第二話「魔法界の追放者!?」
「…バラノア…!?ど、どうして…?」
ドラゴンと化したコルザは、なんとも辛そうに訴えた。視線の先には、亡霊となったコルザの育ての母である【バラノア・フルース】が攻撃を与えようと、コルザに指先を向けて立っている。
「…あなたが…存在してはいけない」
バラノアがそう呟くと、指の先から魔力が放たれた。
「………っ!?」
コルザはハッと目を覚ました。肩で呼吸をし、動悸がまだ止まずにいた。
夢だったのかと気付くと、コルザは落ち着きを取り戻して、辺りを見渡した。
見たこともない場所だ。
「そうか…。僕、あのまま気を失って…」
コルザは昨日の事を思い出していた。自分と心の通じ合う少年の事。
「…あらし君っていったっけ…」
コルザは、今いるベッドの上からピョンっと降りた。
「ここは…あらし君の部屋なのかな?」
コルザは辺りをキョロキョロ見渡しながら、机の上に上った。机の上には、教科書やノートやらが、ずさんに置かれている。そこには、昨日目覚めた新志の魔力の源である、魔法の鍵も一緒に置かれていた。
「………」
コルザは、ふと寂しい表情になってそれを見つめた。すると、その奥に写真立てが飾られている事に気付いた。
(これは…あらし君と、それと、昨日一緒にいたあの女の子…)
コルザが手に取った写真立てには、新志と愛莉がツーショットで写っている写真が飾られていた。
「………」
コルザが黙ってその写真に目をやっていると、部屋の扉が急にガチャッと開いた。
コルザはビクッとして、そちらに顔を向けた。
「あらあら、コルザちゃん、やっとお目覚めね」
掃除機を手にした新志のお母さんが、部屋に入るなりコルザに言った。
「……?」
知らない相手が自分の名前を知っていることに、戸惑いを隠せないコルザは、不安な表情で新志のお母さんを見つめた。
「新志から起こしちゃダメって言われてたけど、自分で起きたなら、褒めてあげないとね」
掃除機を床に置いたお母さんは、コルザに近寄って頭を撫でた。コルザは戸惑いながらも察した。
(あらし君の…お母さんかな…?)
コルザはじっとお母さんを見上げた。目を向けられたお母さんも、じーっとコルザを見返した。
「……この子、本当に犬なのかしら?」
(…え?……い、犬…?)
コルザは呆然とした。
「見た目は龍みたいだけど……犬なのよね。新志が言うんだから」
どうやら新志は、コルザがドラゴンであることがバレないように、犬なのだと苦しい嘘を付いているようで、お母さんもまた、それを信用していた。
お母さんは、優しくコルザを抱き上げた。
「……っ⁉」
ドラゴンの姿に慣れていないコルザは、突然抱き上げられたことに驚いた。
「ちょっとの間、下の部屋にいてちょうだい。新志の部屋を掃除しなきゃいけないからね」
お母さんは、下まで降りると、リビングに入り、ソファの上にそっとコルザを置いた。
お母さんはそのまま台所に行き、お皿にミルクを注いで、ソファの近くの床にそれを置いた。
「これ飲んで、ちょっとだけ待ってて」
お母さんは、またコルザの頭を撫で、そのまま二階へと上がっていった。
「………」
魔法界では王族の血を引くコルザにとって、敬われることなく扱われる事が新鮮に感じられた。
コルザはソファから降り、ミルクに映ったドラゴンの姿の自分を見ると、両手でお皿を持ち上げて静かにそれを飲んだ。
ミルクを飲み干したコルザは、外の様子が気になり、再度ソファに上って窓の外に目をやった。
外は春の陽気さが漂う緑林が茂り、近隣の家に植えられた色とりどりの綺麗な花が、やさしく風に揺れていた。
穏やかな風景に、コルザは心を奪われた。
しばらくして、掃除を終えたお母さんが、リビングに戻って来た。
「おまたせコルザちゃん、ミルク美味しかった?」
お母さんがソファに目をやると、そこにコルザの姿はなかった。
「あら?コルザちゃん?」
お母さんは、辺りを見回しながらソファの近くまで歩き、足元のカラになっているお皿に気付いて拾い上げた。
「…どこ行っちゃったのかしら…?」
「えぇ?犬⁉」
愛莉は驚いて新志に言った。
「うん」
「おばさん、信じたの?」
「最初は疑って、まじまじ見てたけど、信じたみたいだったよ」
新志は「ハハハ」と苦笑いした。
「そっかぁ。いいなぁ。うちのお母さんも、動物好きだったらなぁ」
どうやら今は休み時間のようで、二人は教室の隅で話していた。
「それで、あの後、コルザはどうだった?」
愛莉は興味深々に聞いた。
「それが、ずっと目を覚まさなくってさ。だいぶ疲れてたみたい。時々苦しそうに、うなされてたよ」
新志は少し心配そうに言った。
「昨日話してくれた事、なんだか気の毒だったもんね…。家庭の事情も大変そうだし」
愛莉は昨日のコルザの話を思い返して言った。
「うん…。家に残してきて大丈夫だったかなぁ…。でも、学校に連れて来るわけにはいかないし」
新志はそう言って、ちらっと顕影に目をやった。案の定、顕影はチラチラと新志と愛莉の様子を気にしている。
愛莉は、そんな顕影にニコッと笑って、ヒラヒラと手を振った。顕影はギクッとして、慌てて開いている本に目を戻した。
「よぅ!何コソコソ二人で話してるんだよ」
いつものように、槍が話に入って来た。すると、愛莉に聞こえないように、新志の肩をグッと寄せてボソッと言った。
「なんだよ、いつにも増して仲がいいな。さては昨日なんかあったな?」
新志は顔を赤くして否定した。
「な、何もないったら!!」
そんな三人の様子を、教室に入って来た陽奈は、黙って見つめている。
「聞いてよ、揮崎君。私、まだ城君に疑われてるみたいでさ。昨日も学校帰りにつけられちゃって。謎めいた女って、罪だよね」
聞いていた顕影は、もの言いたげに、ジロッと愛莉の方を見た。
「ったく、アイツまたっ!」
槍は顕影を睨んだ。睨まれた顕影は、急いで本に目を戻した。
「ごめん、花見さん。俺のせいで城のヤツに目をつけられて…」
槍は申し訳なさそうに愛莉に謝った。愛莉はきょとんとした。
「え?いいよそんなの。別にどうってことないし。いずれ私がフツーの人間だって、わかるだろうしさ」
槍は、気にしていない素振りをする愛莉に、少しホッとした様子を見せた。
「ま、花見さんには、たくましい勇者が付いてるからな」
槍は新志に目をやって悪戯に言った。
「エヘヘ」
新志は照れ笑いをした。
一部始終を見ていた陽奈は、不機嫌な顔でプイッと顔を反らし、自分の席に着いた。
一方、コルザはというと、町の様子を物珍しそうに、辺りをキョロキョロ見渡しながら歩いていた。
一応犬らしく四つん這いになっているからなのか、通り過ぎる人たちは、一瞬ドラゴンの姿をしたコルザに目をやるが、何もなかったように、そのままその場を通り過ぎていった。
(人間界…。噂には聞いていたけど、実際はこんな感じなんだ。…なんか平和だなぁ)
春の温かい風が心地よく感じ、コルザは町の雰囲気に癒されていた。
すると、どこからか桜の花びらが舞い落ちてきた。
コルザが顔を上げると、桜の木が数本、土手の上に植えられていた。コルザは土手に上り、桜の花びらと共に春風を受けた。
(きれいだな。…このピンク色の花、何ていうんだろう…?)
コルザは、桜の木を見上げながら思った。
ーキーンコーンカーンコーンー
どこからか、鐘の音が聞こえてきた。
(…鐘の音…?…どこからかな…?)
コルザは、一体何の鐘の音なのかが気になり、鐘のなる方へ足を向けた。
一方、新志たちは授業の時間のようで、クラスメイトはみんな席に座り、静かに陣川先生の授業を受けていた。
窓側の席の愛莉が、何気なしに窓の外に目をやると、正門から様子を覗いながら入って来るコルザに気が付いた。
「っ!?なぬぅっ!!」
愛莉は仰天して、椅子から立ち上がった。
「花見さん、どうしたの?」
先生とクラスメイト達は、愛莉に注目した。
愛莉はハッとして、慌てて席に座った。
「…い、いえ。何でもありません!」
クラスメイト達は「ハハハ」と笑い出し、先生は授業に戻ろうと、みんなを集中させるために手を叩いた。
「はい、静かに!みんな授業に集中して!花見さんも、注意力散漫にならないようにね」
「はーい…」
愛莉は「テヘへ」と笑いながら返事をした。
「花見さんは、想像力が豊かですからね。仕方がないのではありませんか?」
顕影は眼鏡を光らせて、先生に言った。
いちいち嫌味を言う顕影を、新志がキッと睨んでいると、愛莉がこちらに顔を向けていることに気付いた。
愛莉は、新志に必死に何かを訴えようとしている。
「………?」
愛莉が何を言いたいのか分からない新志は、疑問の顔を返した。愛莉は、「仕方ない」といった顔でノートの隅をちぎって、何かを書き出した。
すると、隣の席のクラスメイトに小さく折ったそのメモを渡し、だんだん伝って、新志の所へと渡った。
メモを開き、内容を確認すると、新志は驚いて愛莉の方を見た。
愛莉は、「どうしよう」という顔で、新志を見ている。
様子がおかしい二人をずっと見ていた槍は、不思議に思いながらも、黙ってその様子を見続けた。
新志は何かを決意したように、強い眼差しを愛莉に向けて頷いた。
「い、いたたたたたたっ!!!」
新志はとっさにお腹を押さえる仕草をした。新志の言動はみんなを注目させた。
「え?剣野君、どうしたの?」
先生は新志の声に驚いた。
「きゅ、急に腹痛が起きまして…。陣川先生、保健室に行ってもいいですか?」
新志は辛そうな演技で、先生に訴えた。
「え、ええ。大丈夫?えっと、保健委員は神岡さんだったわね。悪いけど、剣野君に連れ添ってもらえる?」
「は、はい!」
陽奈が立ち上がると、新志は必死に断った。
「い、いや、一人で大丈夫!と、とりあえず我慢できないので、行ってきます!」
新志はそう言い放つと、そのまま走って教室を出て言った。
「……元気そうだけど…?」
先生とクラスメイトは、ポカンとあっけにとられていた。
「じっとしていられない程の激痛なんじゃないですか?何を食べたのやら、こうなると野生児ですね。全く落ち着きがない人です」
またも顕影が減らず口を叩き、槍は呆れた様子で頬杖をついた。
愛莉は不安を抱きながらも、コルザのことを新志に託した。
新志はコルザがまだ校庭のどこかにいるはずだと思い、下足室まで降りてきた。靴を履き替えようとすると、校舎の玄関口で、不思議そうに辺りを見回すコルザの姿を発見した。
「コルザ!!」
新志はとっさに叫んだ。突然名前を呼ばれたコルザは、驚いてそちらに顔を向けた。
「あ!あらし君!」
声の主がわかったコルザは、笑顔で新志の元へ駆け寄った。新志も安心した様子でコルザに駆け寄った。
「駄目じゃないか、ちゃんと僕の家にいてくれないと!」
新志はしゃがんでコルザに言い聞かせた。
「ごめん。でも、僕、人間界がどんなところか興味があって」
コルザは、申し訳なさそうに新志に言った。
「そんなの、帰ったら僕が案内してあげるのに。それに、魔女ばあさんが、君に聞きたいことがあるからって、今日、お店に来てって誘われてるんだ。君の具合が良くなったらって言われてるんだけど…。コルザ、調子はどう?」
コルザは笑顔で新志に言った。
「うん。よく寝たからすっかり良くなった。どうもありがとう」
新志は、コルザが夕べうなされていたことが気になったが、それには触れないようにした。
「なら良かった!」
新志も笑顔で返した。
「ねぇ、新志君、この建物は何?鐘の音が聞こえたから、気になって来てみたんだけど…」
コルザは建物の中を見渡して聞いた。
「ここは学校。僕たちが勉強するところだよ。鐘の音は「チャイム」って言って、授業の始まりと終わりを教えてくれる合図だよ」
新志は得意気になりながらコルザに教えた。
「学校…。人間界にもあるんだね」
「魔法界にもあるの?」
「うん、あるよ。基本的な学業や魔法を学ぶためのね」
「なら、コルザも通ってたんだね?」
新志の問いに、コルザは首を横に振った。
「…なんで?…あ、そうか。コルザは王子だもんね。学校には行かなくてよかったのか」
「……専属の講師がいたから…。だから、学校は憧れだった」
「そういえば、コルザっていくつなの?」
新志がふと疑問に思って聞いた。
「僕?僕はもうすぐ十三になるよ」
ドラゴンの姿からは年齢が分かり辛く、雰囲気から年下だと思い込んでいた新志は、少し驚いた。
「えっ!僕より一つ歳上になるんだ!じゃあ、中学一年生だね」
「ちゅうがく…いちねんせい?」
聞きなれない言葉に、コルザは言葉を聞き返した。
「うん。僕は今年で十二歳。小学六年生なんだ。小学校は六年間までで、卒業したら、中学に入って、中学一年生になるんだ。今より少し難しい勉強をするんだよ」
新志は笑顔で答えた。
「そうなんだ。みんな平等に級が上がるんだね。魔法界は、力がある者から上がっていくから、そこは人間界とは異なるんだね」
魔法界の学校の仕組みを聞いた新志は驚いた。
「力があるごとに?…人間界がそうなら、僕は落第しまくってるよ…」
新志は人間でよかったと、つくづく思った。コルザはクスクス笑った。
「新志君!!」
背後から呼びかけられ、新志は驚いて、とっさにコルザを抱き上げ、隠す素振りをした。
「あ、愛莉ちゃん!」
声の主が愛莉だとわかると、新志はホッとした。
「コルザ、大丈夫だった?」
愛莉は新志の元へ駆け寄り、抱きかかえられたコルザを心配そうにのぞき込んだ。
「うん。なんとかバレずに済んだよ」
新志は笑顔で愛莉に言った。愛莉も安心した顔を見せた。
「よかった。もう、駄目だよコルザ!みんなにバレたらどうするの!」
愛莉は「めっ」という顔でコルザを叱った。まるでペットの様に扱われることに、コルザは少し戸惑った。
「あ、愛莉ちゃん!コルザは王子様なんだから、そんな扱いしたら失礼だよ。それに、僕らより一つ年上なんだよ!」
新志は慌てて愛莉に言った。
「えっ!そ、それは…失礼しましたっ!…そっか…一つ年上かぁ…。エヘヘ、理想的かも」
愛莉は頬を赤くして、何か妄想を膨らませた。
「な、何想像してるのさ⁉愛莉ちゃん!ねぇ、ちょっと聞いてる!?」
新志は愛莉の妄想を阻止しようと、コルザを床に置いて、必死に愛莉に呼びかけた。二人の事をまだよく知らないコルザは、どうしてよいものか迷っていた。
「王子だからって、別に気を使わないで。今はただのドラゴンなんだし。…迷惑かけてごめんね、あいりちゃん。これからは、勝手な行動はしないようにするよ」
コルザは愛莉の方を向いて謝った。素直に謝るドラゴンの姿のコルザに、愛莉は胸を打たれた。
「コルザ!かわいいなーもうっ!」
愛莉はコルザを持ち上げ、ギュウッと胸に抱きしめた。
「あ、愛莉ちゃんー!!」
新志はその光景にショックを受け、やめさせようとした。
「愛莉ちゃん!?それより、まだ授業は終わってないんじゃないの?君まで、仮病使って来たの?」
新志に指摘された愛莉は、新志の方へ振り返った。
「ああ!切りがいいからって、チャイムなる前に授業終わったんだよ。だから、急いで探しに来たんだ」
新志が「そうなんだ」と、納得した顔をすると、ちょうどチャイムが校舎に鳴り響き、廊下の奥から生徒たちの声が聞こえだした。新志と愛莉は慌てて顔を見合わせた。
体育館裏。日頃から人通りが少ない為、二人と一匹はとりあえずここに避難した。
コルザを花壇の上に座らせ、二人はコルザを隠すように囲んだ。
「…えっと、じゃあ、改めて。僕は剣野新志。この緑ノ丘小学校に通う六年だよ」
新志は照れながら自己紹介をした。
「じゃあ、次は私!花見愛莉!同じく緑ノ丘小学校の六年二組!十二歳!好きなことは、体を動かすことと、綺麗なものを集めることです‼」
愛莉は、元気よく自分をアピールした。
「新志君と、愛莉ちゃんだね。改めてよろしく」
コルザは二人に笑顔で言った。新志と愛莉も「こちらこそ」といった笑顔を見せた。
「はい!コルザに質問です!」
愛莉は急に手を挙げた。コルザは「?」という顔で愛莉に目を向けた。
「趣味はなんですか?」
「……何でそんなこと聞くのさ?」
新志は、愛莉がコルザに興味を持つことを、どこか面白くなく感じているようだった。
「だって、ほら、いろいろ知っておかないと…ねぇ」
愛莉は頬を染めて、新志に手をパタパタ振った。新志は膨れてそっぽを向いた。
「……趣味?…そうだな…。泳ぐことかな」
コルザは考えながら答えた。
「水泳が得意なの?」
新志は顔を戻して聞いた。
「そんなに本格的じゃないよ。庭にある水溜でよく遊んでいたくらい」
「お庭にプールがあるの?」
愛莉はキラキラした目で聞いた。コルザは頷いた。
「城の周りが湖で、そこからひいた水を溜めてるんだ」
コルザは、新志の方に顔を向けた。
「ところで、新志君の好きなことは何?」
「え?僕?」
新志は急に聞かれ、驚いた。
「うん。聞いてなかったから」
コルザは笑顔で聞いた。
「えーっと…僕の好きなことは…」
新志が考えていると、横から愛莉が割って入った。
「新志君が好きなのは、ズバリ!女の子ですっ!!」
愛莉は自信満々に人差し指を立てている。
「……え?」
コルザは、真に受けて良いものなのか戸惑いを見せた。新志は慌てて否定した。
「ち、違う!!僕は、その…魅力的な人は好きだけど…。そ、そんなこと言ったら、印象悪いじゃないか!!」
新志は愛莉に食らい付いた。
「だってそうじゃん!かわいい子見たらすぐデレデレしてるし!」
「それは男として当然のことさ!」
「何だそれー!」
二人がギャアギャア言い合いをする様子を見ていたコルザは、首をかしげて聞いた。
「…二人は…どういう関係なの?」
コルザの発言に、新志と愛莉は言い合いをピタッと止めた。
「ど、どういう関係って…」
二人はきょとんとした表情で、顔を見合わせた。
「恋人同士じゃないの?」
コルザの言葉に、二人は顔を赤くして、慌てて否定した。
「ちがうちがう!」
「そうだよ、愛莉ちゃんと僕はただの幼馴染!」
二人の反応に、コルザは少し残念そうに言った。
「そうなんだ…。新志君の部屋に二人が写った写真が飾ってあったから、てっきり恋人同士だと思ってた」
「写真?」
愛莉は疑問に思って新志を見た。新志はかぁっと顔を赤くさせて慌てた。
「ほ、ほら、春休みにみんなでお花見に行った時に撮ったやつだよ」
愛莉は「ああ、あれね!」と、笑った。
新志の反応をコルザは微笑んで見ている。
「二人は仲がいいんだね」
「そうだよ!なんたって魔法使い同士だからね!!」
愛莉は、得意気にコルザにピースを見せた。
「え?愛莉ちゃんにも魔力があるの?…あ、そういえば…」
コルザは何かに気付いた。
「どことなく、力を感じる…」
コルザは目をつむって、愛莉に宿る魔力を感じ取った。
「愛莉ちゃんは、魔女ばあさんの孫なんだよ。魔女ばあさんが言うには、強力な魔力の持ち主なんだって!」
新志の言葉にコルザは驚いた。
「リィーズ様の!?へぇ、それはすごい…!」
コルザはそう言うと、うつむいて寂しそうな顔をした。新志と愛莉はそんなコルザ見て心配した。
「…どうしたの?」
「…うん…。偉大な人のお孫さんなのに、その力にも気付けないなんて…」
ドラゴンに魂を封じ込められたコルザは、魔力をほとんど失ってしまい、それを実感した今、自分の無力さを情けなく思っていた。
「コルザ、元気出してよ!元の姿に戻ったら、魔力も戻るんだからさ」
「早く元に戻れるように、私たちも協力するよ!任せといて!」
新志と愛莉は、コルザを元気付けた。顔を上げたコルザは、二人の笑顔に胸打たれた。
「…ほんとうに…どうもありがとう」
頭を下げるコルザに、二人は「いえいえ」という顔で微笑んだ。
「とりあえずさ、コルザどうする?」
まだ授業が残っている為、学校に来てしまったコルザをどうしたものかと、新志は愛莉に意見を求めた。
「そうだね…。あっ!ウサギ小屋に入っておくとかどう?」
愛莉の提案を聞いた新志とコルザは、ガクッと膝を崩した。
「う、ウサギ小屋はダメでしょ!?」
新志がツッコんだ。
「そう…?あっ、じゃあ、あそこは?」
愛莉は体育館裏の奥に立っている、大きな木の上を指さした。
二人と一匹はその木の麓に移動した。
「前ね、この木の上で、猫ちゃんがお昼寝してるの見たことあるんだ。コルザは羽があるから、上まで行けるよね?」
愛莉はコルザに聞いた。
「うん。大丈夫。行ってみるよ」
コルザは背中の翼を広げ、スイーッと木の上の太い枝に上った。
「ほら、これならバレないでしょ?」
愛莉は笑顔で新志に言った。上を見上げながら新志は頷いた。
「ほんとだ。じゃあ、コルザ!僕らが来るまで、そこでおとなしくしててね!」
新志は木の上のコルザに言った。
「わかった。ここで待ってるよ」
コルザは下にいる新志たちに向けて言った。
放課後。
通学カバンを背負った新志と愛莉は、先程の体育館裏へと向かっていた。
「愛莉ちゃんは、あの場所によく行くの?」
「うーん…。うん、まあね。ちょこっと魔法の練習にね」
少し言い辛そうに、愛莉はペロッと舌を出して暴露し、新志は驚いた。
「えぇっ!?学校で練習してるの?」
「うん」
「ば、バレたらどうするのさ!?」
「それがいいんじゃん!」
「…へっ?」
新志がきょとんとするのに対して、愛莉は満面の笑みを見せた。
「人が見てるか見てないか…。このスリルの中で魔法を使うのが、たまらないんだよ!」
愛莉の妙な趣味に、新志は若干引きながら彼女を叱った。
「…ってことは、また鍵を持ってきてるんだね?もう、ダメだって言ってるのに!」
新志に怒られた愛莉は、「テヘッ」っという顔を見せた。
「だって、毎日練習しないと!新志君の力も目覚めたんだし、負けてられないもん!私も早く力を付けて、おばあちゃんを喜ばせてあげないと!」
愛莉はそう言うと、走ってコルザのいる木の方へと向かった。新志は「もう…」と呟いて、愛莉の後を追いかけた。
先程の大きな木までやって来ると、愛莉は上にいるコルザに向かって話しかけた。
「おーい!コルザ!授業終わったよー。降りてきて大丈夫だよー」
すると、木の上からガサガサっと音が聞こえ、コルザが降りてきた。
愛莉は両手を広げて、コルザを迎えた。
「勉強は終わったの?」
愛莉の腕に抱えられたコルザが、二人に聞いた。
「うん。これから、魔女ばあさんの所に行こう」
新志はコルザに言った。
「…でも、今行って大丈夫かな?」
新志は愛莉の方を見て聞いた。
「何で?」
「だってこの時間、ラビアン・ローズは莉々さんが店番してるんでしょ?莉々さんには、魔法に関することは避けるって、魔女ばあさんが言ってたから…」
新志は心配した顔でコルザを見た。
「そのことなら大丈夫!おばあちゃんの事だもん、今日はお姉ちゃんに店番を頼まないと思うよ」
愛莉は笑顔で返した。
「そっか、そうだよね!」
新志は安心した。
「…りりぃさんって?」
話を聞いていたコルザは、疑問に思って二人に聞いた。
新志と愛莉は、ハッとしてコルザを見た。
「ああ、そっか。コルザは知らないんだよね。莉々さんっていうのは、愛莉ちゃんの二つ年上のお姉さんなんだ」
「そ!いつもおばあちゃんの花屋を手伝ってるんだ。私と違って魔力が無いから、魔法に関することは、お姉ちゃんの前では避けなさいっておばあちゃんに言われてるの。だから、コルザと直接会わせることは出来ないんだ」
「………」
コルザは、何かを考えているようだった。
「…?どうしたのさ?コルザ」
新志は、反応のないコルザに聞いた。
「あ。ううん。…へぇ、そうなんだ…」
(リィーズ様のお孫さんなのに、魔力が無いのか…)
コルザは、愛莉の言葉に疑念を抱いていた。
「ま、とりあえず、魔女ばあさんがコルザの話を聞きたいみたいだし、ラビアン・ローズに行きますか!」
「そうしますか!」
新志たちが身体の向きを変え、体育館裏から出ようとした瞬間だった。
「フフフフフ」という妙な笑い声と共に、眼鏡を光らせた顕影が姿を現した。
顕影の出現と同時に、新志と愛莉は青ざめた。愛莉の腕の力が強まり、抱かれているコルザは顕影を警戒した。
「……花見さん…」
顕影は静かに愛莉に話しかけた。
「…は、はい…?」
愛莉は心臓をバクバクさせて、返事をした。
「その抱いている生物…。あなた、昨日、ぬいぐるみだと言いましたよね?」
「え?う、うん。ぬいぐるみだよ?」
愛莉は、なんとかごまかしそうとした。
「フフフフ…。では、何故、昨日は目を閉じていたのに、今は開いてるんですか!?」
新志と愛莉は心臓をドキーーッとさせた。何も言えない二人に顕影は詰め寄った。
「この生物が人形だなんて、僕にはとても信じられない!あっ、ほら!今、瞬きしましたよっ!」
顕影はコルザをまじまじ見て、これ見よがしに指をさして新志と愛莉に訴えた。
(コ、コルザーッ!!)
二人は心の中でコルザに動くなと訴えた。
「これはあからさまに龍の子供ですよね?さぁ、これをどう説明するんですか?花見さん、あなたが魔法で出したのでしょう?」
顕影は執拗に愛莉に迫った。
「……うっ」
顕影に迫られた愛莉は、何も言えずにたじろいだ。新志は、あたふたしながら、なんとかしようと必死に考えた。
「さぁ、もっとよく見せて下さい!」
顕影は、愛莉の腕からコルザを奪い取ろうとした。
「…い、嫌だっ!」
「駄目だよっ!」
新志はとっさに顕影の腕を掴んだ。顕影は眼鏡を光らせて新志に目を向けた。
「フフフ、僕の理論が証明されるのがそんなにまずいですか?君の言っていた魔法が現に存在することになるんですよ?…それにこれは、僕と花見さんの問題です!」
顕影の言葉に、新志はたじろいだ。
「……おい、よせよ!」
すると、顕影の背後から声がし、みんなはハッとしてそちらに顔を向けた。
そこには、槍が腕を組んで立っていた。
「お前、ほんとにいい加減にしろよ。花見さんが迷惑がってるのが分からないのか?」
槍は、呆れた顔で顕影を見ながら言った。そんな槍に、顕影は焦りながら反発した。
「じゃ、邪魔しないでください!揮崎君も見てくださいよ!ほら、これ、龍の子供ですよね?」
顕影はコルザを指さして槍に言った。新志と愛莉は「まずい」と思いながらも、何も言えずにいた。
「…………」
槍はコルザをじーっと見た。
「ほら、ねぇ?龍でしょ、龍!龍の子供!きっと花見さんが魔法で出したんですよ!」
顕影は必死に槍に同調を求めた。
「………これって……」
槍の反応を、新志と愛莉は、もう駄目だと思いながら見ていた。
「…これ……犬だろ?」
「………へ?」
槍の言葉に、全員が拍子抜けした。
「い、いいいい犬?何言ってんですか君?犬な訳ないでしょう?ほら、耳なんか尖がってるし、しっぽは長いし、それに何より、羽が生えてます!」
顕影は必死に訴えた。
「だって、こんな変な犬、俺ん家の隣にもいるし。なんかとなんかをまぜた雑種とか言ってたな。この犬もそうなんじゃないの?」
槍はコルザを見て言った。
(…変な犬って…)
新志と愛莉、そしてコルザは、冷や汗を流しながら思っていた。
「そ、そんな訳ないでしょう!?何と何をまぜたらこうなるんですか?」
「さぁ?…チワワと…柴犬…とか、そんなんじゃないの?」
顕影の必死さをあしらうように、槍は答えた。
「で、では、あの身体の青さは何ですか?」
「雑種だとああいう色もありえるんじゃないか?それかペンキの中にでも突っ込んだか」
「じゃあ、羽は?羽はどう説明しますか?」
「ペットショップじゃ、あんな飾りいろいろ売ってるだろ。今の流行りとかじゃないの?」
「~~~~~~っ⁉」
全ての質問を軽くあしらわれ、顕影は頭に血を上らせた。
「も、もういいですっ!今日の所は上手く逃げられましたね。でも、僕は諦めませんからね!」
顕影は、くるっと愛莉の方へ振り返り、そう言い放ってその場を走って去って行った。
「全く。しつこい奴だな、あいつも」
槍は呆れて言った。
「あ…あの…。槍、あ、ありがとう」
新志は顕影から助けてくれた槍に、申し訳なさそうに礼を言った。槍は振り返ると、新志の方に歩み寄った。
「お前も!ちゃんと花見さんを守れって言っただろ!」
「ご、ごめん…」
叱る槍の勢いに押された新志は、身を縮こませて謝った。
「休み時間にいないと思ったら、二人してこんなところで犬を隠してたなんてな」
槍は腕を組んで二人を見た。
新志と愛莉は返す言葉が無く、「エヘヘ」と頭を掻いた。
「コソコソしてるから、城の奴に怪しまれるんだ。…ちゃんと花見さんを家まで送ってやれよ」
そう言って、槍はその場を去ろうとした。
「あ、ありがとね、揮崎君!」
愛莉は慌てて礼を言った。槍は愛莉の方を向いた。すると、視線をコルザに向けた。
「………」
「………?」
槍はじーっとコルザを見た後、視線を愛莉に戻して、笑顔を見せて去って行った。
二人は緊張が解けたように、「はー」っとため息を付いた。
「ば、バレずに済んだね…」
「うん。なんとかね…」
二人はコルザに目を向けた。
「とりあえず、犬ってことになったから、よろしくね、コルザ」
「え?…あ、う、うん…」
新志の言葉に、コルザは戸惑いながら返した。
二人と一匹は、ラビアン・ローズへ向かっていた。
「揮崎君って頼れるお兄さんみたいだね」
愛莉が新志に言った。
「うん。僕なんか、助けられてばっかりだよ」
新志は笑いながら言った。
「さっきの人、新志君と愛莉ちゃんの友達なの?」
コルザは二人に聞いた。
「そうだよ。僕の親友」
「私とは、今年初めて一緒のクラスになったから、そこまで親しいわけじゃないけどね」
「でも、僕たちの事、いつも守ってくれるんだ」
「へぇ、お兄さんみたいに頼れる存在がいて、羨ましいな」
羨ましがるコルザに、新志は「へへっ」と笑って返した。
「……ん?あれ?」
すると、愛莉は急に足を止めた。新志は疑問に思って愛莉に聞いた。
「どうしたの?愛莉ちゃん?」
「あれ…」
愛莉は遠くに見える、おばあさんのお店を指さした。
新志はそちらに目を向けると、ラビアン・ローズの前では、昨日と同じように、若い青年たちが群れを成していた。
「えっ?」
新志はぎょっとした。
「お姉ちゃん、いるの?何で?」
愛莉は新志にコルザを託して、店まで走った。
店に着いた愛莉は、見慣れた常連客をギロッと睨んだ。客は、いつもと同様に近くにある花を掴んでレジに並んだ。
カウンターで、全員の対応を済ませた莉々は、いつものように笑顔を愛莉に向けた。
「おかえり、愛莉」
「お、お姉ちゃん…」
愛莉は罰が悪そうに、莉々を見た。なかなか中に入ってこない愛莉を、莉々は不思議に思った。
「どうしたの?おばあさんに用があって来たんじゃないの?……あら…?」
莉々は入り辛そうにしている新志に気付いた。
「新志君!新志君もおばあさんに用事?」
莉々はカウンターから離れ、新志の方へと歩み寄った。新志と愛莉は「ヤバい」と思ったが、遅かった。
案の定、莉々は、新志が抱いているコルザに気が付いた。
「………」
莉々はコルザを見た瞬間、動きを止めた。コルザの目にも莉々が映った。
(…この人が莉々さん…。確かに魔力を感じないな)
新志と愛莉は「どうしよう」という顔で互いを見合わせた。
「…かわいい…」
莉々の呟きを聞き、新志と愛莉は聞き返した。
「えっ?」
莉々はコルザに駆け寄り、膝に手を付いてまじまじと見た。莉々にあちこちから見られ、コルザは動揺した。
「この子どうしたの?かわいいわ!まるで物語に出てくるドラゴンを小さくしたみたい!」
興奮する莉々を見て、新志は慌てて否定した。
「や、やだな莉々さん!い、犬ですよ!」
新志の答えに、莉々は少し残念そうな顔をした。
「え?あ、そうなの?…犬なの…。……ねぇ、新志君、この子、抱かせてもらってもいい?」
素直に犬だと信じた莉々の言葉に、新志は焦って愛莉を見た。愛莉はブンブンと首を横に振っている。
「………」
新志が困った顔をして莉々を見ると、莉々は指を組んで新志に頼んだ。
「ねぇ、お願い新志君!」
莉々にキラキラした目でお願いされた新志は、顔をかぁっと赤くさせた。すると、新志はクルっと莉々に背を向け、コルザに耳打ちした。
「いいかいコルザ。莉々さんの前では犬のフリをするんだよ!」
コルザは戸惑いながらも返事をした。
「え?う、うん…」
新志は莉々の方に向き返った。
「……ど、どうぞ!」
コルザを差し出す新志のデレデレした様子に、愛莉は「もぅっ」と怒った顔を見せた。
「わぁ!ありがとう!私、動物を抱くの初めて!」
莉々は慣れない手つきでコルザを受け取った。新志は、莉々の言葉に少し驚いた。
「え?そうなんですか?」
「うん。お母さんが動物嫌いでしょ?その影響もあって、この歳まで、動物と触れ合う機会が無かったのよ」
莉々はコルザを見ながら言った。コルザは黙って莉々を見ている。
「あら、結構重たいのね。フフッ、おとなしくて凄くかわいい!」
莉々は加減が分からず、コルザを人形のようにぎゅうっと力を入れて抱きしめた。
歳のわりに豊満な胸に顔が埋まったコルザは、かぁっと顔を赤くさせた。
新志と愛莉は、止めようにも止められず、焦りながら苦しそうなコルザを見ている。
「この子、何て名前?」
莉々は新志に聞いた。
「え?あ、コ、コルザです」
新志は答えた。
「ふーん、コルザくんっていうの。新志君が飼ってるの?」
「は、はい…」
新志はちらっと愛莉の方に目を向けた。愛莉は、それ以上莉々と関わるなという顔で、新志に訴えている。
「り、莉々さん、そろそろ…」
新志は両手を出して、コルザを受け取ろうとした。
「もう少しだけ、お願い!」
莉々にお願いされると、新志は何も言えないようで、しぶしぶ諦めた。
「もうっ、新志君もコルザもデレデレして!」
イライラが頂点に達した愛莉は、莉々からコルザを引き離そうとした。
「……愛莉…」
すると、後ろから声をかけられ、愛莉は振り返った。そこにはリィーズが立っていた。
「お、おばあちゃんっ!お姉ちゃんに帰るように言ってくれなかったの!?」
愛莉は莉々には聞こえないように、リィーズに聞いた。
「…そのつもりだったんだけど…。あの子、今日は何故か言う事を聞かなくて…」
リィーズは、申し訳なさそうに言った。
「えぇ!?」
愛莉は、不思議そうに莉々を見た。いつもの莉々なら、リィーズの言う事は必ず聞くはずだが、今日の彼女は何故か反発した。
リィーズは莉々の所へ歩み寄った。
「莉々、今日は私が新志君に用事があるのよ。配達の予約もないし、今日はお店を閉めるわ。だから、あなたは帰りなさい」
リィーズは、莉々の肩に優しく手を置いて言った。莉々は寂しそうな顔をしたが、フッと笑顔に戻って、リィーズの顔を見た。
「わかったわ。わがまま言ってごめんなさい。ごめんね、新志君」
莉々は新志にコルザを差し出した。
「い、いえ」
新志は首を横に振って、コルザを受け取った。
「じゃあ、またね新志君。おばあさん、また明日来ます。愛莉、あまり遅くならないようにね」
莉々は、かばんを手にして、三人それぞれに挨拶した後、店を出て行った。
リィーズの部屋に来た新志たち二人と一匹は、ベルベットがひかれたソファに座り、リィーズが来るのを待っていた。
「お姉ちゃん、今日に限っておばあちゃんの言う事聞かないなんて…。反抗期かな?」
愛莉は、顎に指を添えて考えていた。
「莉々さんが反抗期なんて…。そうなのかな?」
新志は、そんな馬鹿なと笑いながら返したが、ありえなくもないと考えを改めた。
「お待たせしたわね。紅茶でいいかしら?ジュースを切らしちゃってて」
リィーズは、カップを四つ乗せたお盆を持って、部屋に入って来た。
「えー、ジュースないの?」
愛莉は不満そうに言った。
「この前あなたが全部飲んじゃったんじゃないの」
リィーズは、呆れ顔で愛莉を見ながら言った。愛莉は何も言い返せず、知らんぷりをした。
「ごめんね、新志君。これでいい?」
リィーズは、愛莉をよそに、申し訳なさそうに新志に言った。
「僕は全然いいよ!」
新志はそう言って、リィーズが差し出すカップを受け取った。
「コルザも、…カップのままでも大丈夫かしら?」
ドラゴンの姿のままでも、手がちゃんと使えるのかが気になったリィーズは、今度は、コルザの方にカップを差し出して聞いた。
ソファの前に置かれたテーブルに、コルザはピョンッと飛び乗った。
「はい。そのままの方が。今朝、新志君のお母さんがミルクをお皿に入れてくれたんだけど、どうも飲み辛くて…」
コルザは新志に気を使いながら、カップを受け取って言った。
「え?そうなの?…母さん、すっかりコルザを犬だと信じ込んでるな…。食事の時の対策を考えないとね。ごめんね、コルザ。母さん他に変な事しなかった?」
王族のコルザに失礼なことをしたと、新志は謝った。コルザは慌てた様子で手を振った。
「ううんっ!なんだか嬉しかったよ。王子として扱われないことが凄く新鮮で…。僕を育ててくれた母親の事を思い出したよ」
三人はコルザの言葉に反応した。
「そういえば、その人の亡霊が、コルザの事を襲ったんだっけ…?」
愛莉は思い出しながら聞いた。
「……うん…」
コルザはうつむいて答えた。
新志と愛莉は顔を見合わせた。
「そのことについて、もっと詳しく教えてくれないかしら?…思い出すのは辛いでしょうけど、あなたを元に戻す為に、私たちは知っておかなくてはいけないの。話せる範囲で構わないから、話してもらえないかしら?」
新志たちの向かいのソファに座ったリィーズは、コルザを興奮させないように優しく聞いた。
コルザはうつむいたまま、口を開いた。
「事の発端は、多分…、いえ、きっと父様なんです。僕は、父様に嫌われている。僕も父様が嫌いだ。……でも、心の片隅で、微かに羨む心があった。…そんな気持ちが最近になって、強くなり始めた頃の事でした…」
コルザの話を、三人は黙って聞いた。
「…昔、僕の面倒をよく見てくれた、育ての母親に、「バラノア」という魔女がいました」
「バラノア」という名前に反応し、おばあさんはハッと顔を上げた。
「ん?バラノアって…どこかで聞いたことあるような…」
愛莉も聞き覚えのある名前に反応した。が、コルザに話を続けさせようと、おばあさんは、「しっ」という素振りを愛莉に見せた。コルザは話を続けた。
「城の中で唯一、まともな考えを持った女性でした。僕は彼女が大好きだったし、あの傲慢な父様も、彼女の前では、言う事を聞いておとなしかった…」
そこまで話すと、コルザは暗い顔になって下を向いた。
「…でも、彼女は七年前に、急に城から姿を消した。城中の者に聞いても、誰も何も答えてくれない。それでも必死に父様に問いただしたら、彼女は自分が殺したと、何の躊躇いもなく、ただ僕を真っすぐ見つめて言いました」
辛そうに話すコルザに、新志と愛莉は哀れんだ顔で話を聞いていた。おばあさんは目を閉じ、何かに耐えるように拳を握りしめていた。
「ひ、ひどいお父さんだ…。何で殺したりなんかするの?お父さんも、そのバラノアさんが大事だったんじゃないの?」
新志は、コルザの父親に怒りを示した。
「僕もそう思ってた。…でも、僕にも二人の間に何があったのか、原因を知らないんだ。…その後、姉様達にバラノアの魂を封じ込めた石碑の前へと連れて行かされた。…彼女が本当にいなくなったことを、僕に実感させる為に…」
コルザの表情と同じように、リィーズも悲しそうな顔で聞いている。
「お姉さん達は、バラノアさんが亡くなった事、なんとも思ってなかったの?」
疑問に思った愛莉が聞いた。コルザは、愛莉の言葉にコクンと頷いた。
「上二人の姉様達はね。父様を横取りする上、彼女は、ほとんど城を支配していたも同然だったから。でも、三女のジュセ姉様と僕は違った。僕もジュセ姉様も、バラノアに育てられたから、僕らは父様よりも、彼女の味方だったんだ」
「じゃあ、お城の中でまともなのは、ジュセお姉さんとコルザだけなんだね。それで、コルザがドラゴンになっちゃったのと、どう関係してくるの?」
愛莉の質問に、コルザはうつむいて答えた。
「あの夜……。バラノアの記憶が薄れかけていた頃だった。毎晩、権力を盾に女遊びをする父様や、獲物をとっかえひっかえに連れてくる姉様達…。城の中にいても息が詰まる日々だった。部屋の外に出ても、見る光景はいつも一緒…。僕は部屋に閉じこもりがちになっていった。…そんなある日の夜、僕は考えていたんだ。…もしかしたら、父様達のやり方が正しくて、僕が間違っているんじゃないか…。王座に就く者こそ、その威厳を見せつけなければいけない。…だから父様は、こんな僕を嫌っているんだと…」
うつむいていたコルザは、顔を上げた。
「バラノアは、きっと、そんな考えを起こしてしまった僕の事を怒ってるんだ!…だから、僕をこんな姿に…」
再びコルザはうつむいた。新志と愛莉は何も返すことが出来ず、そんなコルザを見つめた。
「……本当にそうかしら…」
リィーズが呟いた。
みんなはリィーズの言葉に反応し、彼女の方へと顔を上げた。
「え?」
「おばあちゃん?」
リィーズは、フッと目を閉じた。
「いえ。…ただ、私がもし、そのバラノアの立場なら、単に自分の怒りだけで、コルザに攻撃を仕掛けるようなことはしないんだけれどもね」
コルザはリィーズを見つめて聞いた。
「…何か他に理由があるとでも?」
リィーズは微笑んで首を傾げた。
「さぁ、どうかしら?…でも、これでいきさつははっきりしたわ」
リィーズは、新志と愛莉の方に顔を向けた。
「そうと分かったからには、あなたたちが頑張らないといけないわね!」
リィーズは笑顔で二人に言った。二人はポカンとしている。
「頑張る?」
「何を?」
リィーズは、ソファからずり落ちた。
「コルザを元の姿に戻す為に、あなたたちが魔力を充分に身に着けて、魔法界へ真相を追求しに行かなくてはいけないでしょう?」
新志と愛莉は驚いた。
「ええっ!!僕ら、魔法界へ行くの!?」
「うっそぉ!じゃあ、とうとう夢が叶う日は近いってことじゃん!!」
愛莉の言葉に新志はハッとした。
「ゆ、夢…?あ、愛莉ちゃんがプリンセスになるっていう?…う、うーん…、僕、なんか複雑だなぁ」
「新志君は、魔法使いの騎士だよ!かっこいいじゃん!きっと、魔法界の女の子にモッテモテだよ~っ!」
愛莉は、新志の背中をパンパン叩いた。
「そ、そうか…!僕、騎士だもんね!…ゆくゆくは愛莉ちゃんとイイ感じになって…」
「…あぁ…憧れの魔法界のプリンセス…夢みたい…」
どんどん妄想を膨らませる二人を前に、リィーズはとコルザはあっけにとられていた。
リィーズは咳ばらいをすると、コルザの方に視線を落とした。
「…コルザ。こんな子たちだけど、きっとあなたの為に力を発揮してくれると思うわ。…だから、あなたもこの子たちを助けてあげてね」
「…え?」
コルザは疑問の顔をリィーズに向けた。
「今のあなたは魔力が使えないけど、ほんの少しずつ取り戻していってるはずよ」
コルザはハッとした。確かに昨日までは全く感じられなかったが、先程愛莉の魔力をかすかに感じ取ることが出来た。
「だから、あなたのその力も含めて、魔力の扱い方を教えてあげてちょうだい」
リィーズは微笑んで言った。
コルザは新志と愛莉の方へ顔を向けた。二人は和気藹々(わきあいあい)と楽しそうに、自身の魔力に期待を膨らませて話し合っている。コルザは笑顔になって、リィーズの方へ顔を戻した。
「…はい!」
四人が楽しそうに談笑している部屋の外では、密かにその会話の内容を聞く一人の黒い影があった。
その正体は、先程店を後にしたはずの莉々だった。
いつもの柔らかい笑顔は消え、芯を貫く強い眼差しをまっずぐに向け、そのまま静かにその場を去って行った。
第二話、読んでいただき、ありがとうございます!!
第三話「魔法の呪文!ストームズ リベラシオン!!」もよろしくお願いいたします!!




