おおうら
津軽為信。
津軽家、初代大名。
元は南部家に従っていた人物であったが、南部家が家督相続で争っている最中に石川城を奪取し、独立を果たす。領土を拡大し、津軽地方を統一する。
暗殺・調略・合戦に優れた人物であり、東北を代表する武将の1人である。
◇ ◇
角館城の攻略。
やり方は前回の鶴ケ丘城と同じく、兵数の多い部隊で包囲しつつ。救援に来た者達を野戦にて撃破。士気が下がり切ったところで降伏を促し、城を奪い取る。
安東家として援軍を出さねば、それこそあっという間の陥落に繋がり、たとえ、失敗しても領民達が粘ることで、敵の兵数と兵糧を削れる。攻める側にとっても守る側にとっても、常套手段と言える。安東家からしても、角館城は完全に救援できないと判断はしていた。そして、湊城もこのままでは難しい。
「檜山城がある限り、安東家が城を奪い返す事は可能であるからな」
馬場信春、武田勝頼の軍で安東家の援軍を蹴散らし。義昌が包囲し、降伏を促して、角館城は陥落。兵の消耗は1500人くらい。
この地方は城と城の距離が離れており、軍の移動には時間が掛かる。義昌、勝頼、信春の3つの軍はまだ角館城にいるが、先行して真田信伊の部隊は次の湊城に進んでいた。この城を容易く落とせるかどうか、判断させるためだ。
「それにしても長いなぁ。小諸城からここまでだもん」
「道もあまり良いとは言えないな」
奇しくもこの時、武田家の3名が揃っており……。東北という初めての地に足を踏み入れた義昌が思った事を言った。
「東北を木曽家の領地にしたいんだけれど、勝頼様や信春さんは欲しい?」
「戻るなら躑躅ヶ崎だが」
「同じく……。義昌、なんだその言い方は?」
「いや。東北を纏めれば、徳川家内でも大きな影響力を持てるし。なによりも織田家とは隣接してないし、伊達家とは上手く外交をしたいなぁって。でもやっぱり、取り戻したい土地があるよな」
木曽義昌がそんなことを考えるのか?
木曽家という事だけを考えてそうな者ではあったが、この戦国乱世。
「独立をする」
「「…………………」」
「護るために主家を変えるだけじゃ、もう生き残れない。活躍して活躍して、影響力をつけなきゃ、木曽家は終わってしまう。東北の3か国を獲れなきゃできない話だが」
夢物語のようで、そうじゃない現実は近い。しかし、それには多くの犠牲が生まれることが分かっていても、……義昌の中では、木曽家のこの戦力に、揺るがない地盤があればという、プラス面ばかり見てのことだ。
「言いにくいが、東北の地はかなり荒れていて、豪族達も纏められていない」
「お前のその夢はまだまだ先。3か国を統一しても、気が早いというモノじゃない。徳川家に就いた以上、そのような口も危ないぞ。チクるとしたらどうする」
「その時はその時で。お二人なら、同じことを考えたんじゃないかなって……津軽さんからも話は聞きたいのだ」
津軽為信に興味がある木曽義昌。彼の経歴は、元南部家の家臣であり、石川城を乗っ取る形で独立を果たした男。主家をコロコロ変えて生き延びてきた、今の義昌とはまた違った事をしており、主家から独立した戦国武将はそんなに多くはない。
どのような手腕で、どのような心境で……。彼はやったのだろうか。
そして、それを知れるのは2日後の事である。
3つの軍が湊城に向けて進軍してる最中。真田信伊からの早馬がやってきた。
「ほ、報告!!えーーー!!湊城の陥落!!」
「「「はぁ!?」」」
真田信伊の部隊だけで湊城が陥落!?
現場で何が起こったのか、詳しい経緯を求めた。
◇ ◇
真田信伊の部隊が湊城の近くまで接近した時。
「う~~ん」
城の様子を見つつ、忍びに兵数などを確認させると……。まず、単独では無理。義昌達を待つ他はない。犠牲は仕方ない。ただ、檜山城を攻め落とせるだけの犠牲で済ませたい。
「北道から檜山城からの援軍が簡単に入れるのは厄介だな」
「信伊様!忍びからの報告で、南部家からの援軍がこちらに向かって来てるとのこと!」
「分かった。ここが安東家にとって、絶対に渡さない城と決めてるわけか」
南部家の援軍を合わせれば、兵数の差が無くなる。安東家が救援を出すなら、南部家からしかないと分かっていた。
南部の援軍は、高水寺城→独鈷城→檜山城→湊城と続いていく。角館城をこっちが攻めてるから大回りになってるけど、間に合ってしまうな。
「これはちょっと止めた方がいいかも……!」
「それから信伊様に使者がいらしていて、いかが致します?」
そんな堅実な判断をしたところに、信伊の元にある使者がやってくる。津軽家の者だ。
「はっはっはっ、あなたが真田信伊様で間違いないですな。いやぁ、お互いに変わりましたな」
「!あなたは沼田佑光様ですか!」
「殿から密使を頼まれ、こちらまで来ました。共に湊城を落としましょう!」
「いや、落としたいけれど……どのように?」
「殿は調略上手なのですよ」
津軽家が全面的に協力してくれるのは、まともに木曽家とカチ合いたくないからだ。それなら恩を売って、利益をとろうとする。
今が津軽為信の領土を広げる時とばかりに、三戸城に侵攻を開始する。そこは南部家の本城であり、彼にとっては因縁の南部信直がいる。お互いにそれは分かっていて、安東家の要請は九戸城と高水寺城を任されていた九戸家の者達が向かった。
安東家は彼等を湊城に迎え入れる。だが、真田信伊の軍の姿を発見された時。
ドゴーーーーーンッ
城内で大暴れする。内部を一気に大混乱に陥れる
「すでに九戸家の者達には調略をしかけておりました。本来は信直を嵌める作戦でしたが、殿はこれもまた良しとの判断」
「城内が混乱しとる。……うっし!この機に乗じて、我々で攻め込む!!」
確実な連携とは行かなかったが、城内に入られた九戸家の兵と、城外から襲われる真田家の兵に安東家は忽ちやられて降伏。お互いに大きな損害はなく、湊城を奪取!この手際の良さには
「まるで兄上のような謀略好き……」
「南部家から独立した器は、そうでなくては!!」
津軽為信がおらずとも、この調略を決めてしまうのは凄い人物であると認識した真田信伊であった。
そして、義昌達の軍勢を湊城に受け入れる。湊城の戦いの顛末も聞き……。
「「「まるで正幸だな」」」
「俺と同じことを思いましたね」
津軽為信からの協力で一気に東北勢力を取り込み始めた、木曽家。当然、それは主家である徳川家の拡大に繋がっている。
その一方の徳川家では……ある男が上洛を言い渡されていた。
◇ ◇
【信長様に釈明して来い】
「…………ふん、つまらん用事とはいえ。あの織田信長と話せるのは貴重か」
決して大事ではない。前回の織田家との一悶着について、その当事者の1人である真田正幸に弁明させる徳川家。
徳川家も旧武田領を飲み込みつつ、木曽家の影響で東北地方まで勢力を広げていた。
しかし、織田家はそれよりも上。畿内、北陸、四国、中国にもその勢力圏を持ち、天下を握る覇王とも言える。毛利家との戦も大勝利を収め、安土城に戻ってきているとか。
「!!お~」
畿内に赴いた正幸は、自分達が戦ってきたところはまったく違うモノを見られた。城作り、街づくり……何よりも金と人の多さにはこれまでなかった。
「さすが、天下を治める男の領地か」
徳川家康も最初は対等な同盟関係であっても、この規模を見たら怯えるのも無理はない。
その気になれば、何十万人を簡単に派遣できる軍容。……武田信玄様がご存命の頃はそうではなかったが、時間が経てばこれほど巨大なモノになるのか。
武将1つとっても、羽柴秀吉、柴田勝家、滝川一益、明智光秀……名将は多く。他武将達も質が高い。資金面も凄かろうな。
「そなたが真田正幸殿であられるな」
「!おおっ、これはいつぞや、お会いしましたな。明智光秀殿。あなたが出迎えてくれるとは嬉しいです」
「表裏比興と呼ばれるあなたには、しっかりと説明ができるか心配です」
「はははは、照れますな。しかし、光秀殿なんですか」
外交、内政、戦において、幅広く戦っている武将だ。今回、こんな大物が自分を出迎えるなんて、裏がありそうで怖いというか
「そんなに嬉しかったですか?柴田の勢いを挫けた結果が?」
「…………織田家内の権力争いを覗き見ないこと」
「はははは!私とあなたは、気が合いそうだ。背を合わせる気はないが」
織田信忠がそのまま上杉領をとっていれば、それは柴田勝家と滝川一益の評価に繋がっていた。
明智光秀にとっては面白くなかった。羽柴秀吉も毛利攻めは順調。尾張時代の頃よりも織田家に尽くしていた者達と、そうでない者達の待遇に違いは大きい。もっとも、明智光秀は後者側の立場であっても、織田家でも丹波を任される軍団長の一人だ。
実力がある者は、織田信長は高く評価する。その中心人物が明智光秀。
タッタッタッ
光秀とその御供達に案内される形で安土城に入る、正幸。
織田信長との謁見がすぐそこだった。襖の一つ先に、天下人と成り得る男。
「はいれ」
これが織田信長の声……。
そして、お姿か。
「徳川家、家臣、真田正幸でございます」
一礼し、織田信長を見る正幸。この場において、一言でも誤れば、切り捨てられる。
「……ふふ。なるほどなるほど。とても家臣に収まる玉じゃない」
「!」
「真田正幸。お前の事は武田家の頃から知っている。生涯を支えた者がいなくなったお前は、野心を抑えきれないだろう?」
信長からすれば、正幸のその高い能力を評価できる。だが、正幸がそれに素直に従うと言えず。
ただただ、
「もうすぐ、乱世は終わる」
「…………」
「私の、織田家の天下で日ノ本は纏まる。それで争いなき世が始まる。お前の野心は、お前だけのものだったかな?」
「!…………」
財力、人材、土地、外交……軍事力。
全てを手にしていると言える男が、まだ野心ある者に伝えたことは、事実。
「それでだ。真田正幸。元上杉家への侵攻について。我が息子にして、織田家の当主たる、信忠からの書状が来ている。これについて聞こうか」
「春日山城は信長様も知る堅城。北陸方面からだけでの攻略は難しいでしょう。先に越後の小城をいくつも落とし、まずは援軍の手を断つが上策。……その策が嵌った結果、この形になっただけ」
「ほぉ、意外と清々しい答えだ。光秀はどう思う?」
「……私も戦略は同じでございますが、やり方に関しては、正幸の方が汚いかと」
「だな。豊かな土地である新発田城、そこの支城である平林城までは必要なかったんじゃないか?あとは、安田城……か?」
さすがに上手いな。全部、木曽家がぶん取っ手いる城を要求している。
家康としては織田家との同盟は絶対。だが、私は
「その3つの城分の領地。家康側で調整し、織田家に渡すのが落としどころかの?正幸はどの城ならくれるか、教えてくれるか?」
「……困りますな。私の発言一つで、城を3つ……いえ、小大名ほどの土地を決めて差し出すなど。家康様にどう報告いたせば宜しいか」
「家康も困ってるはずだ。織田家との同盟を破棄させるか、城3つの割譲をし、同盟を維持するか。そこまでする土地がなかったか?」
信長がここまで余裕を持って、徳川家康を制御できるという言葉を、信じられないなどという小物な驚きを持つ真田正幸ではなかった。この報告を持ち帰れば、即ち。徳川家康は織田家の提案を吞むだろう。自分の持っている野心など、今の織田信長からすれば、ただの悪戯ぐらいにしか思われていない。
ゴクリッ
真田正幸は、……つばを飲み込んでいた
「北条家の領土をとり、それを割譲するというのはいかがでしょうか?」




