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第十三話「遂に来た!プリンセスの条件」


突然プリンセス候補に選ばれ、大広間の中心で注目の的となった愛莉は、以前からの念願にも関わらず、困惑した表情で立ちすくんでいた。

「……愛莉ちゃんが、魔法界の王子様と…?」

近くにいる陽奈は、愛莉はてっきり新志あらしとくっつくものだと思い込んでいて、不思議そうに首を傾げた。

「……おい!いいのか、新志!?」

そうは肘で新志の腕をつつき、コソっと言った。

「………」

新志は不安そうな表情で、愛莉をじっと見ている。新志の心情を察した槍は、それ以上何も言わず、二人の様子を見守ることにした。

リィーズの後ろにいる莉々は、愛莉の様子を見ると、黙ってうつむいた。

「……え…あの…。わ、私は…」

愛莉は人差し指を合わせ、赤くなって、もじもじとする素振りを見せた。

謙遜けんそんすることはない、愛莉ちゃん。そなたの魔力はとても偉大なものだ。コルザにも引け劣らない。…是非ともコルザの支えになってもらいたい!!」

大王からの頼みに、選択肢の無くなった愛莉は、困り果ててリィーズの方を見た。

「愛莉…。あなたの望み通りにしなさい。あなたが決める事よ」

リィーズは、愛莉に冷静に事を判断させるために、微笑んで彼女に言った。

愛莉は身体を大王の方へ戻し、うつむいて考えた。

愛莉は再び顔を上げ、今度はコルザの方を見た。コルザは、困っている愛莉を心配していたようで、愛莉と目が合うと、ハッとした。

「……コルザ…」

「…愛莉ちゃん…」

コルザは愛莉を見兼ね、大王に話し出した。

「…父様、突然そんなこと言ったら……。愛莉ちゃんが困ってます」

コルザの言葉に、大王は大きな声で笑い出した。

「ダハハハハハっ!!なんだ、二人共照れているのか?良いなぁ、若いというのは!!……分かった。では、ゆっくり考えれば良い。…せっかく魔法界に来たのだから、数日滞在して、答えを決めれば良い…」

大王はそう言いながら、端に立っている側近の女性二人を呼んで、共に広間を出て行った。

みんなはあっけに取られて、大王が出て行くのを見ていた。

愛莉は、ホッとしたようにに胸を撫で下ろした。そんな愛莉を、新志は、斜め後ろで心配そうに見つめていたが、場の雰囲気が辛気臭いこともあり、無理に笑顔を作って愛莉に話し掛けた。

「あ…、愛莉ちゃん、よかったの?もう少しで夢だったプリンセスになれたのにさ!悩むなんて、愛莉ちゃんらしくないよ?」

「…え?」

新志の言葉に、愛莉は、眉をしかめて振り返った。

「コルザだったらきっと愛莉ちゃんを大事にするしさ、僕も喜んで祝福するよ!!だから、悩むことなんてないって!!」

無理に笑顔を作って言う新志を見ていた槍と陽奈は、愛莉の反応を恐る恐るうかがった。

「………」

愛莉は新志から目を背け、うつむいて黙っている。

「花見さんの性格なら、魔法界のプリンセスは最適なのではないですか?大王様にも認められてることですし、これは玉の輿ですよ?ここで骨をうずめる決意をした方が、あなたにとって利益になります!」

横から口をはさむ顕影あきかげに、新志は「うんうん」と頷いた。

「そうだよね!僕もそう思う!!」

顕影と新志の会話を聞いた愛莉は、何かが切れたように二人に怒鳴った。


「うるさーいっ!!私の将来の事なんだから、そんな簡単に決めないでよね!私の事は、私自身で決める!二人は黙ってて!!」


愛莉の怒りをかった新志と顕影は、飛び上がって驚き、愛莉におびえるように抱き合った。

愛莉はプイッと二人から顔を背けた。

槍と陽奈は、そんな新志と顕影を呆れた様子で見ていた。

愛莉が大きな声を出すのを、コルザは心配そうに見つめ、又、そんな彼を莉々は黙って見つめていた。

「…あらあら、相変わらず元気がいいね!愛莉ちゃんは!」

上空からの声に、愛莉や新志達は、そちらに顔を向けた。

声の主はバラノアで、微笑みながら、愛莉の方へ近寄った。愛莉は驚いて、霊となったバラノアの姿に目をやった。

「…えっと、バラノア…叔母さん…だよね…?」

愛莉はバラノアの様子を覗うように聞いた。

「覚えててくれたの?嬉しいな!」

バラノアは、嬉しそうに答えた。

「い、いえ…。ごめんなさい。実はほとんど覚えてなくて…。おばあちゃんとお姉ちゃんから話を聞いたんです。昔、よく遊んでもらってたって…」

「そっか。そうよね!だって、愛莉ちゃん、まだ小さかったもんね。無理もないわ」

申し訳なさそうに言う愛莉に、バラノアは笑顔を見せた。

「…でも、変わらないね。昔から、とても明るくて元気だったわ。愛莉ちゃんは」

優しく微笑むバラノアの目を、どこか懐かしく感じた愛莉は、じっとバラノアを見つめた。

「バラノアさん…。へぇ、やっぱり綺麗な人なんですね!」

後ろから話し掛ける新志の方に、バラノアは身体を向けた。

「まぁ!新志君!愛莉の幼馴染!」

バラノアは、新志と直接話しが出来たことに、興奮しているようだった。

「コルザと共鳴する魔力を持っていたのよね!すごいわ!」

バラノアは、新志をまじまじ見るように、彼の周りをフヨフヨ飛んだ。

「…そ、そんな…」

バラノアに言われ、新志は照れ笑いをして答えた。

「…それに、コルザを人間界へと導いてくれたのよね。…本当に、いろいろ迷惑を掛けたわ…。ごめんね…。そしてありがとう、新志君。…愛莉もね…」

バラノアは、新志の目の前で身体を止めると、頭を下げて礼を言った。

「い、いえ…。僕は何も…っ!」

「そうだよ!お礼なんて、いらないってば!」

新志と愛莉はあわててバラノアに言った。

「そういうわけにはいかないの!あ、そうよ!あなた達のお友達にも迷惑を掛けたわ!」

バラノアは、せわしなく、今度は槍達の前へ移動した。

「愛莉と莉々の叔母のバラノアっていうの。…あなた達にも迷惑を掛けて、本当にごめんなさい…」

頭を下げるバラノアに、槍、陽菜、顕影は、慌てて首を横に振った。

「…わ、私達は、勝手について来てしまったので。私の方こそ、迷惑を掛けてしまって…」

陽奈は、自分が大王にとらわれ、足手まといになってしまったことを詫びた。

「…怖い思いをしたでしょう…。ほんと、エルーガ様は見境みさかいが無いんだから…。ごめんね…」

バラノアは、今回の事が陽奈にとって心の傷とならないかを心配していた。

バラノアは、チラッと陽奈の横にいる槍に目をやった。

「…槍君、コルザの事、あんまり攻めないであげてね。…今回の事は、私が一番の原因なのよ。あなたの魔力を解放させることになって、本当にごめんね」

バラノアは、槍の前で再び頭を下げた。

「え?い、いや、あれは、もういいんです。俺の方こそ、八つ当たりしてすいません…あいつが悪いんじゃないってわかってるんだけど…」

「新志君たちが危険な目に遭ったから…。友達想いなのね。槍君は」

笑顔でバラノアに言われ、槍は赤くなって目を反らした。

バラノアは、みんなに挨拶と謝罪を済ませると、切ない表情で、ゆっくりとリィーズの方へ顔を向けた。

「……バラノア…」

リィーズも同じ表情で、彼女をじっと見つめている。

「…お母さん…。ごめんなさい…。私のせいで、みんなを危険な目に遭わせて…。莉々の力を借りることになってしまって…。…本当に…ごめんなさい…」

リィーズの目を見たバラノアは、背負って来た責任からようやく解放されたように、我慢していた涙がボロボロとこぼれ始めた。

リィーズはいたたまれなくなり、バラノアの所へ駆け寄った。

「バラノアっ!!…あなた一人で罪を背負う事はないのにっ…。私や、愛莉や新志君を、もっと頼ってくれれば!!…あなた一人でこんなに問題を抱えることは無かった…っ」

リィーズは、こんなことになったのは、自分のせいでもあると思い、一人で責任を負っていたバラノアを叱った。

「……ごめんなさい…」

バラノアは、その場にうなだれ、リィーズもまた、バラノアと同様に泣き崩れた。

みんなは、二人を黙って見つめていた。

「……叔母さま…」

リィーズを心配して、彼女の身体を支えた莉々は、バラノアに声を掛けた。

バラノアはハッとして、顔を上げた。

「莉々…。あなたには、本当にお世話になったわ。…私の願いを素直に受け止めてくれて…。魔力を失っていても、その素質はまだ生きていた。あなたは本当に強いわ。…ありがとう、莉々」

バラノアの言葉に、莉々は静かに首を横に振って返した。

「…私…、叔母さまに借りていた魔力を失くしてしまって、ごめんなさい…」

「何言ってるの!あなたのとっさの判断のお陰で、コルザが元の姿に戻れたのよ!?私の魔力が役に立って、私も誇り高いわ!私に謝る事なんて何もない!」

バラノアは涙をぬぐって、笑顔で莉々に言った。莉々もバラノアの言葉に勇気を与えられ、笑顔を浮かべた。

バラノアは安心した顔で莉々を見ると、身体を浮かび上がらせ、ジュセの方へと舞い降りた。

「…ジュセ…」

「…バラノアっ!」

ジュセは、目に涙を溜めて、バラノアを見つめた。

「大きくなったわね。とても綺麗になった!…コルザの事、心配かけたわ…」

ジュセは、目を閉じて、首を横に振った。

「私…。私、コルザが悩んでいたのを知りながら…、何も出来なかった…。あなたの代わりになって…あなたを安心させたくて、コルザのことを守っていたつもりなのに…っ。結局は、何も…っ」

バラノアは、涙を流して言うジュセに近づいた。

「…あなたは悪くない。コルザの傍で彼を見守ることが、お姉さんとしてのあなたの役目よ。あなたはそれを立派に成し遂げてるわ。あなたが傍にいるだけで、コルザがどれだけ心強かったことか。…あなたがいなければ、コルザの心はとっくに壊れていたわ」

「…バラノアっ」

ジュセは、優しいバラノアの言葉に懐かしさを感じ、手で顔をおおって静かに泣いた。

ジュセの涙する姿を初めて見たパントラは、心配すると同時に新鮮さを感じ、彼女の後ろでうつむいて黙っていた。

微笑んでジュセを見届けたバラノアは、後ろのパントラに気付き声を掛けた。

「…パントラだったわね。…ジュセとコルザの事をこれからもお願いね…」

パントラは、ハッと顔を上げてバラノアを見た。バラノアは微笑んでこっちを見ている。

「…はい。お任せください」

パントラは、頭を下げて返事をした。

バラノアは、パントラに笑って返すと、先程いた場所へ戻るように上空を飛び、コルザの前に舞い降りた。

「コルザ!あなたも大きくなったわ!…あんなに小さくて泣き虫だったのに」

バラノアはコルザを茶化すように言った。

「…バラノア…。僕の心の内を知ってたんだね…。だから、あの日の夜、もう一つの心を消滅させに来たんだ。ジェムエレメントも一緒に…」

コルザは、さすがはバラノアといったように話した。バラノアはゆっくり頷いた。

「…あなた達の事は、ずっと見てた…。封印はされたけど、何故か成仏出来ないみたいで…。あなたがどんどん心を閉ざしていって、とても心配だった…。バーロンに、あなたがジェムエレメントを使って、いけない心を開こうとしていると言われて……阻止するわけにはいかなかった…」

バラノアは、あの夜の出来事を思い出しながら、遠くを見つめて言った。

「…結局は、利用されたんだけどね」

バラノアは、切ない笑顔をコルザに見せた。コルザは何も返すことなく、バラノアに笑顔を見せた。

「…私が、あなたの傍にずっといられたら、思い悩ますことは無かったのにね…。ごめんね、コルザ」

バラノアの言葉を聞いたコルザは、首を横にブンブン振って返した。

「謝るのは僕の方だ!…僕、バラノアが何で死んだのか、今まで知らなかった。…でも、リィーズ様から真実を聞いて…。僕、バラノアになんて謝ったらいいか…。いくら謝ったって、許されないことをした…」

コルザが必死に謝るのを、バラノアは、首を横に振って見ている。

「それに、僕の心が分裂したのは、バラノアのせいじゃない!…僕が…、自分の意思をちゃんと強く持っていれば…バラノアみたいに、もっと強く…っ!」

「いいえ。あなたは強くなった。…あなたはちゃんと、自分の力で心を取り戻した。…私、あの時のあなたを見て、とっても安心したのよ?」

コルザは顔を上げて、バラノアを見つめた。バラノアは、昔と変わらない笑顔を見せて立っている。

「……バラノア…」

「さ、そんな顔しないで、あなたには、次の問題が待ってるんだから!…お嫁さんを、ちゃんと選んであげないと!」

コルザはハッとして、顔を赤く染めた。

愛莉も思い出したかのように、赤くなってうつむいた。

「なんか、後継ぎもあっけなく決まっちゃったしー。でも、まぁ、私達は今まで通り、好きな事してていいみたいだし、良かったよね!お姉様!?…あれ?お姉様?」

退屈そうにしていたスヴァイは、姉のランバダと共に自室に戻ろうと、彼女に話し掛けた。だが、ランバダの姿は隣になく、スヴァイは彼女を探して、広間をキョロキョロ見渡した。

「…スヴァイ様、ランバダ様なら、あそこに…」

ミトが気付き、そちらを指をさして、スヴァイに言った。

「…あっ!」

スヴァイは、ミトが指をさした先にいるランバダを発見すると、とっさに声を発した。

「…あんた。(そう)っていったわよね?…どう?今夜お姉さんの所に来ない?」

ランバダは槍に目を付けたらしく、自分の身体を押し当てるように彼の腕を掴んで誘っていた。

「………」

「ねぇ、いいことしてあげるから!…付き人がいなくなって、お姉さん今夜一人で寂しいのよ。ね?」

ランバダに言い寄られる槍を、新志達はあっけに取られて見ている。

「お姉様!ずるーいっ!私だって、その子に目を付けてたのよー!?」

ランバダを見つけたスヴァイは、一目散にそちらに走って来ると、ランバダ同様に槍の腕を掴んで言い寄った。

「ねぇねぇ!君は、お姉様より、私の方がタイプだよね?お姉様みたいなケバイのより、プリティな私の方が、君には合ってるよー!?」

「なっ!?誰がケバイですって!?」

「あ、聞こえちゃったぁー?」

後継ぎの座が無くなり、同等の立場となった姉に、スヴァイは、もう敬意を払う必要がなかった。

「そ、槍君っ!!」

横で見ている陽奈は、槍が、年上の女に言い寄られている事に耐えられないようで、焦りを見せていた。

「…人の耳元でギャアギャアうるさいんだよ!どっちも相手にしないから、さっさとどっか行ってくれよ!オバさん達!!」

しびれを切らした槍の怒鳴りに、ランバダとスヴァイは固まった。

「っっ!?」

新志達も、凍り付いたように固まって、その様子を見ていた。

「……ス、スヴァイ様…」

スヴァイが罵倒ばとうされるのを見ていたミトは、顔を青くさせて、スヴァイの方へ駆け寄った。

「…ひ…ひどい…っ!!…スヴァイ…、スヴァイ、オバさんなんかじゃないもーんっ!!」

槍に言われたことがひどくこたえたのか、スヴァイは、泣きながら走って広間を出て行った。

「スヴァイ様―!!」

ミトは、スヴァイの後を追って、慌てて広間を出て行った。

「…この私にオバさんですって!?…あんた、いい度胸だわ…。後で夜這いに来たって、相手になんかしてやらないわよっ!!」

今まで誰からにも罵声ばせいを浴びせられたことがないランバダにも相当堪えたのか、ふらつく足を隠そうと、強気な言葉を吐いて、広間をそそくさと出て行った。

「…凄い…」

「さすがは…挿崎君(きざきくん)だぁ…」

あっけに取られて、その様子を見ていた新志と愛莉は呟いた。

「…や、やりますね」

パントラは、臣従である自分が絶対に出来ないことを、槍がやってのけてくれたことで、内心スカッとした気分になっていた。

その横で、ジュセはクスクス笑っている。

「…お城のお姫様達をないがしろにして…、君、後でどうなっても知りませんよ?」

あっけに取られて見ていた顕影も我に返り、眼鏡をくいっと上げて、意地悪そうに槍に言った。

「槍君っ!!良かった!!」

陽奈は安心して、また槍の腕に抱き着いた。

「っ!?さっき追い払ったと思ったら、またっ!?…もういい加減にしてくれよ!!」

槍は、抱き着いてくる陽奈に、呆れ顔で言った。

「……いいなぁ。カッコイイ人って、やっぱり得だよなぁ…」

陽奈と槍を見ている新志は、ボソッと呟いた。隣で聞いていた愛莉は、「懲りないなぁ」と言わんばかりに、呆れた表情で新志を見た。

リィーズと莉々は、冷や汗をかいて、一連の流れを黙って見届けていた。

「お見事!槍君!!」

バラノアは、楽しそうにガッツポーズをしていた。

みんなとは少し離れた場所にいるコルザは、姉たちが槍に罵倒されるのを、みんなと同様にあっけに取られて見ており、一連の騒動が静まったのを機に、新志達のいる方へ歩み寄って行った。

「……父様と僕の争いに巻き込んでしまって、本当にごめんね」

みんなにそう言いながら歩いて来るコルザに気付き、新志はそちらに顔を向けた。

「もう!さっきから、みんな謝ってばっかりじゃないか!いいんだよ!こうやって、全て無事に終わったんだからさ!!…ねぇ!?」

新志は、みんなを見渡して言った。

みんなは、「うん!」と頷いて返した。

コルザは、いつもと変わらない新志の様子を見ると、安心したように微笑んで、元の姿に戻っている新志の姿をじっと見つめた。

「……魔力…、父様との戦いで、全部使い果たしてしまったんだね…」

新志は自分の姿を見て、ハッとした。

「あ…。…やっぱり、僕、力を失っちゃったんだ…。あの時は無我夢中で、力を制御とか、考えてられなかったからさ…」

新志は、少し残念そうに、笑いながら言った。

「………」

コルザは、寂しい顔で新志を見つめた。

自分の守るために新志が魔力を使い果たしてしまい、罪の意識を感じている愛莉も、下を向いて黙った。

「…新志君。…本当に…、本当にありがとう…」

コルザは、目に涙を溜めて、感謝しきれない程の気持ちを、新志に伝えようとした。

「コルザ…。僕は、君が元の姿に戻れて、大王の座を継ぐことになって、すごく嬉しいよ!!…僕の力が役に立ったのなら、僕に出来ることは全てやり尽くしたんだ!!…だから、魔力なんて、僕にはもう必要ないんだよ」

新志の言葉を聞いたコルザは、目を見開いて新志を見つめた。

「……新志君…っ!」

コルザは、笑顔で自分を見つめる新志に、溢れ出る気持ちが募ったが、ギュッと目を閉じて涙をこらえた。

コルザの気持ちを察したジュセは、彼の後ろに回って、肩を抱いた。

「…コルザ。あなた、とても素敵なお友達に出会えたのね。…新志君、そしてみんなも…。力を貸してくれて、本当にどうもありがとう」

ジュセは、嬉しそうに涙ぐんで、みんなに頭を下げた。

「…私からもお礼を申し上げます。コルザ様の為に…、又、カラビーニア家の為に、力をお貸しくださって、ありがとうございました」

パントラも、コルザとジュセの横に立って、新志達に頭を下げた。

「も、もういいんだってば!僕たちそんなに大したことしてないんだって!…そんなに頭ばっかり下げられると、僕ら困っちゃうよっ!!」

新志は、困った顔で訴えた。

頭を上げたジュセとパントラは、新志の様子に笑顔を見せた。

「父様からお許しも出たし、しばらくゆっくりしていってよ。歓迎するよ。…それに、今日は疲れているだろうから」

涙を拭ったコルザは、笑顔に戻してみんなに言った。

「えっ?いいの?」

新志は愛莉と顔を見合わせて、嬉しそうに言った。

「この度のお礼に、ぜひ、おもてなしさせていただきます!」

パントラは、手を胸に当てて、お辞儀をした。

新志は、リィーズの方を向いた。

「だってさ!魔女ばあさん、いいでしょ?」

「おばあちゃんっ!」

愛莉も、お願いのポーズをとって、リィーズに訴えた。

リィーズは笑顔で返した。

「ええ。お言葉に甘えさせてもらいましょう!」

リィーズの言葉を聞いた新志達は、ぱぁっと笑顔になって喜んだ。

「やったぁ!!」

新志は、コルザの方へ駆け寄り、両手を取った。

「コルザとしばらく一緒にいられるんだね!」

「うん!」

嬉しそうに言う新志に、コルザも嬉しそうな顔で返事をした。

「………」

その様子を、リィーズとバラノアは、少し切ない表情で見つめた。

「…少しの間だけでも、一緒にいさせてあげたいものね…」

「…ええ。…でも、あまり長くはいられないわ…。時間を戻さなくてはいけない。それに、別れも辛くなるでしょう…」

「………」

二人の会話を、莉々はうつむいて聞いていた。


その日の夜。

大きな黄緑色の満月の見える西の塔の最上階には、リィーズの姿があった。

壁には、人間界とを繋ぐ入口である鏡がかかっていて、ちょうどその下にある石の足掛けにリィーズは腰を落としていた。

そのすぐ横では、バラノアが姿を現していた。

「……私の封印を解いた理由が、エルーガ様の陰謀じゃなくて、少し安心したわ…」

バラノアは、リィーズに話しかけた。

「疑っていたのよ。…コルザのもう一つの心を芽生えさせたのは、あの人だったから」

「…大魔王が、コルザを女にするように仕向けたっていうの?」

リィーズは顔を上げてバラノアに聞いた。バラノアは頷いた。

「話す機会を失って、威厳を見せつけても、コルザはどんどん自分から離れていく…。エルーガ様にとっては、最後の手段だったんでしょうね。コルザに考えを改めさせて、いっそ女にしてしまえば、娘たち同様に接することが出来ると…」

リィーズはうつむいた。

「大魔王の考えそうなことだわ…」

バラノアは微笑して、リィーズに目を向けた。

「…でも、ジェムエレメントを悪用しようとしたんじゃなかった。…ちゃんと、コルザの魔力を認めてくれてた…。コルザも、自分の気持ちをちゃんと話せる、優しくて強い子になったわ!」

「………」

大王の事を認め、強く成長したコルザの事を嬉しそうに話すバラノアを、リィーズは笑顔で見つめた。

「…私、人間界へ逃れるまでは、心を閉ざしがちだった、コルザの事が気になってたけど……」

バラノアは、笑顔を消して窓の外の湖を見つめた。

「………莉々の事…。びっくりしたわ。…まさか、私が死んだショックで、魔力を失ってしまっていたなんて…」

「コルザの魂を分裂させた後、あなたはバーロンの手から逃れるために人間界にやって来たのよね?…どうして、すぐに莉々の所に行ったの?」

リィーズは、バラノアが自分の所ではなく、莉々を選んだ理由が気になっており、本人に聞いた。

「…本当は、お母さんの所にすぐに行くべきだったんだけど…。どうしてだか、莉々の顔が浮かんで…。…あの子には、強力な魔力が備わってるってずっと思い込んでいたから。……でも」

バラノアは視線を落とした。バラノアの気持ちを察したリィーズが、続きを述べた。

「莉々には、魔力が無かった…」

バラノアは頷いた。

「…本当に申し訳ない事をしたわ。…あの日も、何度も謝った…。きっと、私の事を恨んでるって思ったから…。…でもあの子、私の事、一切攻めないのよ。攻めるどころか、私の話を最後まで聞いてくれて、私に協力したいとまで言ってくれた…」

その時の事を思い出し、だんだん涙が溢れ出したバラノアは、それをボロボロ落として、リィーズに言った。

リィーズは立ち上がって、バラノアと視線を合わせるように、彼女を笑顔で見つめた。

「…莉々はあなたの事を攻めたりなんてしないわ。…魔力が無くなってから、自分の事をあまり話さなくはなったけど、あなたの事を忘れるようなことは無かった。…私の花屋を毎日手伝ってくれるのは、あなたの大好きだった花を、毎日眺めることが出来るから…。あなたの事を思い出せるからなのよ?」

リィーズの言葉を聞いて、バラノアは、顔を両手で覆って、声を上げて泣き出した。

「…あの子から聞いたわ。私や愛莉、新志君に内緒にしていたのは、全て自分で解決しようとしたから…。あなたは、莉々をとても信頼していたのね」

リィーズは、バラノアに優しく言った。バラノアは、泣きながら頷いた。

「…あの子…、凄く強くなってる…。しばらく一緒にいて分かったわ。…私なんかより、もっと強い心が、あの子にはあるって…」

「…ええ。それは私にも感じるわ。…でも、コルザに魔力を与えてしまって、莉々はまた昔のように戻ってしまった…」

「それでも、莉々には内に秘めた強い心がある!…あの子に勇気を与える、何かが足りないだけ…。その何かが、あの子には必要なのよ!」

バラノアは顔を上げて、リィーズに訴えた。

「……難しいわね…。莉々は、自分の事は何も話さないし…。自分でも、それに気付いてないかもしれない…」

莉々を魔力があった頃の、芯の強い志を持った彼女に戻したいと、二人は願っていた。だが、彼女に足りない何かが見つけられないようだった。

「…私が傍にいてあげられたらなぁ…」

バラノアは、窓の方まで飛び、夜空に浮かぶ満月を見上げて言った。

「……私が成仏出来ない理由って、多分それだと思うのよ」

「莉々の傍にいてあげられない事?」

リィーズはバラノアの方に歩み寄って聞いた。バラノアはリィーズの方を向いて頷いた。

「私は、あの子の事が気がかりでしょうがないの…」

再度、満月に顔を向けたバラノアは、呟いた。


コルザは自室に、新志(あらし)(そう)顕影(あきかげ)を呼んで、楽しそうに談笑していた。

「…それにしても、エキゾチックなあなた様が、まさか男子だったとは…」

コルザの正体が男だと知った顕影は、ショックを隠し切れない様子で残念そうにうなだれた。

「なんかごめんね、勘違いさせちゃって…」

ベッドに座っているコルザは、微笑して顕影に謝った。

「別に謝ることないって。コイツの早とちりだし。すぐに思い込むのは、お前の悪い癖だ」

コルザの隣に座っている槍が、呆れ顔で顕影に言った。

「アハハ!でも、無理ないよ。僕も最初は綺麗な女の子だと思ったもん!」

コルザと向かい合わせで、床のクッションの上に座っている新志は、笑いながら言った。

「でも、城君(じょうくん)。これで分かったでしょ?ちゃんと魔法は存在するんだって!」

新志の言葉に、顕影はハッとした。槍は顕影にじろっと目を向けた。

「…ま、まぁ、僕の目に映った物は、全て真実ですから…。存在は認めます。でも、僕は真っ向から否定していたわけではありませんよ!?僕は最初から…」

顕影は、周りの視線にハッとした。

槍と新志が、意味深な目でじーっと顕影を見ている。

「な、何ですか?」

顕影はたじたじになって聞いた。

「僕らが空想だけで魔法の話をしてたんじゃないって、分かってくれたんだね?」

新志は顕影に聞いた。認めざるを得ない顕影は、しぶしぶ頷いた。

「…分かりましたよ…。君たちが中身のない話をしてると言ったことは、謝ります…」

謝罪する顕影を見て、新志達は笑顔で互いを見合った。

「城君も分かってくれて良かった!これで僕たち、本当の友達になれるね!改めてよろしくね!顕影君!」

新志は顕影に笑顔で言った。顕影は、目を丸くして新志を見た。

「…えっ?…こ、こちらこそ、宜しくお願いします…。あ、新志君…」

顕影は、照れ臭そうに新志の名前を呼んだ。

「新志に気に入られて良かったな。顕影!」

槍は、悪戯な笑みを浮かべて、顕影の名を呼んだ。顕影は、とっさに立ち上がって槍に言った。

「なっ!?き、君に呼び捨てにされるのは、なんだか腹立たしいですね!…じゃ、じゃあ僕も…」

「なんだ?」

槍の名前を呼ぼうとしたが、言葉を詰まらす顕影に、槍はギロッと睨んで聞いた。

「…き、君の事は、槍君と呼ばせてもらいます…」

「勝手にどうぞ」

二人のやり取りを見ていた新志とコルザは、クスクス笑い合った。

「でも、惜しい限りです…。あなたが女性なら、僕は放っておかないのですが…」

顕影は、再度コルザの方を向いて、彼の手を握って言った。

たじたじになるコルザを見兼ねた槍は、顕影に言った。

「お前…、いい加減諦めろよ!コルザはこれから、結婚相手を選ばなきゃいけないんだぞ?お前なんか対象外なんだって!」

槍の発言に、コルザと新志はハッとした。

「そういえば、そうでしたね…。王子ともなると大変ですね。僕らとそうお歳も変わらないのに、もうお妃を選ばなくてはならないのですから」

顕影は、コルザの気持ちを察するように、彼を見つめた。

「……僕だって、まだそんな話、早いと思ってるよ。…正直なところ、まだ、そんな人、決められないし…」

コルザは、視線を落として言った。

「好きな人、いないのか?」

槍は疑問に思ってコルザに聞いた。

「えっ?……う、うん…。僕、ほとんど城から出たことなかったし、同じ年代の女の子と関わることなんて無かったから…」

「そんなことないじゃないか」

コルザの言葉を否定する新志の方に、みんなは顔を向けた。

「…え?」

コルザは、少し驚いて、新志に聞いた。

「僕聞いたよ?人間界にいた時、愛莉ちゃんが、コルザに告白したって!」

新志の発言に、槍と顕影は驚いた。

「えっ!花見さんが?」

「彼女、やはり女王の座を狙っていたのですね」

新志は立ち上がった。

「違うよ!…そりゃあ、最初はそういう欲望もあったかもしれないけど…、でもそれだけじゃ、好きだなんて言わないと思う!僕、愛莉ちゃんがコルザを好きになった理由、分かるよ!僕だって、長い事一緒にいて、コルザの事、どんどん好きになったもん!だから、僕、愛莉ちゃんはコルザの事、信頼して告白したんだと思ってるよ!」

興奮して言う新志の様子を、三人は黙って見ていた。

だが、コルザはクスっと笑って、新志に話しかけた。

「新志君…」

「…何?」

「愛莉ちゃんが、君にどんな伝え方したのかは分からないけど、僕、愛莉ちゃんに「好き」だとは言われてないよ」

「…えっ!?」

新志は驚いてコルザを見た。槍と顕影もコルザの方に顔を向けた。

「愛莉ちゃんは、自分の心に迷ってるんじゃないかな?…魔法界のプリンセスになりたいっていう彼女の夢は、この城が父様のゆがんだ考えの末、崩壊していくのを防ぎたかったから。…でも、それが無くなった今、愛莉ちゃんの想いは、別の方に向いてるんじゃないかって、僕は思うんだよ」

新志は力が抜けたように、ぺたんと床に座り、コルザの話を黙って聞いた。

「だって、もし、まだその夢を抱いているんだとしたら、父様に頼まれたあの時点で、答えを出していたはずでしょ?」

コルザは優しい笑顔で、驚いている新志の顔を見つめた。

「…で、でも…。僕は、愛莉ちゃんが魔法界のプリンセスになるために、ここまで頑張って来たのに…。そ、それじゃあ、あんまりじゃないか…」

「新志君は、愛莉ちゃんが嫌がっても、無理にでも魔法界のプリンセスにしたいの?」

「………」

コルザの問いに、新志は少し考えて、首を横に振った。

新志は、うつむいて躊躇とまどいながらコルザに聞いた。

「…じゃ、じゃあ、コルザは、誰をお嫁さんに選ぶの…?」

新志の問いに、今度はコルザがうつむいて、少し考えた。

「……誰も…。…誰も選ばないよ…」

「……愛莉ちゃんが、もし、君の事を好きだって言ったら…?」

新志は顔を上げて、不安そうにコルザに聞いた。

「………。愛莉ちゃんが、もしも迷ってそう言ってくれてるなら、僕は彼女の考えを改めさせるしかないな。……明日、愛莉ちゃんと、少し話してみるよ!…愛莉ちゃんも、きっと悩んでるはずだ」

コルザは、笑顔で言った。新志は、立ち上がってコルザに言った。

「ぼ、僕も!僕も一緒にいてもいい?」

新志の発言に、驚いた槍と顕影は彼を止めた。

「お、おい、そこはお前の絡むところじゃないだろ?」

「そうですよ!コルザさんと花見さんの問題ですよ?場をわきまえないと…」

力強い眼差しで自分を見つめる新志に、コルザは彼の心境を察して頷いた。

「…いいよ。新志君も一緒にいてくれる?」

槍と顕影は驚いてコルザを見た。

「うん!ありがとう、コルザ!!」

新志は嬉しそうにコルザに礼を述べた。コルザはそんな新志を笑顔で見つめた。

「………」

槍は、新志の様子を見て、「仕方ないな」といった顔で微笑した。


ジュセの部屋では、愛莉、莉々、陽奈(ひいな)が椅子に座り、お茶を囲んで話をしていた。

「疲れたでしょう?さ、ハーブティーよ。今夜はゆっくり休んで」

ジュセは、城の為に力を尽くしてくれたみんなに、気を使って言った。

「ありがとうございます」

三人は、カップを取って、ハーブティーを飲んだ。

「………」

みんなは、愛莉の心境が気になっているようだが、誰もそれには触れずに黙っていた。

「…あの…」

愛莉が話し出し、みんなはそちらに顔を向けた。

「新志君の魔力って、もう戻らないの?」

愛莉は向かいに座っているジュセに聞いた。

「…どうかしら…。新志君には、もともと魔法使いの素質があるみたいだから、本人が希望さえすれば、魔力を解放して、また魔法使いには戻れるんじゃないかしら?」

「…そう…なんだ…」

愛莉は少し安心したように言った。

「愛莉ちゃんは、新志君に魔法使いのままでいて欲しいの?」

ジュセの隣に座っている陽菜が、愛莉に聞いた。

「えっ!?あ、…う、うん、まあね。…魔法使いになった時、新志君凄く嬉しそうだったから…」

愛莉は、ごまかすようにハーブティーを飲んだ。

「愛莉ちゃんって、本当に新志君の事、よく見てるよね」

愛莉は、ハーブティーを吹き出しそうになって、慌てて返した。

「ええっ!?そ、そんなことないじゃん!」

陽奈は、笑って愛莉に言った。

「どうしたの?そんなに慌てちゃって!私、いつもあなた達の事見てたのよ?だから分かるの。あの時も、命がけで新志君を守ってたわ。本当に凄いと思った…」

陽奈は、大王との戦いの際、新志を守った愛莉の行動にひどく胸を打たれたらしく、その時の光景を思い出しながら言った。

「あ、あれは、だって…、友達が危険な目に遭ってるのに、助けないわけにはいかないじゃん!ひ、陽奈ちゃんの時だって、そうだよ?」

愛莉は赤くなって、慌てて返した。だが、陽奈には愛莉の気持ちが分かっているのか、笑顔でかわされてしまった。

「…王子様との結婚、どうするの?」

みんなが今一番気になっている質問を陽奈が愛莉に投げかけたことに、ジュセと莉々は顔を上げて、愛莉に目をやった。

「…なっ…!?…け…けっこん…だなんて…そ、そんなっ…!」

「結婚」という言葉をじかに出され、愛莉は真っ赤になって言葉を詰まらせた。

「だって、ここにいる間に返事をしなきゃいけないんでしょ?」

「………」

核心を突かれた愛莉は、黙ってうつむいてしまった。

ジュセと莉々は、愛莉を心配そうに見つめている。

「……お姉ちゃんは、どう思う?」

愛莉は、隣にいる莉々に話を振った。

「…えっ!?」

突然振られた莉々は驚いた。

「…私…、コルザと結婚した方がいいと思う?」

「………」

莉々は、何も返せずに黙った。

「この際だから、はっきり言うけど…。私、おばあちゃんに頼まれて、お姉ちゃんの代わりに魔法界のプリンセスを目指してたんだよ?」

愛莉の言葉に驚いて、莉々は顔を上げた。

「お姉ちゃん、以前は私以上に凄い魔力を持ってたでしょ?おばあちゃんは、お姉ちゃんに魔法界を変えてもらいたいと思ってたみたい…。でも、バラノアさんの事で魔力が無くなったお姉ちゃんには、それを頼めなくなっちゃって…。代わりに私にお願いしてきたんだ」

「………」

莉々は愛莉の話を黙って聞くだけだった。そんな莉々に愛莉は苛立ちを見せた。

「ねぇ!?何とか言ってよ!…お姉ちゃん、また前みたいに話さなくなっちゃって…。魔力が無いお姉ちゃんって、意気地がないただの人形じゃんっ!!」

莉々に言いたいことをぶつける愛莉を、見かねたジュセが止めた。

「愛莉ちゃん、そんなに莉々さんを攻めないで。莉々さんだって、思っていることはあるはずだわ。…今、心の中で整理しているはずよ。あなたみたいに、お話が得意じゃないみたいだから、もう少し、ゆっくり聞いてあげて」

「………」

ジュセに言われ、愛莉は仕方なしそうに莉々を見ると、静かに椅子に座った。

「……愛莉は…どうしたいの?」

莉々は静かに口を開いた。

「どうしたいって?」

愛莉はジロッと莉々の方に目を向けた。

「…プリンセスになりたいかよ。私の代わりとしておばあさんに頼まれたんでしょ?…でも、そこには愛莉の意思はないわ…。あなたが、どうしたいかで決まる話よ?」

「……。私は、魔法界を変えるために、プリンセスになろうとしたの。でも、コルザが後を継ぐことで、それはしなくて済んだんだし…。…だから…。後は、コルザがどうするか…」

愛莉はうつむいた。莉々は愛莉の方を向いた。

「…コルザに選んでもらうの?」

「その方がいいかも…。コルザが私をお嫁に選んでくれるなら、私は従うし…」

「……そんなの…卑怯よ…」

莉々の言葉にカチンときた愛莉は、莉々の方を向いて怒鳴った。

「卑怯って何?私は大王様にお願いされて候補に選ばれたんだよ!?それに、コルザのお嫁さんなんだから、自分で決めるのは当たり前でしょっ!?」

今まで愛莉に一方的に言われ続けて来た莉々も、たまらず言い返した。

「違うわっ!!私は愛莉の意思を聞いてるのよっ!!愛莉の将来の事なのよ!?あなた自身が決めなくてどうするのっ!?」

「……っ!?」

莉々が言い返してきたことに驚いた愛莉は、言葉を詰まらせて黙った。

ジュセと陽奈は、二人が感情的になるのをオロオロしながら見ている。

「……愛莉は…。愛莉は…ちゃんとコルザの事が好きなの…?」

「……えっ!?」

少し躊躇いながら聞く莉々に、愛莉は驚いて聞き返した。

「…もし、コルザが愛莉を選んでも、愛莉がコルザの事、ちゃんと好きじゃなかったら、あなたもコルザも不幸になるのよ…?そういう事までちゃんと考えないと…。愛莉の気持ちを、ちゃんとコルザに言ってあげないと…駄目になる…」

莉々は下を向いて、ハーブティーの入ったカップを真っすぐ見つめて言った。

「………」

愛莉は少し考えた。追い込まれた愛莉は、決心したように莉々の方を向いた。

「……私、コルザの事、好きだよ…」

莉々はハッとして、愛莉を見た。ジュセと陽奈も驚いたように愛莉を見た。

「じゃ、じゃあ、愛莉ちゃん、ここで、プリンセスとして…?」

陽奈は、恐る恐る愛莉に聞いた。

愛莉はじっと莉々を見ている。莉々は、愛莉の答えが予想していなかったものだったようで、驚いたまま彼女を見つめていた。

「…お姉ちゃん、それでもいい?…私と、離れ離れになるけど…」

愛莉は、真っすぐ莉々を見つめて聞いた。

「………」

莉々は、愛莉から目を背けず、黙っていたが、しばらくすると、うつむいて答えた。

「…愛莉が決めたことだったら…。私は賛成するわ…」

「………」

目を背けて言う莉々を黙って見つめると、愛莉は、手を「パンッ」と鳴らして言った。

「よしっ!!じゃあ、この話はこれで終わり!!今日は疲れたし、もう寝よ!!」

そう言って、立ち上がってその場をそそくさと去って行く愛莉に、陽奈は慌てた様子を見せた。

「え?ええ?そ、そんなに簡単に決めていいの?」

陽奈も席を立ち、愛莉の後を追った。

「………」

ジュセは、黙って莉々の様子を覗った。

莉々は、切ない表情でうつむいていた。


真夜中の食堂では、一日の仕事を終えたパントラが、疲れた様子で椅子に座り、一息ついていた。

すると、向こうから人の気配を感じ、パントラはハッとしてそちらに顔を向け、立ち上がった。

「…あ、ごめん。休憩中だった?」

食堂にやって来たのは、キルスを抱いたコルザだった。

「コルザ様っ!?い、いかがなされました!?何か申しつけて下されば、ご用意致しますのに!」

パントラは、慌てた様子でコルザに言った。

「ううん。いいんだよ。…キルスがお腹空いたみたいだから、何かあげようかなと思っただけ」

コルザはキルスを撫でながら言った。

「さようでしたか…。ミルクでよろしいですか?」

「うん。ありがとう」

パントラは、すぐに台所に入り、鍋にミルクを入れて温め始めた。

コルザはすぐ近くの椅子に腰かけ、パントラが支度にかかるのを黙って見ていた。

「新志君たちは、お休みになられましたか?」

パントラはずっとこちらを見ているコルザに聞いた。

「うん。だいぶ疲れてたんだろうね。よく眠ってるよ」

キルスを撫でながら言うコルザに、パントラはチラッと顔を向けた。

「…コルザ様は…今夜は眠れないのですか?」

コルザは、キルスを撫でる手を止めて答えた。

「……なんだか、寝付けなくて…。今日はいろいろあったから…」

コルザの気持ちを察し、パントラは頷いた。

「そうですよね。無理もありません…」

温めたミルクをお皿に移し、パントラは、コルザのいるテーブルの方へそれを運んだ。

「どうぞ」

「ありがとう。さ、キルス」

コルザは、キルスを抱き上げ、ミルクの入ったお皿の方に移動させた。キルスはミルクを見ると、静かにそれを飲み始めた。

「………」

コルザは黙ってキルスを見つめている。

「……僕、キルスの中に入ってたんだよなぁ…。こんなふうに上手に飲めなかったよ」

コルザは、人間界でのことを思い出して、笑いながら言った。

「大変でしたでしょう?慣れない事ばかりで」

パントラもキルスを見つめながら、人間界でコルザがいかに苦労したかを察し、同情した。

「でも、新志君たちがいてくれたから。本当にお世話になりっぱなしだった…」

コルザは頬杖をついて、新志達との思い出に浸った。

「………」

パントラは、黙ってキルスを見ている。コルザはパントラに目をやり、身体を起こして話し掛けた。

「…パントラにも、迷惑かけたね。…心配もかけた…。ごめんね…」

パントラは、慌てて首を横に振った。

「いえっ!迷惑だなんて!そんな風に言わないで下さい!…私こそ、もっとコルザ様の気持ちを察することが出来ていたら、こんなことには…。臣従失格ですね…」

パントラは不甲斐ない自分を攻めたが、彼の事を良く知っているコルザは、彼の言葉を聞いて微笑した。

「そんなことない。パントラは、充分に僕と姉様を助けてくれてる。本当に感謝してるよ」

「…そ、そんな…。もったいないお言葉…」

パントラは、照れながら言葉を返した。

「………もう一人の僕の事、好きになってくれて、ありがとう…」

目を伏せて言うコルザの方に、パントラは驚いて目を向けた。

「……き、聞いておられたのですね…」

あの時のバーロンの言葉を、コルザに聞かれてしまったことに、パントラは動揺を隠せずにいた。

「…臣従の分際で…申し訳ありません」

主にいけない恋心を抱いてしまい、パントラは、とっさに頭を下げた。

「…嬉しかったよ…」

「えっ!?」

思いがけないコルザの反応に、パントラは驚いて頭を上げた。

「…僕、女性に生まれてたら、きっとパントラの事、好きになってる。…今でも好きだから、それはよく分かるよ。…あっ!でも、今の好きは、変な意味じゃないよっ!?」

コルザは慌てて言い直した。

「…コルザ様…」

パントラはコルザを見つめた。

「…だから、主と臣従なんて、壁を作らずに、パントラも素直に気持ちを表したらどう?」

「………?」

コルザの言っている意味が分からず、パントラは頭に「?」を浮かべた。

「もう一人の僕ってさ、誰かに似てたよね?」

コルザはパントラにクイズを出すように、答えを促した。

「…えっと…、それは、どういう…?」

パントラは理解出来ずに、コルザに聞いた。

「もう!パントラは自分の事には鈍いなぁ!ジュセ姉様だよ!ジュセ姉様に似てた!だからパントラは、ジュセ姉様に似てる女の僕に好意を抱いてくれたんだよ!」

「……っ!?コ、コルザ様っ!?」

パントラは真っ赤になって、コルザを見た。

「ね?図星だろ?」

コルザは、パントラを茶化すように笑った。

「か、からかっているんですか!?もう!コルザ様はお人が悪い!」

パントラは顔を赤くしたまま、コルザからプイッと顔を背けた。

「……コルザ様は、どうなさるのですか?」

パントラの質問に、コルザは彼の方へ目を向けた。

「お妃様です。…やはり、愛莉さんをお選びに?」

大王に推薦されたからには、父親の言う通りにするのであろうかと、パントラはコルザに探りを入れるように聞いた。

聞かれたコルザは、視線を落とした。

「…さっきも、新志君達とその話題になってね…。…愛莉ちゃんにとっては、一生の事だし、住む環境も変わってしまうから、すぐには決断出来ないと思うんだ。だから明日、愛莉ちゃんの気持ちを聞いてみようと思って」

パントラはコルザの話を聞くと、頷いて返した。

「それが良いと思います。…ですが、コルザ様…?」

パントラには一つ気になることがあるようで、コルザにそのことを話そうと試みた。

「…?何?」

コルザは疑問に思って、パントラの顔を見た。

「コルザ様は、それでよろしいのですか?」

「……?どういう事?」

「だ、だって、大王様に言われるがままで…、コルザ様には、他に決めた方がいらっしゃるのではないかと…」

パントラには、コルザの意中にいる人物が分かっていた。パントラは、その人物を候補に出さないコルザを、不思議に思っていた。

「……そんな人、いないよ。パントラが一番よく知ってるじゃないか」

コルザはそう答えると、キルスがミルクを飲み終えたのを確認し、椅子から立ち上がって、キルスを抱き上げた。パントラは、部屋に戻ろうとするコルザを目で追った。

「……コルザ様…」

自分の気持ちを抑えようとするコルザに、自分からはこれ以上何も言えないと思ったパントラは、部屋へと足を向けるコルザを黙って見届けた。

「おやすみ。パントラ」

キルスを抱いたコルザは、振り返ってパントラに言った。

「…おやすみなさい。コルザ様…」

パントラは頭を下げ、コルザが食堂を出て行くのを見送った。

(……コルザ様は…莉々さんの事を忘れようとしているのでしょうか…)

顔を上げたパントラは、遠くを見つめて思っていた。


翌朝

朝食を済ませた新志(あらし)達は、魔法界で何をするかを楽しそうに相談していた。

「ねぇねぇ!コルザの言ってた水溜って、あれの事?」

愛莉は、廊下の窓から見える庭の水溜を指さして、コルザに聞いた。

「うん。そうだよ!」

コルザは笑顔で愛莉に返した。

「うわぁ!広いんだね!僕も泳ぎたいなぁ!」

「お前、クロールの息継ぎ出来ないじゃないか」

新志の言葉に(そう)がツッコんだ。

「そ、そうだけど!あんなに広いところで泳いだら、上手くなった気分になれるかもよ?」

「新志君の頭はいつもポジティブ思考で羨ましいですね」

今度は顕影(あきかげ)が新志をいじった。

「も、もう!なんだよー!二人して僕を馬鹿にして―!コルザ助けてよー!!」

槍と顕影にからかわれた新志は、コルザに助けを求めた。

コルザは笑いながら、新志の頭を撫でた。

「あら!綺麗なお花が咲いてるわ!」

別の角度から庭を見ていた陽菜が、咲いている花に気付いて窓の方に駆け寄った。

莉々もそちらに関心を抱き、陽奈の横に立って花を眺めた。

「見たことないわ…。綺麗…」

莉々が魔法界の花に興味を示すのを見ていたジュセは、莉々の横に立って言った。

「セルスビションよ。あのピンクの小さい花は、ピリムっていうの。どちらも、バラノアのお気に入りだったわ…」

莉々はジュセの方へ顔を向けた。

「…へぇ。叔母さまの…。素敵ですね!」

莉々は再び花の方へ目を向け、じっとそれを見つめた。

「………」

コルザは、目を輝かせて花を見つめる莉々をじっと見ていた。すると、体の向きを変え、愛莉に話し掛けた。

「愛莉ちゃん。ちょっと、話したいことがあるんだけど、いいかな?」

愛莉は、胸をドキッとさせて、コルザの方を向いた。

「えっ?…う、うん。いいよ…。…ふ、二人だけで…?」

愛莉は、身体をもじもじさせて、コルザに聞いた。

「ううん。新志君も一緒だよ」

「…な、なんで新志君も?」

当然コルザの妃の話であろうと思っていた愛莉は、何故、新志が話に加わるのか、疑問に思って聞いた。

「僕がいたら駄目なの?」

新志はムッとして愛莉に言った。

「駄目じゃないけどさぁ…」

愛莉は不満そうに新志を見た。

そんな愛莉を見て、コルザが話しかけた。

「愛莉ちゃん、新志君と一緒の方が話しやすいでしょ?」

「えっ?そんなことないけど!?ど、どういう意味!?」

愛莉は慌ててコルザに言った。

コルザは笑いながら、二人を誘導した。

「まぁまぁ。とりあえず、こっちへ。皆さんは、ゆっくりしていて下さい。…ジュセ姉様、後、お願いできますか?」

「ええ。分かったわ」

ジュセは頷いて、コルザに返した。

コルザは、みんなの事をジュセに頼むと、新志と愛莉を連れて、その場を後にした。

当然、場のみんなも、三人が何の話をするのかが分かっていて、心配した顔で彼らを見送った。

「…新志、花見さんを手放すなよ…」

槍はボソッと呟いた。

「愛莉ちゃん、やっぱりプリンセスになるのかなぁ…。新志君はどうするの?」

陽奈は、新志と愛莉が一緒になって欲しいと願っていて、不安そうに、胸の前で指を組んでいた。

「………」

莉々は、切ない顔で三人の背中を見つめると、また、外の花に目をやった。


「あ、コルザ様!」

庭へと続く扉を開けて待機していたパントラは、コルザ達が来ると声をかけた。

「本当にこちらでよろしいのですか?お部屋の中の方が静かですが…」

「いいんだよ。二人には、辛気臭い応接室は似合わないからね」

コルザはパントラにそう言うと、新志と愛莉を庭へと連れ出した。

「さ、二人共、どうぞ!」

新志(あらし)と愛莉は、庭に出た。目の前には、先程話題にしていた大きな水溜が広がり、周りは草木が生え、緑が広がっていた。

辺りには、ジュセが言っていた花の他にも、数種類のいろんな色の花が咲いていて、昨日とは別世界の空間が広がっていた。

「わぁ!まるで物語に出てくるお姫様になったみたい!!」

愛莉は庭に飛び出し、辺りをクルクル駆け回って、感激していた。

「日が照ってる時の魔法界の城の外は初めてだもんね!うわぁ…!本当に綺麗なところだね!!」

新志も愛莉同様に、感激した様子を見せていた。

「二人共、そこへ座って」

コルザは、木陰になっているベンチへ、二人を案内した。

二人は辺りを見渡しながら、ベンチへ腰かけた。

二人の向かいにある、一人用の椅子に腰かけたコルザは、話題へ入った。

「まず、二人には、とてもお世話になったから、そのお礼を言わなくちゃね…」

コルザの言葉に、新志と愛莉は慌てた。

「だ、だから、もういいってば!」

「そうだよ!もう聞き飽きたぐらい言われてるもん!」

コルザは首を横に振った。

「そうはいかないよ。僕から、ちゃんと二人にお礼を言わせて欲しいんだ。…本当に、僕のことを助けてくれて、どうもありがとう。一生懸命に僕の身体を元に戻そうとしてくれた二人の気持ち、凄く、嬉しかった…」

コルザは、二人に向けてお辞儀をした。

「………」

新志と愛莉は、コルザを見つめていた。

「僕らだって、コルザと出会えて、いろんな経験をして、凄く楽しかったよ!」

「うん!魔法界のお城に来られるなんて、滅多に出来る事じゃないもん!」

新志と愛莉は、笑い合いながら言った。

そんな二人を、コルザは微笑んで見つめた。

「新志君」

コルザは、新志の顔をじっと見つめた。

突然声を掛けられ、新志は少し驚いて、コルザを見た。

「は、はいっ?」

「新志君は、もし、愛莉ちゃんが、魔法界に残りたいって言ったら、どうする?」

「えっ!?」

唐突な質問に、新志は目を丸くした。愛莉も驚いて、新志の方を見た。

「…そ、それって…。その…、愛莉ちゃんが、魔法界のプリンセスになることを選んだらって事…?」

新志は恐る恐るコルザに聞いた。コルザは黙って頷いた。

新志は、愛莉の方に顔を向けた。すると愛莉は、気まずそうにうつむいた。

「………」

新志は困り果てて、黙ってしまった。

「…嫌だよね…?…ずっとそばにいた人と、急に離れ離れになるのは…」

新志と愛莉は顔を上げて、コルザを見た。

「…短い間だけど、僕、人間界にいた時、二人と一緒にいたから分かるんだよ。新志君と愛莉ちゃんは、強い友情で結ばれてるって」

新志と愛莉は黙って聞いていた。コルザは話を続けた。

「僕だけじゃない。僕より二人の事をずっと見て来た莉々さんが、そう断言してるんだ。二人の間には、他の誰も入ることのできない「絆」がそこにあるんだって」

新志と愛莉は互いを見合うと、赤くなってうつむいた。

「だから、僕は、そんな二人を引き裂くことはしたくないんだ。…父様は愛莉ちゃんの魔力をかって、ああ言ってるけど、大事なのは気持だと思うんだよ。…だから、愛莉ちゃん…」

コルザは、今度は愛莉に顔を向けて話しかけた。愛莉は顔を上げて、コルザを見た。

「愛莉ちゃんは、自分の気持ちを素直に言ってくれたらいいんだよ?」

愛莉はしばらく黙って考えた。だが、何かを決心し、急に立ち上がって、コルザへ話し出した。

「…私っ…!…私はっ…、コルザの事、好きだよ!」

コルザと新志は、愛莉の発言に驚いた。

「優しいコルザの事、私、好き…っ!」

顔を真っ赤にして言う愛莉に、コルザと新志は黙って愛莉を見つめていた。

「……でもっ!」

愛莉は目を閉じて、視線を背けた。

「…私…、魔法界に残って…、ここでプリンセスとして暮らしていく自信ない…」

それを聞いたコルザは、それが一番の愛莉の気持ちだと分かり、目を閉じて頷いた。

「…ありがとう。愛莉ちゃん。それが、君の気持ちだね」

コルザが諦めたように言うのを察した愛莉は、慌ててコルザの方を向いて言った。

「あっ、新志君が残ってくれるなら!」

突然自分の名前が出され、新志は驚いて愛莉を見た。

「新志君がまた魔力を手に入れて、ここに残ってくれるなら、私、ここにいる!…そうしたら、コルザは一人じゃなくなるでしょ?」

突然の愛莉の提案に、新志は戸惑いを隠せず、とっさに立ち上がった。

「ま、魔力を手に入れるって…、そんな簡単に出来る事なの!?」

「ジュセ様が言ってた!新志君の魔力を解放したら、また力が戻るって!だから、コルザに解放してもらって、ここで一緒に暮らせれば…」

「そ、そんなっ…」

愛莉の急な思いつきと勢いに、新志は困り果てた。

「…もう、いいんだよ…」

コルザは目を閉じたまま、二人に言った。

「…えっ?」

新志と愛莉は、コルザの方に顔を向けた。

「…二人が無理に魔法界に住む必要はない。…僕は、一人じゃないよ。ここには、ジュセ姉様やパントラ達がいる。…愛莉ちゃんが、僕の事を気にかけて言ってくれてるのなら、それは心配ないんだ」

コルザは顔を上げて二人を見つめた。

「もちろん、二人と離れるのは、すごく寂しいことだけど…。でも……、二人の答えはとっくに出てるみたいだね」

「……え…?」

新志と愛莉は、理解出来ずにコルザを見た。

「二人は、離れちゃ駄目だ。人間界へ戻って、今までと変わらず、ずっと一緒にいるべきなんだよ!」

「…コ、コルザ…」

新志と愛莉は、切ない顔で、コルザを見つめた。

「新志君には愛莉ちゃんが、愛莉ちゃんには新志君が…。互いに必要な存在なんだ。二人は今ここで、僕にそれを証明してくれたじゃないか!」

コルザは嬉しそうに、笑顔で二人に言った。

新志と愛莉は、赤い顔で、ストンとベンチに腰を落とした。

「…コルザ…、まさか、これを伝えたくて、僕たちを…?」

新志は赤い顔をコルザに向けて、恥ずかしそうに聞いた。

「そうだよ!…今までのお詫びって言っちゃ何かな?…二人の為の恩返しになったなら、いいんだけどな!」

コルザの言葉を聞いた愛莉は、ガクッとうなだれた。新志は愛莉を心配して、そちらに顔を向けた。

すると、愛莉は急に立ち上がって、大きな声をあげた。

「もーうっ!意地悪だなー!コルザはっ!!」

新志とコルザは、びっくりして、愛莉を見上げた。

「……恥ずかしいじゃん…。もうっ!……でも、ありがとっ!!」

愛莉は、頬を赤らめて、笑顔でコルザに言った。

コルザは安心した顔で、愛莉に言った。

「こちらこそ、僕の事、気にかけてくれてありがとう!」

二人が笑顔で見つめ合うのを見ていた新志には、気になっていることがあるようで、少し間をおいて、コルザに話しかけた。

「……あの…さ…、じゃあ、コルザ…、お嫁さんの話…どうするの…?」

愛莉もそれが気になり、再びベンチに腰かけた。

「言ったじゃないか。僕はまだ誰も選ばないって。そんなこと、まだ考えられないよ」

「大王様、それで承知してくれるの?」

愛莉は、自分が候補から外れ、大王の期待に応えられないことに、若干の罪悪感を抱いた。

「…説得するよ。僕も、そういう事は、簡単に決めたくないから」

「…そう………」

愛莉がプリンセスになるかどうかの話は終わり、三人は少しの間黙って、その場に座っていた。

「…莉々さんが、僕らに強い絆があるって言ってたの…?」

新志は、先程の話が気になったようで、コルザに聞いた。コルザは新志に頷いて返した。

「そうだよ。昔から、ずっと見て来たって。…莉々さん、君たちの事、羨ましがってた」

新志はハッとした。

「僕にも、それ言われた…。そうか、コルザにも話してたんだね…」

新志は、以前に莉々からそのことを言われ、勘違いして彼女に告白してしまった恥ずかしい記憶をよみがえらせた。

コルザは、恥ずかしそうにはにかむ新志に微笑んだ。

「僕もね、そう思うんだ」

「えっ?」

新志は顔を上げてコルザ見た。

「僕も、新志君と愛莉ちゃんを羨ましく思うよ。強い絆で結ばれる相手なんて、そう簡単に出会えるものじゃないしさ。…僕にも、そういう人がいたらなぁって…」

視線を少し下げて言うコルザに、新志と愛莉は目を向けると、互いの顔を見合わせた。

「…じゃあ、僕は明日、父様に妃を迎える意思がない事を伝えるね。……この話は、これでお終いだ!」

コルザは立ち上がって、二人に言った。二人も立ち上がろうとすると、コルザがそれを止めた。

「二人はしばらくここにいなよ!僕がいたから、最近、二人きりになることなんてなかったでしょ?」

「えっ!?」

二人は戸惑って、コルザに目を向けた。

「じゃあね!二人はここで、ゆっくり話でもしてて」

コルザは、そう言うと、満足そうに向こうへ歩いて行った。

「………」

コルザが去って行くのを見届けた新志と愛莉は、気まずそうにうつむいた。

「…私達の事…羨ましいってさ…」

愛莉は微笑して、新志から視線を背けるように言った。

「…愛莉ちゃん、ほんとにいいの?」

「何が?」

気まずそうに聞く新志の問いに、愛莉は聞き返した。

「…ここに残らなくて…だよ…。愛莉ちゃんは、魔力があるのに…。人間界へ戻ったら、なんだかもったいない気がする…」

「…さっき、コルザが言ってたじゃん。…大事なのは気持ちだって…。私は、ここに残ったら、きっと駄目になる気がする。…おばあちゃんも、お姉ちゃんもいないし…。それに、新志君だって…」

愛莉は恥ずかしそうに言った。

「………」

新志はそんな愛莉の方へチラッと目をやった。

「……コルザには…。コルザと莉々さんにはお見通しだったんだなぁ…」

「え?」

愛莉は新志の方を見て聞き返した。すると、新志は立ち上がり、愛莉の前に立った。

「…な、なに…」

愛莉は、突然の新志の行動に焦り、驚いた顔で新志を見上げた。

「…愛莉ちゃん…。ずっと…、ずっと黙ってたけど…。…僕、その…、愛莉ちゃんのこと…っ」

新志が何を言おうとしているのかが分かった愛莉は、とっさに立ち上がり、顔を真っ赤にして、新志の言葉をさえぎった。

「ま、待ってっ!ストーップっっ!!」

新志は慌てて話すのを止めた。

「な、なんだよっ!?」

「新志君っ!雰囲気に飲まれて勢いで言おうとしてないっ!?」

「そ、そんなことないよ!僕は真剣だっ!!」

「…っ!だ、だって、この間お姉ちゃんに告白してたじゃんっ!?」

「あ、あれはっ!その、僕の勘違いで、い、勢いで…」

「ほらぁっ!!」

「い、今は違うっ!!」

二人は顔を真っ赤にして、息を切らして言い合った。

だが、新志の真剣さに、愛莉は言い返せなくなって黙った。

「愛莉ちゃんを…、愛莉ちゃんを好きな気持ちは勘違いなんかじゃない!…小さい時から一緒にいたから、いつもそばにいるのが当たり前だったけど…。さっき、コルザに言われて気付いたんだ…。僕らにとっては当たり前でも、みんなには違う…。愛莉ちゃんのように、心の通じ合える、強い絆で結ばれるような相手は、簡単には出会えないって!」

愛莉は、新志の言葉をうつむいて聞いている。

「…僕にとって、愛莉ちゃんは、なくてはならない存在なんだ。僕、こんな性格で、女の人に惹かれやすいけど…。愛莉ちゃんみたいに心の許せる相手と出会ったことは無かった…。だから……っ!」

新志は愛莉の肩を両手で(つか)んで、目を合わせるように愛莉と身体を向かい合わせた。

「…っ!?」

愛莉はドキッとして、真剣なまなざしの新志を見つめた。

「僕、愛莉ちゃんの事…ずっと好きだった…」

「……っ!?…新志君…。………」

愛莉は視線を背けて、目を閉じた。

愛莉からの返事を待つ新志は、その様子に不安を抱いた。

「……ねぇ…。私が何で、大王から新志君を守ったか…。分かる?」

「……え?」

新志は、愛莉の肩から手を放した。

「………もう新志君に会えなくなると思ったから…。私、そんなこと、絶対いやだから…。だから、無我夢中で走ったの…。あの時は、何も考えられなくて、とっさの判断だったけど、今思うと、きっとそうだったんだなって…わかる…」

愛莉は、じっと新志の目を見つめた。

「愛莉ちゃん…」

新志は心臓をドクンッとさせた。

「…私も…新志君が好きみたいだね!…ずっと前から…」

「………」

「………」

新志と愛莉は見つめ合うと、耐えきれずに互いに噴き出して笑い合った。

「もーっ!せっかくいい雰囲気なのにさ!」

「恥ずかしいって!駄目だよ!私たちはこういうの!」

二人は火照った顔を手で仰ぎながら、ベンチに座った。

「……ねぇ、愛莉ちゃん」

「…何?」

鼓動の高鳴りを抑え、落ち着きを取り戻した新志が愛莉に話しかけた。

「…僕、コルザの役に立ちたいんだ…。力になってくれない?」

「え…?コルザの…?……なになに!?」

新志の頼みに、愛莉は興味深々な様子で、身を乗り出して聞いた。


新志(あらし)達と別れたコルザは、庭を通ってから城へ戻ろうと、辺りを少しウロウロしていた。

「…新志君と愛莉ちゃん…、凄くお似合いだな!」

二人の距離を縮めたことに満足気になっているコルザは、嬉しそうな表情で、晴れた庭を散歩した。

「………」

コルザは、先程話題になっていた、バラノアの好きだった花を見つめて微笑んだ。

(そういえば、この花、あっちの方にも咲いてたな…。それに、僕の好きなあの花も…)

そう思うと、コルザはその場所へと足を向けた。

目的の場所に来たコルザは、すでに誰かがそこにいることに気付き、足を止めた。

(…えっ?…り、莉々さん…?)

コルザの目に映ったのは、莉々がベンチに座って花を眺めている光景だった。

コルザは少し驚いて、近づいてよいものか、躊躇ちゅうちょした様子を見せた。

莉々はキルスを抱いて、微笑みながら、静かに花を眺めている。

キルスはコルザに気付き、すぐに彼の所へとかけて来た。

「…あっ!」

キルスが自分の腕から離れ、莉々はとっさに声を発した。

キルスはコルザの身体をよじ登って、彼の頭の上に乗った。

「………っ!?」

「…………」

コルザに気付いた莉々は、驚いて目を反らした。

コルザは、寂しい表情をして、莉々の所へゆっくり歩み寄った。

コルザがこちらに来ると分かった莉々は、身体を少し反対側に向けた。

「…少し、話してもいいですか?」

コルザの声に、ビクッと身体を反応させた莉々は、黙って頷いた。

「………」

コルザは黙って莉々の隣に座り、頭に乗っているキルスを、膝の上に乗せた。

「………」

莉々は、キルスをチラッと見た。

「…あまり人には懐かないんだけど、莉々さんは大丈夫みたいだね」

コルザはキルスを撫でながら言った。

莉々はうつむいて、首を横に振った。

「……私には…なついてくれないの…」

「…え?」

コルザは莉々の方を見た。莉々はうつむいたまま続けた。

「…私が、その子を無理やり抱こうとしているからかな…。懐いてくれない…」

莉々は寂しそうに言った。

「………」

コルザはうつむいてしばらく黙ったが、視線を少し上げて、目の前に咲く紫色の花に視線を向けた。

「……あの花…。小さいころ、僕が好きだったから、バラノアがたくさん植えてくれたんだよ。凄くいい香りがするんだ」

莉々は、コルザの言う紫色の花に目を向けた。

「……ラベンダーに…似てるわ…」

「…え?」

コルザは莉々の方に顔を向けた。

「人間界にも、同じような花があるの。…そう。コルザはラベンダーが好きなのね…」

莉々は視線を花に向けながら、微笑んで言った。

コルザもまた、視線を花の方に戻した。

「人間界ではラベンダーっていうのか!…莉々さんの好きな花はなに?」

コルザは莉々に聞いた。

莉々はコルザの方を向いた。

「…え…?…私は…たくさんあるけど…、そうね…。ヒナゲシ…かな…」

「ひなげし?」

聞いたことない花の名前に、コルザは首を傾げた。

「…うん。いろんな色があるけど、私は薄いオレンジ色のヒナゲシが好きなの。…叔母さまとよく散歩していた道で見たオレンジのヒナゲシ…。叔母さまに初めて教えてもらった花言葉も、ヒナゲシの花言葉なのよ」

莉々は、ぎこちない笑顔でコルザを見た。

「へぇ!どんな花言葉?」

「…いたわりと思いやり…」

莉々の言葉を聞き、コルザは微笑んで言った。

「バラノアと莉々さんにぴったりだね!」

コルザに言われた莉々は、ぽおっと頬を赤く染めて、視線を反らせた。

「……でも、他にも意味を持ってるの…」

莉々は、顔を反らして呟いた。

「……え?」

コルザが聞き返すと、莉々は首を横に振って、またうつむいて黙ってしまった。

そんな莉々を見たコルザも、寂しい表情をして、下を向いて黙った。

「………愛莉ちゃん…、新志君たちと人間界へ帰るって…」

しばらくして、コルザが莉々に話しかけた。それを聞いた莉々は、驚いてコルザに顔を向けた。

「愛莉が…そう言ったの…?」

莉々の問いに、コルザは黙って頷いた。

「………そう…」

莉々は、またうつむいた。

「………」

莉々の様子を見たコルザは、視線を反らせ、黙って立ち上がった。

「…キルス…置いていきましょうか?」

コルザが身をかがめて莉々に聞くも、莉々はうつむいたまま、首を横に振って返した。

「……失礼します…」

コルザは一礼をして、莉々の前から去って行った。

莉々は顔を上げて、去って行くコルザの背中を寂しそうに見つめると、またうつむいて視線を落とした。

「……別れの……悲しみ……」

ヒナゲシのもう一つの花言葉を呟いた莉々は、一粒の涙を落した。


第十三話、読んでいただきありがとうございます!

次回、最終話「魔法は永遠に…!それぞれの道へ!!」もどうぞよろしくお願いいたします!!

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