ゴミ同士の喧嘩
こっちは三日ぶり こうしんっ!
市場最奥。知る人ぞ知るこの世で一番便利な情報屋。
「死人に口なし」なんて言葉はこの店には当てはまらない。
金属質の階段を上り、中国風の建物の入り口の前に立つ。
「はいとうちゃーく。変に重いやつらだな...ダイエットくらいしろよ...」
適当に愚痴りながら網目状の床に一人を落とす。そして扉を押しそいつを足で押し込む。ってかなんてこの建物押し扉なんだ?
.........
......
「おや、廻君かい?暮は来てないのかね?」
「別の遺体依頼主さんのとこに運んでる。」
情報屋「死人に口あり」
外の市場じゃ怒鳴り声と笑い声が飛び交ってるってのに、ここだけ別世界って感じ。
壁一面に並ぶ無数の引き出し。
漢字の札が貼られていて、「眼」「舌」「骨」「爪」なんて雑に書かれている。
天井からは乾燥した何かが吊るされ、薄暗い赤提灯がそれを照らしている。
そして一番奥に座る店長、その隣につるされている檻の中には大量のいびつな形をした人間型妖怪が数十匹と閉じ込められていた。
だが、暴れも騒ぎもせずずっとこちらを見てくる。
「...何見てんだよ?」
「「「......」」」
返答は帰ってこない。
「相変わらず不気味ったらありゃしねぇのなぁ...オエェ...」
「全部商売道具さ。バカにされちゃ困るね。」
「死人に口あり」店長の屍川 然道
見た目はただの小太りしたおっさん。ドラゴン〇ールに出てきそうな妙にゆるい中国服を着て、椅子にだらしなく座っている。さっきまで歩いていた市場内にいた奴らと違って、一般の人間にもいそうな雰囲気。
これくらいの方が情報集めやすいんだろうなぁ。
「それで今日は誰を殺して、誰の情報が聞きたかったんだい?」
「この二体。『蜘』関連の話を聞きたかったんだ...まあ殺しちゃったけど。」
「『蜘』?確かに最近あいつら五月蠅いもんねぇ?なんかガキンチョばっかり攫ってるらしいよ?」
タ、カタカタカタ――
壁一面の引き出しが、勝手に震え始める。
吊るされていた干物みたいな呪物が揺れ、檻の妖怪たちが一斉に喉を鳴らした。
『蜘、くも、クモ』
『蜘、糸、幼児』
『供物、糸、蜘』
『信仰、進行、クモ』
「うわ、なにこれ...」
店中の“死んだもの”がざわついている。
さっきまで笑っていた然道も、流石に眉をひそめた。
「こりゃまた……随分と面倒な名前に触っちまったようだねぇ。これ、お前らご主人様の命令だ!黙れ!」
とたんさっきまでの喧騒がなかったかのように静まり返る。
「何今の?」
「『蜘』がかなり上位の存在と手を組んでるかもしれないってことさ。ここから先は地獄だろうね?」
「今も地獄なくせに?これ以上何あるんだよ?」
「...」
適当な話をしながら然道は鬼塚兄弟の死体を作業台へ並べる。。二つの死体を台の上に乗せ、口を開かせる。そしてそのまま檻の中に居る妖怪を二体鷲掴みにし、それぞれを死体の喉奥へ突っ込んだ。体の中に妖怪が入り込んでいく肉の盛り上がりが見える。
そして喉の奥で、まだ空気が動いていないはずの肺が鳴った。
「う゛ウ゛ぅ...あ゛ぁ...」
「ほら廻君、そこにあるお酒取って。」
「えぇーっと...どれ?」
「一番左のそれだよ!早く!」
棚の一番左、置いてある酒は札みたいなラベルが何重にも貼られていて、とても飲み物には見えなかった。
「...これおいしいの?」
「さっきも言ったさ、仕事道具だよ。」
そしてその酒瓶も二人ののどに交互に突っ込む。
するとひねられた首がグリンと回転し白目をむいてこちらの方を見た。
「さあ、僕のかわいい妖怪君。君が憑いた死体から今から聞く質問に該当する記憶をすべて喋ってくれよ。」
「「あ゛ぁ...」」
「いいよ廻君」
「よし、じゃ質問この男たちの名前と所属する組の名前。」
「...ごの男は鬼塚剛牙ぁ...所属する組はぁ...くもぉ...」
「ごの男は鬼塚猛牙...くもぉ...」
ふむふむ、さっきまでの言葉は嘘っぱちではないらしい。
「じゃ次、あの死体はどっちがどこで手に入れた?」
「あのぉ゛死体はぁ゛...鬼塚剛牙がぁ...きどががまあああああああああああああああ」
なんだ?様子がおかしい?
死体が宙に浮く。首を細いワイヤーでつるされているような体制になっている。
「「?」」
「然道!あの妖怪に何仕込んだ?」
「何もしてないさ!君こそあの死体に...」
「「「「「「どちらでもない」」」」」」
死体に憑いた妖怪の声じゃない。
もっと奥。
井戸の底から何十人もが一斉に喋っているような、嫌な声だ。
「「「「「我の食事の邪魔をするなゴミども。これ以上先に進むことを禁ずる。」」」」」
「...その内容は飲めないな。」
「「「「「...」」」」」
「こっちはこれで飯食ってるんだ。小遣いだって依頼料から出てるし、今更やめますなんて言ったら収入がないんだよ。だから...」
「黙って待ってろ収入源。四肢もいで首吊らせてやる。」
「「「「「...クククッ...飯にも値しないゴミよ、後悔するなよ...」」」」」
途端、二体の死体が閃光を散らせ...
.........
......
「なんだって、爆発?然道のほうは大丈夫なのか? うん、うん、まあ、ならいいが...あぁこっちも済み次第文献をあさってみよう。あぁまた後で。」
暮が電話を切る。
「あの...何かあったんですか...?」
「いえ、大した話じゃありませんよ。それより本当にこの方なんですね?」
「あなたの旦那さん」
暮と依頼人は霊安室に来ていた。目の前には司法解剖が済まされた依頼人の夫の死体。
「...はい、間違いありません...私の夫です...」
「...ご愁傷さまです...」
「...すいません、一人にさせていただいても...」
「...もちろんです。」
暮は外へ出て扉を閉める。だが壁越しにも今にも消え入りそうな嗚咽は彼の耳を震わした...
(体についていた傷はすべて致命傷に至るものではなかった。)
「スゥー...ハァー...」
.........
「然道さん、大丈夫?」
「大、丈夫だよ...ちょっと転んで腕ひねっちゃったくらい。」
「そ。」
目の前で派手に建物が燃えている。市場のやつらたちが慌てて水をぶっかけてはいるが...
「「全焼かなぁ」だねぇ」
『飯にも値しないゴミよ、後悔するなよ』
後悔するなよはこっちのセリフだ、バカにしやがって...
「...」
今オレ最高に笑顔なんだろうな...
......
(どれだけ痛めつければあんな死に様になる...)
......
(随分とデカい喧嘩吹っ掛けてくれたじゃんか...)
.........
......
「「嬲り殺してやる...ゴミどもが...!」」
☆タイトル別案
喉奥からの心(声)




