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いくかよ

「好都合!木曽家の者達には因縁がある!」

「……………」


織田信忠は、伊達家に捕らえられ、交渉の末解放された後……。しばらく、謹慎状態にあったが。

木曽家が独立したという報を聞いた時、すぐに動いた。

これについては守役もりやくを任された勝家も頷きこそしたが。北陸地方を管轄している軍は自分達に権限はあるが……。

それ以外の城から出陣をされるのはどうかと、不安なところがあった。

戦に長けた武将の不在な軍の危うさを知る勝家だった。


「この3つの城に援軍が来るようなら儲けものですぞ。野戦においては、数に優る有利はありません」


この大軍勢を、たかが援軍程度で凌げるわけもない。

勝家は木曽家の3つの城は、籠城戦や物資を狙う奇襲作戦で迎え撃つと判断。兵の数で勝てないのなら、兵糧切れを待つような戦い方になるのではと、信忠に進言した。


「……うむ、確かに」

「徳川家も酒井と本多が小諸城に向かっているとなれば、数だけで奴等が降伏も十分に考えられます。ここは一度、飯山城を攻略した後、小諸城に我々が向かい落とすのが上策かと」

「小諸城の木曽義昌は徳川に降伏せぬであろうな?」

「かつて、光秀が攻め入った時。あの城は落とせなかった。独立を掲げた男がそう易々と、下ったりはしないでしょう。徳川は返り討ちにするはずです。そして、徳川も我々同様に兵は裂けられない。退く時は退くかと……本多と酒井は天下に轟く名将達です」


焦る必要はない。

とにかく、順々に手堅く攻略していくこと。


「…………来たか」

「信春様!敵の総大将は、織田信忠です!」

「ここで時間を稼げるか否かで、勝頼様のご帰還が出来るか否かに掛かっている。旧武田の者達。ここが最後の戦場となる。覚悟は良いな?」


飯山城の攻略も力攻めではなく、ジリジリと苦しめる包囲戦にしてきた、織田家。

春日山城が近くにある以上、兵糧の補給の心配はかなり少ない。持久戦は馬場達も望むところだった。一部の隙を見せた瞬間に、一気に雪崩れ込んでこよう。



◇         ◇


一方、小諸城。周辺。


「「7万!?」」


徳川家の酒井と本多は驚いた。織田軍の援軍の数にだ。

絶対に勝ちとりたいという織田家の意志は伝わるが


「織田単独での侵攻じゃないのか?」

「徳川との協力じゃないのか?」


意志疎通ができていない。それもそのはずで、信忠が急遽起こした軍なのだ。纏まった動きができるわけもなく、これを任される酒井と本多も頭を悩ませた。

徳川と織田で戦い方は違う上に、名将の二人と派遣されただけの武将とでは格が違う。織田の兵達に細かな指示ができるわけもなく。


「この場は徳川家の酒井忠次に任せてもらおう。この件に関しては、徳川が受け持つべきことだ」


織田家は周辺を何重にも囲うように陣を敷き。徳川家が包囲の最前列に布陣する形となった。

この兵数差で小諸城と木曽義昌を簡単に屈しられるのなら、どれほど容易いか。


「幾度も主君を裏切る木曽義昌!!我々、徳川家はお前の処刑を決めている!!小諸城にいる者達よ!!義昌を差し出せ!!しからば、この地が!!我々の金や資源、土地が!!お前達の血で染まる!!義昌一人を差し出せば、領民にも兵士にも手出しはしない!!」


酒井忠次の降伏勧告に対して、義昌達は聞く耳を持たない。

兵士達が徳川家への恩義よりも、ここまで領地にしてくれた義昌に対しての方が恩があり


「この土地は義昌様が守ってきたんだーーー!!」

「武田家の頃からずっと守ってくれてんだーーー!!」

「お前達の言う事よりも義昌様の言葉を信じる!」

「その数なんぼじゃ!!怖くねぇーー!!」


この数に対して、決して怯まない。城に自信がある証拠であり、問われる義昌本人は……徳川家の陣と、織田家の陣にある、”厚み”の差、兵士達を配置する間隔、……兵士達の様子から


「よし」


徳川・織田連携はやっぱりないし。織田軍の士気はそんなに高くない。戦から離れた兵士達の面だ。徳川家をどうにかすればできる。


「降伏には応じぬか」

「予想はしていたことだ」


この包囲に対しても、木曽家の者達は冷静であった。徳川家もそれは分かっていた事であり、ここで包囲し続けているだけでは落ちぬことも分かり、酒井と本多の軍は強攻に出る準備をしていた。

”土塀”に”石垣”、”鉄城門”。防衛だけでなく、火薬なども充実させており、攻めてきた相手をしっかりと殺せる状態にしている。


ゴーーーーーンッ


攻め手を限らせて、銃や弓矢で兵数を削る。地道な防衛戦であるが、そーいう耐え忍ぶ戦いに、不本意ながらも得意な義昌とその兵士達。

籠城戦、持久戦の最大の敵は、己自身と分かっているかのようだ。


◇         ◇


「!!」


その報せを聞いた時に自分が、悪く言えば傲慢なものかと思ったものだ。

真田正幸は丁度、小諸城の隣にある自身の居城、上田城にいるのだから。


「本当なのか?義昌」


家康がすでに動き、本多と酒井の軍……それに織田の大軍勢が動いていることもだ。

織田家に勝ち目なんてないぞ。

浅はかすぎる。

そして、この独立宣言が……どうあれ、徳川家にとって悪い報せであるに違いない。しばらく、会わない間で、東北という場所で義昌が何を思ったのか。知りたくもあった。

あの木曽家第一の男が、独立を決めたこと。そして、それが短絡的なものではなく、長期的に考え抜いたモノだと分かった。きっかけを待ってはいたんだろう。

徳川家で唯一。

木曽義昌が自ら思った独立だと、感じ取っていた。ここに策や知将ぶりなど、一切なく。



「父上」

「…………徳川も、織田も、……木曽も。私に要請はない。”けん”だ。信幸」


真田正幸は、まだ”静観”を決め込んでいた。この場で独立するという意味に、どうやって返信してやるかと、悩んではいた。

待っている間に、

小諸城、飯山城、坂戸城の3つの城で激戦が耳に入っているのは事実。


「徳川を関東から追い返すぞーー!!」


木曽家の独立を好機と見て、北条家が徳川家に戦いを挑む。房総の地域を取り返すために出兵したのだ。これに参陣するのは位置的にも状況的にも厳しかった正幸は、上田城で待つしかできなかった。徳川家と木曽家の決着を待つしかないと……



◇          ◇


それから2か月後。


「信忠の奴。勝手に部隊を出しおって」


遅くなりながら、織田家の主力武将が小諸城に到着。

その中には織田信長、明智光秀の2名の姿がある。


木曽家の独立から2か月が経過し、なおも小諸城、坂戸城は陥落の報告はない。なによりも、この間。木曽家が持っている東北からの援軍はなかったのである。


「俺達って包囲してるだけでいいのかな?」

「兵糧減ってきたし、ここ寒いしよー」


一方で織田軍の7万は、まったく戦いに参加せず、包囲を続けているだけであった。

攻め込まなかった理由としては


「徳川家の皆さん、先週で帰っちゃったし。なにかしらの説明が欲しかったぜ」


この小諸城から徳川家の大軍を返り討ちにしてみせたからだ。名だたる武将がここにいれば、息つく暇も与えずに攻め込んだだろうが、……戦い慣れしてない兵士達からすれば、とんでもない話だ。包囲してれば落とせる城だと思っていただけにだ。

兵数の多さが災いして、兵糧だけがどんどん減っていく。


いくら、信長や光秀が到着し、攻め込もうにも……この兵士達の士気の下がり具合と、未だに城が固いままの小諸城を見て、まだ時間をかける必要があると判断した。

すでに犠牲が多すぎる。

そして、信長と光秀の到着した同じ頃に



ドガーーーーンッ



「信春様!!三の丸まで落とされ!!い、飯山城は陥落寸前です!!」

「…………2か月と7日、か」


信忠、勝家の軍に攻められていた、飯山城が落城。


「十分だ。これは我々の勝利だ」


馬場信春は勝家の軍に捕縛される。命ある限り、ここで時間を稼ぐ役目は果たしてみせた。


「勝頼様。先に甲斐の地へ。御屋形様に会って行きます」


馬場信春、処断!!

飯山城を2か月も籠城し、時を稼いでみせた。そして、その報せはすぐに坂戸城と小諸城も届く。


「信春様が処断され、飯山城は陥落か」


坂戸城の防衛を務めていた真田信伊は気落ちするも、これも独立のために必要な犠牲。自分がこの坂戸城を任された理由も分かってる。

元武田家の者として、風の如くだ。


「皆の者!!包囲からの脱出だ!!長く住んだが、この坂戸城を放棄する時が来た!!勝頼様のいる安田城に向かうぞ!!」


自分はまだその命を使う時ではない。信伊は、勝家達の軍がこちらに向かってくる前に坂戸城から安田城へと強攻で逃げる手段に至った。

これにて、坂戸城も織田家の手中に入る。とはいえ、この退却戦も決して楽なものではない。


「滝川隊の追撃ですーーー!!信伊様ーーー!!」

「食い止めよーー!!」


包囲を抜け出すのも大変であり、そこから滝川一益の軍が追いかけてくるのだ。安田城までが遠い道のり。だが、


「信伊様!!前方に砦がありまする!!」

「!あれは……」


安田城から大分前の戦線。自分も知らなかった砦が現れていた。


「真田信伊!!よくぞここまで戻った!!そのまま安田城まで駆け抜けよ!」

「か、か、勝頼様ーーー!!これ勝頼様が作った砦なんですね!!」

「お前の兵達が疲弊しているのだ。ここは俺達が食い止める。時間稼ぎは十分にできている」


滝川一益の軍、兵4000に対し。武田勝頼の軍、兵2000が激突。

しかしながら、追撃で疲弊していた滝川軍がこの砦を破れるわけもなく。すぐに追撃を断念する一益隊。坂戸城を失うも、信伊の生還は果たせた。しかしながら、問題は……



「義昌はどうなっている?」



◇          ◇


小諸城。

徳川家、兵2万を撃退した後、織田家、兵9万と対峙する。

それも、


織田信長、織田信忠、明智光秀、柴田勝家などなど……。織田家の名将達が率い、士気も回復し、兵糧不足も解消してきた状態でだ。


「も、持ち堪えられません!!」

「これ以上は厳しいです!!」


さすがに小諸城兵達も、もう終わりが近いと悟り始めた。それでもまだ義昌はここに残って、兵達を指揮しながら、小諸城と共に織田家と戦った。



「なんなんだ。この城は……」



包囲をしながら信長も舌を巻くほどである。



「なぜ降伏してこない。絶対に許さん」



明智光秀も、またしても、小諸城にやられてしまった事を思い返す。

飯山城、坂戸城の重要拠点が2つ失い。完全に孤立してしまった小諸城は………。


”半年という籠城を成し遂げたのだ”


城は開戦当初と比べれば、大きな損害が生まれており、火薬や食料などの備蓄も底が見えて来たはず。それでも抵抗を続ける様は、大大名の器に等しい。

小諸城の損害が酷いということは、徳川家・織田家の軍も、相応の被害が出ているということだ。部隊のいくつかはもう帰城したり、織田の援軍が入れ替わりで入っている状況だ


「………………」


初めて大名となって、とっ捕まった時は切腹か。


義昌はその覚悟もしていた。自分自身もまさかここまで、織田・徳川を相手に、籠城戦ができるとは思っておらず。後の事はみんなに任せるって投げ出しても良かったくらいにだ。


「敵の部隊が迫って来ています!!」

「義昌様!お逃げください!!」


どこに逃げ道があるんだよ?

小諸城は陥落寸前。織田家が何重にも包囲している状況だ。


「ぎゃーーーーーー!!」


兵士達の悲鳴が上がったのであった。


「信長様、光秀様、勝家様!!木曽義昌を捕らえたとのこと!!」

「ようやくか。敵ながらあっぱれな男だ」

「…………すぐに刑を執行するべきです」

「光秀は不服そうだなぁ」

「裏切りを頻繁に行う輩など嫌いですよ。勝家殿」


城内の兵士達は義昌を除いては”全滅”という状況。そして、義昌は足を負傷しており、思ったよりも動けない状態で、えっちほっちらと、織田信長達の前に連れてこられた。

鎧と兜をかぶったまま、両手首に縄をつけられ、4人の兵士に抱えられる形で彼等の前に放り出された。


「ぐっ…………」

「お前が木曽義昌か……」


戦国の世で直接会うことはないが


「へへっ……」

「!!」

「こ、この者は木曽義昌ではないぞ!!」


捕まって放り出された男が悔いのない面であることに、すぐに偽物と見破った。



◇         ◇



ドパアァァッ


小諸城本丸の激しい銃撃により兵士達は崩れ去った。

義昌とその数名の兵士達もここが終わりと察した中で、1番乗りした部隊は


「義昌。時間がないぞ」


織田家の旗と甲冑、装備をつけてやってきた、真田軍、20名であった。


「表裏比興の者が来た」

「真田正幸」


真田家達が撃ったのは、義昌達に迫る織田家の兵士達だった。義昌を捕らえさせないためにだ。そのためにも、迅速に冷徹に


「煙を出せ」


本丸でなんらかの煙幕が出たとあれば、これから乗り込もうとする部隊が躊躇するも当然。戦はもう決まっている。義昌を捕らえるか、斬首するかで違っている。

その煙が晴れる前に義昌に指示を出す正幸。織田家の甲冑などを投げ渡し


「織田家の兵士に紛れて逃げるぞ!お前の身代わりはそこらへんの兵士にやらせればいい!」


織田家の1部隊を秘密裏に乗っ取り、義昌を連れて、織田軍の大軍によって陥落する小諸城から撤退するのであった。身代わりとなってくれた小諸城の兵の足をも負傷させ、少しでも信長達の元に辿り着かせる事を遅らせる。この犠牲に悲しみなど持たず、義昌が生き延びる事が望まれた。

勝ち戦に、大軍を寄越した隙をつき、正幸は無事に義昌をここから脱出させ、上田城へと運んだのであった。


「ふ~~っ。……徳川・織田家の大軍を相手に半年も籠城か」



そんな1日が経ってから、義昌と正幸が対面する。


「小諸城はこの上田城と並ぶ城だった。あれはこの正幸に対抗するためか?」

「…………正幸。感謝する」

「返答しろ。もういいけれど」


織田家は今、木曽義昌の動向を探っている。この上田城にいるんじゃないのかと、忍びが探ってもおかしくはない。話し合う時間などないし


「ここで義昌の首を持って行ったところで、何も得はない。むしろ、良い馬を渡してやるくらいだ。損だぞ、損!!」


正幸の損と、義昌の損は大分違う。色々と話したい事はあるというのに、戦国乱世はそうさせてくれない。貸してやる馬、甲冑、護身用の御守りを渡してやって追い返すように促していた。

そして、馬に乗る前に、義昌はホントに一言。正幸にお願いのようで、感謝の言葉を送った。


「正幸も来いよ!!」


独立した。

勝頼様もいる。上杉達、東北勢も協力してくれる状況。もうちょっと言葉を足せば、正幸ならどーいう軍略を示してくれるんだって聞きたかった。しかし、正幸はこれ以上話せば、……奇跡的な生還を果たし、その志を妨げかねないとし、


「いくかよ」


拒絶という形で応援した。


「俺は卑怯者だ。お前を裏切ることも躊躇しない」


織田家の勢力が大きい。それを心の中で認めて、戦おうという苛烈な心が薄れてしまっている。これが中にいるのは、今のところマズイだろう。

真田家という家を護るために徳川家と織田家との地盤を固めたい。

義昌達とは違った道で、家を護っていく真田家であった。



ダダダダダダ




上田城から出発してからすぐに、残念だなぁって表情が義昌の顔に出た。正幸だったらどーいう采配をするのか。こっちは……ほとんど、みんなの意見を纏めているに過ぎないのだから。

しかし、正幸の目も変わっていない。自分が卑怯者と言うだけあって、自分に対してだけは


「真面目だな」



……もしもだが。

この木曽家が織田家と拮抗できる勢力になってくれたら、……味方になってくれないか?

そーいう事をお互いに望んでいるよな?


1582年~1583年

木曽家独立。

木曽家 VS 織田・徳川連合。


小諸城、飯山城、坂戸城、陥落。

馬場信春、討ち死に


木曽義昌、真田信伊。生還。


木曽家、勝利



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