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れんりつ

「成実が討ち死に……?」


報告を聞いた時、政宗や小十郎達の顔が固まったのは……信じがたい事に違いなく。


「春日山城からの軍が思いの外早く、その上、信長が大軍を率いてくるということですか」


政宗の頭がついていけないのは確かであった。

迷わずに行動をしていた龍の動きは沈黙し、報告を聞いていた家臣達も動揺してることは同然。


「の、信忠を討ち!成実様の仇をとりましょう!!」

「信長の大軍が迫って来ている!これは一度、退くべきだ!!」

「退いたところを討たれるよりも先に!!急ぐべきです!!」

「待て!こちらには北条綱茂の軍が向かって来ている!!信長の援軍に対応できる!!」

「信忠を討てる機会!!この戦いの目的ですぞ!!」


どちらの行動にも言えることは、動くこと、決断すること。悩むという事をすれば、それが答えになってしまう。しかし、政宗は悩んだ。悪手と分かっていても、……弟を討たれたという事に怒りが沸くべきでもあり、悲しみも湧くべき時に


「………………」


沈黙。

政宗は沈黙していた。この状況も相当にヤバイ。現実逃避も許可するくらいには……。しかし、政宗の頭はこの状況も含めて、そのさらに先を見ていた。成実の死を乗り越えてからのこと


「箕輪城の包囲を続けてください!」

「!!信忠を討つのですな!」

「いや、信忠は討ってはいけません!捕らえるのです!!」


政宗が沈黙を乗り越えて出した決断は、玉砕覚悟。伊達家がここで終わるのなら、織田家の未来を断つ覚悟。信長の到着よりも先に、信忠に刃が届く。

ここで……。



ダダダダダダダ



「綱茂様!!箕輪城ではもう、戦の様相はありません!!」

「決着がついたか!!どちらの旗が挙がっておる!!」


北条綱茂は河越城を奪い返した後に、箕輪城へと進軍していた。遅れたものの、信長と信忠の首を獲る機会。箕輪城の防御施設がどうなっているか。伊達家がまだそこにいるという情報を元に……



「わはははははは、これは一本取られた」


信長は大笑いし


「…………ふふふふ、ここは参りました」


政宗もまた、不敵にほほ笑んだ……。

必死に堪えた結果、政宗が出した案は信長が想定していなかったモノだった。


「あれは…………え?……北条の旗!?」


綱茂の軍が箕輪城の目前に迫った時に、城に掲げられていたのは北条の旗であり、そこにいる信長と政宗達の様相は異常そのものである。

お互いに死線を潜り抜けてきたのは確かであり、この交渉の席まで用意したこの若者。


「北条綱茂殿とお見受けする。私は伊達家、片倉小十郎!!伊達の使者としてこの陣に参った!!」


北条側からすれば、どーなっているのか分からないのは確かだ。

そして、北条方の使者として、綱茂にお呼びがかかったのは確かであった。


「…………なるほど」


政宗が選んだ選択は、”3か国同士の停戦条約”であった。

織田・伊達・北条の3か国が互いに戦闘をしないという条約。


伊達家は、この場からの兵士達の撤退を条件に。

織田家は、織田信忠を始めとした箕輪城にいた城兵達の命の保証を条件に。

北条家は、箕輪城と河越城などの割譲を条件に。


3か国が数年単位での停戦条約を結ぼうとしていた。


「信忠の命を助けられるのなら、その停戦。受けよう」


信長の腹の中では、自分の跡取りを取り戻せるなら、この停戦に価値はあると答えていた。


この政宗という男。とんでもない型破りな奴だ。

一見すれば、伊達家側は圧倒的に不利な条件ではあるが……。徳川が奪った北条の領土を奪えるような約束にしている。(織田家とはここでは停戦だが、徳川家と停戦するものではない)。

織田家の強大さを知り、周りの併呑が必要と分かったか。

警戒は続けるが、こっちは西日本側の相手もする必要がある。毛利、長曾我部も中々の強豪であり、その奥に控えている島津も油断ならない。

伊達軍が即逃亡するのであれば、北条か伊達のどっちかに追撃……。完全に押し通すことができた。その中でこの停戦で多くの命と時間を確保した手腕。信忠のミスにここまでつけ込めるとはな。


「織田家が占領した領地については、また話し合おう。氏政様にはこのことを伝えねば、何も言えない。場合によっては、徳川の領土もだ」

「徳川の方は徳川に言ってくれ。織田家も順次、割譲する支度はする(全部にする気はないが)。政宗、ここで私と信忠が春日山城に帰ってから、まだ関東の中にいる勝家や利家達に危害を加える事はないだろうな?」


箕輪城のルートが確保できなければ、関東に城がいくつあっても、奪われるだけ。

信長としては割譲するまでダラダラと先延ばしにしながら、……といったところか。少なくとも柴田勝家、前田利家、滝川一益の3名は関東から安全に脱出させたいつもりだ。


「もちろんです。この停戦は3か国が”対等”でできている停戦です。北条方に順次引き継げるようにしましょう」


この条件で織田家の収拾は難しい……というふりをしながら、関東で暴れるつもりでしょうね。それならそれでいい。北条が弱体化してくれるのはこちらにとっても都合良し。北条の領土と人材。そして、徳川の領土と人材がなければ、次の織田家の侵攻で敗れる。

私達はもっともっと、領土を拡大する必要がある。織田家と戦うその日まで。


「北条の領地の上で好き勝手言いおって」


北条家が潰れず、回復できるだけ、この停戦は有り難い。しかし、氏政様にはご決断されるべきかもしれませんな。

織田と戦うか、臣従をするか……。


「停戦ならば、お互いに外交僧を派遣する。くれぐれも無下にしないでくれ。我々は踏んだり蹴ったりといったところ。”対等”という名目を使うのだ。戦となれば、大きな被害が出る。伊達は弟、織田は息子。……私達は領土だ。それを胸に刻んでくれ」

「……そうですね。成実には悪い事をしました。彼の身体は奥州で弔わせていただく」

「あい、分かった。伊達家に丁重に返そう」



こうして、上野・小田原大戦は終結する。

小田原城を包囲していた徳川家は、織田家の停戦を知った後は解除され、房総地域を侵略していた軍も撤退を始めた。


「徳川家はその場に居なかった!!房総地域は譲るわけがない!!」


織田家が城を北条家に返すという条件に、徳川も呑むという決まりはなかった。徳川からすれば、小田原城の近くを挟むとはいえ、海路からの輸送などができていた。確保した城の維持はできるというものだ。まだ、完全に織田家が関東から撤退しないのなら、徳川は居座るつもりであった。


織田家、徳川家、北条家、伊達家。

大きな4か国が力でぶつかり合った後、舌戦を繰り広げる事となる。それ故か、……特別に言えば、徳川家は気付いていなかった。



東北に侵攻した木曽家の領地が、自ら持つ領地を大幅に超えていたということに。



◇         ◇


1580年 ~ 1581年

織田・徳川連合軍 VS 伊達・北条連合軍。

この戦いは、ほとんど仕切り直しという形で幕を閉じた。その大きな戦があった故、東北で起こった戦争の事など、関東にも届きはしなかった。


「それではこれより……南部、蠣崎、安東、最上、大崎……伊達家を除く東北の大名達を」


木曽義昌が号令する。


「武力・謀略を持ってして手に入れる!!」


木曽・津軽連合軍 VS 東北の烏合の衆!

規模は6万 VS 4万5千。連合の数では、東北勢が優るものの。伊達家は不参加。そして、纏まりのある連合ではないこと。

東北の地が安定していないからこそ、この勢力の数々を一気に相手しようという大胆過ぎる、攻めた侵攻であった。


「南部は私達、津軽家にお任せください」


元南部家でもあった津軽為信が、南部家の三戸城へ。


「この相手で一番大きいのは最上。そして、最上を知っているのは元上杉。引き続き、お相手しよう」


上杉景勝・直江兼続・千坂景親。旧上杉家が、最上家の山形城へ。

この連合の2大勢力には、勢い任せで行かず、守備重視・謀略を絡めた戦で挑む。優秀な将を失いたくはないからだ。だからこそ、力の弱くなった勢力に対して、木曽家は今後も含めて力というモノを見せる必要があった。


「馬場よ。何を気にしている?俺達の相手は大崎だぞ」

「申し訳ございません、勝頼様」

「一番楽な相手だからといって、北の方へ向いてはいけない」


武田勝頼と馬場信春の担当は、大崎家である。すぐに片づけて、上杉景勝と共に最上を攻め込む手筈。

各個撃破で東北の大名達を取り入れるわけで、木曽義昌と真田信伊の相手は安東家・蠣崎家の2つの勢力であった。

2つの勢力は弱小。特に安東家は前の戦いにて、湊城を失い、檜山城という城だけが最後となった。その檜山城が厄介であり、東北の城の中でもかなり堅城と称された。山岳戦・防衛戦を主に任されていた義昌にとっては、荷が重すぎる城。


とはいえ、彼の戦略は至って単純であった。


「城を囲んでから交渉する」


こちら側が兵数で圧倒的に優勢だからこそ、いつでも安東家を滅ぼせる脅しは必要だ。城攻めには慣れていない義昌ではあるが、この兵数差でしくじるようならどうにもならないし。この兵数差を維持して安東家を滅ぼすことも頭になかった。


「信伊殿はこの包囲の指揮を任せます」

「”勧告”頑張ってな!」


”勧告”

安東家に対し、徳川家に降る様に説得することである。

どー考えても安東家が抗う術がない。戦うことよりも降らせること。その後のことまで伝えるべきこと。政治的な面が大事な役割。義昌自身の平凡さを活かすなら、このような立ち回りが利に適ってる


「木曽家の当主が自ら使者になるか」


安東家大名、安東愛季あんどうちかすえ

弱小の安東家にあって、名君と呼ばれる大名。政治手腕も高く、交易などで安東家を栄えさせた。

そのため、今の情勢が想像以上に危険なことは分かっていた。

堅城、檜山城を包囲されているという状況かで、向こうから使者がやってくるのだ。


「分かった」


降る覚悟はできている。

安東愛季の気持ちは固まっており、家臣達にもその事は理解してもらっていた。


「徳川家、外様衆、木曽義昌にございます」


どのように降るか。否か。


「……東北の地を荒す者、その軍団長殿が来て頂けるとは……」

「その立場にありますが。東北の地を荒すという言葉は少し語弊がありますね。まだ統治がされていない土地を見て来て、ここに来た。だからこそ、愛季殿がいるこの檜山の地は安全そのものであり、あなたにはこの木曽家に居て欲しい、東北の地に必要な存在だ」


勧告にしては、対等に近い。

暗君なら怒り狂う・この好機に暴挙も辞さないだろう。だが、民を大事にする愛季にその気はない。いかにして、民を護るか。暮らせるかと考えたところに


「持って来てくれ」

「はっ!!」

「?」


義昌が持ってきたのは、


「1万5千両だ。それから木材、1000。鉄資源、800。これも檜山城下の近くに運んできてもらっている」

「!!」


武家の中でも財力があるとは聞いていたが。


「武力で制圧すれば、これらを扱える人も失う。その者達を心から動かせるのは、愛季殿だ。この地をより良いモノとしたいのなら、素直に降ることを受け入れて欲しい」

「……………」

「海運を活かした交易は後々重要になる。安東家にはその役目。檜山城の発展に携わって欲しいのだ」

「酷い扱いは……しないようだな。しかし、関東の荒れ具合は聞いている。今、徳川家は北条家と戦っているのだろう?義昌殿の説明には平穏なものが感じない」

「津軽為信殿は津軽の地を護るために、我々にくだって頂いた。……隠して言うのもあれだから、率直に言うが。この地を戦いから遠ざけるために、支援を願いたいのだ」



関東の戦いを知っているのなら、下り方も大事である。

徳川家が天下人である織田家との固い同盟者であること。それでこの地が安全になるか否か。その思考の最中で、徳川家の者が



「我々も織田家と戦える力が必要である!!」


こうも言ってきたことに。徳川家の中にある問題。織田家という脅威を情報から知る愛季は、


「やはり戦国乱世か」


平和は一時。木曽家に降るも、徳川家に降るも、織田家に降るも……。


「我々、安東家は”木曽家に”降ろう。出来る限り、東北の民に血を流したくはない」

「!!愛季殿!」

「この地は他に比べて寂しいところもある」


明らかに怪しい物資。人材。

猪突猛進な大名ではなく、理解と政治に明るい大名だからこそ。義昌の行動に合点が行くものがあった。それに


「ではでは、愛季殿に早速頼みたいのだが、蠣崎家の説得に協力してくれないか?」

「……意外と早い奴だな」

「事態は思いの外、緊迫していて、1分1秒も惜しいのだ」

「正気か?」

「勝機?」

「……もういい。ただ、義昌殿とは別でゆっくり話し合いたい」


……これにて、安東家が木曽家に降伏。続くように、蠣崎家も安東家の説得も込みで、木曽家に降伏をするのであった。


「さーーっ!急ぐのだーー!!」


降伏と同時に、木曽家から大量の物資が贈られる。一体どうなってんだというばかりに……。

そして、そんな政治の噂は最上家と南部家にも耳に入る。

なにかしらの行動が噂されることと、交戦を続けることに抵抗が出たのも確か。


「急げ急げ!道の整備を怠るなー!安田城、新発田城、平林城には改築・投資!」


木曽家が東北地方に入る上でのルートに道の整備やその城の改築が急ピッチで行われていた。対最上家とのため……という名目で大工達は仕事を請け負い。


「野蛮な豪族・野盗共を討伐しろーーー!!」


木曽家は、東北地方にいる我が物で暴れる者達を取り締まっていた。

これにより荒れる東北地方の治安は徐々に良くなっていく。そこには大きなお金も人材もいる証拠。最上家、南部家共に、……このまま木曽家と戦うのは、良い評判ばかりとはならない。被害も大きく、勝機も薄い。……先に降伏をした、安東家と蠣崎家の様子も確認。

その最中で


「伊達家が織田家との戦争を停戦に持ち込んだ?」


伊達政宗が奥州に戻ってくるという知らせ。最上も南部も、伊達家とは争っており、彼まで東北の戦いに参戦してくるとあれば……混沌となる。

詳しい情報はまだないが、あの伊達家を引き返らせた織田家の実力は本物であり、東北の地方までやって来るのは明白。政宗が東北地方を纏めようと動くよりも先に



「「木曽家との交渉に臨もう」」


木曽家に対して、2つの国が交渉を持ちかけたのは……ホントにギリギリだったのだ。伊達家に傾いてもおかしくはなかったのだ。




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