なかいり
「全軍!!出陣!!」
9月。米の収穫時期と同時に、ついに織田家が北条領に大軍で攻め寄せる。
総大将は織田信忠。
柴田勝家、滝川一益、前田利家という名将3名がそれぞれ軍を率い、箕輪城へ侵攻。北条家は成す術もなく、降伏したのは必然である。そして、その城には信忠と……信長が入場する。信長が近くにいること、自分達を評価しに来たという期待に、勝家達が奮うのは自然のことであった。
「北条の地を駆け抜けよーーー!!」
特に勝家、利家の軍は素早い軍の移動によって、その南下速度は凄まじく、河越の地へすぐにたどり着いてみせた。
この進軍により、無防備な北条家の領地を織田家が刈り取れる状勢となった。小田原城は徳川家が包囲中のままであり、北条側も黙ってみる他はなかった。
そして、箕輪城に入ってからは、淡々と彼等の戦果の報告を聞く信長と信忠。
「報告ーー!!柴田様!前田様の戦勝は次々に挙がっております!」
「おー!さすが、勝家殿!本当に勇猛なお方だ!父上!!」
「……そうだな、信忠」
このまま、北条が黙っていてくれたら、楽だが……狙いはなんだろうかな?
信長がこの報告に満足だけはせず、慎重であったのは……大大名と呼ばれた北条家。関東を制した雄がそう簡単なわけがないと分かっていた。
北条の全兵力は小田原城にいると言っていい。北条の名のある者達はそこにいる……。
「!」
畿内にはその名が広まってない、剛勇の武将であり、元大名。
「織田の横暴を食い止めるぞ!!坂東の者達!!この地に鬼達が住むことを見せつけてやれっ!!」
太田城より、佐竹義重が出陣。その数、わずか5千という、……万の軍勢を相手に、無謀な戦を仕掛けるのであるが……。北条家をして、関東を治める際に一番苦労をした、強敵である。北条家の傘下になるも、この故郷の領地をそのままにさせてもらったこと。北条家とは争いつつも、関東の窮地においては戦えた。
「義重はこの北条軍と幾度も対峙している。織田の武将に怯えてはいない」
氏政の言葉の通り。
義重は柴田勝家の軍と激突。気迫の乗った突撃は、勝家の軍を怯ませた。
また、兵数こそ少ないが、小城には”鉄城門”を設置させ、平城でありながらも攻略には手こずらせる。関東を制した北条の財力も光った。さらには関東の民達からも信頼が厚く、畿内を制し、天下に最も近い織田家であろうと……ここにいる領民達は北条家の味方であった。
「織田家の支配なんて許すかーーー!!」
「氏政様こそ、関東を纏める大大名です!!」
確かに城を奪っても、そう簡単に織田家の思い通りな政策や軍事活動は起こし辛い。侵略してくる織田家を快く思わないのは当然ではあるが……
「ちぃっ、北条家の信者達め」
勝家や利家がやや強引な統治を選ぶことも止む無かった。関東の奥に行くほど、その声は大きい。その瞬間を
「獲るぞ!!狙うのは、織田信長の首っ!!ただ1つ!!」
小泉城、利府城、相馬中村城、小高城などの城から、織田家に向かって伊達軍が出陣する。その方向は、織田信長と信忠が同時にいる箕輪城。
外交的な状勢は中立……。むしろ、織田家側に傾いていたが。
破竹の勢いのままに侵攻してくる彼等についているだけでは、奥州の領地は危険そのもの。裏ではしっかりと北条と交渉をしていた。
北条の領地を荒している最中であれば、織田軍の連携は上手くはいかない。そして、多少の小勢であろうと新進気鋭の伊達家の軍など止めるのは難しい。
箕輪城と宇都宮城の中間にある、唐沢山城の付近。箕輪城や国峯城から、織田家が迎撃に出てきたが……兵の士気と練度に違いはある。
「政宗の軍を無事に箕輪城に届けるぞ!」
先鋒を任された、片倉小十郎の軍1つで蹴散らされる。互角以下の数では止められない。その情報を聞いてやすぐに、箕輪城付近に戻って来たのは、滝川一益の軍勢。伊達家の動きを牽制するため、あえて、勝家達とは別行動だったのは幸いしたが
「信長様と信忠様を護るぞ!!」
滝川家の兵士達であるため、士気と練度は非常に高い。個の部隊としてなら、小十郎の軍は跳ね返されるであろうが
「亘!相馬の者達!後藤!手筈通りに!」
「「「おう!!」」」
混沌した奥州の領地にも、優れた武将・豪族達がいた。そして、彼等もしっかりと纏め上げており、素早い包囲で一益の軍勢を襲った。小十郎の軍1つならともかく、4つの軍に囲まれてはひとたまりもない。おまけに
「くそ!!」
小十郎の軍はかなり守備重視だな。鉄砲の対策を練って来ている。奴が対峙する軍の盾となり、後方に控えた軍勢がすぐに広がって、取り囲む戦術。勢いだけではなく、確実に兵を削らないようにしている。伊達の軍勢が箕輪城に届いてしまう!
「た、退却だーーー!!」
滝川一益の軍も壊滅!!
この報せにより、北条領を荒していた勝家、利家の軍勢にも動揺が広がり。これ以上の侵攻は難しいものとなった。そして、その機を待っていたとばかりに、小田原城では動きを見せる。
「箕輪城と河越城の奪還の機です!私にお任せください!」
「うむ!この機は綱成にしか任せられん!!お主に北条の命運を賭けよう!!」
北条家、最強の武将と呼ばれる男。
北条綱成!籠城中の小田原城から討って出る!もちろん、家康の相手ではなく、さらに北にいる、織田家が占領した河越城と箕輪城の奪還!!
最強の武将が織田家との戦いに挑んだ。家康の選択は……
「小田原城下に攻め込め!!綱茂がいない北条家など恐れるなーーー!!氏政の首を獲るのだーー!」
「曾祖父、祖父、父と守り抜いた巨城!!小田原城を舐めるな!家康!!」
小田原城への総攻撃であり、綱茂と兵2万を欠いてなおも、北条側も全力の抵抗を見せつける。そして、彼等が誇る小田原城の圧倒的な防衛機能が徳川家を大いに苦しめた。
「ぐっ……」
まさか、箕輪城を狙うのか?あそこには信長様がおられる。万が一、討たれる事となれば……いや、その心配よりも。この包囲を突破され、追いかけぬのはマズイか?……小田原城が落ちれば関係あるまい!!落とす!!絶対に落とす!!
房総の土地は我等が抑える!!今、勝家も利家も……織田方は上手く動けない!領土を獲り、あとはどうとでもできる!!信長様が討たれなければ、徳川家も安泰だ!
◇ ◇
「………………」
なにをやってるんだ、俺は……
「父上!森山城が降伏すると申し出があります!」
「…………」
「父上?」
「!、すまん、信繁。見事な戦働きだ」
「……なにか思うところでも?こちらは順調に北条の城を落としていますが……」
「デカイ戦が箕輪城近くで起きている。近くの沼田城に領地を持っていた私が、こんなところで戦っている…………」
「戻りますか?」
「いや、着くころにはもう終わっているだろう。天下を決める戦い。そんな時に俺は…………除け者扱い。家康からすれば、優秀で謀略上手な者を遠ざけたい狙いだろうな」
スンナリ受け入れ。反旗を翻すなどという野心。
織田家が抑えた、あの畿内の様子を見て、どこかに行ってしまったようだ。
もしも、近くにいればきっと……信長を討った。信忠を逃さなかった。後に天下を統べる織田家を滅ぼせる好機に……。
伊達家の大名、政宗の歳は信繁や信幸と近かったか。それだけ若い力が出ているのか。いや、……北条家の綱茂もまだ現役。家康の奴もそうだ。それなのに、……
「森山城の申し出を受け入れた後。兵達を休ませよ。その先の城は榊原達が獲りに行くだろう」
「はっ!」
「結果次第では動き方を考えねばなるまい」
◇ ◇
「「なっ……」」
箕輪城に辿り着いた伊達家の全軍は驚いた。
「織田家が箕輪城を占領してからまだ、時間が短いというのに」
北条家の財力もそうだが、織田家はそれ以上だ。金だけでなく、人材も多い。
箕輪城の修復はもちろん、キッチリとした改修工事が終わっており、明らかに伊達家を迎撃できる態勢になっていた。城の出来は、堅城!!手こずるのは必然!
「織田家を舐めるな!!伊達の若造共!!」
城兵の数はそう多くはない。だが、総大将の信忠が率いる城であり、士気はもちろん、設備も万全と……。簡単にはいかない。もちろん、信忠も自分の役目が勝家達が戻って来て、援軍の到着を待つ籠城作戦を展開する。
と、思っている。
「さすがは織田家です。財力、資源も豊富ですね。この短期間で修復だけでなく、改修まで行えるとは」
「政宗。この箕輪城を落とすのは大変だぞ。こちらは野戦を想定していた」
「小十郎。私はあなたに野戦で信長と信忠を討つ作戦を考えよとお願いしました」
「そうだな」
「ならば私が、攻城戦で信長と信忠を討つ作戦を考えていないのは、おかしいと思いませんか?」
信長の後継者としての矜持から、このような総攻撃に籠城戦を選べること。年若く、多くが勝ち戦ししか経験していない信忠を野戦に持ち込める可能性は高かったが。さすがにそこまで愚かでないか
「私の部隊を一番後方にさせてもらったのは、運ぶのが大変だったからです」
「!!」
「”大筒”部隊!前へ!」
政宗が用意していた攻城戦用の兵器。
”大筒”
「南蛮商人からの紹介で買い取りました」
城門、石垣に砲撃をかます、攻城特化の兵器である。それは門固めをしている箕輪城の兵士達からすれば、たまったもんじゃなかった。
ドゴーーーーーンッ
ドゴーーーーーンッ
「の、信忠様!!敵の大筒部隊によって、東門が破られそうにございます!!」
「ぐっ。田舎大名風情が。……大筒部隊を用意できるとは……!」
「西門も破られるとの報告が」
政宗の作戦はハマっていた。改修までした箕輪城に大きな損害を出し、攻め手を作り、なおかつ、こちらの部隊の損害を大きく抑え込んでいた。これならば信忠を討てる可能性が出てきた。
「総攻撃の準備をしてください。信長と信忠を絶対に逃がしてはいけませんよ」
伊達軍の総攻撃は近かった。まさにその時
「ん?」
箕輪城の北門を攻撃していた大筒部隊の動きが止まり、そして
ドゴーーーーーンッ
あろうことか味方の伊達軍に大筒の砲撃をかますのであった。
「政宗様、小十郎様!!北門の大筒部隊が突如として、味方部隊を砲撃しております!!」
「な、なんだと!?」
「…………そう来ましたか、信長」
大筒部隊という、遠距離で破壊力のある部隊だからこそ、敵部隊に近づかれるとかなり脆くなる。
「攻め手を増やすため、いくつの門を攻撃したな。……だが、まだまだ若造だ」
箕輪城の包囲から信長の居所は掴めず、万が一にも、逃げ出したというのなら、流言をさせて内部を揺さぶった。逃げ道を1つ作らされたが、城内で最も安全なところにいるであろう、信忠を捕らえて討ち取れる機会。または今、北門の包囲を破り、大筒を利用している信長……おそらく、周囲にいる兵数はそう多くはないはず。
政宗の判断は早い。
「信忠を優先的に殺る。小十郎、信長には成実の部隊を向かわせてください。追い払うようにです」
「分かった」
「信長が実の息子。現当主としている、信忠を自ら見捨てたとあれば織田家の内側を揺らせます」
本来ならば、この好機に焦り、迷い、即決の行動はそうできない。これだけでも、伊達の当主が評判以上の才覚であると信長は理解した。
「信忠に退陣しろと伝えよ」
「急ぎ、お伝えします」
「俺は先に退く」
兵の少なさについては、政宗の読み通りである。だが、どの兵士も強者共。そう簡単に信長には届かない。そして、兵数がいないからこそ、退却速度は速くあった。城を改修していただけでなく、箕輪城から北側にできている道は、織田家が占領しながら、キレイに整備もされていたのだから。
「父上が先に逃げられたのなら、織田家は安泰だ」
「な、なにを仰る!信忠様!!」
「私は織田家の現当主だ!田舎大名に背を向けるなどできん!!この要所がなければ、勝家や利家を見捨てた事になるのではないか!?」
「それでも信忠様が死んではなりません!!どうか!」
「決断は済ませている!!私はこの城を守る!!」
織田信忠。
その器量には、やや勇猛さがあり、無謀な事もしてしまう。織田家の成長を見て育っている彼だからこそ、敵に背を向ける行為を恥じていた。……信長はそれを不安視しているが、同時に信忠も今後の織田家を任されるに相応しい指揮官。
「信忠様を御守りしろーーー!!」
「奥州の伊達に、天下人である織田家の力を見せ付けろーーー!!」
織田家にとっては久方の劣勢である。だが、当主自らこの死地で奮っておられるとあれば、士気は高い。そして、信忠も銃で応戦してみせ、伊達軍の総攻撃を押し返そうともしていた。
ワーーーーーーッ
箕輪城から逃げ出した信長。もちろん、退却の指示を退けた信忠の行動には気付いていた。
「まったく」
当主として、お前が死んだらどうする?
また俺がやるのか?織田家の当主を?俺が逃げるための時間稼ぎのつもりか?政宗はそこまで読み切って、精鋭をこちらに向けている。少ない兵数での退却戦は、止まってはいけないのだ。
「俺を追撃してるのは、あの伊達成実か?東北の地で一際武名が轟いている男。耳にしているぞ」
「はい!!そのようでございます!」
徹底的に追いかけてくるだろうな。
「”誘うぞ”」
ダダダダダダダ
「信長を追撃しろーーー!!奴を越後の地に踏み入れさせるなーー!!ここで討ち取れ!!」
軍馬を走らせ、信長の後を追いかける成実の部隊。山中の道は綺麗なモノであり、馬が全速力で駆け抜けられていた。織田家が道を整備した事が裏目とも言える。逃げる信長の背も見えて来る。
「討てる!!」
俺が、織田信長を討つ!!ここで歴史に名を残してみせよう!!
ダダダダダダダ
織田家が道を整備していたという事は、必然的に、続く先にどんな道なのかも知っているということ。少ない兵数で逃げる織田信長と、軍と呼べるだけの兵数でいる伊達成実。馬が加速できても、横幅が狭くなる道となれば、信長側が有利であり成実側は不利であり、その先が分かり辛い。
ようするに
「殺れ」
ドバババババババ
信長自ら囮となって、成実のいる部隊を銃撃できるところまで運べるというもの。
越後から箕輪城に援軍が駆け付けており、それに逃亡しながら、的確な指示を予め出しており、成実を死地へと導いた信長の戦術。
「よし!!ご苦労だった!!これより箕輪城を救援しに行く!!」
伊達成実、討ち死に!!




