志あらしはいつもより上機嫌で、学校へ行く準備をしていた。

ベッドに丸まったコルザは、少し顔を火照らし、ぼーっとした様子で、元気の良い新志の方を見た。

「…楽しそうだね、新志君。今日の給食は好物なの?」

コルザの言葉に新志はガクッと膝を崩した。

「あのねぇ、それじゃ僕がいつも給食だけを楽しみに、学校に行ってるみたいじゃないか!」

新志はプンプン怒ったように、コルザの方を振り向いて言った。

「あ…。ごめんごめん。…なら、どうしてそんなに楽しそうなの?」

コルザに聞かれ、新志は笑顔になって答えた。

「今日はね、授業は午前中までで、午後からは、全学年が揃って、ドッジボール大会をするんだよ!」

「…ドッジボール?」

コルザは、重たそうに身体を起こして聞いた。

「あ、そうか。コルザはドッジボール知らないのか。ドッジボールっていうのは、相手チームの人にボールを当てて、当てた人数が多い方が、勝ちっていうボール遊びだよ」

新志の大まかな説明に、コルザは首を傾げた。

「ふーん…。なんだか痛そうだけど…。新志君がそんなに楽しみにしているなら、きっと面白いんだろうね!」

笑顔で言うコルザに、新志は何かを思いつき、コルザに駆け寄った。

「そうだ!コルザもおいでよ!実際に見た方が、どんな遊びか分かるし、きっと興奮すると思うよ!」

コルザは驚いた。

「えっ!…そりゃあ、僕も行きたいけど…。でも、大丈夫かな?」

心配するコルザとは反対に、楽天的な新志は笑いながら言った。

「大丈夫だよ!前みたいに木の上に隠れていればさ!午後になったら、学校のグラウンドでやってるから、おいでよ!ただし、くれぐれも気を付けてね!じゃあ、僕は行ってくるね!」

新志は通学カバンを背負ってそう言うと、パタパタと部屋から出て行った。

「…い、いってらっしゃい…」

コルザは、元気よく出かけていく新志を、ぼーっとした顔で見届けると、午後に備えようと、少しの間眠りについた。


数時間後、コルザは目を覚ました。

「…んーっ」

身体を伸ばすも、全身の重たさは良くなっておらず、新志(あらし)の誘ってくれた、ドッジボール大会に行くかどうかを悩んでいた。

「…あれ?」

机の方に目を向けたコルザは、何かに気付いた。コルザはその机の上に上った。

「こ、これって…」

机の上には、袋に入った体操服が置いてあった。

コルザは、今日大会で着るはずの体操服を、新志が忘れて行ったことに気が付いた。

「まったく…。そそっかしいんだから、新志君は」

コルザは笑顔でそう呟くと、紐の部分を口で(くわ)え、遠心力で袋を自分の背中に乗せた。

コルザは部屋に掛かった時計に目をやった。

「……間に合うかな…?」

部屋の窓を開け、コルザはそこからピョンっと降りた。


「ええっ!なんだってぇ!体操服忘れた!?」

学校では、階段の踊り場で、新志が密かに愛莉を呼び出し、体操服を忘れたことを相談していた。

「もー。新志君はそういうとこ抜けてんだから…。どうするの?これからドッジボール大会始まっちゃうよ?」

愛莉は、焦りながら新志に聞いた。

「いやぁ。僕もどうしようかと思ったんだけど…」

新志は能天気に頭をかいた。

「…だけど?」

愛莉は、何か考えがあるのかと、新志に聞き返した。

「僕には、これがあるんだよね!」

そう言うと、新志は首に下げた「(しん)(かぎ)」を服から出して、愛莉に見せた。

「?…それで、どうするの?」

愛莉は「真の鍵」を見て新志に聞いた。

「簡単だよ。僕が体操服姿に変身すればいいんだよ」

「えっ!?学校で変身するの?大丈夫?」

愛莉は心配そうに聞いた。

「…だって、時間ないんだもん。しょうがないじゃないか」

新志は口をとがらせて言った。

愛莉は、何かを思いつき、「そうだっ!」という顔をして、新志を見た。

「体育館裏なら、誰も来ないし、私もそこで変身したことあるから、きっと大丈夫だよ!」

愛莉の思いつきに、新志も「なるほど」と納得した。

「そうか!そうだね!そういえば、コルザも来るはずだから、そこに行けば、会えるかも!愛莉ちゃん、見張りの為について来てくれる?」

「まっかせて!!」

問題が解決し、二人は元気よく階段を駆け降りて行った。


一方コルザは、学校に到着したようで、以前連れてこられた体育館裏に来ていた。木の上でしばらく待っていたようだが、新志(あらし)の来る気配がなく、時間も気になって、少し焦っていた。

「…新志君、ここには来ないかな…。どうしよう。きっと困ってるだろうな…」

コルザは木から降りると、四つん()いでトボトボと歩き出した。そして、体育館裏から顔を出し、校舎の方を覗った。

校舎の方は、ドッジボール大会が始まる前とあって、全校生徒がグラウンドに出て来てにぎやかだった。

「……うっ…」

コルザは、学校まで来た疲れもあり、目の前が急にぐらぐらとゆがみ出した。

(ま、まずいな…。早く…新志君を見つけないと…)

コルザは、フラフラと校舎に向かって歩きだした。ボサッと背中から体操服が落ちたが、コルザは気付くことなく、おぼつかない足取りで歩いて行った。


コルザの行った方角と別の道から来た新志(あらし)と愛莉は、体育館裏にたどり着いた。

二人は走って、体育館裏に入ろうとすると、愛莉が落ちている体操服に気が付いた。

「…ん?あれ?」

愛莉は立ち止まって、体操服の入った袋を拾った。

「どうしたの?愛莉ちゃん?」

新志は愛莉に駆け寄って聞いた。

「…これ、新志君のだよね?」

愛莉は袋の名前の書かれた部分を見せて、新志に言った。

「あ、ほんとだ。僕のだ……。…えっ!?な、何で!?」

新志は驚きながら体操服を受け取った。

「コルザだ!コルザが来てるんだよ!きっと!」

愛莉は、そう言って、コルザがいるであろう大きな木の(ふもと)へかけて行った。

「…コ、コルザ…。なんていい奴なんだ…」

新志は感激で涙ぐみながら、愛莉の後を追った。

「コールザーっ!私だよー。愛莉だよー!!」

愛莉は木の上に向かって話しかけた。

だが、返事は無かった。

愛莉の所にかけて来た新志も、木の上を見上げた。

「…あれ?コルザは?」

新志は愛莉に聞いた。

「…応答なし。寝てるのかな?」

「………?」

二人は再度、木の上を見上げた。


みんながグラウンドに出払い、静まり返った校舎内に、コルザはたどり着いた。

(…ここ、前に来たところだ…。ここにいれば、新志君来てくれるかな…)

コルザが来た場所は、以前学校に迷い込んだ時に来た下足室だった。

コルザはフラフラと歩き、ドサッと力尽きて、壁にもたれた。

(…体まで熱くなってきた…。新志君…早く来て…っ!)


魔法界のコルザの自室では、人間界のコルザ同様…、いや、こちらの方が酷くうなされていた。

「うぅっ…っうっ…」

コルザは高熱に耐え、ベッドのシーツを手でギュウッと(つか)んだ。

体中に汗をかき、もがき苦しんでいた。

するとその時、そばに浮いていたジェムエレメントが、限界を迎えたように真っ赤に光だし、部屋中を強烈な赤い光で包み込んだ。

(…くっ…!制御しきれないっ!)

コルザは苦しそうにジェムエレメントを見つめると、体もろとも、真っ赤な光に包まれてしまった。

「…っあああああああっ!!」

光に飲み込まれたコルザは、内側からあふれ出る熱に耐えきれずに叫んだ。


「ううっ…ああっ!」

人間界のコルザは、どんどん熱くなっていく身体に、耐えきれなくなり、必死に自分の腕を抱いて(もだ)えた。

(…な、なんだっ!?普通の熱とは違うっ!!…この熱さは…っ!?)

すると、コルザの身体の中心部から赤い光が放出し、あっという間にコルザの身体を包み込んでしまった。

コルザはどんどん強まる激しい熱さに、身体を強く抱いて耐え続けた。

「………っ」

だんだん熱が引いていくのが分かり、コルザはそっと薄目を開けた。

「…?な、何だったんだ…?今の…?」

コルザは、急に体が楽になり、何気なしに自分の身体に目をやった。

「っっ!?…えっ!!」

コルザは目を疑った。目には、ドラゴンではなく、以前の姿の体と手が映っていた。

「う、嘘だっ!ま、まさかっ…!」

コルザは立ち上がり、自分の姿が映るような場所を探した。

「っ!!」

下足室内には、全身が映る鏡が端っこに備え付けられていた、コルザは走って、鏡の前に立った。

「………っっ!?」

コルザは驚きのあまり、言葉を失っていた。

鏡に映ったコルザは、思った通り、以前魔法界で暮らしていた時の、元の姿に戻っていた。

褐色の肌に、後ろに()った薄い青色の長い髪。水色の瞳。頭には宝石が埋め込まれた、大きな石の(かんむり)をつけている。そして、ジュセのお下がりの服と長い羽織(はおり)を着ていた。

コルザは恐る恐る自分の頬に手を当てた。…しっかりと感触がある…。

「…な、なんで…?どうして…」

コルザは困惑の最中、いつまでも信じられない様子で立ち尽くした。


廊下の向こうでは、そう顕影あきかげ陽奈(ひいな)が会話をしながら、下足室に向かっていた。

「まったく。新志(あらし)も花見さんもどこ行ったんだ?もう始まるっていうのに」

「この僕が時間に遅れるなど…あってはならないことです!あの二人のせいですよ!」

「…新志君、花見さんと何してるのかしら?」

どうやら三人は、新志と愛莉を、大会が始まるギリギリまで探していたらしく、諦めた様子で、グラウンドに向かおうとしていた。

「二人で先に行ってでもしてたら、ただじゃおかねえぞ……ん?」

槍は、下足室の鏡の前に立っているコルザに気付いた。

「……誰だ?あれ…?」

妙な格好をしているコルザに不審感を抱き、槍は、そーっと近づいた。

「ま、待ってください!不審者かもしれませんよ!誰かに言った方が…」

顕影は、おびえながら槍の後ろに隠れて、コソっと言った。

「誰に言うんだよ?」

槍は自分の後ろに隠れる顕影に怪訝(けげん)な顔をして聞いた。

「ふ、二人とも、待ってよ~」

陽奈は慌てて二人の後に続いた。

槍は、コルザの背後まで近づいた。立ち尽くしていたコルザは、三人の気配を感じ、ハッとして、後ろを振り返った。

「………」

「………」

互いを見合わせた瞬間、時が止まったように、四人は動かなかった。

だんだん状況を理解してきたコルザは、冷や汗をかきだした。

(…こ、この三人は…、新志君と愛莉ちゃんのお友達…)

コルザの頭の中には「まずい」という言葉しか浮かばなかった。

「…えーっと…。どちらさんですか…?ここの生徒じゃないですよね?」

槍は、コルザの格好をジロジロ眺めながら不思議そうに聞いた。コルザは、何とかごまかして、この場を立ち去ることを考えた。

「えっ!?…あ、あの、えーっと…。ご、ごめんなさい。み、道に迷ってしまったみたいで…」

コルザは、とっさに良い言い訳を思いつくことが出来なかった。コルザの言葉に、槍は一層不審感を(つの)らせた。

「迷ったぁ?こんなところで?」

槍に言われ、コルザは困り果て、返す言葉が無くなってしまった。見かねた陽奈が、前に出て来て言った。

挿崎君(きざきくん)、そんな言い方したら駄目よ!…あなた、どこから来たの?住所を教えてくれたら、帰り道を案内してあげられるんだけど…」

陽奈はコルザをじっと見つめて言った。

「………」

コルザは困った顔で、視線を反らせた。

「…やっぱり怪しいじゃないか。俺、先生呼んでくる。お前らここでコイツを見張っててくれよ」

コルザが焦り、槍が走って行こうとした瞬間、「ストップ!」と顕影が叫んだ。

「な、なんだよ?(じょう)

槍は顕影に言った。

「挿崎君、君って人はなんて(おろ)かなんだ…」

「…な、なにぃ?」

聞き捨てならない顕影の言葉に、槍は怒った顔で彼に詰め寄った。

すると、顕影は槍を避けるように、スイーッとコルザの前に立ち、彼の手を取って言った。

「私の至らないクラスメイトが大変失礼をしました。私の清い心があなたのお役に立ちたいと申しております。どうぞ、何なりとお申し付け下さい」

顕影は、頬を赤く染めて、コルザに顔を近づけて言った。

「………」

顕影に迫られたコルザは、あっけにとられて、何も答えることが出来なかった。

顕影の後ろで、同様にあっけにとられている槍と陽奈は、呆然とその様子を見ていた。

「さぁ…何なりと、マドモアゼル…」

「…ご、ごめんなさいっ!」

顕影が徐々に迫ってくることに耐えられなくなったコルザは、顕影の手を払いのけて、走って校舎を出て行った。

「ククッ、フラれてやんの」

顕影がフラれる瞬間を目にした槍は、面白おかしく思って笑った。

「…な、なんてエキゾチックなお人だ…」

槍の言葉など聞こえていない顕影は、コルザの走って行ったあとをぼーっと眺めて呟いた。

「大丈夫かな、あの人…?…でも、綺麗な人だったね。城君がポーっとなるの、わかるわ」

陽奈は、顕影を見ながら、クスクス笑って言った。

「…そもそも女か?今の…?」

元に戻った姿のコルザは、服装のせいもあって一見性別が分かり辛く、槍にとっては、どちらか分からないままだった。

「あ、槍ー!」

グラウンドの向こうから、新志と愛莉が走って来た。

「お前らっ!やっぱり先に行ってたな!こっちは知らないから、ずっと探してたんだぞ!」

槍は走ってくる新志と愛莉に怒って言った。

「えっ!そうだったの?それは悪い事したなぁ…」

「ごめーん、挿崎君。神岡さんと城君も。…って、城君どうしたの?」

愛莉は、いつまでも上の空で、ポーっと顔を赤らめている顕影を不思議に思って聞いた。

槍は呆れた顔で顕影の方を見た。

「ああ。さっき変な奴がいて、(じょう)の奴、そいつに惚れたんだよ。一瞬でフラれてたけどな」

「えっ!?何それ?見たかったー!!」

愛莉は()しそうに言った。

「変な奴ではありません!なんとも清楚(せいそ)可憐(かれん)で…そしてエキゾチック。僕は女性にこんな気持ちを抱いたのは、生まれて初めてです!」

顕影は目をキラキラさせて、槍の言葉を否定した。顕影の話に、新志は興味を示した。

「えっ!?そんな女の子がこの学校にいるの?ねぇ、誰?教えてよ!」

新志は顕影に必死になって聞いた。

槍は「お前もか」といった顔で、呆れて説明した。

「生徒じゃない。なんか妙な格好をしてたぞ。頭に石乗っけてて。肌の色も黒かったし、髪の毛なんて水色だった。城の奴に迫られて、正門の方に走ってったけど…。とにかく怪しい奴だった」

槍の説明を聞いた新志は、笑顔を消した。

「…えっ…」

どこか覚えのある特徴に、新志はうつむいて考え込んだ。

「…新志君…?」

愛莉は新志の様子が一転した事に気付いた。

そうしていると、昼休みの終わりのチャイムが校内に鳴り響いた。

「い、急がなきゃ!」

新志以外の四人はハッとして、グラウンドに向かおうとした。

「…っい、いたたたたたたっっ!!」

すると、急に新志はうずくまり、みんなの足を止めた。

「えっ!?新志君!?」

「お、おい、どうしたんだよ!?」

四人は、新志の元へ駆け寄った。

「…ご、ごめん、急に腹痛が…。わ、悪いんだけど、僕、保健室に行くよ。…だから、みんなはグラウンドに行ってて」

新志はお腹が痛いふりをして、みんなに言った。

「またですかぁ?()りないですね、君は」

顕影は呆れてため息をついた。

「私、ついていくわ。保健委員だし」

陽奈は、新志に付き添う事を希望した。新志はマズイと思い、チラッと愛莉を見た。愛莉は、新志が仮病を使っていると感づき、陽奈に言った。

「わ、私が連れてくよ!」

「なんでよ?」

陽奈はムッとして、食い気味に愛莉に聞いた。たじろいだ愛莉は、チラッと新志に目を向けた。

「…う…。だ、だって、新志君、私となら気を使わなくて済むしさ」

「……僕、愛莉ちゃんに付いて来てもらいたいな…」

新志はうずくまりながら言った。それを聞いた槍と顕影は、冷や汗をかいて陽奈を見た。

案の定、陽奈は怒った顔で、その場を走って去って行った。

「…女性の恨みは怖いですよ」

顕影は新志にそう言い残し、グラウンドへ走って行った。

「とりあえず、保健室で休んでろよ。マシになったらちゃんと戻って来いよ」

槍はうずくまる新志に言った。新志は、黙って頷いて返した。

「…じゃあ、花見さん、あとよろしく」

「りょ、了解!」

愛莉は、槍がグラウンドへ向かうのを見届けた。

「…新志君…、仮病なんでしょ?」

愛莉は、膝に手を当てて、うずくまる新志に話しかけた。新志はスッと立ち上がった。

「愛莉ちゃん、コルザを探しに行こう!」

「……え?コルザ?」

愛莉は、きょとんとして新志を見た。新志は頷いた。

「さっき、槍や城君が話してた人…。きっとコルザだ」

愛莉はよく理解できず、困惑した。

「え?え?…どういう事?」

「だから、さっき槍が言ってた妙な人の特徴!僕が見た、予知夢に出て来た本来の姿のコルザと一緒なんだよ!」

新志は必死に愛莉に説明した。

「え…。ええっ!?じゃ、じゃあ、コルザは、元の姿に戻ったってこと?」

ようやく理解した愛莉は、慌てて新志に聞いた。新志は愛莉の目を見て頷いた。

「あわわっ!あ、新志君!は、早く探さなきゃ!」

「急ごう愛莉ちゃん!」

二人は慌てて、正門の方へ走って行った。

「………あら?」

グラウンドに並んでいた陽奈は、二人の様子を気にしていたようで、学校の外へ走って行く新志と愛莉を見ていた。

(新志君たら、元気じゃない…。二人でどこ行くつもりなの…?)

陽奈は、眉をしかめてその様子を見届けた。


「きっと、おばあちゃんの花屋に向かったんだよ!コルザの行くところっていったら、そこしか考えられない!」

愛莉はハァハァと息を切らして、前を走っている新志(あらし)に言った。

「魔女ばあさんもいるし、あそこなら、かくまってくれるもんね!行こう!愛莉ちゃん!」

新志も息を切らして、愛莉の方へ振り向いて言った。

「オッケイ!」

新志と愛莉は、一目散に「ラビアン・ローズ」に向かった。


「魔女ばあさんっ!!」

「おばあちゃんっ!!」

新志と愛莉は、バタバタとリィーズの店に走りこんだ。店番をしていたリィーズは驚いて振り返った。

「ど、どうしたの?二人とも、息なんか切らして…。それに、どうして体操服なの?」

理由を聞いてくるリィーズと、愛莉はすれ違うように、奥の部屋へ向かった。

「…コ、コルザ…っ、来てない?」

新志は膝に手をついて、息を切らしながら聞いた。

奥の部屋にいないことを確認した愛莉は、リィーズの方へ振り返った。

「え?コルザ?来てないわよ?どうして?」

リィーズは状況をイマイチ飲み込めないまま、二人に聞いた。

「…あのね、コルザ、元の姿に戻ったみたいなの」

愛莉は、リィーズのところへ駆け寄って言った。それを聞いたリィーズは驚いた。

「なんですって!?…でも、今になって、どうして?」

「僕たちにもわからないんだ!とりあえず、コルザを早く見つけなきゃ!愛莉ちゃん、行こう!」

新志は店を出て、またすぐに走り出した。

「わっ!待って!新志君!!」

愛莉は慌てて新志の後を追った。

「あっ!待ちなさい!二人とも!……もう…」

リィーズは急いで二人を止めようとしたが遅く、新志と愛莉は走って行ってしまった。

店の外まで出て来たリィーズは、二人が走って行った方向を見つめた。

新志達が見えなくなったと思うと、今度は反対側から、(そう)顕影(あきかげ)・陽奈の三人が走ってやって来た。

「あ、花見さんのおばあさん!」

槍はリィーズに声を掛けた。リィーズはそちらに振り返って驚いた。

「あ、あら、あなた達、どうしたの?こんな時間に?学校は?」

リィーズは、この三人に、コルザの事で何か勘付かれたのではないかと、焦りを見せた。

「新志と花見さん、来なかったですか?まったくあの二人、ドッジボール大会の途中だってのに、学校から抜け出したみたいで」

どうやら先程、新志達が学校を出て行ったことを、陽奈が槍と顕影(あきかげ)に告げ口したらしく、先生に気付かれたらまずいと考え、二人をここまで探しに来ていた。

「先生に知られると大変なので、私たちも黙って探しに来たんです。私たちの試合はまだ先ですから、それまでにと思って」

陽奈は、息を切らしてリィーズに言った。

「あの二人が来るとすれば、ここしか考えられないのですがねぇ…」

顕影は、店の中をキョロキョロ見渡して、二人がいないことを確認すると、槍に首を振って伝えた。

「…ここには来ていないわ。ごめんなさいね。愛莉が迷惑を掛けて…。あの子のことは、きつく叱っておきます」

リィーズは三人に嘘を付き、申し訳なさそうに謝った。

顕影・陽奈は、「いえいえ」とリィーズに首を横に振って返したが、槍だけは、鋭い眼差しで彼女をじっと睨んでいた。

「……!!」

リィーズはハッとして槍と目を合わせたが、槍はすぐに視線を反らせて、来た道を戻ろうと、体の向きを変えた。

「おい、行くぞ!」

槍は顕影と陽奈に言った。

「えっ!またそっちを探すのですか?」

「ああ。見逃したかもしれないだろ!」

そう言うと、槍はまた走って、来た道を戻った。顕影は焦って、槍の後をついて行った。

「あっ!待って!し、失礼します!」

陽奈はリィーズに挨拶すると、慌てて二人の後を追った。

リィーズは、走って行く三人の後姿を見ていた。

「…あの子…」

(…鋭い目をしていたわ。無意識に力を使っている…?)

走り去る槍の姿に、リィーズは視線を集中させていた。

「魔法使いとしてまだ半人前のあの二人に、コルザを助けることが出来るかしら…」

リィーズは、新志達が走って行った方角へと振り返り、心配そうに呟いた。


緑城中学校。

ここは、新志達の通う緑ノ丘小学校の隣に建つ、莉々が通っている中学校だ。

午後の授業の最中である二年三組の教室では、生徒が静かに先生の話を聞いていた。

窓際に座っている莉々は、ふと教科書から目を離し、午後の太陽に照らされている、窓の外の鮮やかな木々に目をやった。木々の枝は穏やかな風に揺られている。

莉々は、その光景に微笑むと、また視線を教科書に戻した。

すると、莉々は何かにささやかれたように、ハッとして、窓の外に目をやった。

「………」

どこか不安そうな面持ちで遠くを見つめ、莉々は何かを考えていた。


昼下がりの住宅街を、コルザは息を切らして走っていた。

(確か、この道はこの間、莉々さんと花の配達に来た所だったな。ここからどうやってリィーズ様のところに行くんだったっけ…?)

コルザはいったん足を止め、(へい)に手をついて、呼吸を整えた。

すると、前から小さな女の子と、そのお母さんが手を繋いで歩いてきた。女の子はコルザに気付くと、じーっとコルザを見た。

「ママー。変なカッコの人がいるー」

女の子は指をさして言った。コルザはギクッとして、塀の方に体を向けた。

「きっとテレビの中の人よ。指をさしちゃいけません」

お母さんは女の子に言うと、そのまま手を引いて、コルザの傍を通り過ぎて言った。

「…まずいなぁ。人間界でこの格好は目立ちすぎる…。早くリィーズ様のところへ行かなきゃ」

コルザは、次の曲がり角を曲がろうとした。

「っ!?」

コルザはハッとして、すぐに塀の影に隠れた。そーっと顔を出すと、視線の先には、先程の三人、槍・顕影・陽奈の姿があった。

コルザは顔を引っ込め、塀にもたれ掛かった。

(なんであの人たちが?…まさか、追いかけて来た…?どっちにしても、見つからないようにしないと…)

コルザは、三人を警戒して、別の道を行くことにした。


「本当に人騒がせですね!腹痛が仮病だなんて…!ドッジボール大会が嫌なら嫌と言えばいいのに!!」

顕影はぐちぐち文句を()れながら、新志と愛莉を探した。

「あの二人、一体どういう関係なの?…もう!新志君はどうして私じゃ駄目なの!」

新志と愛莉の逃避行を目の当たりにした陽奈は、だいぶショックを受けたようで、感情的になっていた。

二人の様子を、槍は軽蔑の目で見ると、少し距離を置いて、二人を探した。

「保健室にいないなんてことがバレたらまずいぞ。俺たちのクラスの番が回って来る前に探し出さないと、俺たちまで説教食らう事になる!」

槍は、辺りをキョロキョロ見渡して、新志と愛莉を探した。

(あいつらがあのおばあさんと何か隠しているのは間違いない。だとしたら、学校から花屋の範囲にいるはずだ。まったく…。どんな秘密を抱えてんだ…あの二人…)

心でそう思いながら、槍は険しい顔で探していた。


「あれ?ここ、さっき通ったかな…?」

同じような家が建ち並び、コルザはだんだん自分がどこにいるのか分からなくなってきていた。

しばらくコルザが走っていると、目の前の曲がり角から突然、顕影(あきかげ)が現れた。

露骨(ろこつ)に「ゲッ」という顔をしたコルザは、足を急ストップさせて立ち止まった。

顕影はコルザに気付くと、ハッとして、コルザのところへ素早くかけて来た。

「あなたは先程の!こんなに早くまたお会いできることになるとは!きっと私たちは運命なのでしょう!」

「ま、また君か…。あのねぇ…」

迫られたコルザはたじろいだ。

「この辺りがお住まいなのですか?こんな高級住宅街にお住まいとは、さすがです!さぁ、お宅までお送りいたしますよ!」

顕影は手を差し出して、コルザに言った。顕影の目はギラつき、異様な怖さがあった。

「い、いいから!もう構わないでよ!」

コルザは顕影の手を払いのけて、その場を走り去った。

「なんて刺激的!!恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ!この私が無事に送り届けて差し上げますから!」

顕影はそう言って、コルザの後を追いかけた。

(う、嘘だろっ!?追いかけてくる!!)

コルザはぎょっとして、顔を引きつらせながら、後ろから追ってくる顕影を見た。

「もう!いいって言ってるのに!」

「そう言わず!私はあなたのお役に立ちたいのです!」

(ひぃ~~!!)

諦めようとしない顕影から、コルザは必死に逃げた。

(さいわ)い、顕影は走るのが遅く、姿が見えなくなるくらい距離を離すことが出来た。

(なんとか逃げ切れそうだ。…よし、あそこを曲がろう!)

コルザは道の先にある曲がり角を曲がって、顕影を()こうとした。

だが、コルザが曲がり角を曲がろうとした瞬間、一人の人物が、突然曲がり角から飛び出してきた。

「っっ!?」

その人物の姿を見たコルザは驚き、言葉を失った。

曲がり角から現れたのは、制服姿の莉々だった。

(り、莉々さん…っ!?)

「………っ」

お互い驚いているのか、二人は少しの間見つめ合った。

(ど、どうして莉々さんが…っ?)

コルザは莉々に聞くことが出来ず、何も言えないまま、ただ莉々を見ていた。

莉々は、コルザの姿を黙って見つめていた。

「どこへ行かれたのですか~?エキゾチックなお方~?」

すると、追いついてきた顕影の声が聞こえてきた。

「ま、まずい…っ!!」

コルザは、慌ててそちらに顔を向けた。

コルザの様子を見た莉々は、何かを決心したような顔で、コルザに近づいて彼の手を握った。

「っ!?えっ!?」

驚いたコルザが、莉々の方を振り向いた途端、莉々は顕影の来る道の反対側の道へと、コルザの手を引いて走り出した。

二人がその場から去ると、顕影は、息をぜーぜー切らしながら、一足遅くその場にたどり着いた。

「はーっはーっ…。ま、まったく…。そんなに、照れなくてもいいのに…。エキゾチックなのに、とても恥ずかしがり屋とは…。そそられない訳にはいきませんよ…」

顔を火照らせた顕影は、塀にもたれ、手をおでこに付けて呟いた。


住宅街を、コルザは莉々に手を引かれながら走っていた。お互い何を話すこともなく、ずっと黙って走り続けている。

コルザは走っている莉々の顔を覗った。彼女は真っすぐ前を見て、一心に走っている。いつもの柔らかい顔とは違い、真剣な表情だ。

…その顔は、あの時…、莉々が観覧車で、バラノアの事を話したあの時の表情と似ている。

「………」

コルザは、莉々への不信感を(つの)らせた。

そうしていると、見覚えのある道へとたどり着いたことに、コルザは気付いた。

「…あっ」

コルザが声を発すると、莉々は徐々にスピードを緩め、コルザを送り出すように、手を引いて彼を誘導した。

「……ここからなら、分かる?」

莉々はコルザに聞いた。コルザは黙って莉々の顔を見て頷いた。

莉々は微笑んで、コルザを見ている。

「…っ」

コルザは、莉々に何か話そうとしたが、少し考えて、話すのをやめた。

「…どうも…ありがとう」

コルザも莉々に笑顔を返し、莉々を置いて、その場から走り去った。

「………」

走って行くコルザを、莉々は黙って見つめた。


見覚えのある道に、ラビアン・ローズまで近いとわかったコルザは、走るスピードを速めた。

(もうすぐだ…。もうすぐでリィーズ様のところに…っ)

するとまた、曲がり角から、突然人が飛び出してきた。

「っわっ!?」

「うわっ!?」

ぶつかる寸前で、お互い身体を()らせた。

コルザの目の前には、驚いた表情の新志(あらし)と愛莉がいた。

「えっ!?…コ、コルザっ?」

新志は半信半疑で聞いた。初めて間近で見るコルザの実際の姿に、驚きを隠せない様子だった。

「あ…新志君っ!!」

コルザは安心したと同時に、新志に会えた感激のあまり、涙ぐんで彼に抱き着いた。

「…ぇえっ!?」

新志はみるみるうちに顔をかぁーっと赤くして、両手でコルザを支えた。

「こ、これがコルザなの!?へぇー!!ほんと、女の子みたいだ!!」

愛莉は、新志に抱き着くコルザをまじまじ見ながら、感激したように言った。

「って、もう、いつまでぼーっとしてんの?新志君っ!コルザも!いい加減離れなさい!」

愛莉はいつまでも離れようとしない二人に、妙なやきもちを焼いて言った。

愛莉に言われ、コルザは新志から離れた。

「良かった…会えて。僕、どうしていいのか分からなくって…」

コルザは、目に溜めた涙を(ぬぐ)った。

「コルザ…。一体どうしたの?何で急に元の姿に戻ったの?」

コルザに会うことが出来て一安心した新志は、心配そうに彼に聞いた。コルザは、首を横に振った。

「…分からない。突然体が燃えるように熱くなって、おさまったと思ったら、戻っていたんだ」

コルザにも理由が分からないようで、新志と愛莉は顔を見合わせた。

「とりあえず、ここじゃまずいから、おばあちゃんのところに行こう」

愛莉は新志とコルザにそう言って、くるっとラビアン・ローズに続く道の方へと振り返った。だが、その通り道には公園があり、ちょうど今、幼稚園のバスが到着して、保護者達が集まっていた。

「あ、ヤバい」

愛莉は振り返って、コルザの姿を見た。

「うーん…。この姿であそこを通過するのは…。どんなもんだろ?」

愛莉は新志に意見を求めた。

「え…。大丈夫じゃないの?きっと綺麗だから、注目を浴びるよ」

新志は能天気に言った。

「それが駄目なんじゃん!」

愛莉は新志に鋭くツッコんだ。

「…僕、ここに来るまで、みんなにジロジロ見られたし、さっきも小さな子に指をさされたな」

コルザも今までの流れから、そこを通る自信がなさそうに言った。

「そうか…。それなら、僕にいい考えがある!」

新志は何かを思いつき、体操服の中に手を入れて、中から「(しん)(かぎ)」を取り出した。

「変身!!」

新志が急に変身しだし、愛莉とコルザは焦って、気付かれないように、新志の姿を隠した。

新志の変身が終わるのを見届けると、愛莉は新志に叱るように言った。

「もうっ!だから、急に変身しちゃ駄目だって!!それに、コルザより目立ってどうすんの!?」

「大丈夫だよ。愛莉ちゃん、コルザ、じゃあ、いくよ!」

新志は愛莉とコルザに笑顔を見せて言った。

「…えっ?」

二人がきょとんとしていると、新志は何の説明もすることなく、杖となった鍵を高く上げて魔法をかけた。

「トワール・ワイル・エトワール 僕と愛莉ちゃんを工事現場のおじさんの姿に、そしてコルザを袋に入ったセメントに変えて! ストームズ リベラシオン!」

新志の呪文と共に、杖の宝石が黄色く光り出し、三人を包み込んだ。

光が徐々に消えると、新志と愛莉は、口の周りにひげを生やした工事現場のおじさんの姿に、コルザはセメントとなってその場に現れた。

「やった!大成功!!」

新志が持っているショベルを上げて喜んでいる横で、愛莉とコルザは、呆然と自分の姿を見た。

「…いや、あの…ちょっと、新志君…。なんで工事現場のおじさんよ?」

愛莉は呆れた顔で新志に聞いた。

「え?だって、あそこを通過するのに、自然な格好じゃないか。ほら、僕たちが二人でセメントになったコルザを運んでたらさ!」

愛莉とコルザは、その姿を想像した。愛莉は呆れかえって、ため息をついた。

「不自然じゃん!今工事も何もしてないし!私、こんな格好で通るの、絶対に嫌!」

女の子の愛莉にとって、今の姿はとても耐えられず、必死に新志の案を拒絶した。

「……僕もちょっと…これは…」

セメントの姿のまま動けないコルザも、愛莉の意見に賛成した。

「えー…そう?じゃあ、どうするのさ?」

新志は少ししょんぼりして、二人に聞いた。愛莉は「うーん」と考えた。

「あ。そうだ!」

愛莉は指を「パチンッ」と鳴らして、ポケットから「真の鍵」を取り出した。

「変身!!」

先程の新志同様、愛莉はいきなり変身し、新志とコルザは焦った。

「真の鍵」から放たれた、ピンク色の光が愛莉を包み込み、それが消えると、変身した愛莉が姿を現した。

「あ、愛莉ちゃんだって、人の事言えないじゃないかぁ~!」

新志は、変身した愛莉に歩み寄って、彼女を攻めた。

「まぁまぁ、そう怒らないでよ。いいこと思いついたから!」

「…へ?」

新志とコルザは、きょとんとして、愛莉を見た。愛莉は、杖となった鍵を高く上げて魔法をかけた。

「トワール・ワイル・エトワール 私と新志君を配達屋さんの姿に、そんでもってコルザを綺麗なお花の姿に変えて! アイリズ リベラシオン!」

愛莉の呪文と共に、杖の宝石がピンク色に光り出し、三人を包み込んだ。

光が徐々に消えると、愛莉と新志は、帽子をかぶった配達員の姿に、コルザは、リボンが掛けられた大きな鉢に植えられた花となってその場に現れた。

「これでどうよ?」

愛莉は帽子のつばを上げ、満足げに新志とコルザに言った。

「さっきのと、どう違うんだよ!」

新志は愛莉にツッコんだ。

「全然ちがーうっ!!」

愛莉は新志に一喝(いっかつ)した。新志は()に落ちない様子で、コルザに言った。

「…コルザだって、さっきのと同じだと思うだろ?」

「………僕、セメントよりはお花の方がいい…」

コルザは新志から目を()らして言った。新志はショックを受けた。

「コ、コルザまで…」

「ほらーっ!それに、おばあちゃんとこまで行くんだったら、絶対この姿の方がいいって!」

花屋に行くためには、愛莉の言う通り、花を配達するための配達員となるのが一番自然だった。

「わかったよ。じゃあ、行こう!」

新志は気を取り直し、愛莉と共に、花となったコルザを持ちあげて、ラビアン・ローズを目指した。


無事にラビアン・ローズまで来ることが出来た三人は、変身した姿のまま店に入った。

「お届けものでーすっ!!」

「ど、どうしたの?その恰好?」

店の中でそわそわしていたリィーズは、慌てて三人を迎えた。

「私の魔法だよ!」

愛莉は得意気に言った。

「僕のアイディアじゃないか!?」

新志は愛莉に突っかかった。

「違うじゃん!」

新志と愛莉が言い争う後ろで、リィーズは、なんとか二人だけの力でコルザを守ることが出来たことに、ホッとした様子を見せた。

「もう…」

愛莉は新志に呆れ顔で言うと、店の中に誰もいないことを確認し、目を閉じて魔法を解いた。

三人は、元の姿に戻った。リィーズは、コルザの姿に目を奪われた。

「コルザ…。これが本当のあなたなのね…。でも、どうして…?」

リィーズは、コルザをじっと見つめながら、ゆっくりと歩み寄った。

「…分かりません。僕にも訳が分からないんです」

コルザは、目を()せた。コルザの声は、ドラゴンの姿の時に聞いていた彼の声とまったく同じで、リィーズは確信してコルザを中に誘導した。

「とりあえず、中に入って。…あなた達は、学校に戻りなさい。お友達が心配していたわよ」

リィーズは、新志と愛莉に言った。二人はハッとした。

「えっ!?と、友達?」

「この前来た三人。槍君(そうくん)顕影君(あきかげくん)と陽奈さん、ここに来たのよ?怪しまれないうちに、早く戻りなさい」

新志と愛莉は「どうして?」という顔で、互いを見合わせたが、とりあえず学校に戻ることを優先した。

「僕たちのクラスの番までに、早く戻らないと!行こう!愛莉ちゃん!」

「う、うん!じゃあ、またね!すぐに来るから!」

二人で店を出ようとすると、新志は何かを思い出して、振り返った。

「あ、そだ!コルザ!体操服届けてくれて、ありがとう!」

新志に言われ、コルザも思い出してハッとした。

「あ…そうだった!間に合って良かった!」

コルザは笑顔で新志に手を振った。新志も笑顔で手を振り、急いで愛莉と店を出て行った。


店の奥の部屋に入ったリィーズは、いつものソファにコルザを座らせた。

「一体どうしちゃったのかしらね…。魔力は戻っていないんでしょう?」

リィーズは部屋の奥で、お茶の支度をしながら、コルザに聞いた。

「…はい。多分…」

コルザは目を閉じて、心の中で念じた。しばらくしてゆっくり目を開けた。

「…真の鍵を失ったままです…」

コルザは、寂しそうにうつむいて言った。

お茶を入れ終えたリィーズは、コルザの元に来ると、カップを彼の前に置いた。

「魔力が戻らないまま、姿だけ元に戻った…。魔法界で、何かあったのかしら…?」

リィーズは、向かいのソファに腰を下ろし、頬に手を当てて考えた。

「…でも、困ったわ。あなたはここにいるのが一番いいのだけど…、もうすぐ、莉々が来てしまうわ」

リィーズは困った様子で、掛け時計に目をやった。

「しばらく莉々に店番させることは出来ないわね。あの子に言い聞かす、何かいい理由があるかしら?ねぇ、コルザ?」

莉々の名前を聞いたコルザは、先程の事を思い返していた。

何故、あの時突然莉々が現れたのか。そして、理由を聞かないまま、何故自分の事を助けるような行動をとったのか…。

コルザは深刻な顔で考えた。

「……ルザ?…コルザ?」

コルザはハッとした。リィーズが先程から声を掛けていたようで、心配したようにのぞき込んでいた。

「大丈夫?具合悪いの?」

コルザは、慌てて首を横に振った。

「い、いえっ、す、すみません」

リィーズは、心配そうにコルザを見つめた。

「…とりあえず、お客さんも来るかもしれないし、莉々が来るまで、私はお店にいるわ」

リィーズは席を立った。コルザはとっさにリィーズを呼び止めた。

「あ、あのっ!リィーズ様!」

リィーズはコルザの方へ振り返った。

「……莉々さん、本当に魔力が戻ってはいないんですよね…?」

唐突(とうとつ)な質問に、リィーズは首を(かし)げた。

「ええ、そうよ。どうして?」

「僕の事…、何か言っていましたか?」

「え?あなたの事?莉々はあなたの事、新志君が飼っている犬としか知らないのよ?」

リィーズに言われ、コルザは彼女の瞳をじっと見た。どうも嘘を付いている様子ではない…。

「…すみません。気にしないでください…」

コルザは諦めたようにうつむき、先程の事は、リィーズには黙っておくことにした。

リィーズはコルザの気持ちを察して、彼に優しく微笑んだ。

「…あなた、きっと今はすごく疲れているはずだわ。慣れない人間界で急に元の姿に戻って、さぞかし不安だったでしょう。…今はゆっくり休んでいて」

リィーズの言葉に、コルザは黙って頭を下げた。リィーズは微笑んで店に戻った。

(…どうしてあんなに莉々の事を気にするのかしら?…あの子の魔力を頼りにしているの…?…でも、それは無理ね。それより、愛莉と新志君の力に頼る方が先決だわ)

店のカウンターの椅子に座ったリィーズは、肘をついて考えていた。


魔法界では、コルザの部屋中を真っ赤に染めたジェムエレメントが静かに(たたず)んでいた。

静まり返った部屋のベッドには、先程のコルザの姿は無かった。そこには、コルザの魂を封じ込められ、人間界へ共に逃れていた、ドラゴンの【キルス】が横たわっていた。

すると突然、ジェムエレメントの内部に、白い光が(かす)かに灯った。すると、その光は、真っ赤に染まったジェムエレメントをみるみる染め変えるように、勢いよく光を放出しだした。

ものすごい勢いで、真っ白に染め変えられるジャムエレメントは、何の抵抗も示さないまま、あっという間に先程の綺麗な水晶の姿に戻っていった。

「…まさか、自分の力に飲み込まれるなんて…。思ってもみなかった」

先程の白い光と共に現れたコルザは、ジェムエレメントの後ろから、ひょこっと顔を出して、それを見上げた。

「…もう、勝手な気は起こさないでよ…」

コルザはベッドに戻ろうと、そちらに視線を向けた。そこには、キルスの姿は無かった。


人間界。

ソファに座っていたコルザは、急に体の異変を感じ始めた。

(……っ!?何だっ!?体内に感じる…この違和感は…っ!?)

すると、今度は白い光が、コルザの体内から放出し、彼の身体をあっという間に包み込んだ。

「こ、これはっ…!?」

目の前が一気に真っ白になり、コルザは、あまりの眩しさに目をつむった。

だんだん光が薄れていくのを実感すると、恐る恐る目を開けた。

「………?」

コルザは違和感を抱いた。テーブルが、先程より高く感じる。

コルザはハッとした。

「…ま、まさか…っ!?」

コルザは妙な胸騒ぎを覚えた。

突然部屋が光り、異変を感じたリィーズは、お店の方からパタパタと音を立てて、急いでやって来た。

「コルザっ!今の光はっ……あ!!」

ソファに座っているはずのコルザに目を向けたリィーズは驚いた。

「…そ、そんな…」

リィーズはショックを隠せない顔で、コルザを見降ろしている。

リィーズの様子に不安を感じたコルザは、恐る恐る自分の身体に目をやった。

「っっ!?」

コルザの身体は、水色のドラゴンの姿に戻っていた。

「…やっぱり…さっきの光で…」

何かを察したコルザは、絶望に(おちい)ることなく、(いさぎよ)く現状を受け入れていた。

「一体…どういうことなのかしら…。せっかく、元に戻れたのに…」

リィーズは悲しい表情で、コルザの隣に座った。

「リィーズ様。魔法界で誰かが僕に魔法をかけています。今の光で、それがはっきりしました」

コルザはリィーズを見上げて言った。リィーズは驚いた。

「確かに、今の光には魔力を感じたわ。誰だか分かるの?」

リィーズは、コルザに聞いた。

「…いいえ」

コルザは眉間(みけん)にしわを寄せて、首を横に振った。

「………」

リィーズは、深刻な顔で考えるコルザを、心配そうに見つめた。


「おばあちゃーん!私たち、一年生のクラスとバディを組んで、優勝したよー!!」

数時間後、愛莉と新志(あらし)はドッジボール大会を終えて戻って来た。

「あら、そうなの。良かったじゃない」

店番をしているリィーズは、お店に入って来た二人の方に顔を向けた。愛莉はリィーズの元気の無さに気付いた。

「おばあちゃん、どうしたの?」

「なんか、元気ないね」

新志もリィーズの様子に気付き、近寄って声を掛けた。

「…いえ、私より、コルザが…」

「…えっ?」

二人は、リィーズの言葉に疑念を抱いた。

事情を知った新志と愛莉は、奥の部屋へ駆けつけた。

「コルザっ!!」

二人は勢いよく奥の部屋に飛び込んだ。ソファには、ドラゴンの姿で座っているコルザがいた。コルザは、二人の方に顔を向けた。

「あ、おかえり、二人共。ドッジボール大会どうだった?」

コルザはいつもと変わらない様子で、二人に聞いた。

「どうだったじゃないよ!どうしてまたドラゴンに戻ってるのさ?」

新志はテーブルに手をつき、身を乗り出して聞いた。

「私たちの居ない間に、何があったの?」

愛莉はコルザの隣に座って聞いた。

「う…ん。それがね…」

コルザは二人に迫られ、少し困ったように言った。

「二人共、そんなにコルザに問い詰めないであげて。コルザ本人にも、私にも、わからないのよ。理由を一番知りたがってるのは、コルザ自身だわ」

リィーズは、部屋の扉のカーテンを閉めて入って来た。

「…そ、そうだよね…。ごめん、コルザ」

「ごめんね…」

新志と愛莉は、申し訳なさそうに謝った。

「そ、そんなっ…。こちらこそ、二人には迷惑かけっぱなしで、本当にごめんね…」

コルザは、慌てて二人に謝った。

三人の様子を見ながら、リィーズはソファに腰を下ろした。

「あれ?今日はお店閉めるの?」

愛莉の問いに、リィーズは頷いた。

「お姉ちゃんもいないみたいだし、おばあちゃん、上手く追い払ったんだね」

愛莉は悪戯に言った。するとリィーズは首を横に振った。

「いいえ。今日は来なかったわ」

リィーズの言葉に愛莉は「意外」といった顔で返した。

「へぇ。珍しいね。お姉ちゃんが来ないなんて。また宿題でも多いのかな?」

リィーズはそれより、コルザの事が気になっているらしく、愛莉に「そうね」と言って頷いて返すだけだった。

「………」

二人の会話を、コルザは黙って聞いている。

「さっきの話だけど、あなたは魔法界で誰かに魔法をかけられてると言ったわね?」

リィーズは、真剣な表情でコルザに聞いた。コルザは頷いた。新志(あらし)と愛莉には、話の流れが理解できていなかった。

「え?何の話?」

新志はコルザに聞いた。

「さっき、僕の姿が、またキルスの姿に変わる時、体内から魔力があふれ出したんだ。…でもそれは僕の魔力じゃない。きっと、魔法界にいる誰かが、僕に魔法をかけたんだと思う」

コルザは新志を見上げて言った。

「誰かが…?一体、誰なの?」

「…それは…分からない…。読み取られないようにしているのか…、それか、僕の知らない誰かだ…」

新志の質問にコルザは深刻な表情で答えた。

「じゃあ、まったく心当たりがないって事?」

愛莉の質問に、コルザは少し考えた。

「…うーん…。そうだな…。魔法界にいた時は、敵が多かったし…」

「敵?」

新志と愛莉は反応した。

「父様や姉様、その臣従達は、考えが違ったという意味では敵になるし、大王の座を狙う者にとって、僕は邪魔な存在だからね」

コルザは、魔法界で、いかに窮屈(きゅうくつ)な思いをしていたかを三人に伝えた。新志達は、(あわ)れんだようにコルザを見つめた。

「……でも、あなたが今の姿になってここに現れた原因は、私の娘、バラノアの霊の仕業なんでしょう?」

リィーズはコルザに聞いた。コルザは、その時の事を思い出しながら頷いた。

「それなら、今、魔法界にバラノアさんがいるって事じゃない?バラノアさんがコルザに魔法をかけたんだ!」

愛莉は、ハッとして、興奮気味に言った。リィーズはコルザも、同じ考えが(よぎ)っていたようで、深刻な顔で愛莉の方を見た。

「…でも、もしそうだとしても、バラノアが何でそんなことをするのか、全く見当がつかないんだ…」

「あの子は魔力を悪用する子ではないわ。コルザに悪戯するような魔法をかけるなんてことはしないはず…」

「まさか…、父様のした事で、僕を(うら)んでいるのかな…?」

コルザは青ざめて言った。

「そんなことは絶対にないわ!あなたには何の責任もないもの。それに、バラノアがあなたを恨むなんて事、絶対にないわ。あなたの事、本当の息子のようにかわいがっていたのよ。…よく私にあなたの事、話してくれていた…」

リィーズは目に涙を溜めて語った。

「……バラノア…」

コルザは、うつむいてバラノアを想った。

そんな中、新志は今までの会話を聞いて、気になっていることがあるようだった。

「…あのさぁ」

リィーズ・コルザ・愛莉は、話を切り出す新志の方へ顔を向けた。

「思ってたんだけど…、コルザはここにいるでしょ?なら、今魔法界では、コルザは行方不明ってことなの?」

新志は疑問に思ってみんなに聞いた。新志以外の者はハッとした。

「そういえば、そうね…」

「魔法界から逃げて来たんだから、当然そうなんじゃないの?」

「……いや」

愛莉の言葉を、コルザは否定した。

「あの時はバラノアから逃げるので精いっぱいだったけど…。確か、僕がキルスに魂を埋め込まれた時、魂を抜かれた僕の身体は、その場に倒れたんだ…」

コルザは思い出しながら言った。

「それに、今日、僕が元の姿に戻った時、キルスの姿はどこにもなかった」

「…なら、あなたが元の姿に戻っている間、キルスは魔法界に戻っていた…ということかしら…」

コルザの言葉から考察したリィーズが言った。

「じゃあ、今魔法界では、コルザは魂を抜かれた状態でいるってこと?」

質問した愛莉の方に、リィーズは顔を向けた。

「…そういう事に…なるわね…」

(…魂を抜かれた時に現れた、ジェムエレメントも気になるわね…。あの城に存在してはならないわ…)

リィーズは、魔法界でのコルザも気になっていたが、ジェムエレメントの存在を、より気にしていた。

「た、大変だ!!魔法界の人たち、きっと心配してるよ!!」

新志は慌て出して、コルザに言った。

「………」

コルザは、意味深な顔でうつむいていた。

(……ジュセ姉様…、パントラ…)

コルザは、魔法界の自分の姿に、信頼している姉と臣従がどんな反応をみせているか、心配させてはいないだろうかと気になっていた。

「…コルザ…」

黙ってうつむいているコルザに、新志は心配した様子を見せた。

「大丈夫!コルザ!私たちが付いてるから!」

愛莉は、思い悩むコルザを元気づけた。

「そうだよ!僕たちが必ず、魔法界へ連れて行って、そして元の姿に戻してあげるからね!」

コルザは、顔を上げて二人を見た。

「ありがとう…。新志君!愛莉ちゃん!」

コルザは笑顔で礼を言った。新志と愛莉も笑顔でコルザを見つめた。

「それなら、早いところ魔力を付けないといけないわね。まずは、扉を開けることがあなた達の試練よ。今よりもっと力を付けなくてはいけないけど、頑張れるわね?」

リィーズは、二人の気持ちを(ふる)い立たせるように言った。新志と愛莉は立ち上がった。

「僕、頑張るよ!コルザの為に、魔力を付ける!!」

「私も!力いっぱい付けて、コルザを助けるんだ!そして、ゆくゆくは魔法界のプリンセスになる!!」

「あ、愛莉ちゃん、まだ諦めてなかったの?」

新志はハッとして愛莉に聞いた。

「あったり前でしょ!新志君も手伝ってくれるって言ったじゃん?」

「……うぅ」

愛莉に押された新志はたじろいだ。

そんな二人を、リィーズとコルザは微笑んで見ていた。

「そうと決まれば、明日から、私がビシビシ(きた)えてあげるわ」

リィーズも立ち上がって二人に言った。

「よ、宜しくお願いします!!」

新志と愛莉は、リィーズに頭を下げた。

「フフフ。…じゃあ、今日はもう遅いから帰りなさい。…あ、そういえば、あの三人…槍君(そうくん)達。無事にあなた達と会えたの?」

リィーズは、新志と愛莉を心配していた槍達の事を思い出して聞いた。

「うん。僕たちが学校に戻る時、無事に会えたよ。ねぇ、愛莉ちゃん?」

「うん!城君(じょうくん)ったら、ずっとコルザの話をしてたよ!」

愛莉は、コルザに目を向けて、悪戯に言った。

「え…!?」

コルザは、ギクッとして愛莉を見た。

「城君、コルザの事、女の子だと思い込んでるみたいだね!でも、分かるなぁ!コルザみたいな女の子がいたら、僕も放っとかないよ」

新志もコルザを茶化すように言った。

「元の姿に戻ったら、たちまち城君に告白されるぞー!?」

「……あのねぇ…」

二人りにからかわれたコルザは、冷や汗をかいて呟いた。

「でもさ、城君がそんな状態なのもあって、挿崎君(きざきくん)がなんだかプンプン怒っちゃてねー」

「グラウンドに戻った途端、僕たち思いっきり怒られたんだよね…。迷惑かけた僕らも悪いけどさ」

新志と愛莉は、笑い合って言った。

「…その槍君なんだけど…」

「…え?」

深刻な表情をして言うリィーズに、新志は疑問を抱いた。

「わっ!!もうこんな時間じゃん!?今日は見たいテレビがあるの!早く帰ろっ!!」

時計を見た愛莉は、あわてて新志の腕を引っ張った。

「………。暗くなってきちゃったわね。気を付けて帰るのよ」

リィーズは、今は槍の話をするのを諦め、二人を見送るために店の外まで移動した。

コルザには、リィーズが何を伝えたかったのか分かっていたようで、そんなリィーズを黙って見ていた。


その日の夜更け。新志の部屋には、ベッドで寝ている新志と、彼の横で丸まって寝ているコルザがいた。

コルザはパチッと目を開け、ゆっくり身体を起こし、ベッドの横の棚に置かれた目覚まし時計に目をやった。

時刻は午前0時を迎えようとしていた。

コルザは、新志の方に目を向けた。新志は深い眠りについており、起きる気配はなさそうだ。

コルザは机に上り、カーテンを開けて外の様子を覗った。深夜ということで、住宅街は静まり返っている。ただ、街灯の明かりだけが、夜道を照らしていた。

コルザはそーっと部屋の窓を開け、翼を広げた。

外へ出ると、ベッドで眠る新志に再度目をやった。

「……ごめんね…新志君……」

申し訳なさそうにコルザはそう呟くと、静かに窓を閉めた。


同時刻の魔法界。

カラビーニア城には、例の侵入者が現れ、城内は恐慌きょうこう(おちい)っていた。

「奴だ!現れたぞ!!」

「気を付けろ!奴は炎の力を巧みに操る!!」

「たかが女だと気を抜くな!!」

侵入者を撃退するために雇われた兵達は、身のこなしの素早い侵入者=莉々に一撃を与えることが出来ず、苦戦していた。

兵達は、それぞれ魔力で生み出した武器、銃や刀、弓矢、槍などで攻撃するも、全て軽くあしらわれるようにかわされていった。

魔法使いの格好に変身した莉々は、そんな攻撃をあざ笑い、手に炎を(まと)わせて、迫る兵達を撃退していった。

(…思ったより早く見つかってしまった。…さすが警戒していただけあって、手強いわね。…早くたどり着かないと………チャンスは今しかないっ!)

莉々は行く先をキッと睨んだ。周りから迫りくる兵士など、見えていないかのようにお構いなしに突っ切って行った。

「まだ捕えられないのか!奴は!!」

三姉妹のいる上階で警備にあたっている、バーロン、ミト、パントラは、状況を知らせに来た警備隊を迎えていた。

「も、申し訳ありません、バーロン様。なにせ奴は戦闘に優れ、強大な魔力を持っているのです…」

「何を弱気な事を…っ!」

バーロンは、弱音を吐く警備隊にイラつき、ギロッと睨んだ。

「彼女は神出鬼没なんだ!下で食い止めなければ、姫君たちにも被害が及ぶ!!」

ミトは焦って言った。

(…ジュセ様に何かありでもしたら…)

パントラは不安そうな顔で、ジュセの居る部屋の扉を見つめた。

「ねぇ、騒がしいんだけど、まだ捕まらないの?侵入者の女」

後から突然声がし、三人は聞き覚えのある声に振り返った。

そこには、不愉快そうに腕を組んで立っているランバダと、その後ろでは、興味深々な顔でランバダの腕を(つか)んでいるスヴァイがいた。

「ランバダ様!?」

「スヴァイ様!?」

バーロンとミトは、自分の(あるじ)が危険な場所へおもむいていることに驚いた。

「スヴァイ様!いけませんよ!こんなところに来ては!侵入者がいつここにやって来るか分からないのですよ!」

「だってぇ…。侵入者がどんな人か興味あるんだもん!それに、何かあれば、防御魔法を使えばいいもん!」

スヴァイは上目遣いでミトに言った。ミトは返す言葉もなく、呆れて見ていた。

「私もこの目で確かめておきたいわ。このカラビーニア城に侵入する女がどんな怖いもの知らずなのかをね!!」

ランバダは相手を迎え撃つように、果敢かかんに挑む態度を見せた。

「………」

バーロンは反論することなく、若干眉間にしわを寄せて、ランバダを見ている。

すると突然、奥の廊下で「ドオォンッ」と大きな爆発が起こった。

「っっ!?」

その場にいた全員は、爆発の威力に驚くと同時に低い姿勢をとって身構えた。

「………」

全員、爆発の炎と煙を警戒し、様子を覗う為、動かずにいた。

間もなくすると、煙の中から、靴の音が響いてきた。徐々にこちらに近づいてくるのが分かると、煙の中に一人の影が映った。

「……っ!?」

全員、身構えながら、息を飲んでその影の様子を警戒した。

煙の中から、一人の魔法使いの少女、莉々が姿を現した。その瞳は芯を貫き、ただ一つの目標だけを見つめたものだった。

莉々は、全員の方へ、ツカツカと歩み寄ると、少し距離を置いて立ち止まった。

その場にいた者は、相手が直ぐに攻撃してこないと察し、立ち上がった。

「………」

莉々は表情を変えず、黙っている。

「…へぇ…。これが今お騒がせの侵入者なの…」

ランバダは莉々を見下したように、ジロジロ見て言った。バーロンはランバダを守るように前に立った。

「全然強そうじゃないけど…。本当にこんな子に手こずっていたの?」

スヴァイも莉々を見ながら、ミトに言った。

「…軽く見てはいけません」

ミトは莉々を警戒しながらスヴァイの前に出て、コソっと言った。

「………っ」

パントラも、莉々の姿をじっと見ていた。彼の想像していた人物とは、全く違っていたようで、自分とさほど歳もかわらない莉々の姿に、信じられない様子だった。

「……あなた達に用はない」

莉々はその場の全員に言い放った。

「っっ!?」

全員はハッとした。

「……では、誰に用があるというのだ?」

一番先頭に立っているバーロンが、莉々に聞いた。

バーロンの問いに、莉々は、フッと笑った。

「何が可笑しいっ!?」

バーロンは、眉をぴくっと動かして莉々に怒りを見せた。

「……関係ない!そこをどいてっ!!」

すると莉々は手から炎を出し、全員に向けて、それを何発か放った。

「っっ!?」

一目散に飛んでくる炎を、間一髪で全員よけると、彼女の魔力と対等に戦う為に、それぞれ魔力で、自分の使用武器を出した。

ランバダ・スヴァイ・ミトは銃を持ち、バーロンは(やり)、パントラは(かま)を持って身構えた。先ほどの警備隊は、自分の力ではかなわないと思ったのか、すぐさまその場から逃げ去った。

すると莉々は、すさまじい勢いで全員の元に向かっていった。

「ランバダ様は私の後ろに!!」

バーロンはランバダを後ろに守り、莉々の手から放たれた炎の弾丸を、一振りの槍の魔力で打ち消した。

莉々はグッと表情により力を加え、バーロンとランバダを軽い身のこなしで乗り越えた。

「っクソッ!!すばしっこい奴だっ!!」

自分をかわした莉々に怒りを見せたバーロンは、槍に魔力を溜めて、走る莉々に向けて攻撃した。

「っ!?」

間一髪でかわした莉々は、ミトが銃で狙っていることに気付いた。

「ここで終わりですよ!侵入者さん!」

「…くっ!」

莉々は、ミトの攻撃を防ぐ為、素早く体制を変えて、炎の弾丸を彼に向けた。

ミトも銃声をならし、魔法弾を莉々に放った。

二人の攻撃は打ち消し合い、莉々は、油断していたミトと、スヴァイの間をすり抜けた。

「しまったっ!!」

「きゃあっ!!」

(…あの攻撃方法といい、感じるこの魔力…あの女のものだわ…っ!)

莉々の動きに、目を離さずにいたランバダは、険しい顔でバラノアの魔力を感じていた。

莉々は次に一目散にパントラの方へ向かった。

「っっ!?」

物凄い勢いでこちらに向かってくる莉々に、パントラは鎌を持つ手に力を入れて、身構えた。

莉々は瞬時に「真の鍵」を出し、それを杖の形に変えた。そして、それを振り上げて、パントラに向かっていった。

「なっっ!?」

パントラは、思いもよらない莉々の攻撃に、彼女の振りかざす杖を鎌で受けた。

「……っ!?」

「……っっ!!」

お互い力を加え、一歩も譲らなかった。

「…あなたをっ…ここから先へ…通すわけにはいきませんっ!!絶対に!!」

パントラは、莉々の攻撃を必死に鎌で受けながら言った。

引こうとしないパントラを見た莉々は、少しの笑みを浮かべた。

「……あなたが守ろうとしているもの…。本当に大事なもの…?」

「…えっ!?」

莉々の言葉に不意を突かれたパントラは、一瞬の気のゆるみから鎌をはじかれ、炎の弾丸をまともに食らってしまった。

「うわぁっ!!」

攻撃を喰らい倒れたパントラは、必死のあまりに、負った怪我の痛みも忘れて、慌てて莉々が走って行く方に身体を向けた。

「だ、駄目だ!!そっちは…っ!!そっちには行くなぁっ!!!」

パントラが必死に止めるその先には、彼の(あるじ)の一人、コルザの部屋があった。

「奴はコルザ様の部屋に行くつもりだ!!」

バーロン、ランバダ、スヴァイ、ミトは、莉々の後を追った。

「…だ、駄目だ…コ、コルザ様!!」

パントラは必死に叫んだ。

「パントラっ!!」

外の騒ぎに部屋から様子を覗ったジュセが、パントラを心配して彼の元へ駆け寄った。

「しっかりして!!」

怪我の具合を心配したジュセは、パントラの身体を起こした。

「ジュセ様…コルザ様が…」

立ち上がったパントラがジュセ見て言うと、体の向きを変え、一目散にコルザの部屋に向かう莉々を止めようと、彼女を追いかけた。

目的のコルザの部屋の前まで来た莉々は、扉に強力な魔力がかかっていることを悟り、目を閉じて、扉に手をかざした。

莉々が目を開けると同時に、手から、強大な炎の弾丸が放たれ、「ドンッ」と鈍く大きな音を立てて、扉をぶち破った。

莉々は部屋の中に足を踏み入れた。

「……っ!?」

莉々はハッとして、部屋の窓際に浮いている、巨大なジェムエレメントに目を奪われた。

すると、あとから莉々を追いかけて来た、バーロン・ランバダ・スヴァイ・ミトが部屋に足を踏み入れた。

「っ!?こ、これは…っ!?」

全員、見たこともない巨大なジェムエレメントに目を奪われ、しばらく驚愕(きょうがく)した様子を隠せずにいた。

「コ、コルザ様っ!?」

パントラは急いでコルザの部屋に飛び込んだ。ジュセも急いでパントラの後を追い、二人は部屋の中に目をやった。

部屋に入っていた全員が驚愕で立ちすくむ先にある、以前よりも大きくなったジェムエレメントが二人の目に飛び込んで来た。

ジェムエレメントの存在を知っていたはずのパントラ、ジュセだったが、あまりの大きさに、驚きを隠せない様子だった。

「……一足遅かったみたい…」

驚愕する全員が、声のする方へ目をやった。

声の(ぬし)は、ジェムエレメントのすぐ下で、背中を向けて立っているコルザだった。

異様なオーラを放つコルザの存在に、全員はハッとした。

コルザはゆっくりと、みんなの居る方へ振り返った。

「…残念だったね…侵入者さん…」

コルザは意味深な笑みを含んで、まっすぐに莉々に目を向けた。

莉々は、悔しさの混じった険しい顔でコルザを睨んだ。



第六話、読んでいただき、ありがとうございます!!

とても長くなってしまいました…。それでも、最後までありがとうございます!

第七話「新志の(つるぎ)と莉々の秘密」もよろしくお願いいたします!!


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