うじまさ
北条氏政。
北条家第4代当主。北条氏康の後を継ぐと、武田家との同盟を復活させる。その後は徳川家とも同盟し、長篠の戦い後の武田家の領地を攻め、本能寺の変の後では、空白地帯となった旧武田家の領地である上野の領土を確保する。
その後、豊臣家の小田原征伐によって、敗れ、自害する。
北条家は氏政の時代が最も勢力を拡大をしているのである。(武田勝頼とこの辺りは似ている)。
◇ ◇
1580年。
木曽義昌が大浦為信と面会した、その年。
東北地方に進出した徳川家の武家としての偉業も、その後には小さき事であった。
天下統一。
この日の本とでそう謳われる、最大勢力。
織田家大名の織田信長、……そして、対等の同盟者である、徳川家の徳川家康。
総勢、20万を超える大軍。
対するは
佐竹、宇都宮、里見などの勢力を潰し、関東を制した、北条家。
日の本一の巨城。小田原城を本拠とし、その20万連合軍を迎え討とうとする。
巨大な戦いが発生したのである。
「武器と兵糧を春日山城に運べ。かつての上杉謙信のようにな」
上杉謙信は関東管領の名の元にこの越後から、小田原城まで大軍を引き連れたという。春日山城に入城した織田信長は、それを遥かに超えていた権力と実力であったのには違いない。
畿内にいる信長がここまでやってきた事は、天下統一の事業の最終局面。
北条家が成す術もなく、敗れ去るのであれば……だ。
「勝家!一益!軍略の方はどうなっている?私は関東の地は明るくないぞ?」
「信長様。ご安心くだされ!信長様には、北条と伊達の兵など近づかせません!」
信長が出て来たというのは事実であるが、あくまで見に来たが正しい。嫡男、織田信忠の活躍を見に来た親バカな一面だった。
北条軍とも、伊達軍とも、信長には接触させまいと、柴田勝家と滝川一益は臨んでいた。最終目標が北条家の本拠地、小田原城。この城が落ちれば、北条家は滅亡であり、関東の地を制したと同義にある。
「今度ばかりは徳川家の奴等にはやりません!北条家の次は徳川じゃあぁっ!!」
「分かった分かった。勝家。まったく、むさ苦しい。事前に話は済ませた。家康とは結局会えんかったが……」
織田家、徳川家の連合軍が北条領である関東に進出する戦略は以下のようになった。
駿府館、岡崎、浜松から、徳川家康軍の全兵力、6万が小田原城に向けて出陣
春日山、深志、松倉、高遠、岐阜から、織田家の兵力、14万が上野に向けて出陣。
徳川家に北条家の小田原城を攻めさせる。これは徳川家には、お願いという名の命令であった。
北条軍の主力と戦ってもらい、家康軍には疲弊してもらう。
清州、刈谷、犬山の城には大量の兵がいる。なにかのしくじりなり、話しの違いがあれば
「次に家康と会う時、俺に臣従した事にならんようにな」
北条側がこれを止める手立てはないに等しい。
だが、気がかりがある。北条家とも戦っていた、奥州の伊達家だ。この大侵攻に対して、伊達家が動いてくるのは確かであった。
北条と同程度の勢力であり、大名であり、伊達政宗という男。信長の興味にはあった。
「信忠。伊達家にはどーやって返答をした?」
「私からは中立であるようにと、伊達政宗にお伝えしました。奴等は小癪にも織田家との同盟、連合を言っていましたが……」
「臣従ならともかく!対等な同盟を求める勢力にあらず!!調子に乗った若造共だ!!」
伊達家が、織田家に構えるのは確かだ。
この上野の地で、北条ともやり合ったと聞いている。
「良い若武者だ。勝家、一益。箕輪城、国峯城を手筈通りにな。信忠は総大将。2人の動きをしっかりと見ておくのだぞ」
「はいっ!!」
信長には予感がしていた。
自分達は障害のない戦いであろうと思えたが、その隙を突いてくる者がいると。そして、それは念入りにされているということ
◇ ◇
伊達家。
利府城。織田家とは協力体制で北条家と当たろうと外交をし続けていたが、……それは後を考えれば、無に帰す事が分かっていた。畿内を攻めるには……織田家を攻めるには
「獲ろう、小十郎」
「とうとう、機会が来たな」
「信長には、桶狭間でも思い出して欲しい。今度はお前の番だと」
織田信長と、織田信忠を同時に葬ること。
北陸・関東の遠征に織田家の嫡男が一任されているという好機。そして、大きな戦となれば、必ず、戦場の近くに現れるであろう。織田信長。
伊達政宗と片倉小十郎の天下獲りは、領土ではなく、大名達の命。
「狙うは織田信長、信忠の2名のみ!!」
織田家の兵力は12万。……さすがに多い。想定していた人数の2倍はある。さすが、天下人。
だからこそ、生まれの遅れなどと言わせない。私か、信長か。
「目標は箕輪城と国峯城!!これより織田家と相対する!!ここにいる勇猛なる伊達家の強者達!!8万の雄が、今!!天下を統べる男の首を狙うのだぞ!!」
伊達家、全兵力を投入する大戦!その数、約8万!!
狙うは、織田信長と織田信忠の2名!!
兵達を鼓舞して関東へ進軍する!
◇ ◇
北条家、小田原城
「政宗め。なんと狡猾な男だ」
今まで、北条家と争っていたのは、全てこの時のための演習に過ぎなかったということか。散々に領土の境界で争ったというのに、ここにきて、劣勢に立たされた北条家と共に織田・徳川と戦うか
「氏政様……」
「いかが致す?っと申すか?……織田・徳川連合を相手に、北条と伊達が組んだところで勝ち目は薄い」
北条氏政は夢を追わず、しっかりと現実を見ていた。
「だが、この小田原城を持つのは、我々、北条家だけだ」
この完成された巨城は、どんな軍勢を持ってしても落とせない城。関東侵攻への蓋となる最重要拠点。
北条家側にできる作戦が籠城戦しかなく、敵が徳川家の全軍の可能性が高いと見ている。
ここで徳川家を叩ければ、織田家の内情も変化するのも分かっている。仮に伊達と手を組んでもだ。北条家の生存はできる。
「我々は徳川家康と戦う!北条家、第4代、大名、北条氏政の名の元、北条家の全軍で相対する!!」
北条家も全兵力と全武将を投入し、
約8万の兵力が小田原城周辺に集結する。
これにて
織田・徳川連合 20万 VS 北条・伊達連合 16万
上野・小田原大戦の始まりである。
◇ ◇
「………………」
真田正幸は考える…………。
自らの野心に足りぬこと。今、思っていることなど、ここで戦う者達が持ってはいないもの。
徳川家康等を始めとする諸将達は、対北条攻めの軍議と軍備を進めていた。織田家にケツを叩かれ、これは失敗が許されぬと、家康の本気度は高かった。
誰も落とせぬであろうと言われる、小田原城。力攻めによる攻略は難しく、北条の総兵力も加わる。織田家からすれば痛いところ
「では、我が軍で小田原城を包囲するとして……」
長期間の包囲戦で概ね、固まった。
こちら側に北条軍の元に駆けつける、援軍が来ないという判断だ。そうなれば、一早く小田原城を降伏させるため、周辺の城を次々に落としていく方が良い。物資の供給を断たせれば、軍の士気は下がる。北条軍の野戦は考えられないと、皆が頷いていた。
そして、また大事なことがある。その一番を考えている家康は
「小田原城の包囲担当は、儂(家康)、忠勝、酒井。約5万」
北条の全軍が集結し、その数が家康軍を上回る……が、向こうも織田が仕掛ける以上は下手に動けない。主力級を抑えにつける家康の判断は正しい。
「江戸城、玉縄城の攻略に、榊原、井伊、真田。2万」
小田原城と比べれば、小城と言える城の攻略に、兵2万を使う。残った1万はどっちにも対応できるようの遊撃部隊である。
小田原城を抑えつける役目が徳川家であり、北条領を切り取るのが織田家。以前のやり返しでもある。
「……………」
もし、ここで北条・伊達……そして、徳川が織田家を襲えば、歴史を動かせるほどになる。
織田の両名が揃う、大事な機会。
織田の勢力は大きい。ここで信長を討てれば、混乱は必至。西側勢力も息を吹き返すであろう。
「っ…………」
どうした?
俺はなぜ、この家康に従うことを考える?
この時しかないだろう!俺には1万近い、兵の権利を与えられている。乱世はまだ終わらぬ!
今、榊原達に伝えればいい!徳川の天下を求めるべきとっ……!織田家を倒せる好機!織田の下につくなどと!
「…………なにかあるのか、真田正幸」
「!!」
家康の声掛け。その表情は……自分自身を見ているようだった。天下はもはや決まっている。そして、それは皆が思っていたことであり、自分自身もそう誓う他なく。
「いえ、気のせいにございます」
「……明智光秀殿に似ておるな。お主」
「光秀殿にですか?」
「お主ほどの野心家ではないが、生真面目というか、重圧を人よりも感じ取る」
家康はかなり濁した言い方ではあったが、正幸の野心を留めるだけにしたのは正しいだろう。正幸は自分自身を知った。
明智光秀も、徳川家康も、……織田信長に従うことが、結果最善であること。彼等が折られた心を知る。
「榊原、真田、井伊は房総への出陣を言い渡す」
「……ははっ」
織田家と戦えば、これまで積み上げて来た多くのものが崩れる。
全軍を出してまでやってきたのは、後ろにいる織田家への信頼か、彼等からの脅迫だからか。
徳川家の全兵力が投入されても、諸将の士気はそれぞれであった。
◇ ◇
「ほ~~っ、為信殿にもそのような事があったのですか」
「わはははは、噂とは違い寛容な方だな!いくつもお家を回った不忠義者とは、一体、誰の噂よ!こんな面白ぇ男だったとはな!」
義昌と大浦為信の話はまた今度となるが、……。
この陸奥の地でも噂になるくらいには、此度の織田家の侵攻は大きい。ここで留まらなければいけない、勝頼、信春は歯がゆい気持ち。徳川家の下に就いた以上は、織田・徳川が勝つことを望まねばならぬが。個人としては北条と伊達に頑張ってもらいたい。
「心中、穏やかにできませんな。勝頼様」
「……あの信長がわざわざやってきたのだ。奴としては、北条は確実に潰す気だろう。その見せしめに伊達を屈服させる。関東には互いの多くの血が流れるだろう」
「鶴ヶ岡城にいる景勝も同様の気持ちでしょうかね」
……今、軍の再編を行っている。この陸奥の地を拠点にし、蝦夷、三戸、高水寺を攻め込むためだ。
木曽家もまた新たな敵と戦っている。それも複数。
南部家を中心に、最上家、蠣崎家。この3つの勢力が木曽家に戦を仕掛けて来たところだった。織田家も徳川家も今、木曽家の様子を探る余裕も理由もなかった。隣接していた伊達家のみが介入できた。よって、伊達家が全兵力を投入できたと言える。ある意味、徳川家を裏切っている行為だ。
義昌は分かっていない。……いないが、
「東北の地はまだ開発がされていないところが多い。俺の生まれ育ち、木曽福島と似たような地形も多い。このような地でも軽視されてはならない。いや、もっと豊かにするべきだ!この陸奥の大地をより広げたい!」
財も、米も、兵も、鉄も……足りていない土地を豊かにしたい。領民思いな一面を為信に語る、義昌であった。その心は、為信自身も、陸奥に住む者達のために独立を果たした時と同じだ。だが、あの時よりもこの男には、野心が見当たらない。
保身が第一と伝わってくる。……決して、悪い方に傾いているわけでもない。なぜならこいつ
「木曽家は財力を尽くして、この東北を豊かなものにする!!為信殿の協力で、必ずやできる!」
金と人員を大量に投入し始めたのだ。
これには為信も感謝が大きいのだが、彼の真意が掴めなかった原因でもあった。当然、投入される人員達も真意を掴めない。知っているのは、勝頼と馬場信春の2名だけである。
「…………………」
策はない。
授けたことよりも、これから行うことへの注意に他ならない。それを少しでも抑えるがため、義昌が奮闘している事に勝頼は気付けた。




